【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
やはり避けられなかったか、この事態は。
黒い波濤を切り裂いて現れた、大天使の名を持つ戦艦。サイはティーダの中で、唇を噛みながら状況を見守るしかない。
そのティーダも今はほぼ戦闘不能となり、ストライクルージュに腕を取られている。ルージュはかなり強引に、アークエンジェルの甲板に着艦しようとしている
──当然、ティーダも一緒に。
だがそのルージュを、執拗に狙うカラミティ。
水上からの閃光は、未だにカガリのルージュを諦めてはいなかった。カイキの叫びが海を貫く。
《黙示録が作動しねぇとは……
マユから離れろ、逃げ出したお飾り姫様がぁ!》
《このっ……何故あんなものが、お前たちと一緒にいる!?》
カラミティの激しい攻撃に、カガリは呻きと共に、やむなくティーダを手離した。
空中に放り出された形となったティーダは、そのままアークエンジェルの甲板へ激突するように着艦する。
片腕をもがれたティーダはバランスが取れず、甲板上に崩れ落ちるように横倒しになってしまう。後席にいたサイとナオトは、その衝撃でコクピット内で仲良く折り重なって抱き合ってしまい、さらにサイは顎にナオトの肘鉄を思い切り食らう羽目になった。
「ちょっとおい、ナオト、重いっ……お前のスーツ、結構固いな」
「すいませんサイさん……って、ここ何処?」
「アークエンジェルの上だよ。とりあえずその肘、どけてくれ」
そんなちょっとした騒動の最中にも、ティーダコクピットに通信が入ってくる。
涼しい顔のマユが振り向いた。先ほどナオトを殴った時の怒りの表情は、もう消え失せている。
「サイ、アークエンジェルから通信! 繋ぐ?」
国際救難チャンネルではない。
ティーダの通信コードを、向こうは既に知っているのだ。
「ラミアス艦長か……」
PHASE-17 接触! 紅蓮VS自由
ティーダから離れたルージュを、さらにカラミティのシュラークが追う。
まるでカガリの稚拙な技術をからかうかのように、カイキはルージュの機体ギリギリに閃光を放っていた。
逃げ惑っていられたのも僅かな間。やがてルージュのエールストライカーの翼を、一条の火線が掠めた。
「カガリ!
この……っ!!」
そんなカラミティの戦い方を目撃したキラの中で、怒りが芽生えていく。
空を泳ぐように、翼から黒煙を吐いてよろよろと帰還しようとするルージュ。
「僕らを撃ってどうする気だ! 君たちはっ!」
即座に海中のカラミティとディープフォビドゥンに狙いをつけるキラ。
だが、その瞬間――
キラはレーダー内の、別の反応に気づいた。
──遥かな空からやってくる、異形に。
少しずつ緋色に染まり始めた西の空から──黒い翼がやってくる。
それは、かつてのストライクを血に染めたような、紅の機体。
ルージュよりもどす黒い紅の装甲を誇る 、豊穣の女神──
キラの背筋を冷気が突き抜ける。
――自分にとって尋常ならざるものが、あの中にいる。
この時のキラは既にそれを、直感で感じ取っていた。
「誰? そこにいるのは、誰だ?
ラクス? ……ラウ・ル・クルーゼ?
いや、違う……」
一瞬動きを止めたキラの視界を、ビームカービンの光が遮った。
アークエンジェルの上に投げ落とされたも同然のティーダ。
その中でサイは、ティーダの損傷をチェックしながら、キラの戦いを見上げるしかなかった。
フレイ──
遂に来てしまったか。今キラに放たれた光は、間違いなくアフロディーテのビームカービンだ。
撃つつもりか。君は、キラを!
血の女神を護るようにして追従するは、6機ものスカイグラスパー。うち2機には、ラスティと時澤軍曹が乗っているはずだ。
アークエンジェルとの通信が開かれ、懐かしくも厳しい声が響いてくる。
《こちらアークエンジェル。
お久しぶり……と言いたいところだけど、生憎そうもいかないようね。サイ君》
「ラミアス艦長! やっぱり貴方も乗っていたんですか……
何故です? 何故今、貴方がたはこんなことを!?」
貴方だって、2年前に多くのものを失ったはずだ。心の傷だって癒えていないはずだ。
それなのに、何故またこんな場所に。
サイは叫びたかったが、マリュー・ラミアスは冷たく遮る。
《詳しい説明はあと。私の予想もたまには当たるものね……
貴方が連れてきたあのモビルスーツは、何?》
マリューが示唆しているのは当然──フリーダムと正面から対峙しているアフロディーテだ。
サイの喉から、痛みに満ちた言葉が溢れる。
「艦長……
駄目です。あそこにいるのは……!」
真紅の装甲で彩られ、黒の翼を持つストライク。まるで、ルージュを数千の人柱の血で染めたような血の機体。
突如出現し、茜色の陽の中で静止した紅蓮に、キラは呼びかける。
冷たい予感が喉元までせり上がり、彼は思わず唾を飲んだ。
「君は──誰なの?」
アフロディーテ内部に潜むフレイは、連合の制服のままだった。メットだけ被っている状態だ。
「黙示録照射までは至らなかったか……
予想の範囲内だがな」
状況を見ながら、フレイは左手でブーツの金具を外し始めた。
彩られた唇からは、含み笑いとエゼキエル書25章17節が漏れる。
「心正しき者の歩む道は、心悪しき者のよこしまな利己と悪虐によって行く手を阻まれる。
