【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-17 接触! 紅蓮VS自由
part1


 

 やはり避けられなかったか、この事態は。

 黒い波濤を切り裂いて現れた、大天使の名を持つ戦艦。サイはティーダの中で、唇を噛みながら状況を見守るしかない。

 そのティーダも今はほぼ戦闘不能となり、ストライクルージュに腕を取られている。ルージュはかなり強引に、アークエンジェルの甲板に着艦しようとしている

 ──当然、ティーダも一緒に。

 

 だがそのルージュを、執拗に狙うカラミティ。

 水上からの閃光は、未だにカガリのルージュを諦めてはいなかった。カイキの叫びが海を貫く。

 

《黙示録が作動しねぇとは……

 マユから離れろ、逃げ出したお飾り姫様がぁ!》

《このっ……何故あんなものが、お前たちと一緒にいる!?》 

 

 カラミティの激しい攻撃に、カガリは呻きと共に、やむなくティーダを手離した。

 空中に放り出された形となったティーダは、そのままアークエンジェルの甲板へ激突するように着艦する。

 片腕をもがれたティーダはバランスが取れず、甲板上に崩れ落ちるように横倒しになってしまう。後席にいたサイとナオトは、その衝撃でコクピット内で仲良く折り重なって抱き合ってしまい、さらにサイは顎にナオトの肘鉄を思い切り食らう羽目になった。

 

「ちょっとおい、ナオト、重いっ……お前のスーツ、結構固いな」

「すいませんサイさん……って、ここ何処?」

「アークエンジェルの上だよ。とりあえずその肘、どけてくれ」

 

 そんなちょっとした騒動の最中にも、ティーダコクピットに通信が入ってくる。

 涼しい顔のマユが振り向いた。先ほどナオトを殴った時の怒りの表情は、もう消え失せている。

 

「サイ、アークエンジェルから通信! 繋ぐ?」

 

 国際救難チャンネルではない。

 ティーダの通信コードを、向こうは既に知っているのだ。

 

「ラミアス艦長か……」

 

 

 

 

PHASE-17 接触! 紅蓮VS自由

 

 

 

 

 ティーダから離れたルージュを、さらにカラミティのシュラークが追う。

 まるでカガリの稚拙な技術をからかうかのように、カイキはルージュの機体ギリギリに閃光を放っていた。

 逃げ惑っていられたのも僅かな間。やがてルージュのエールストライカーの翼を、一条の火線が掠めた。

 

「カガリ! 

 この……っ!!」

 

 そんなカラミティの戦い方を目撃したキラの中で、怒りが芽生えていく。

 空を泳ぐように、翼から黒煙を吐いてよろよろと帰還しようとするルージュ。

 

「僕らを撃ってどうする気だ! 君たちはっ!」

 

 即座に海中のカラミティとディープフォビドゥンに狙いをつけるキラ。

 だが、その瞬間――

 

 キラはレーダー内の、別の反応に気づいた。

 ──遥かな空からやってくる、異形に。

 

 少しずつ緋色に染まり始めた西の空から──黒い翼がやってくる。

 それは、かつてのストライクを血に染めたような、紅の機体。

 ルージュよりもどす黒い紅の装甲を誇る 、豊穣の女神──

 

 キラの背筋を冷気が突き抜ける。

 ――自分にとって尋常ならざるものが、あの中にいる。

 この時のキラは既にそれを、直感で感じ取っていた。

 

「誰? そこにいるのは、誰だ? 

 ラクス? ……ラウ・ル・クルーゼ? 

 いや、違う……」

 

 一瞬動きを止めたキラの視界を、ビームカービンの光が遮った。

 

 

 

 

 アークエンジェルの上に投げ落とされたも同然のティーダ。

 その中でサイは、ティーダの損傷をチェックしながら、キラの戦いを見上げるしかなかった。

 

 フレイ──

 遂に来てしまったか。今キラに放たれた光は、間違いなくアフロディーテのビームカービンだ。

 撃つつもりか。君は、キラを! 

