【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 血みどろフレイ

 

 

 カラミティのロケットアンカーがフリーダムに切り落とされてから、海中に潜むカラミティの全ての砲門が沈黙させられるまでの時間は、3秒もなかった。

 さらにフリーダムは、戦闘不能となったカラミティを乗せているディープフォビドゥンの装甲アレイをも撃ち抜いた。結果、風間の乗るディープフォビドゥンは爆砕には至らなかったものの、右側のアレイを破壊され一気にバランスを崩す。

 当然、カラミティは海中へ滑り落ちてしまった。黒い泡と破片を吐き散らしながら沈んでいくカラミティを必死で追いつつ、風間は壊れた機体を精一杯動かして水の上の空を凝視した。

 

「ここまでね……

 頼んだわよ、時澤軍曹!」

 

 

 

 

 カラミティの砲が盛大に爆発して、辺りは水柱と爆煙に包まれる。その中から──

 フリーダムを真っ直ぐ狙い、朱に染まったビームサーベルが飛び出してきた。

 水柱の向こうからブーメランの如く投げつけられたもので、光の刃は空を切り裂いて旋回しながら飛んでくる。

 フリーダムは疾風の動きでそれをかわす──

 が、水煙を突き破り、キラの眼前に、紅の女神が再び堂々たる姿を現す。紅の鬼と表現した方が的確か。

 

 方向を読まれた。キラは思いがけぬ相手の動きに唇を噛む。

 

 彼──いや彼女は、強引にキラの中に入ってこようとしている。その為には、あらゆる手段を講じる。

 こうまでフリーダムの正面に出たがる相手とは、一体何──

 

 キラが考えを巡らせている間に、紅の女神は手慣れた機動で、戻ってきたビームサーベルの柄を掴み取る。

 さらに、女神を守るようにスカイグラスパーのトリコロールカラーが前に出てくる。自らの存在を主張するように。

 瞬間、キラの脊髄を氷柱のような感覚が突き抜けた。

 

 ──蘇るものは、2年前の惨劇の記憶。

 あの機体と一緒に吹っ飛んでいった、友人の首。

 

 

 あの時、無惨に切断されたその切り口からは、破砕された動脈の組織までが見えた。

 自分の死を殆ど理解も自覚も出来ぬうちに、彼の全ては塵も残さず散った。

 彼の栗色の髪や舌、爪先までが空で焼かれていく光景を、キラの類稀な視力は全て目撃してしまった。

 連合の為でも何でもなく、彼らを守る為に、彼ら友人と生きのびる為だけに、自分はモビルスーツに乗ったのに──

 

 

 さらに紅の女神は、ビームカービンの光を真っ直ぐに放ってくる。撃つと同時に突っ込んでくる機体。

 

「飛び込ませるか!」

 

 キラもまた相手と対をなすように、ルプス・ビームライフルを撃つ。衝突する二つの閃光。

 衝撃波で、海面に盛大に飛沫があがる。空気が振動し、周囲に点在する島の木々の葉があちこちで竜巻を起こす。

 巻き上がる土煙、水柱。

 あまりの光量に、キラは黄昏の空が一瞬暗闇に落ちたような感覚に襲われた。

 同時にキラは、バラエーナでスカイグラスパーの翼を狙う。忌まわしい記憶を叩き落そうとするように。

 

「頼む――無事に降りてくれ!」

 

 

 

 

 この瞬間に翼部を破壊されたスカイグラスパーは、3機。

 幸いなことに、時澤機とラスティ機は巻き込まれずにすんだ。煙を噴いてよろよろと落ちていく味方機を横目でチェックしつつ、時澤はラスティと通信する。

 

「フレイ嬢の指摘通りだ。

 スカイグラスパーを撃つのに、フリーダムは若干のためらいがある」

《それでも、油断大敵ッスよ。

 0.01秒の余裕が0.1秒になった程度の差なんですから!》

「十分すぎる!」

 

 脱出装置の作動により、座席と共に瞬時に機体から飛び出していく乗員の姿を確認しながら、時澤は再びアフロディーテに接近する。ラスティ機も同じだ。

 

「意地でもパイロットは殺さないつもりか。甘いことを」

自分(てめぇ)の手が汚れるのが嫌なんでしょ。

 だけど、ここまで効果があるとはね》

 

 

 

 

「撃つな! 

 もう撃っちゃいけない、二人とも!」

 

 サイは声を限りに叫ぶが、当然戦闘中のキラとフレイには何も届かない。

 フリーダムの動きから明らかだ――キラは、苦しんでいる。

 と、ティーダの機体が揺れた。横に降りたルージュが、ティーダの肩部を掴んでいた。

 

《本当なんだなサイ!? 

 キラを惑わす虚言を呈すようなら、今ここで貴様を殴る! 出て来い!!》

「こんな嘘で、誰が得をしますか代表!」

 

 ナオトのメットまで掴む勢いでサイは身を乗り出し、叫ぶ。

 さらに彼はアークエンジェルへ通信を送った。

 

「ラミアス艦長! 

