【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 桜色の髪の『少女』

 

 

 ミネルバを何とか振り切ったアマミキョの前に現れたものは、海中から突き出した巨大カタパルトだった。

 ナオトの目に一瞬怪獣の口腔のように映ったそれは、軽く十枚を超える隔壁を次々と開いていき、中を露にしていく。

 その内部は、モルゲンレーテで見たどのハンガーよりも整備され、最新型の信号灯が色とりどりに点滅して、虹のかけ橋のように煌きながら、アマミキョへとシグナルを送っていた。

 驚くべきはその巨大さだ。怪物カタパルトはティーダどころか、アマミキョを船ごと悠々と飲み込み──

 

 そして今、ナオトはティーダの中から外の様子を、興味津々に眺めている。

 明滅する信号灯の橙の光を頼りに、ナオトはアマミキョを丸ごと収容した超大型エレベーターの威容を知った。さらにそのエレベーターは、アマミキョの直上で隔壁を何重も閉鎖しながら、下へ──

 海底へと、潜っていく。

 

「すごい……インド洋にこんなものがあったなんて。まるで海底要塞だ」

「まるで、じゃなくて本物だよっ」

 

 嬉々として答えるマユ。この状況に、全く疑問を呈していない。

 

「知ってるの?」

 

 一体この要塞だか潜水艦だかがどの程度の大きさのものか、素人のナオトでは想像もつかない。

 そしてさらに想像つかないのが、今目の前にいる少女の素性だ。

 ナオトの運命を変えた少女。太陽(ティーダ)に乗る娘。大好きな女の子──マユ・アスカ。

 彼女の「お兄ちゃん」は未だに、ティーダの掌にいる。ぴくりとも動かない。

 どうやら圧迫で意識を失ったらしいその身体を、マユはティーダの指でいじり回していた。

 まるで、人形遊びでもするように。

 

 

 

 

 アマミキョがカタパルト内部に収容されてすぐに、アフロディーテもカラミティも、どういうわけかアマミキョから姿を消した。

 ティーダもアマミキョに収容されたが、ナオトは即刻降ろされてしまい

 ――白いモビルスーツもマユもそのまま、フレイたちアマクサ組と共に消えた。

 そして、捕らえていたシン・アスカとアスラン・ザラの両名も、アマクサ組になされるがまま、運ばれていったのである。

 ナオトにはどうすることも出来ず、流れていく状況。

 さらに悪いことに、床を引きずられるようにして運ばれていくアスランを偶然モニターごしに目撃してしまい、ナオトの怒りは再び目覚めてしまった。

 

「あの……裏切り者」

 

 そして、他のアマミキョクルーたちはといえば──

 

 

 

 

「何故出られんのだ、我々は中立の救援隊だぞ!」

 

 トニー隊長の怒号が、皆が集まった食堂に虚しく響く。

 相手につかみかかったトニーだが──

 

「ここから先は軍事機密だ、愚か者!」

 

 無様に殴られ、トニーの決死の抗議はそれ以降、一切封じられてしまった。

 この『要塞』内にアマミキョが収容されるや否や、船内にどやどやと乗り込んできた兵士たち。

 彼らは南チュウザン国の黒の軍服をまとっていた。アマミキョから外部に通じる出入り口全てを封鎖し、彼らは敏速かつ厳重に、クルーの監視体制を整えたのだ。

 主だったクルーは全員、比較的スペースのある食堂に集められ、不安に満ちた時間だけが経過していく。

 

「私たち、捕虜になっちゃったの?」

 

 アムルがカズイの背中にすがりつつ、彼の耳元で恐怖を露にした。

 そんな彼女に、カズイは彼らしくもなく我を張ってみせる。

 

「大丈夫ですよ……あれはチュウザン兵ですし。僕らの味方です」

 

 それでもアムルは納得しない。「チュウザンと言っても、北? 南?」

「南……だと、思います」

「南チュウザンは、味方なの?」

 そう突っ込まれると、カズイも黙るしかなかった。「さ、さぁ……」

 

