【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 女神の声

 

 

 要塞内に拘束され、24時間。

 アマミキョ内食堂では、依然としてクルーたちが不満を募らせていた。

 そこに山神隊の時澤と風間が状況報告に入ってきたが、答えは到底クルーを満足させるものではなかった。

 

「残念だけど、あと48時間はこのままよ。

 出来るだけ時間を短縮出来るよう、こちらもかけ合ってみるけど」

 

 風間が大きな胸の下で腕を組み、クルーたちと同じタイミングでため息をつく。

 時澤がさらに言い添えた。

 

「連合軍の僕らが駄目で、アマクサ組がOKとはね……

 やはりここは、南チュウザンの管轄下か。居心地悪いよ」

 

 それを黙って聞いていたサイは、籠に山積みになった桃を取って、思い切り齧りながら考え込む。

 チュウザン軍は、食糧と生活用品は腐るほど提供してくれた。それ故、クルーも意外なほど冷静さを保っていられた。指の間から汁が零れるほど新鮮な桃も、その恩恵だ。

 

 連れて行かれたナオト。モビルスーツと共に消えたアマクサ組。捕らえられたアスラン達。

 SEED因子。死者の復活。

 全て、南チュウザン──タロミ・チャチャと関係があるものだとしたら。

 

 サイの思考を補充するように、オサキが口を挟む。

 

「ティーダの光も、どんどん力を増してやがるし……気味悪ィ。

 ナオトが連れて行かれたのはそのせいか?」

 

 カズイもぼそりと呟いた。

 

「それに、黙示録が照射された時のあの感じ。

 一体何なんだ?」

 

 それを聞いて、サイは弾かれたように振り返る。

 

「やっぱりお前も、何か感じたのか。ウーチバラの時と同じに」

「サイも?」

「私もです」

 

 ちょうど医療ブロックから顔を出していたネネも、手を上げた。

 

「患者さんも言ってましたよ。ほぼ全員、鐘の音と一緒に天の声を聞いたって。

 戦いを鎮めろ──とか」

 

 風間と時澤はその反応に、顔を見合わせる。「私には、あまりピンと来なかったけど」

「正確には、攻撃衝動を強制的に抑える麻薬のようなものと思う。

 フィルタがあったとはいえ、軍人にとって決して気分のいいもんじゃない」

 

「それだけじゃ、ないよ」カズイがおどおどと声を出す。

「あのストライクもどきのパイロット──

 光の中であいつを見た時、強烈な憎しみを感じた。

 モニターで見ただけだったけど、気配とかそう見えたとか、そんなチャチなものじゃなかった」

 

 それに続き、ようやくパニック症状から復活したヒスイも発言する。

 

「私もです……

 そのせいかしら、また怖くなったのは」

 

 彼女の恐怖は今でも消えてはいないようで、まだ全身を小刻みに震わせている。

 その細い肩を、オサキが軽く片腕で抱き寄せた。

 

「オーブを許さない、って声だろ。

 確かにヤバかったよ、あいつ。本気で撃たれると思った」

 

 そこで一旦、全員が黙る。

 何も知らないクルーたちでさえ感じ取った、あのパイロット(シン・アスカ)の狂おしいほどの憎悪。

 では何故、あのパイロットは突然動きを止めた? 

 

 サイは思い出す──

 あの時ハッチを開いたマユを見て、明らかにパイロットは動揺していた。

 ナオトではなく、前席のマユを見て。

 アマクサ組が連行したのはSEED持ちのアスランとナオトに、彼。

 とすれば、彼もまたSEED持ちである可能性が高い。

 アスランに対してのニコルたちと同じように、マユがあのパイロットと何らかの関係があるとすれば──

 フレイが、次に取る行動は。

 

 サイの歯が、思い切り桃の中の種を噛んだ。

 絶対にそれはまずい。下手をすれば、二人とも死ぬことになる――フレイも、キラも! 

 

 そこまでサイが考えた時、突然食堂のエアロックが開いた。

 そして入ってきたのは、実に懐かしく思える顔──

 

「皆の衆、久しぶり!」

 

 ふくよかな図体に、ビジネスマンらしからぬTシャツ姿。刈りそろえられた短髪。

 

「ムジカ社長!」

 

 全員が、わっと彼の周りに集った。

 ミントン以来の、アマミキョの真の主人の帰還であった。

 

「みんな、大変だったな。

 ミントンからここまで、本当にご苦労さん」

 

 

 

 

 

 

 朦朧とした意識の中、ナオトは何処かから漂う香りに気づいた。

 これは──何の花だろう。スズランかな? 

 それに、あの歌声。確かに聞いたことがある。

 

「――シン・アスカもアスラン・ザラも、未だ完全覚醒には至っていません。

 シンはSEEDのコントロールが出来ず、アスランに至ってはヤキン以来、覚醒はないと思われます」

 

 これは、あの女の――フレイさんの声だ。何を話しているんだろう? 