愛と善意の名において、暗黒の谷で弱き者を導く者は幸いなり──」
フリーダムの眼前で、アフロディーテの漆黒の翼が開かれる。
ビームカービンを素早く腰部にマウントしたアフロディーテは、背の翼から双対のビームサーベルを両の手で取り出した。
フリーダムを挑発するかのように、頭部の前で光の剣を交差させるアフロディーテ。
光るカメラアイ。その意図は電撃のように、キラを貫く。
その翼から覗くレールガンは、まっすぐにフリーダムの後方──アークエンジェルに着艦寸前のルージュを狙っていた。カラミティから逃げ惑うだけで、既にエネルギーが尽きかけてしまっているルージュを。
「僕が戦わないなら、カガリを狙うってのか……君は!」
キラの呟きと同時に、フリーダムのバラエーナが──
針に糸を通すが如くの正確さでアフロディーテの腕、そして翼を狙って襲いかかった。
それを見越したようにIWSPの全エネルギーを噴射し、茜に染まり始めた空へ逃げるアフロディーテ。
カラミティからの地獄の炎が彼女を援護するように撃たれ、フリーダムの光と衝突する。
その間を縦横無尽に動き、大気を切り裂いてすり抜けていくアフロディーテの翼。
6機のスカイグラスパーも、まるで女神に吸い付く磁石のようにそれに従う。
だがアフロディーテよりも、フリーダムの光の方が僅かに早かった。
空にアルファベット筆記体でも書くように光の筋を描いたバラエーナの虹は、アフロディーテの右脚部を捕らえる。この時、スカイグラスパーも1機、翼を撃ちぬかれた。
しかしその瞬間、アフロディーテは爆炎に包まれた脚部を自ら切り離し、フリーダムに向けて撃ちはなつ。
咄嗟にキラはそれも撃ち落としたが、予想外の大爆発がフリーダムを襲った。
「まさか……スティレットを仕込んだ!?」
キラの予想は大当たりで、フレイはアフロディーテの両脚部にそれぞれ5発ものスティレットを装着させていた。
この捨て身の攻撃に、キラが後悔した時にはもう遅く──
フリーダムの視界は、紅の雷鳴で遮られてしまう。
カラミティとフリーダムの砲火、そしてスティレットの暴発で空に光が満ちていく。
これほど派手な戦闘をしては、ザフト基地から介入されるのは時間の問題だ。
「畜生……
花火大会にしちゃ、時間が早すぎるっての!」
サイは空に巻き起こる爆風を肌で感じながら、同時にレーダーを睨んでいた。
ナオトはといえば、キラとフレイの激突にただ茫然としているしかない。ルージュも既にティーダの隣に着艦し、状況を見守っている。
上空の戦いは、最早ナオトやカガリのような素人の踏み込める領域ではなかった。
「キラさんが、押されてる……?
アフロディーテって、こんなに強かったですか?」
「違う、フレイの力はいつもと変わらないよ。
周りに飛んでいるスカイグラスパーが問題なんだ」
「あのスカイグラスパーのせいで、キラも思うような攻撃が出来ないんだ。
モビルスーツと違って、武装を撃つだけでパイロットの死に繋がるからな」
「つまり、スカイグラスパーを盾にしてるってことですか!? 卑怯だよ、そんなの!」
マユが静かに口を挟む。
「ナオトがちゃんと黙示録撃ってれば、ラスティたちもこんなことしないですんだのに」
「関係ない!
元からキラさんを痛めつけるつもりだったんでしょ、君たちアマクサ組は!
キラさんを挑発までして!!」
激怒するナオトをよそに、サイはキラがスカイグラスパーを撃てない、もう一つの理由を思い起こす──
それはサイにとっても、思い出したくない痛ましい記憶だった。
間違いない。キラはスカイグラスパーを見て──トール・ケーニヒを思い出している。
恐らくそこまで見抜いて、フレイはこの作戦を仕掛けたのだろう。
サイはフレイの内に潜むものに、戦慄せずにはいられない。
無惨に死んだ友人だろうと何だろうと、利用出来るものは何でも利用して、欲しいものは手に入れるつもりか。彼女の身体の中では、血ではなく無数の蛇でものたうちまわっているのか。
彼女をそこまで駆り立たせるものは何だ? そこまでしてキラを追いつめる理由は何だ?
強化されて何を植えつけられた、彼女には!
――マリューの叫びが、思考に耽溺しかけたサイを打つ。
《本当なの、サイ君!?
まさか、あれのパイロットが……すぐにキラ君に》
「駄目です艦長!
キラに伝えれば、その瞬間にフリーダムは討たれる!」
「今だ!
フェイズ17実行、ジェットストライカー全機射出!!」
アフロディーテに従うスカイグラスパー部隊は、その時澤軍曹の一声と共に、一斉に翼部のストライカーを切り離す。
ラスティのエールストライカーだけは残し、切り離された4機のジェットストライカーは勢いよく加速をつけて雲を散らし、一息にフリーダムに特攻していく。
キラは当然、襲いかかってくる翼も全て撃ち落したが、あまりの爆煙と塵で視界は最悪となった。
僅かに生じたその瞬間を、相手は決して見逃さない。
今度は波を蹴散らして海中から脚部に喰らいついてくる、カラミティのロケットアンカー。
「サイ……アマミキョ……
どうして君たちが、こんなことを!」
その刹那――
キラの中で怒りと共に、輝くSEEDが爆発した。
(※旧約聖書エゼキエル書25章17節に関しては、映画『パルプ・フィクション』(1994)より一部訳詞を引用しています)