【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ミネルバパイロットの二人を「オギヤカ」が解放して、十数日後――
ナオトもまた、サイたちのもとへ無事帰された。
同時にティーダも彼と共に、アマミキョカタパルトへと戻っていた。何事もなかったかのように。
日数が経過するにつれ、アマミキョクルーたちの拘束も若干緩み。
ナオトが戻る頃には、クルーはごく限られた範囲内での「オギヤカ」の散策を許可されていた。
というわけで――
今、サイ、カズイ、そしてナオトの三人は、海底都市へ遊びにきている。
オギヤカの市街区域は気温も気圧も完璧に調整されており、外観も社長に見せられた写真そのままで、塵一つ見当たらない。
オーブの商店街より、さらに整然とした清潔なショッピングモール──
そんな街並みの中を、サイはタイヤキ、カズイはソフトクリーム、ナオトは巨大渦巻きキャンディーを屋台で注文し、ぱくつきつつ歩く。勿論周辺にはチュウザン兵の影が至る所にあったが、久々の解放感に三人とも嬉しさを隠せなかった。
女性なら小躍りして喜ぶだろう洋品店やアクセサリーの店、レストランや喫茶店が立ち並び、広い道路には街路樹が青々と茂っている。人工的に調整された爽やかな風が吹き込んでくる。
チュウザンの、人々でごった返す雑然とした熱い繁華街や泥道山道に慣れてしまったサイたちにとって、まさにそこは天国だった。
だが、電力は一体どうやって調達しているのだ──海底ケーブルからの横流しか。
サイはタイヤキにかぶりつきながらも、注意深く上空を見上げる。完全に地上の空と同じ青さが広がっている。勿論、電気的に合成された空の光だ。時間によって夕闇にも夜にもなる。コロニーの居住区と何も変わらない。
そこでナオトから聞かされた話は、さらにサイを驚愕させた。
「ラクス・クラインを見たって!?」
「はい。
ぼんやりとしか覚えてないですけど」
「……ありえない」
「そんなことないですよ。
確かに彼女、フレイさんと何か話していたんです。話の内容までは、よく分からなかったですけど」
ナオトは能天気に、キャンディーを小さな舌で舐めながら得意げに話を続けた。
自分がほんの少し意識を取り戻した時、確かに見えたラクス・クラインの姿を。しかも「あの」フレイと対等に話をしていた、彼女のことを。
「何だそりゃ……
夢でも見たんだろ」
カズイは面倒そうに呟きつつ、ショーウインドーの中のエメラルドのドレスを眺めていた。
サイはそれを気にしながらも、今のナオトの話を分析する。
ラクスはキラと共に、オーブのマルキオ邸にいたはずだ。キラがアークエンジェルと共に行方を眩ましたということは、ラクスも同行している可能性が高い。
それが何故、ここにいる? しかもナオトによれば、つい先日までラクスはプラントで歌っていたというじゃないか。
同時にサイは思い出す。自分のとんでもないミスを。
フレイと再会した時、自分はキラがラクスと共にいる件を話してしまったのだ。感情に流され、フレイを毛ほども疑わずに。
今考えれば、他国の人間にうっかりオーブの機密を口にしたようなものである。
しかもアークエンジェルの事件が起こった時にも、サイはフレイの前で口を滑らせてしまった──「潜伏中のラクス・クラインから声明は?」などと。
自分の軽率っぷりを今更のように反省しながらも、サイは考え続ける。
あの時、フレイはサイの話を当たり前のように受け流していた。つまり、ラクスがキラと共に動いているという前提で、フレイも動いているのだろう。
だが、そうなるとプラントのラクスは。そして、フレイと話していたというオギヤカのラクスは何者だ?
