【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 いくじなし

 

 

 迫ってくる紅蓮の光と熱、そして大気圧。

 ビームサーベルがこれほど空気を熱するものだなんて、知らなかった。チュウザンの灼熱の太陽よりも、遥かに熱い。

 

 ――ホント、俺は馬鹿だ。

 こんな方法でしか、フレイを止められないとは。

 

 サイはアフロディーテの目前に立ちはだかりながら自嘲する。

 鬼と化した女神(アフロディーテ)は今まさに自由(フリーダム)を斬ろうと、光を振りかざし突入してくる。

 広げた自分の腕が、激しく震える。海水の混じった汗が、サイの全身を駆けめぐる。

 光の向こうで笑うものは、アフロディーテ。紅鬼の顔面。

 酒乱の神のように紅く染まったモビルスーツは、真っ直ぐに迫る。サイの存在そのものを吹き飛ばそうとして。

 

 

 ──さすがに、怖い! 

 

 

 サイの内股が、空気を切り裂く轟音と共にがくがく揺れる。身がすくむ。

 反射的に眼を背けてしまったのは、決して眩しさによるものだけではなかった

 

 

 ――そして、光の粒子の塊が生み出す熱さがサイを直撃した瞬間。

 肉体全てをゴミのように散り散りにされる感覚と共に、彼の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 まさに同じ刹那、アフロディーテのフレイにも変化が発生していた。

 

「……どこまで偽善を貫くというか。貴様は!」

 

 モニターでサイの姿を確認した瞬間、フレイの形相が著しく歪む。

 まるで痙攣を起こす老婆のように、その美しく白い頬に怒りの皺が刻まれた。

 同時に、彼女の脳裏で弾けたものがあった。紅蓮に輝く進化の種──SEEDが。

 

 

 

 

 

 

 発生した轟音が、ティーダをコクピットごと激しく揺さぶる。

 衝突し、擦れ合い、互いを崩壊させていく金属の悲鳴。

 命を切り刻み、潰していくかの如き業火の音。

 心臓と胃を洗濯機に投げ込まれたかの如き衝撃。砕ける波飛沫。

 

 ナオトはこともあろうに、その時起こった現象を全く見てはいなかった。

 揺れ続けるティーダのコクピットの中で――

 ただ彼は、ヘルメットごと頭を抱え、何も見るまいとしていた。

 しかも両手で視界を塞いだ為に、操縦桿からも完全に手を離していた。

 

 パイロットとしてもレポーターとしても、100%、失格。

 そんな自分の情けなさを自覚しながらも、ナオトは震えながら泣きじゃくり続けることしか出来なかった。

 

「サイさん、ごめんなさい、ごめんなさい、サイさん……

 僕は結局、サイさんを守れなかった……守るって、約束したのに。

 だけど、何もあんなことしなくったって……! 馬鹿だよ、サイさんは!!」

 

 そんなことを延々呟きながら、ナオトは頭を振りながら泣き続ける。

 だが、震動が止まり、ようやく静かな波の音が聞こえ始めた頃──

 そのふやけた感情を、マユの平静な声が中断した。

 

「ナオト、大丈夫だよ。

 サイは生きてる」

「へ?」

 

 ナオトが思わず頭を上げると、涙でぼやけた視界にマユの小さな背中が見えた。

 少年を一切振り向かぬまま、彼女は呟く。

 

「マユが、ちゃんとサイを守ったから」

「え? 

 えぇ……?!」

 

 ナオトは慌てて、周囲をモニターで確認する──

 両脚を失ったアフロディーテが甲板で、前のめりに倒されているのが見えた。

 正面から甲板に墜落したも同然の状態で沈黙しており、首の接合部が半分がた折れ曲がり、黒煙が出ていた。

 コクピットブロックまでは損傷していないようだが、フレイの姿は見えない。

 

 さらにティーダの状態も確認すると、右腕のトリケロスだけでなく、左腕も失われていた。

 隣で倒れているフリーダムは先ほどと同じく、傷ついた翼を背負ったままだ。機動した形跡はない。

 

 そこへ、ティーダの左腕を大事そうに抱え、着艦してきたのは――ストライクルージュ。

 その掌は閉じた状態で、海水がぼたぼた零れている。どうやら海に落ちたティーダの左腕を、ルージュが拾い上げてくれたらしい。

 ルージュはその腕を、赤ん坊でも降ろすように丁寧に甲板に置くと、掌部を強引にこじ開けた。

 