 

 

 

 曲がりなりにもブリッジ要員であるサイは、何とかカタパルトへの移動を許された。

 ナオトの様子が心配で、サイは一目散にティーダへ向かった──

 が、既にティーダはそこには無い。

 そのかわりナオトがただ一人、ハンガーの隅で体育座りでむくれていた。

 

「ナオト。

 無事で良かっ……」

 

 だがサイが声をかけた瞬間、少年は思いきりヘルメットを床に叩きつける。

 

「畜生! アスハ代表を裏切った上、ティーダを降りろだなんて!!」

 

 あぁ……また癇癪か。今度は何だ。

 聞こえないように溜息をつくサイの前で、ナオトは憤然と立ち上がった。

 

「アスラン・ザラですよ! 

 アスハ代表の護衛官が、代表のいない間にザフトに戻って今度は代表に銃を向けるって、これが裏切りでなくて何です?」

 

 ほら見ろ、アスラン──サイは思わずにいられない。

 自分がどういうつもりでいようと、他人にはこのように見られるのだ。

 

「ナオト、俺も彼に会ったよ。

 アスランは今でも、オーブや代表の為を思って……」

「サイさんは甘いですよ」

 

 ナオトの大きな瞳は、またしても激しい怒りに満ちている。メットを叩きつけただけではおさまらず、ナオトはさらにそれを蹴り飛ばした。

 

「僕はレポートします! アスラン・ザラの裏切りを、オーブに送ります。

 幸い、ティーダのカメラで映像もたっぷり撮れましたよ。大戦の英雄、オーブの獅子を裏切る。決まりだな」

「落ち着けよ。俺は彼と話した、代表は納得済みらしいんだ」

「そのまま信じる人がいますか! 

 早くザフトで手柄を立てたいからって、代表の名まで使って僕を惑わそうったって、そうはいくもんか」

 

 そんな上手い嘘がつけるような奴かな、あいつ。

 そうサイが思った、その時

 

 ――激情するナオトの背後に、猫のように忍び寄る紅の影が現れた。

 それは、要塞内へ消えたはずのフレイ。

 

 サイが止めようとするより早く、フレイはナオトの左腕を有無を言わさず掴み、引き寄せて羽交い絞めにする。

 

「え!? 

 ちょっ……何するんです、フレイさん!?」

「来い。ナオト・シライシ」

 

 フレイはそれだけ言うと、強引にナオトのパイロットスーツの二の腕あたりをナイフで切り裂き、肌を剥き出しにした。

 精一杯暴れようとする少年だが、首もとを絞められていてはろくに声も出ない。

 サイは叫ぶ。

 

「フレイ! 待て、君はどういうつもりで!」

「離して下さい! 降りろと言ったり来いと言ったり、貴方は勝手すぎ……

 って、痛っ……!?」

 

 さらにフレイは、ポケットから注射器を取り出した。文句を言っている間にその針がナオトの腕に刺され──

 瞬く間に彼は、意識を失ってしまった。

 

「ちょっと待て、いい加減にしろフレイ! 

 君たちの目的が、俺には全然分からない!!」

 

 サイは思わずフレイに突進したが、返って来たものは怒声と平手うちだけ。

 

「今、お前が来る必要はない!」

 

 気持ちいいほどに張り飛ばされながら、サイは感じた。

 いつも以上に厳しい声と力だが、いつもと微妙に違う。

 ──フレイが、今、憔悴している? 「この」フレイが? 