 

 血の女神を護るようにして追従するは、6機ものスカイグラスパー。うち2機には、ラスティと時澤軍曹が乗っているはずだ。

 アークエンジェルとの通信が開かれ、懐かしくも厳しい声が響いてくる。

 

《こちらアークエンジェル。

 お久しぶり……と言いたいところだけど、生憎そうもいかないようね。サイ君》

「ラミアス艦長! やっぱり貴方も乗っていたんですか……

 何故です? 何故今、貴方がたはこんなことを!?」

 

 貴方だって、2年前に多くのものを失ったはずだ。心の傷だって癒えていないはずだ。

 それなのに、何故またこんな場所に。

 サイは叫びたかったが、マリュー・ラミアスは冷たく遮る。

 

《詳しい説明はあと。私の予想もたまには当たるものね……

 貴方が連れてきたあのモビルスーツは、何?》

 

 マリューが示唆しているのは当然──フリーダムと正面から対峙しているアフロディーテだ。

 サイの喉から、痛みに満ちた言葉が溢れる。

 

「艦長……

 駄目です。あそこにいるのは……!」

 

 

 

 

 真紅の装甲で彩られ、黒の翼を持つストライク。まるで、ルージュを数千の人柱の血で染めたような血の機体。

 突如出現し、茜色の陽の中で静止した紅蓮に、キラは呼びかける。

 冷たい予感が喉元までせり上がり、彼は思わず唾を飲んだ。

 

「君は──誰なの?」

 

 

 

 

 アフロディーテ内部に潜むフレイは、連合の制服のままだった。メットだけ被っている状態だ。

 

「黙示録照射までは至らなかったか……

 予想の範囲内だがな」

 

 状況を見ながら、フレイは左手でブーツの金具を外し始めた。

 彩られた唇からは、含み笑いとエゼキエル書25章17節が漏れる。

 

「心正しき者の歩む道は、心悪しき者のよこしまな利己と悪虐によって行く手を阻まれる。

 愛と善意の名において、暗黒の谷で弱き者を導く者は幸いなり──」

 

 

 

 

 フリーダムの眼前で、アフロディーテの漆黒の翼が開かれる。

 ビームカービンを素早く腰部にマウントしたアフロディーテは、背の翼から双対のビームサーベルを両の手で取り出した。

 フリーダムを挑発するかのように、頭部の前で光の剣を交差させるアフロディーテ。

 光るカメラアイ。その意図は電撃のように、キラを貫く。

 その翼から覗くレールガンは、まっすぐにフリーダムの後方──アークエンジェルに着艦寸前のルージュを狙っていた。カラミティから逃げ惑うだけで、既にエネルギーが尽きかけてしまっているルージュを。

 

「僕が戦わないなら、カガリを狙うってのか……君は!」

 

 キラの呟きと同時に、フリーダムのバラエーナが──

 針に糸を通すが如くの正確さでアフロディーテの腕、そして翼を狙って襲いかかった。

 それを見越したようにIWSPの全エネルギーを噴射し、茜に染まり始めた空へ逃げるアフロディーテ。

 

 カラミティからの地獄の炎が彼女を援護するように撃たれ、フリーダムの光と衝突する。

 その間を縦横無尽に動き、大気を切り裂いてすり抜けていくアフロディーテの翼。

 6機のスカイグラスパーも、まるで女神に吸い付く磁石のようにそれに従う。

 

 だがアフロディーテよりも、フリーダムの光の方が僅かに早かった。

 

 空にアルファベット筆記体でも書くように光の筋を描いたバラエーナの虹は、アフロディーテの右脚部を捕らえる。この時、スカイグラスパーも1機、翼を撃ちぬかれた。

 しかしその瞬間、アフロディーテは爆炎に包まれた脚部を自ら切り離し、フリーダムに向けて撃ちはなつ。

 咄嗟にキラはそれも撃ち落としたが、予想外の大爆発がフリーダムを襲った。

 

「まさか……スティレットを仕込んだ!?」

 

