【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
ミゲル・アイマンを名乗るザフト兵の右腕に、軽々と抱きかかえられたミリアリアの身体。
そのまま金髪の男は部屋を飛び出し、走り出す。
走りながら、彼は囁いた。
「手荒な真似をして申し訳ない。
あんたを助けに来た、ミリアリア・ハウ」
「え?」
人間とは思えぬ速さで暗い通路を走る男。
久々の外気を味わう余裕もなく、ミリアリアは壁や天井に頭をぶつけぬようにするのが精一杯。
にも関わらず、男は笑っていた。
「あんたの友達の命令だ。
感謝しな、フレイ・アルスターに!」
「フレイ?」
思わず目を剥いてしまう。
雷鳴のように脳裏に閃いたものは、チュウザンでの記憶。
自分が空へ逃がした少年のこと。会えなかったサイとカズイのこと。そして──
暴けなかったフレイの秘密。
ミリアリアは、ミゲルの髪に掴みかからんばかりの勢いで叫んでいた。
「アマミキョが、近くに来ているの? 何故?
貴方もアマミキョに乗っているの? フレイと一緒なのね?」
「面倒だから一気に答えるぜ。自分の目で確かめな!」
この騒動に、ザフト兵たちが前方後方から次々に押し寄せてくる。狭い通路内で、二人は一瞬にして逃げ道を塞がれてしまった。
警報が鳴り響く。ミリアリアがいるためか、発砲してこないことだけが救いだった。
「ええぃ、しょうがねぇ!」
ミゲルは一旦しゃがみこむと、彼女を抱いたまま、大きめの左手を床に叩きつける。
鋼と鋼が擦れ合う音が、響いた。
──この人、義手だ。
ミリアリアがその事実に気づくとほぼ同時に、その鋼鉄の手から青い雷撃が放たれた。
爆光があたりを染め、衝撃が基地内に走る。
数瞬の後、たちこめる煙と炎の間から見えたものは──
倒れた無数のザフト兵と、床に開いた大穴だった。
ミゲルはその穴から悪戯っぽく顔をのぞかせると、鋼鉄の指をバチンと鳴らした。
「ラッキー!
ちょうどグフの直下とはな♪」
眼下にあったものは、どうやらモビルスーツハンガーらしい。しかも先のダーダネルスの戦闘で破損したザフトのモビルスーツが、大量に運び込まれていた。
ミゲルがグフと呼称したそのモビルスーツの形状には、ミリアリアも見覚えがある。
紅の一つ目と、肩から突き出した鬼の角の如き突起物が印象的な、ずん胴の機体。スレイヤーウィップを使った攻撃性能は、さすが新型というべきものだった──
尤も、アークエンジェルの介入直後、あのオレンジの新型は、大混乱の中で撃破されてしまったけれど。
今ミリアリアたちの真下に見えている機体は、そのオレンジの一つ目とは違い地味な青で塗られている。だが、ミゲルの表情から見て武装・機能はほぼ同じようだ。
うきうきとした笑顔を崩さぬまま、ミゲルは言った。
「飛ぶぞ、嬢ちゃん」
まるで、映画館行くぞとでも言っているかの口調。あまりのことにミリアリアは息を飲む。
何しろ、一番近いと思われるグフの肩口まででも、10m以上ありそうな高さだ。
「ここから!?」
「他にどこから飛ぶんだよ。つかまってな、悲鳴上げんなよ」
ミゲルが構えると同時に、ミリアリアは恐怖で思わず彼に強く抱きついてしまった。
そんな彼女を担ぎ上げ──
彼は少々、首を傾げる。
「おっ……と?
俺の勘、狂ったかな」
「何がです?」
今更、不安にさせるようなことを言うな──ミリアリアは思わずミゲルを睨む。
だが彼の唇から出たのは、状況からは信じられない軽口だった。
「あんた、意外にボリュームあんのな。こりゃCはあるか、胸」
「……!?!」
あまりにドストレートなセクハラ発言に、ミリアリアの頬は一気に紅潮する。
そのおかげで、透明の空中ブランコでも操るが如くミゲルが空に飛んだ瞬間、彼女は悲鳴を上げずにすんだ。
PHASE-19 飛べ、ミリィ
「アマミキョより入電。
ディオキア暫定基地にて、ミゲル・アイマンがミリアリア・ハウと接触した模様です。
脱出予想時刻まで、残り10分」
アークエンジェルブリッジにチャンドラの声が響き、サイは思わず身を固くした。
来たか──
既にティーダ、カラミティ、スカイグラスパー、そしてアフロディーテは準備を完了している。ナオトも、キラにティーダのOSを見てもらって上機嫌のようだった。
《サイさん、大丈夫です!
早く行きましょう、ミリィさんの処へ!》
しかも今回、ナオトは積極的に前席に乗っていた。つまり──やる気なのだ。
キラもカガリも、今はブリッジで待機せざるを得ない。
そのキラは、今はじっとモニター内のアフロディーテを見つめている。血の色に染まったストライクを。
――そんなキラの心中を、サイは読み取ることが出来なかった。
『あの』フレイを見ても、キラは殆ど動揺もせず普通に会話を交わしていた。風呂場での事件がまるで無かったかのように。
一体何を悟ったんだ、キラは?
