【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
PHASE-01 爪先の月
ウーチバラ宙港に収容されている緊急救援船・アマミキョ。
その周囲ではノーマルスーツ着用の整備員が何十人となくとりつき、最終調整のための怒号が飛び交っている。
全長245メートルというその姿は、かつてのアークエンジェルよりは小さいが、外装や内部は十分にアークエンジェルを連想させる作りになっている──
サイ・アーガイルは、外部からブリッジへと向かう通路をリフトグリップで移動しながら、そう思わずにはいられなかった。
アークエンジェルほど鋭さを誇る船体ではなく、どちらかといえば飛行船を思わせる丸めの船だ。しかしカラーリングは白を中心に灰・赤・青が基調で、大きな翼が左右にある。
これはムジカノーヴォ社長の趣味もあろうが。
アマミキョに乗船することが決まった時から。
もっと言うならば、シュリ隊入隊が決定した時から──
社長からは直接といわず間接といわず、何度も言われていた。
アマミキョそしてシュリ隊の目的は、人命救助・施設修理など緊急救援隊としてのもの以外に、土木建築・農林水産・保健衛生・教育などの長期にわたって援助していく必要のある分野など多岐にわたるが、決して戦闘を目的とはしないこと。
あくまでもシュリ隊は、チュウザンの「文具団」とオーブのモルゲンレーテ社によって結成された、民間の非政府組織であること。
だからこそ、サイはこの船を選んだ。もっとも、大きな理由は他にもあったが。
既にシュリ隊320名は数日前に入隊式を終え、おのおのの能力によって役割を分担されグループ分けされ、乗船している。その時からここでの寝泊りが始まっているので、もう顔見知りとなったメンバーも数多い。
「サイー、こっちもちょっとは手伝ってくれよぅ」
カズイ・バスカークがかなり遅れて、背中に機材を背負い、何とかリフトグリップで体勢を整えつつ声をかけてきた。
なんといっても、サイにとって心強かったのは彼の存在だろう。ダメもとでシュリ隊に誘っていて良かったと、サイは思う。
アークエンジェルに乗っていた時の経験が経験であるだけに来ないと諦めていたが、カズイはギリギリになって、サイの乗る列車に駆け込んできた。
あの時の嬉しさをサイは忘れていない。
「そうはいかないよ、E26区画端末の回線がおかしいんだ。
ことによったら直接行かないと」
そういうサイも今は、片手でグリップをつかみ片手でタブレットを支えて目は画面を追い続けている。カズイを振り返る余裕すらない。
「んな殺生な……整備班のあのオッサン、本気で怖いんだよ。
船内はまだ重力制御かかってないからってこんな、身体よりデカい機材持たされるなんて無茶苦茶だ!
嫌がらせだよ、こんなのブリッジまで運べなんて。作業着は暑いしさ、いいよなぁ制服組は」
「奇遇だな、俺もブリッジ行きだ。
それと、文句言う前に夏用の作業着に着替えろよ。見てても暑い」
しかし、カズイが文句を言いたがるのも分かる。
カーマイン・レッドを基調に仕立てられた制服やタイに装着されたブルーのバッジは立派なものだが、それはサイ達ブリッジ組のみの特権であり、カズイら通常のメンバーは作業着か普段着着用である。
もっとも、制服だってそれほどシャレた代物ではない。サイはとっくに夏用の半袖に着替えて作業中であるが、一見して何処のハイスクールかと自分でも思った。
サイとカズイは医療ブロックに近づく。
船内は用途ごとにいくつかのブロックに分けられており、主だったところは指令部(ブリッジ)、今サイたちが通過している医療ブロック、メンバーが寝泊りする居住ブロック、食糧備蓄ブロック、教育ブロック、そして……カタパルトも存在する。
つまりこの船は、モビルスーツの運用が可能なのだ。 勿論表向きは、作業用モビルスーツという名目だが。
「で……会えたの?」
カズイはようやくサイに追いついて、聞いてきた。
色々省略された質問だが、何を聞きたいのかぐらいはサイにも分かる。
──答える余裕も義務もないので、サイは敢えて無視した。
医療ブロックでは、大勢の医者と看護師が無重力下で医療設備を整えようと、悪戦苦闘中だった。
しかし看護師が一人サイに気づき、床にベッドを固定する作業をしながら笑顔でサイの名を呼び、手を振っていた。
長めの茶髪を後ろでひとつに結んだ、黒目の大きいかなり可愛い丸顔の娘であったが、残念ながらスカート姿ではなくしっかりスラックスを着用している。
サイが返事をしようとした途端、彼女の上に女医の、冷静ではあるが厳しめの声が飛ぶ。
「ネネ! よそ見やめなさい、点滴台が浮いてる!
あと引き出し全部固定したんでしょうね、注射針が浮いても知らないわよ!」
「すっすいませんっスズミ先生!
あーもー、早く重力元に戻らないかなぁ」
「レクチャーで何度もやったでしょう。
無重力下で救助活動することだってありうるの、尿飛び散ったらどう対処するつもり?」
看護師は慌てて作業に戻る。
タブレットから少し目を離してその様子を見ながら、サイは黙って目くばせするぐらいが精一杯だった。
「知り合い?」
カズイがすかさず聞いてくる。
無視する理由もないので、サイは仕方なく答えた。
「ネネ・サワグチ。女医さんのほうはスズミ・トクシ。
作業してる間、普通に話してて仲良くなる奴もいるだろ。そのうちの一人だよ」
「はぁ……
俺はできないな、そんなこと。今やることで精一杯だし。
で、会えたのか?」
「お前も結構しつこくなったな
……会えるわけないさ」
目は画面を追い、手はグリップを掴んで器用にターンをこなすサイだったが――
そんなカズイの言葉に、どうしても思い出さずにはいられない。
――あの日、炎の中にその命を吹き飛ばされたはずの彼女を。
二度と会えるはずがないと思っていた彼女を。
それなのに、再び出会ってしまった彼女を。
あの時見た光景が、忘れられようはずもなかった。
炎に包まれる繁華街。崩落したビルの間から見えた機体──
人の顔を持つモビルスーツ。青と白を基調にカラーリングされた型式番号GAT-02L2、ダガーL。
炎の照り返しで赤鬼の如く輝く頭部。
その鬼の目に当たる部分、つまりカメラアイを真正面に見た瞬間の、『彼女』の表情。
明らかに、自分の知っていた彼女ではない。ナイフを目の前に構え、恐怖など微塵もなく──
ただ、戦いへの高揚と喜びと冷酷さが同居している、不敵な笑顔。
姿形は同じであっても、あのような顔を彼女ができるわけがない。
しかも彼女は自分を抱えて飛び回り、崩れかかっているビルの壁をピッケル一本で駆け上り、モビルスーツに飛びついて……
どれほど生まれ変わったとしても、あのような真似が彼女に出来るはずがない。
あんな言葉が、彼女の口から出るはずがない。
──貴様は私が守る。だから私に従え!
「あいつのこと考えると、頭が混乱するよ。
当分、その話題は厳禁」
「でも、そのおかげでサイの時間も動き出した。違うか?」
「それは……わ、わっ!?」
横幅5メートルの通路には、他に人間や荷物が多数行きかっており、サイとカズイは何度もぶつかりそうになる。
この多忙な中では、悠長に思い出を語っていられる時間さえそうそうなかった。