 

「――!!」

 

 

 海水が溜まった掌のくぼみに、サイが倒れていた。

 モニターで確認する限り、気絶はしているものの──

 

 奇跡的なまでに、無傷だった。

 

 炎熱で制服や髪が若干焼け焦げているようだが、目立った外傷はない。

 ナオトの目尻からまた涙がこぼれ、バイザー下部を汚した。

 

「良かった……」

 

 思わず嗚咽する少年。

 だがマユはサイの姿を眺めたまま、静かに言い放つ。

 

「ナオトの、いくじなし」

 

 その言葉で、ナオトは思い出してしまった。先ほどマユに殴られた痛みを。

 ――マユは明らかに、僕の情けなさに怒りを露にしている。

 今まで、マユが僕に怒りをぶつけたことなんて、なかったのに。

 

 その時ルージュは、動けないアフロディーテに静かにビームライフルを向けていた。

 カガリの凛とした声が、戦いの終わりを告げる。

 

《そこのパイロット──気は済んだか?》

 

 

 

 

 種を明かせばこうだ。

 ナオトが絶叫した瞬間にマユが反応し、ティーダの左掌部でサイをアフロディーテから庇った。

 同時に、既にSEEDが弾けていたフレイの咄嗟の機動で──

 

 サイとフリーダムに振り下ろされようとしていたビーム刃はわずかに逸らされ、ティーダの左腕関節部を斬るにとどまった。

 当然、そのままアフロディーテがティーダと衝突すればサイの命も消し飛ぶ為、アフロディーテはさらに強引にビーム刃でティーダの左腕を上空に切り飛ばし、サイごと海へ放り出したのである。

 その代償に、アフロディーテは真正面からアークエンジェルの甲板に激突した──

 

 

 フレイはまたしても、約束を守ったのだ。

「貴様は私が守る」──再会の灼熱の夜、サイと交わしたあの約束を。

 

 

 

 

 

 

 サイが意識を取り戻した時最初に視界に飛び込んできたものは、ナオトの泣きはらした大きな眼だった。

 

「サイさん! 良かった、良かったです無事で……

 ごめんなさい……僕、サイさんを守れなくて!!」

 

 そのままサイの首に縋りつき、泣きじゃくる少年。

 

「ナオト……

 え、俺、生きてるのか?」

 

 すぐに状況が掴めるはずもなく、サイは自分が生存していることにまず驚いていた。

 赤ん坊のように泣くナオトをあやしながら、周囲と自分の身体を注意深く見回す。

 頬と腕に軽い火傷を負ってはいるが、他に痛む処はない。

 そしてこの、薬品臭い部屋──サイには確かに見覚えがあった。

 

 2年前、ミリアリアが憤怒にまかせてディアッカを刺しかけた部屋。

 同時に、フレイが狂いかけて銃を手にした、あの医務室。

 

 この場所にも、サイはいい思い出はない。

 思えば、キラもトールも失い、フレイとフラガ、ナタルが船を去ろうというあの時こそ、自分の精神の平衡が崩壊する寸前だった──

 今ここに戻っているということは、どうやら自分たちはアークエンジェルに収容されたらしい。

 

「ナオト、教えてくれ。

 フレイは、キラは、どうなった? 

 ……ティーダは?」

 

 医務室の机の上では、マユが何事もなかったように腰を下ろし、両脚をぶらぶらさせて遊んでいた。

 ティーダも、ここへ運ばれたのか? 

 

「キラさんなら、無事です。

 フレイさんは──」

 

 ナオトが言いかけた時、不意にその背後から声がかかった。

 

「その質問には、私が答えよう」

 

 オーブの軍服を纏ったカガリ・ユラ・アスハ、そしてマリュー・ラミアスの姿がそこにあった。

 ナオトはカガリを見た瞬間、真っ赤になってサイから離れ、直立不動の姿勢をとる。何しろ、憧れのアスハ代表が目の前にいるのだ。

 サイにとっては久しぶりの再会──

 のはずだが、そこに流れる空気は決して歓迎のそれではない。当然だろう、自分は彼女たちを謀にかけたも同じなのだから。

 