 衣擦れの音が響き、芳香が強くなる。

 別の人がいる。女の子? 

 それにこの歌──このメロディーは、「水の証」だろうか? 

 いや、ちょっと違う……

 

「まぁ! この子ですわね。

 噂のハーフ君」

 

 誰かが僕を覗き込んでいる。笑っている。悪い感じは、あまりしない。

 それに、どこかで見たことがある気がする。誰だろう? 

 

「彼に関しては、分析にはまだ早いかと。未だ一度も覚醒しておりません」

「あら? シライシ博士の報告では、確かに因子保持者と」

「たとえ彼がそうだとしても、コーディネイターとして生まれていない者にSEEDは危険すぎます。

 リストからカガリ・ユラ・アスハは除外したではありませんか。何故今、ナオト・シライシなのです」

「フレイ・アルスター。

『ナチュラルを超えた』貴方が、そのような物言いをなさっては困ります」

 

 

 ……どうしたんだろう。フレイさんが黙り込んだ? 「あの」フレイさんが? 

 誰なんだ、この女の人は? 

 

 

「うふっ、そう怖い顔をしないで下さいな。

 わたくしが、会いたかったのですよ。だから無理を言いました──」

 

 

 視界が揺れ、笑顔が目の前に飛び込んでくる。

 ──って、まさか! この人は……

 この人、プラントで歌っていたはずじゃないか。いつの間に地球へ降りたんだろう。

 僕の女神様が、どうしてここに? どうして僕に微笑んでるの? 

 

「あらあら、少しびっくりさせてしまったようですわ──

 子供は、おねむの時間ですわよ」

 

 優しい声と共に、ナオトの意識がまた遠ざかる。

 まどろみの中で聞こえたものは、2年前からずっと敬愛していた、『天上の女神』の声。

 

「シンとアスランは、『ゆりかご』に入れておきましょうね。

 特にシンには、あまりに刺激が強かったでしょうから」

「マユに罰は? 

 あの娘の悪戯、看過するにも限界があります」

「いりませんわ。必要ありませんから」

 

 

 

 

 

 

「みんな、安心していい。ここにいれば、ジェネシスでも撃たれん限り、ザフトの攻撃の心配は無用だ。

 何せ、南チュウザンに文具団にオーブ、共同出資の機動要塞『オギヤカ』だからねぇ」

 

 食堂のモニターで、ムジカ社長は簡単にこの海底要塞の概要を説明していた。

 勿論チュウザン兵に見張られている為、どのような武装があり、規模がどれほどかも明かされなかったが。

 それよりサイが気になったのは、南チュウザンと文具団が手を組んで、この要塞を生んだという現実だ。南チュウザンは、資本主義を貫き勢力を広げる文具団が気に入らないのではなかったか? 

 横でカズイが「信じられないな」と呟いていたが、サイも不信を露わにじっと社長を睨んでいた。

 

 大人の世界には全く色々ある──主義主張が対立しても、利益が一致するならば十分ありうる話だ。特にこの社長の、割り切る性格からすれば。

 

「いずれ近いうちに、君たちにも内部は公開される」

 

 そう言いつつ、社長はモニターを指した。色とりどりに飾られたショッピングモールが、次々と映し出される。レストランがあり、洋品店があり、本屋、映画館、街路樹まであるさまは、まるでコロニーを思わせる。

「要塞」の概念からはかけ離れた「街」──それが「オギヤカ」だった。

 

「みんなが夢見た海底都市・竜宮城。南チュウザンの出資と文具団の技術、双方が組み合わさり夢は実現した。

 主義主張は超えられる。ここはその象徴だよ」

 

 社長はウインクをかましつつ、さらに今後の方針の説明に入った。

 

「このままオギヤカはアマミキョを乗せ、潜行したままインド洋を抜け、紅海へ向かう。

 オーブの出兵に合わせてアークエンジェルが動く可能性は高いと、アマクサ組も僕も見ている」

 

 食堂がざわめいた。

 

「オーブが出兵って……どこへですか」「聞いてなかったのかよ、地中海のあたりらしいぜ」

「やっぱり、オーブも巻き込まれるの?」「そんな処へ行って、何する気だよアークエンジェルは」「だいたいどこにいるんだ、アスハ代表! セイランの思うままじゃないか」

 

 社長がパンパンと手を叩き、見張りのチュウザン兵が軍靴を三度鳴らした。その音に、クルーの騒ぎは一気に止まる。

 

「はいはい、みんな静かに! 

 アマミキョはここでたっぷり補給をするし、みんなは何も心配せず、仕事をしていればOK。

 必ず、アークエンジェルとアスハ代表は現れる! 