サイは熱いタイヤキをほおばったまま、横目で軽くナオトを睨む。
その目を見て、ナオトは思わず叫んだ。
「ちょっとサイさん! 僕が嘘ついてるって言うんですか?」
違う──ナオトは、嘘は言わない。
自分の感情を多分に交えて情報を捻じ曲げる危険な傾向はあるにせよ、白のものを黒だと言ったことはない。──あの工場のレポートで、マユの行為を庇った時以外は。
考えられるのは、既にラクスが捕らえられオギヤカで人質になっているケースだ。
ラクスがSEED保持者である以上、十分ありうる仮説だ。それなら、キラやアークエンジェルがラクス救出の為に動いているとも考えられる。
だが、ナオトの言によれば、「あの」フレイと彼女が対等に──むしろラクスの方が格上のように──話をしていたというのだ。
元々、何でもござれの天上の女神様だ。何があってもおかしくはないのだが……
「それにしても、腹立つのはアスランですよ」
ナオトが思い切り、キャンディーの端を噛み砕いた。「裏切った自覚はあるみたいですね。僕らに一言もなく帰るなんて」
そんなナオトを、サイは諭す。
「彼には彼の正義がある。それがより役立つのが、オーブよりザフトだと判断したんだろう。
アスハ代表のそばでは正直、彼が自分の実力をまっとうに発揮出来たか分からないよ。
それに2年前も、彼は同じ判断をして俺たちを助けてくれたんだ。
彼自身に、裏切りの悪意はないと思う」
ナオトが何か言いたげに思い切り口を尖らせたが――
その時、不意にカズイが割り込んだ。
「本当に、そうかな?」
思わぬカズイの言葉に、サイもナオトも振り向く。彼はどもりながらも、正直な意見を隠さなかった。
「例え悪意がなかったとしても、他人は傷つくよ。
それが繰り返されれば、彼自身の意思や状況がどうあれ、誰も彼を信用しなくなる。多分ザフトにいても、肩身が狭いんじゃないのかな、彼。
そういう勘違いや誤解が積み重なって、人は人を見捨てたり、争いが起きるんじゃないの?
何かあったら色々と理由をつけて、彼はまたどこかに行ってしまうよ……
それってもしかしたら、積極的に火を起こそうとする奴らよりもタチ悪いんじゃないのかな」
そんなカズイを見ていて、サイの口から自然に言葉が漏れていた。
「カズイ……お前、すごいよ」
「え?」
そう言われたのが意外だったのか、カズイは目を白黒させてしまう。サイは笑って続けた。
「そういう風に一歩引いて人を見ることって、なかなか出来るもんじゃない。
俺も色んな人間見てきたけど、どうしても相手に感情移入してしまう。大事なことが見えなくなる。
その点、お前はいつもすごいよ」
「そうかな……俺、自分の意見を言っただけだけど」
頭をかきながら、カズイは素直に照れた。
だがそのすぐ後、彼の目は女性用のアクセサリー屋に釘付けになり、そのままふらふらとアメジストの指輪に引き寄せられていく。
唯一の例外が、アムル・ホウナか──
サイはため息をつきつつ、カズイの背中を眺める。
その分析力を、何故自分に生かせないのか。
その時、サイの胸元の通信機がバッジの下で振動した。
緊急連絡のサインが点滅している。
「こちらアーガイル……
え、風間曹長? ……ちょ、ちょっと、落ち着いて下さい!」
だが内容を聞いた瞬間、サイは海底都市が割れんばかりの絶叫をかましてしまい──
結果、駆けつけたチュウザン兵により、三人の自由行動は即時中止された。
アークエンジェルがダーダネルス海峡に出現。ザフトと連合の戦闘中に割って入り、フリーダムとストライクルージュとムラサメが出撃し両軍にダメージを与え、双方とも撤退を余儀なくされた。
アークエンジェル介入の理由は、連合に与し参戦を強いられたオーブを止める為と推測される。
介入したルージュから、カガリ・ユラ・アスハの肉声を聞いたという兵士の証言が複数あるらしい──
その一報を受け、アマミキョ及びオギヤカは即座に動いた。
アマミキョはオギヤカに収容されたまま紅海付近まで潜航し、紅海の入り口である旧バベル・マンデブ海峡まで到達。そしてオギヤカはその巨大な要塞から、アマミキョ収容部分に当たるパーツだけを分離させ、北西に進路を取り紅海の潜航を続け、連合のスエズ基地まで向かったのである。
騒動の舞台は目前だった。
オギヤカの力を借りて潜航し、ザフトやテロによる襲撃を見事回避したアマミキョは無事、スエズに到着。
