【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 知れば誰もが望むでしょう 貴方のようになりたいと

 

 

 また、あの夢だ。

 父さんに捨てられた成績表から続く、あの夢。

 僕のせいで父さんは出て行って、母さんは僕を放って、仕事だけに打ち込んだ──

 寂しさから逃れようとして。

 

 やっと引き取ってもらったおじさんの家にいる時、僕はずっと笑っていた。

 殴られても蹴られても、どんなにいとこからいじめられても、笑顔でいた。

 ドジな子供を装い、愛想を振りまいていれば、コーディネイターの子供だと言われることもなくなる。

 本当のコーディネイターなら、ドジはやらないはずだから。ドジでいれば、僕はみんなと同じように、ナチュラルでいられる。

 ただ、一番大事なお皿を割ったりしないように気をつけなければいけなかったけれど。

 

 ──僕はずっと、そんな風に、本当の自分を出さないようにして過ごした。

 ずっと長いことそうして過ごしているうち――

 自分の馬鹿がホントに天然なのか、そうでないのか、分からなくなってしまった。

 

 そして戦争が始まって、オノゴロが壊滅して終わった。

 連合もプラントもオーブも、凄まじい犠牲を出して。

 と思ったら、僕は突然オロファトのテレビ局まで連れて行かれたっけ──

 そして出会ったのが、アスハ代表だったんだ。

 

『ナオト・シライシ、君に決定だ。

 これから君には、オーブのハーフコーディネイターの魁として働いてもらう。

 ナチュラルとコーディネイターの、融和の証を見せて欲しい』

 

 僕は緊張と嬉しさでいっぱいだった──テレビに出るのは、ずっと僕の夢だったから。

 その為にずっと、一生懸命勉強した。おじさんがテレビ局に勤めていたのも大きくて、僕は早くから出入りさせてもらうことも出来たし。

 テレビに出れば、父さんを探せる。母さんも認めてくれる。

 憧れのアスハ代表の前で、僕は夢を叶えたんだ! 

 

 ――その後ろでセイランとおじさんがお金の話をしていたようだけど、その時の僕には関係のないことだった。

 おじさんがセイランに僕を売ったなんて、僕の夢の前では小さなことだったし。

 

 それからは、夢のように楽しい日々が続いた。

 厳しいけど優しい先輩たちが、たくさんついてくれた。叱られることも多かったけど──

 殴られたり蹴られたり、煙草の火を押しつけられたり池で溺れさせられたり服を破られたりすることはもう、なかった。

 きれいな服を着て、テレビに出て、少しだけどファンまで出来て、遂に僕は憧れの宇宙にまで出て──

 ───

 

 

 

 ──思い出した。

 フーアさんもアイムさんもいなくなってしまったんだ、ウーチバラで。

 あれからたくさん傷つけられて、僕もたくさん人を傷つけてしまった。

 口に血の味が広がっている。

 今も僕はまた、サイさんを傷つけてしまった――守ろうと誓ったはずの大切な人を、また。

 しかも、アスハ代表の前で! 

 

 

 

 

 サイの血と体温が少しずつ、ナオトを現実に引き戻していく。

 大きく見開かれていた目は、次第に通常の輝きを取り戻し──

 

 サイの腕に食い込んでいた歯が、ようやく離れた。

 自分が傷つけた、血だらけの腕。その腕はしっかり自分を抱きかかえている。

 ナオトのすぐ隣では、マユが蹲っている。そして自分たち二人を、サイとカガリが必死で抱きしめていた。

 

「「大丈夫か。ナオト」」

 

 サイとカガリがほぼ同時に、ナオトの顔を覗き込んで言ってきた。

 サイはいつもの笑顔のままだったが──

 なんてことだろう、代表は今にも泣きそうだ。

 やっとのことで、ナオトは声を絞り出す。

 

「ごめんなさい……

 サイ、さん……アスハ代表」

 

 ずっと部屋に反響していたティーダの駆動音が、その時ようやく止まった。

 

 

 

 

 

 

「貴方は、ただのコーディネイターなんかじゃない。

 極限まで進化しきった、何もかもが可能な存在。

 どんなことでも、やりさえすればどんな人間でも超えられる存在。

 それなのに、ただのナチュラルのサイが羨ましいのは、何故かしらね?」

 

 キラはフレイの手を強引にふりもぎって、風呂場の隅へと身体を後退させる。

 髪が大量にちぎれ、振り払った腕は刃に触れ、血が噴出した。

 それでもキラの身は反射的に動く──恐怖で。

 必死で逃げるキラに、フレイは斧を持ったままゆらりと近づく。

 

「怖いのね、キラ。

 クルーゼは決して死ぬことはない。死してもなお、形を変えて貴方を追って、貴方を否定し続ける。

 何度追い払っても殺しても、貴方はクルーゼに勝てない。貴方はクルーゼを否定出来ない。

 知れば誰もが望むでしょう、貴方のようになりたいと──」

 

 キラは震える――どうしてフレイが、あの時のクルーゼの言葉を知っている? 

 何故歌うように、クルーゼの言葉を奏でている? 

 クルーゼを抱きしめるように、斧を抱きしめて。

 

「君の言っていることが分からないよ、フレイ!」

「分かりたくないからでしょう。

 自分が、人の究極の希望の形だということを。それは逆に言えば、究極の絶望でもあるということ──

 全て、あの人が教えてくれたわ。

 あの人はね、限られた命の中で力の限りに生きて、ザフトで戦い続けた。

 あの人の意思を継ぐのが、この私よ。私はあの人と同じように自分を鍛え、蘇った──

 だから、キラ。貴方は絶対に、私に勝つことは出来ないでしょう? 