それはまるで――
そこまで考えが至ろうとした時、サイの思考は靄でもかかったように中断された。
駄目だ。考えたくない。考えちゃいけない。それ以上、考えちゃ。
そんな彼を現実に引き戻すかのように、マリューの声が響く。
「キラ君、今はフレイさんたちに任せるしかないわ。
お願いね──サイ君」
その言葉に背中を押され、サイは立ち上がった。
ブリッジを見渡してみる──
非常に短い間だったが、アークエンジェルのオペレーターに戻ることが出来た。そのことが、不思議とサイを満足させていた。
この船はもう、俺を必要としない。
そして俺ももう、この船を必要としない。
「アスハ代表、ラミアス艦長。やはりもう一度、ダーダネルスに向かうおつもりですか?
ここまでのことをされても」
そんなサイの問いに、カガリは深く頷いた。
「私たちは相手に理解してもらうまで、私たちのやり方で尽力する。
必ずや、オーブの民は分かってくれるものと信じる──
2年前、父が貫いた意思を」
他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入せず──
カガリの父、ウズミ・ナラ・アスハが最期まで提唱していたオーブの理念だ。
その理想が、図らずも自国民を争いに巻き込み、大地を焼き尽くす悲劇を招いたのは記憶に新しい。そして未だにオーブの理念と現実は乖離し、理念を貫かんとするカガリとアークエンジェルは、争いに介入しようとしている。
カガリはその矛盾に気づいているだろうか。サイは指摘すべきか迷ったが、結局やめた。
――俺がいくら言ったところで、キラも代表も艦長も止まらない。
その前に、果たして俺に彼女たちの矛盾を突く資格があるか。
フレイに守られ、ナオトやマユという子供を戦わせている、情けない俺に。
「行ってきます。
ありがとうございました」
諦めと共に、サイはブリッジを後にした。
振り向きもせずにコンソールパネルを睨むノイマンの背中が、妙にサイの目に焼きついた。
「サイ、待って。
制服のままじゃ危険だよ」
カタパルトに向かう通路で、サイはキラに呼び止められた。
キラの腕には、白いノーマルスーツが抱えられている。
「アマミキョは、ノーマルスーツが不足してるって聞いたから……」
見た目より意外に柔らかな感触のスーツを受け取ると、サイの顔に自然と笑みが浮かんだ。
「安心したよ。キラが早く立ち直ってくれて……
フレイのことで、寝込まれたらどうしようかと思ってた」
だが、キラは笑わない。哀れむような瞳でサイを見ているだけだ。
「サイはまだ、知らないんだね。
『あの』フレイが、誰なのか」
──どうしてこの男はこうも、人の神経を逆撫でするような言い方が得意なのだろう。
本人は決して皮肉のつもりでも何でもないのだろうが、これでは人に誤解されてしまう。
サイは笑みが強張っていくのを感じながら、それでも冷静さを取り繕った。
「お前なら、何か分かるっていうのか?」
「そうじゃないよ……少し考えれば誰だって、すぐ分かる。
サイも多分、分かっているんでしょ。
ただ、認めたくないだけだ」
あまりにも回りくどい言い方に、サイは少しばかり苛つきを露にする。
「殴るぞ……」
しかしキラは、相変わらず哀れむかのような視線をサイから離さない。
解体場に送られていく豚を見るような目つき、などと解釈されてもおかしくない表情。
「殴られても仕方ないよね。サイをそうしてしまったのは多分、僕のせいでもあるし。
だから僕は、分かっていても言わないよ。
何もかもお見通し、とでも言いたげな口調──
お前は優しい。だがその優しさの表現が、あまりにも誤解を招きやすい。
その究極の形が、フリーダムによる戦闘介入でもあるのだろう。
キラ。人がみな、ラクス・クラインのようにお前を理解してくれるわけじゃないんだ──
サイが本気で説教しようとしたその時、インカムから通信が入った。
ナオトの元気な声が飛び込んでくる。
《サイさん、早くして下さいよぅ! このティーダ、ミリィさんに早く見せたい!》
《遅れたら、乗せてあげないよー♪》
こっちはマユの声。
そして他にも矢継ぎ早に、風間や時澤、ラスティたちがサイをせきたて、呼ぶ声がインカムから溢れる。
《ティーダはこの作戦の要なのよサイ君、分かってる?》
《くれぐれも、またあんな無茶はやめてくれよな》
《早く片づけて、アマミキョで桃食おうぜ!》
サイはその全てに、一言で答える。「分かりました。すぐ行きます!」
それを見ながら、キラは初めてうっすら笑った。
「……相変わらず人気者だね、サイは」
「馬鹿言うな、こき使われてるだけさ。
アマミキョは年がら年中、大変なんだよ」
そして最後に来たのは──「彼女」の声。
《さっさと来い、サイ・アーガイル。
そんなにアークエンジェルにいたければ、置いていってもいいのだぞ!》
「了解! 15秒で到着する!」
サイはキラへ黙って手を振りつつ、駆け出す。フレイ・アルスターの声に弾かれるように。
その瞬間のキラの微笑みが、どこか淋しげに感じたのは、気のせいだったろうか──