「無事に回復したようだな。安心したぞ」にこりとも笑わず、カガリが口を開いた。

「フレイ・アルスターの身柄は預からせてもらった。

 若干怪我はしていたようだが、ピンピンしてる。

 水中型カラミティも、あの後損傷した機体で無理に追撃してきたので、やむを得ず収容してパイロットを拘束させてもらったよ」

 

 マリューがその言葉を継ぐ。

 

「ティーダとカラミティも、ケージに収容してあるわ。

 あの、真っ赤なルージュもどきもね」

 

 マリューは「もどき」の部分に、明らかに辛辣さをこめて言い放つ。

 さらにマリューは、厳しい態度を崩さずにサイの前に立ちはだかった。久しぶりに見る豊かな胸が、サイとナオトのすぐ上で揺れる。

 

「サイ君。貴方の捨て身の行為のおかげで、戦闘は終結したとも言える。そのことには感謝しているわ……

 だけどね、私たちは貴方のメッセージを受け取ったからここまで来たの。

 みんな反対したけれど、そうしようと言ったのはキラ君よ。分かるわね」

「貴方がたを欺く形になったのは、大変申し訳ないと思っています」

 

 サイはゆっくりと身を起こし、眼鏡をかけ直した。

 枕元にアマミキョの制服が畳まれている。サイは初めて自分が下着姿同然ということに気づき、さりげなく毛布で身を隠した。

 

「ただ自分たちは、貴方がたの行動の意味を知りたかった。

 貴方がたが代表をさらってから、自分たちはチュウザンで救援活動が出来なくなったんです……

 アークエンジェル追跡命令が、連合からアマミキョに下されて」

「何だって!?」

 

 カガリが動揺を露にする。今にもサイの胸倉を掴む勢いだ。

 

「馬鹿な。オーブの救援船を、私たちの追跡に使うなど!」

「それが最善の選択だと、連合上層部は判断したのでしょうね」

 

 サイは静かにカガリの目を見据える。

 

「救援用の民間船であるアマミキョなら、アークエンジェルも攻撃は出来ない。

 しかもアマミキョには元クルーの俺がいるから、連絡役もこなせる。さらに、強力な傭兵もいる――

 ここまで条件が揃えば、アマミキョを使わない方が逆におかしいと思いませんか? 

 そりゃ自分だって、最初は相当抵抗がありましたけどね」

「すまない……

 私たちは、何も知らなかった」

 

 カガリが唇を噛む。

 そんな彼女に、サイは無礼を承知で言ってのけた。

 

「代表。貴方が行方をくらましたことで、本国のみならず、オーブゆかりの国々は大変な影響を被っています。アマミキョも、チュウザンもそうだ。

 それでも貴方がたが公式に声明を発表せず、ただ戦闘介入を行なうのは何故です? 

 俺は元クルーとして、貴方がたの真意を知りたい。だから卑怯を承知で、この作戦にも参加したんです」

 

 サイは毛布の中で器用にズボンを履き、両脚を床に下ろした。幸い、身体にも全く異常はない。

 

「ところで……ここはザフトの海域のはずですが」

「今は、潜っているのよ」

 

 少し表情を和らげるマリュー。「あの後に私たち、ザフトに追われてね。

 三角帽子の空戦モビルスーツに一斉攻撃されたの。でも、何とか振り切って」

 

 簡単に言うな──サイは頭を抱えたくなった。

 アークエンジェルに潜水機能が新たに搭載されたことはサイも知っていたが、こんな無茶に使われるとは。

 おおかたヘルダートとバリアントを撃ちまくり、ノイマン少尉の操船技術を頼りにどうにか潜った──そんなところだろう。

 

 だとしたら、キラに撃墜された山神隊やラスティたちはどうなった? 

 フレイが囚われの身となった今、自分たちはどのような行動をとるべきなのか? 

 

 そもそもフレイの行動理由も、サイは全く分からなかった。

 ナオトが早口で説明したところによると、どうやら彼女は俺を庇う為に、身体を張って機体を停止してくれたらしい。

 

 彼女は必ず、約束を守る──

 サイの賭けは、大当たりだったのである。

 

 ただ、キラを攻撃した理由は一体何だ。

 そして今、おとなしくここに囚われているのは何故なのか? 

 

 

 

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