 そのサイの疑念は次の瞬間、確信に変わった。

 

 頬を押さえながらサイが振り向いた時、フレイは一瞬、自分の掌を見つめていたのだ。自分の行為に戸惑うかのように。

 だがすぐにフレイは冷酷さを取り戻し、自分の肩へ軽々とナオトを担ぎあげた。信じられぬ力で。

 

「安心しろ。

 子鼠は、無事に帰す」

 

 

 

 

 

 

 その数時間後には──

 要塞内の一室で、二人の人物が再会を果たしていた。

 

 一人はフレイ・アルスター。連合の制服を整えた彼女は静かに正座し、頭を深々と下げてひれ伏している。

 旧日本の和室を思わせる9畳程度のその部屋は、一見するととても海底要塞の要所には見えない。

 草色の清潔な畳が敷き詰められた床。決して派手に飾られているわけではないにしろ、隅にはスズランが、優雅な風情を漂わせつつ、活けられている。造花ではない。

 フレイは、伏したままの姿勢から一寸たりとも動かない。

 そして、上座にいるもう一人の人物は──

 

「ウーチバラから、よくぞここまで……

 ご苦労でした、フレイ・アルスター」

 

 桜色の柔らかな髪を腰まで伸ばし、紫の絹地に髪の色と同じ、桜の花びらを散らした着物をまとった少女。

 大きな青い瞳に、皺ひとつない白い肌。年は16、7ぐらいにしか見えない。

 その前髪には、満月を模った大きな黄金の髪飾りが光っている。

 

 彼女は優美な笑顔を浮かべてフレイを眺め、衣擦れの音を響かせて座った。

 背後の、雪の結晶を模した蝋燭──に見せかけたミニライトにそっと手を触れ、彼女は暖かな光を灯す。

 温度も気圧も光も、最高級レベルで調整されているこの部屋だが、わざわざこのようなミニライトを導入したのはこの少女の発案だ。手元の光を効果的に使うことで、どのようにも自分を見せられる──

 

()()()こそ、ご機嫌麗しゅうございます」

 

 フレイは畳に額をつけた姿勢から、動かない。

 

「頭を上げても良いのですよ」

 

 少女はにっこりと微笑んだ。

 その言葉で初めて、フレイは顔を上げ、少女と目を直接合わせることを許された。

 

「この度の救援、感謝いたします。

 まさか、御方様が直々に『オギヤカ』を率いて出られるとは。予想外でした」

「こちらも予想外でしたわ──

 二つのSEED()を同時に確保できるなんて、滅多にありませんもの」

 

 うっふふ、と声に出して少女は笑う。「ですから、来てしまいました。

 さすがはフレイですわね。ティーダとアマミキョの調整も順調のようで、安心しました」

 

 フレイはぴくりとも笑わず、淡々と答えを返す。

 

「ウーチバラにおけるティーダの戦闘実験の結果は、お聞き及びのことと思います。

 イレギュラーは発生致しましたが、『チグサ計画』はおおむね問題なく進行しております」

「思わぬ拾い物がありましたわね。きっと、神様が味方しているのですわ」

「残るは、アマミキョコアの統合作業ですが」

「ふふ。大事なこと、お忘れではなくて? 

 キラ・ヤマトを──」

 

 フレイはその言葉に、表情こそ変えなかったが──

 わずかに肩を反応させてしまう。

 

「現在、捜索中であります」

 

 少女は再び、ひそやかに笑った。

 その背後から照らされる光が少し強くなり、白い頬に美しき陰影を作る。

 

「わたくしにとっても貴方にとっても、キラ・ヤマトは大切な方です。

 そのことをゆめゆめ、お忘れにならないで下さいね。

 貴方のここ数ヶ月の行動ログを見せて頂きましたが、どうも()()()()()()()に気を使いすぎているような気がしてなりませんの」

 

 金糸の織り込まれた畳縁に沿って、きれいに揃えられたフレイの指。

 それが、微かに折り曲げられる。思わず拳を握ろうとするように。

 

「私は常に、御方様と国の未来を考えております──

 それにしてもそのお姿、心配でなりませぬ。お身体に異変は?」

 

 少女は細い手を唇に当てて、子供のように笑い続ける。

 

「話を強引に切り替えないで下さいな。二時間跳ね回っても平気ですわ」

 

 

 

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