そこで初めて、オギヤカはアマミキョを解放した。
再び空へ舞い上がる、救援船アマミキョ。陸地で阻まれている為、地中海へはアマミキョ単独で向かわねばならないのだ。
ムジカ社長はスエズまではアマミキョに搭乗していたものの、到着して以降は再びオギヤカに戻ってしまった――
船の指揮権を、再びアマクサ組に譲渡して。
「──で?」
ナオトはティーダのコクピットハッチに取りついて内部を睨みつけ、唾を飛ばして喚いていた。
「どーしてティーダに、サイさんが乗るのかなぁ!?」
「お前にこれ以上無茶をさせるわけにいかないからな。
お前を降ろせない以上、俺がお前を見張る」
サイは冷酷なまでにナオトを無視し、忙しくティーダ後席のコンソールパネルを調整している。
なおも反論しようとする少年に、彼は言った。
「それに、今度の作戦には俺が必要だ。アークエンジェルの今の通信コードを知っているのは、この船じゃ俺だけだし。
窮屈かも知れないが、そう邪険にしないでくれよ」
「大丈夫だよナオト。サイには絶対、操縦任せないから」
前席からマユがぴょこんと頭を出し、朗らかにナオトを見上げる。
「そういうことじゃなくてぇ!」と、イライラと髪をかきむしるナオト。
サイはパネル下部のケーブルの調整に入っていた。
既に後席の隣には、急造ではあるがサイ用の座席が出来ている。
「それに、アークエンジェルやキラが何を考えているのか、俺は知りたいしな」
「何って……オーブの理念を貫きたい、それだけでしょ。
代表がルージュで、はっきり言ったじゃないですか!」
奥で調整されているアフロディーテにカラミティを睨みつけながら、ナオトは叫ぶ。
今はフレイは居らず、ブリッジでミーティング中だ。カラミティは水中用の装備がなされている。
流れる汗を拭きもせずむくりと身体を起こしたサイに、ナオトはさらに怒鳴った。
「だいたい僕は、この作戦には反対です。
キラさんたちの目的だってこれではっきりしたじゃないですか。僕たちオーブ国民を、戦争に巻き込みたくないだけです!」
「それが余計に戦局を混乱させると、どうしてお前は分からない!?」
埃だらけの頬もそのままに、サイは突如大音声を上げ、操縦席を叩き壊さんばかりにレンチで殴りつけてしまう。
あまりのサイの剣幕に、ナオトは勿論、周囲の整備士たちまでが仰天してしまった。
さりげなく彼らを見守っていたハマーが、ティーダの足もとから怒鳴ってくる。
「落ち着け、馬鹿が!
てめぇが暴れた処で、あのアホ船が沈むわけじゃねぇだろが!」
そのハマーの怒声で、サイは何とか平静さを取り戻した。
「すみません!」と一声謝り、すぐナオトに向き直る。
「キラや代表の想いは、俺も分かる。
戦いを止めたい──その想いひとつで、俺たちはヤキンを戦ったんだ。
その代償は大きかったけどな」
「だったら……」
「だが、今のキラたちのやり方は、俺には解せない。
もっとうまく自己主張する方法はあるはずだ。アスハ派のスカンジナビア政府を通じて公式ルートで代表の声明を出すなりすれば、少なくともきちんとした形で代表の意思は伝わる。
今みたいに、武力で武力を制そうなんて……
それこそ誤解を受けて、火種を悪戯に拡散させるだけだ」
そのサイの言葉に、ナオトの感情も幾分か静まった。しかし、それでも反論せずにはいられないのがナオトだ。
「だけど、フリーダムの介入で戦闘が中止されたのは事実でしょ。
それに、フリーダムは誰も殺していませんよ。きっと」
それを聞いて、サイは眼鏡の奥から、じろりとナオトを睨む。
「殺さなければいいのか。一時的に戦いがやめばいいのか。
誰がどれほど傷ついても、その場で命さえ奪わなければいいのか!」
「だって、それがキラさんとフリーダムの戦い方でしょ!
いいから降りて下さいよっ」
「嫌だね。ありがたいことに、これはアマクサ組の命令でもある。
たとえ俺が拒否ったって、撤回できない」
「そんないい加減な!」
しかし、感情に任せてナオトがサイに掴みかかりかけた瞬間――
フレイの声が口論を中断した。
「お喋りは終わりだ!」
彼女は搭乗用タラップでアフロディーテに近づきつつ、全員に言い放つ。
「作戦予定を5時間繰り上げる。
ザフトのディオキア基地にフリーダムが現れた。ラクス・クライン搭乗予定のシャトルを奪い、基地を攻撃したとの報告だ」