 クルーゼも私も、貴方を超えたのよ、キラ!」

 

 フレイはキラの目前で、斧を振り上げる。

 頭を割られる──そう判断したキラは、咄嗟に身体を翻した。

 それまでキラのいた場所に、刃が炸裂する。

 

 ――だが、それこそがフレイの狙いだった。

 キラが一瞬前まで身を横たえていたそこは、剥きだしになっていた配管のうちの一本だったのである。

 

 刃が管に食い込む。しかもそこは、バルトフェルドが修理をしなければとぼやいていた、僅かな亀裂のある危険な箇所。

 そのド真ん中を、フレイの刃は捕らえていた。

 そしてそこまで、彼女は完全に計算していた――

 その唇がニヤリと歪むのを、キラははっきりと見た。

 

 死ぬ寸前の鳥のように、奇妙な音を立てる配管。

 咄嗟にフレイは振り返り、風呂の天井と岩壁の隙間のあたりを睨む。

 そして、キラにはおよそ信じられぬフレイの声が、彼女の喉から迸った。

 サイの言っていた通り、ナタル・バジルールを思わせるという低音が。

 

「今だ、カイキ!」

 

 フレイが走らせた視線の先に、小さな火花のような光が微かに走る──

 キラが咄嗟に浴場から飛び出したのと、戦士たちの癒しの場が大爆発に包まれたのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル中を揺るがす爆発。鳴り響く警報。

 サイとカガリが駆けつけた時には、既に浴場と食堂に通じる廊下のあたりまで炎が燃え広がっていた。

 スプリンクラーが猛然と作動し、炎とサイたちに水を浴びせかける。

 

「何があったんですか、サイさん!?」

 

 後ろからナオトも追いかけてきた。

 寝ていろと言ったはずなのに──サイは内心舌打ちをしながら、炎の中へと目を凝らす。

 アークエンジェルの内部が直接ダメージを受けたことなど、二年前でもそうはなかった。

 なのに今、磨き上げられていた最新設備の廊下は爆発で黒く爛れ、金属の焼ける悪臭を放っている。

 サイもナオトもこの光景を、茫然と見つめているしかなかった。

 爆発が一度きりで、自動消火装置がよく働き即座に炎が小康状態になったのが、不幸中の幸いか。

 

 ――その時、サイは見た。

 炎の中から這い出してくる、血みどろの影を。

 

 息を飲むより先に、カガリとナオトが同時に叫ぶ。

 

「キラ!」

「キラさんっ!?」

 

 カガリは炎をよけもせず走りこみ、倒れたままのキラを抱き起こした。

 キラの脚や背中には細かなガラスの破片がいくつか刺さっており、白かったシャツは襤褸になり、血と炎で赤黒く変色している。

 キラの名を叫びながら、ただ「どうして……どうして……」と嗚咽するしかないカガリ。

 

 

 ──そんな彼女の背後を、ぱっと黒い影が襲った。

 全くほんの刹那の出来事で、誰一人まともに動くことさえ出来なかった。

 

 

 サイは飛び出そうとするナオトを押さえ、状況を見据える。

 ――その眼前では、オーブ代表たるカガリ・ユラ・アスハが一瞬で羽交い絞めにされ、喉元に刃を突きつけられていた。

 

 まんまカガリを捕らえたその影は呵呵大笑し、一同を嘲る。

 

「わざわざこんな処までおいでなすって……

 ご苦労なこったぜ、お姫様よぉ!」

「馬鹿な。貴様らは拘束していたはずだ!」

「甘すぎんだよ、ここの警戒態勢は。

 あんな旧式の認証システム、俺らが破れないわけねぇだろ?」

 

 その男──カイキ・マナベはそのまま、カガリの首を軽く捻じり上げた。

 

「畜生、放せ! 

 代表を放せよ、人でなしが!!」

 

 憤怒のあまり叫ぶナオト。

 だがカガリの喉元にナイフを突きつけられては、どうしようもない。

 

「貴様ら……何者だ!」

 

 カガリは冷静さを保とうと努めつつ、巻きついた男の黒い腕を引き剥がそうとする。その行為を嘲笑うように、カイキは答えた。

 

「俺はマユ・アスカの兄だ。それ以外の何もんでもない!」

「もう分かっているぞ。マユ・アスカの兄は、シン・アスカの筈だろう!」

「へ、さすが腐っても首長だな。

 自分が見殺しにした国民のことを、そこまで覚えていらっしゃるとは!」

 

 一歩遅れで駆けつけてきたマリューやマードックらも、カガリへの刃に息を飲む。

 こうなっては勿論、彼らにもどうすることも出来ない。一瞬の間に、国の代表たるものが人質となってしまったのだ。

 

 

 そしてサイは見た

 ──炎の中から、鬼がゆっくりと歩いてくる光景を。

 鬼がキラとカガリを喰い殺そうと、はい寄る光景を。

 

 

 炎の中に翻る紅の髪。光る灰色の眼球。

 血に濡れた白い肌。手にしているものは、炎の照り返しに輝く斧。

 そのカモシカのような脚が、キラの背中を踏みつける。笑う雌鬼は言い放った──

 

 

「キラ。カガリ姫。ラミアス艦長。

 貴方たち――おかしい。

 私やパパやクルーゼ、傷つけられた者や死んでいった者たちの恨み全て忘れて、戦場を蹂躙するのが、貴方たちの流儀なの?」

 

 

 サイは戸惑いを隠せない。

 ──これは、フレイの言葉なのか? それとも、「姫」たるフレイの言葉なのか? 

 今、現れているのはどちらのフレイだ。

 今、キラやカガリを傷つけているのはどちらのフレイだ。

 浴場で、キラとフレイに何があった? 

 

 

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