 お願いします。俺たちを、キラのいる場所まで上げて下さい!」

《サイ君、無茶よ。何処に私たちが入り込める隙があると思って?》

 

 

 

 

 フリーダムのバラエーナが、再び砲火を放つ。

 それはアフロディーテに残されたただ一本の脚部関節をかすめ、さらに時澤のスカイグラスパーの右翼部も直撃した。

 瞬間、アフロディーテはバチバチと嫌な閃光を放つ脚部を自ら切り離し、爆発寸前の手榴弾を投擲するように、フリーダムに脚を投げつけた。

 当然そこにも、内部にスティレットが仕掛けられていた。シールドで防いだものの、青い翼は瞬く間に劫火に包まれる――

 

 黄昏の光に満ちようとしていた晴空は今や、戦場の焔で紅に染め上げられていた。

 

 脱出装置を作動させ、業火を突っ切るようにスカイグラスパーから海面に降下していく時澤。

 浮上してきたディープフォビドゥンが素早く彼を収容するのをモニターで確認しながら、フレイはなおも笑っていた。

 

「腕は落ちていないようだな……まさに理想的な種ではないか! 

 ラスティ、来い!」

 

 既にアフロディーテのエネルギーも残り40%を切り、IWSPは煙を噴いている。機体はいつものように軋み始めている。

 それでもフレイは未だにフリーダムの姿を、執拗に目で追い続けていた。

 

「──何故なら、彼こそが人々を、隣人たちを、兄弟を守り。

 闇に迷う子どもらを救いし者……」

 

 煙幕を振り切ろうと、フリーダムは海面へと急降下する──

 その瞬間、アフロディーテはビームサーベルをフリーダムに向かって再度ブーメランの如く投擲し、さらにその閃光の刃をカービンで撃った。

 ビームの干渉による盛大な菊の花が、黒海に咲き誇る。光の真下に位置していた小島は、哀れにもその一瞬で炎となって吹き飛んだ。

 空を貫く水柱が、アークエンジェルやティーダをも襲う。

 

 

 

 

 迫る光の奔流を、正面からアンチビームシールドで防御するフリーダム。

 それでも光の花弁は、その青い翼にも襲いかかった。

 一旦海面に逃げたはずのフリーダムは、その光に押し出されるように再度高空へ急上昇せざるを得ない。

 さすがに青き翼はそれだけで折れはしなかったが、アフロディーテはなおもフリーダムを追って上空へ飛ぶ。

 急接近する、二つの翼――

 

 

 眼が眩みそうになりながら、サイはその光景を両の目に焼きつけるべく、モニターを睨み続けていた。

 フレイ──どうして君は、そこまでしてキラを攻撃する? 

 キラの記憶は、戻ったんじゃないのか。完全にとはいかないまでも。

 少なくとも、俺を忘れるほどキラを愛していた記憶は。あの雨の夜、俺に投げた言葉は嘘だったのか? 

 

 

 サイはその瞬間、心臓を引きちぎろうとでもするように自分の胸元を掴んだ。

 

 

 ──俺はまだ、あの時のフレイの言葉が嘘だと思いたがっている。

 フレイが本当に好きだったのはキラではなく自分だと、今でも信じたがっている。

 フレイは父親の復讐の為にキラに近づいただけで、本当は未だに自分に好意を抱いている。

 だから今、コーディネイターと同等の力を得た彼女は、自分を惑わせたキラを憎み、殺したがっているのかも知れない──

 

 何という男だ、俺は。

 そんなくだらない妄想を思いつけるほどに、俺は情けない豚になってしまったのか。

 

 

 サイの思考を叩き壊すように、ナオトの叫びが響いた。

 

 

「サイさん──

 見て下さい、フレイさんが!」

 

 

 脚部を失ったアフロディーテが、爆光の中──両腕部を翼のように広げる。

 既にアフロディーテの攻撃は停止していた。それを確認したフリーダムは、シールドを降ろしていく。

 徐々におさまりつつある光と水煙。サイの目には、二つの機体が抱き合おうとしているようにすら見える。

 紅の光が満ちる大空で、フリーダムに近づいていくアフロディーテ。

 だが、彼と彼女の接触をモニターでズームアップした瞬間、サイは胃が喉元まで跳ね上がる感覚を覚えた。

 

「ちょっと……

 冗談でしょ、フレイさん!?」

 

 ナオトの絶叫は、そのままサイの心境だった。あまりの事態に、サイは声も出せなかっただけだ。

 アフロディーテのハッチが、開いていた。そこから──

 

 連合少年兵の制服のままのフレイ・アルスターが操縦桿を離して立ち上がり、じっとフリーダムを見つめていたのである。

 しかも額から血を流し、その血は顔の半分を染め上げている。火傷でもしたのか、上着が半分ほど焼けて破れ、左の肩から先が剥きだしになっている。

 一体どのタイミングであんな怪我をした、フレイは? 

 

 サイは思わず身を乗り出したが、モニターの中のフレイは何も答えない。

 ただ、眼前のフリーダムを見つめているだけだ。

 その顔には、いつもの冷酷さや皮肉な笑みは欠片もない。

 優しく、キラを抱きしめるように、キラを守るように──微笑んでいる。

 

「何、アレ……? 

 フレイさんがあんなになるほど、アフロディーテ、損傷してたっけ?」

「ま、見てなって。ナオト」

 

 マユはこの事態を想定済みだったのか、一人にこにこ笑っている。

 

「サイ。ここからが()()()だよ」

 

 ウインクまでしてみせるマユ。

 マユを殴りたいと思うのは、今を最初で最後にしたい。混乱の中、サイは痛切にそう思った。

 

 

 

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