 それまでは、ゆっくり豊富な海の幸を楽しんでくれ」

 

 その冗談に、クルーの興奮はいささか収まり、笑い声すら漏れてきた。

 自信たっぷりに胸を張ってみせる社長──

 

 それを、サイは一人じっと睨んでいた。

 この男は、フレイを買った。フレイを弄った。

 ――フレイの言葉が、正しければ。

 

 

 

 

 食堂から出て行く社長を、サイは素早く追いかけた。

 周囲でチュウザン兵が目を光らせていたが、彼はそれでも堂々と社長の正面に回りこむ。

 

「社長! お願いがあります……

 ナオト・シライシを、ティーダから降ろして下さい!」

 

 社長はしばし驚いたように目を丸くしていたが、すぐにいつもの悪戯っぽい表情に戻った。

 但しその目は、じっとサイを観察している。

 

 その注意深い視線で──

 サイは改めて、自分の姿に気づかされた。

 

 何度も殴られ、腫れのひかない頬。額には青痣がある。

 左腕に巻かれた包帯は未だに取れず、ワイシャツの袖口の下からその端がはっきり見えてしまっている。制服も何度も洗ったり縫ったりしていたが、染み込んだ血や泥の跡はしっかり残されている。

 血豆だらけになり膨れた手。靴も、つい1週間前に取り替えたばかりなのに、もう磨耗していた。

 

 なんて姿で交渉をしている。これでは、馬鹿にされても当然ではないか──

 ひどい羞恥を感じずにはいられなかった。だがそんなサイの肩に、社長は軽く手を乗せる。

 

「苦労かけたね。

 副隊長から、君のことは色々聞いた」

 

 思わぬ言葉に、サイは顔を上げた。社長はさらに言葉を継ぐ。

 

「今回、ここまでアマミキョが逃げのびられたのは、君のおかげだ。

 ティーダがあそこまで無傷でいられたのも、君の改良したTPシステムのおかげだろう。

 大気圏でのことは、不幸な事故だった。それが、副隊長と僕の見解だよ」

 

 社交辞令と分かっていても、社長の言葉はサイの心をわずかながら癒した。

 その優しさに、サイは思わず折れそうになる──

 駄目だ、ここで退いてはいけない。

 

「ですが、自分はナオトとマユを守りきることが出来ませんでした。

 これ以上、自分は子供たちをティーダに乗せたくないんです! 

 マユはアマクサ組のパイロットである以上降ろせませんが、ナオトは違います」

「何を言っているんだ。ナオト君だってパイロットだよ、やる気もある」

「やる気がありすぎるから危険なんです。

 素人が戦場でヘタにその気になっても、死ぬだけだ」

 

 社長の顔から、不意に笑みが消えた。下落していく株を冷たく見守る目つきになっている。

 そして彼の口から出た言葉は、絶望的な結論だった。

 

「残念だが、それは出来ない」

「何故です! アスハ代表のお許しがないから? オーブの視聴者の意向? 

 それとも──」

 

 サイは口を噤んだ。SEEDの件まで口にするのは危険すぎる。

 そして、返ってきた答えは。

 

「最大の理由は別にある。

 最大の出資者、タロミ・チャチャだよ」

 

 思わぬ言葉に、サイは一瞬返す言葉を失った。

 まさか──南チュウザンの王者が、何故? 

 社長は歩きながら、早口で語り始める。

 

「ナオト君をティーダに乗せる真の理由は、彼の意向だ。アマクサ組がアマミキョに関わるのも。

 そこまで来ると、民間の一企業に出来ることは限られてくる」

「フレイが強化人間としてモビルスーツに乗っているのも、タロミの意向ですか」

 

 あまりの事態に、サイは思わず勇み足をする。言ってしまってから後悔したが、もう遅い。

 サイは感情に任せ、言葉を走らせていた。

 

「アマクサ組の上に貴方がいて、さらにその上にタロミ・チャチャがいるんですね。

 フレイやマユたちを弄って、あんな人間にして、みんなを翻弄して――

 貴方がたは何をしたいんだ!」

 

 社長は歩みを止め、もう一度サイを見つめた。

 

「そういう風に聞いているんだ……」

 

 どこか当惑したような声色だったが、視線の鋭さは変わらない。

 その視線と、サイの怒りに満ちた眼が空中でかち合う。

 

「違います。

 一部はフレイ自身から聞きましたが、あくまで今のは自分の推測です」

「元彼としては、複雑だろうね。だが、どうにもならない。

 君には、どうすることも出来ないよ」

 

 分かっていた現実を、サイはまたもや突きつけられる。

 二年前から散々、思い知らされている現実を。

 

「君には何もしてほしくない、それがフレイ嬢の願いでもある。

 個人的な意見だが、その方が君の為だと思うね」

「何故です!」

「守秘義務」

 

 社長は唇に太い人差し指を当てる。軽妙な仕草に見えるが、こうなると絶対に彼は口を割らない。

 

「諦めるんだ。フレイ嬢は、既に君とは住む世界を違えている──

 二年前から、分かっていたはずだろう」

 

 

 

 

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