 キラの予想は大当たりで、フレイはアフロディーテの両脚部にそれぞれ5発ものスティレットを装着させていた。

 この捨て身の攻撃に、キラが後悔した時にはもう遅く──

 フリーダムの視界は、紅の雷鳴で遮られてしまう。

 

 

 

 

 カラミティとフリーダムの砲火、そしてスティレットの暴発で空に光が満ちていく。

 これほど派手な戦闘をしては、ザフト基地から介入されるのは時間の問題だ。

 

「畜生……

 花火大会にしちゃ、時間が早すぎるっての!」

 

 サイは空に巻き起こる爆風を肌で感じながら、同時にレーダーを睨んでいた。

 ナオトはといえば、キラとフレイの激突にただ茫然としているしかない。ルージュも既にティーダの隣に着艦し、状況を見守っている。

 上空の戦いは、最早ナオトやカガリのような素人の踏み込める領域ではなかった。

 

「キラさんが、押されてる……? 

 アフロディーテって、こんなに強かったですか?」

「違う、フレイの力はいつもと変わらないよ。

 周りに飛んでいるスカイグラスパーが問題なんだ」

 

 女神(アフロディーテ)に接触せんばかりにつき従う5機のスカイグラスパーを、サイはモニターで指した。ラスティのスカイグラスパーはエールストライカー、そして他はジェットストライカーを装備している。

 

「あのスカイグラスパーのせいで、キラも思うような攻撃が出来ないんだ。

 モビルスーツと違って、武装を撃つだけでパイロットの死に繋がるからな」

「つまり、スカイグラスパーを盾にしてるってことですか!? 卑怯だよ、そんなの!」

 

 マユが静かに口を挟む。

 

「ナオトがちゃんと黙示録撃ってれば、ラスティたちもこんなことしないですんだのに」

「関係ない! 

 元からキラさんを痛めつけるつもりだったんでしょ、君たちアマクサ組は! 

 キラさんを挑発までして!!」

 

 激怒するナオトをよそに、サイはキラがスカイグラスパーを撃てない、もう一つの理由を思い起こす──

 

 それはサイにとっても、思い出したくない痛ましい記憶だった。

 間違いない。キラはスカイグラスパーを見て──トール・ケーニヒを思い出している。

 恐らくそこまで見抜いて、フレイはこの作戦を仕掛けたのだろう。

 

 サイはフレイの内に潜むものに、戦慄せずにはいられない。

 無惨に死んだ友人だろうと何だろうと、利用出来るものは何でも利用して、欲しいものは手に入れるつもりか。彼女の身体の中では、血ではなく無数の蛇でものたうちまわっているのか。

 彼女をそこまで駆り立たせるものは何だ? そこまでしてキラを追いつめる理由は何だ? 

 強化されて何を植えつけられた、彼女には! 

 

 ――マリューの叫びが、思考に耽溺しかけたサイを打つ。

 

《本当なの、サイ君!? 

 まさか、あれのパイロットが……すぐにキラ君に》

「駄目です艦長! 

 キラに伝えれば、その瞬間にフリーダムは討たれる!」

 

 

 

 

「今だ! 

 フェイズ17実行、ジェットストライカー全機射出!!」

 

 アフロディーテに従うスカイグラスパー部隊は、その時澤軍曹の一声と共に、一斉に翼部のストライカーを切り離す。

 ラスティのエールストライカーだけは残し、切り離された4機のジェットストライカーは勢いよく加速をつけて雲を散らし、一息にフリーダムに特攻していく。

 キラは当然、襲いかかってくる翼も全て撃ち落したが、あまりの爆煙と塵で視界は最悪となった。

 僅かに生じたその瞬間を、相手は決して見逃さない。

 今度は波を蹴散らして海中から脚部に喰らいついてくる、カラミティのロケットアンカー。

 

 

「サイ……アマミキョ……

 どうして君たちが、こんなことを!」

 

 

 その刹那――

 キラの中で怒りと共に、輝くSEEDが爆発した。

 

 

 

 

 




(※旧約聖書エゼキエル書25章17節に関しては、映画『パルプ・フィクション』(1994)より一部訳詞を引用しています)
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