【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-19 飛べ、ミリィ
part1


 

 ミゲル・アイマンを名乗るザフト兵の右腕に、軽々と抱きかかえられたミリアリアの身体。

 そのまま金髪の男は部屋を飛び出し、走り出す。

 走りながら、彼は囁いた。

 

「手荒な真似をして申し訳ない。

 あんたを助けに来た、ミリアリア・ハウ」

「え?」

 

 人間とは思えぬ速さで暗い通路を走る男。

 久々の外気を味わう余裕もなく、ミリアリアは壁や天井に頭をぶつけぬようにするのが精一杯。

 にも関わらず、男は笑っていた。

 

「あんたの友達の命令だ。

 感謝しな、フレイ・アルスターに!」

「フレイ?」

 

 思わず目を剥いてしまう。

 雷鳴のように脳裏に閃いたものは、チュウザンでの記憶。

 自分が空へ逃がした少年のこと。会えなかったサイとカズイのこと。そして──

 暴けなかったフレイの秘密。

 ミリアリアは、ミゲルの髪に掴みかからんばかりの勢いで叫んでいた。

 

「アマミキョが、近くに来ているの? 何故? 

 貴方もアマミキョに乗っているの? フレイと一緒なのね?」

「面倒だから一気に答えるぜ。自分の目で確かめな!」

 

 この騒動に、ザフト兵たちが前方後方から次々に押し寄せてくる。狭い通路内で、二人は一瞬にして逃げ道を塞がれてしまった。

 警報が鳴り響く。ミリアリアがいるためか、発砲してこないことだけが救いだった。

 

「ええぃ、しょうがねぇ!」

 

 ミゲルは一旦しゃがみこむと、彼女を抱いたまま、大きめの左手を床に叩きつける。

 鋼と鋼が擦れ合う音が、響いた。

 

 ──この人、義手だ。

 

 ミリアリアがその事実に気づくとほぼ同時に、その鋼鉄の手から青い雷撃が放たれた。

 爆光があたりを染め、衝撃が基地内に走る。

 

 数瞬の後、たちこめる煙と炎の間から見えたものは──

 倒れた無数のザフト兵と、床に開いた大穴だった。

 ミゲルはその穴から悪戯っぽく顔をのぞかせると、鋼鉄の指をバチンと鳴らした。

 

「ラッキー! 

 ちょうどグフの直下とはな♪」

 

 眼下にあったものは、どうやらモビルスーツハンガーらしい。しかも先のダーダネルスの戦闘で破損したザフトのモビルスーツが、大量に運び込まれていた。

 ミゲルがグフと呼称したそのモビルスーツの形状には、ミリアリアも見覚えがある。

 

 紅の一つ目と、肩から突き出した鬼の角の如き突起物が印象的な、ずん胴の機体。スレイヤーウィップを使った攻撃性能は、さすが新型というべきものだった──

 尤も、アークエンジェルの介入直後、あのオレンジの新型は、大混乱の中で撃破されてしまったけれど。

 今ミリアリアたちの真下に見えている機体は、そのオレンジの一つ目とは違い地味な青で塗られている。だが、ミゲルの表情から見て武装・機能はほぼ同じようだ。

 うきうきとした笑顔を崩さぬまま、ミゲルは言った。

 

「飛ぶぞ、嬢ちゃん」

 

 まるで、映画館行くぞとでも言っているかの口調。あまりのことにミリアリアは息を飲む。

 何しろ、一番近いと思われるグフの肩口まででも、10m以上ありそうな高さだ。

 

「ここから!?」

「他にどこから飛ぶんだよ。つかまってな、悲鳴上げんなよ」

 

 ミゲルが構えると同時に、ミリアリアは恐怖で思わず彼に強く抱きついてしまった。

 そんな彼女を担ぎ上げ──

 彼は少々、首を傾げる。

 

「おっ……と? 

 俺の勘、狂ったかな」

「何がです?」

 

 今更、不安にさせるようなことを言うな──ミリアリアは思わずミゲルを睨む。

 だが彼の唇から出たのは、状況からは信じられない軽口だった。

 

「あんた、意外にボリュームあんのな。こりゃCはあるか、胸」

「……!?!」

 

 あまりにドストレートなセクハラ発言に、ミリアリアの頬は一気に紅潮する。

 そのおかげで、透明の空中ブランコでも操るが如くミゲルが空に飛んだ瞬間、彼女は悲鳴を上げずにすんだ。

 

 

 

 

 PHASE-19 飛べ、ミリィ

 

 

 

 

「アマミキョより入電。

 ディオキア暫定基地にて、ミゲル・アイマンがミリアリア・ハウと接触した模様です。

 脱出予想時刻まで、残り10分」

 

 アークエンジェルブリッジにチャンドラの声が響き、サイは思わず身を固くした。

 来たか──

 既にティーダ、カラミティ、スカイグラスパー、そしてアフロディーテは準備を完了している。ナオトも、キラにティーダのOSを見てもらって上機嫌のようだった。

 

《サイさん、大丈夫です! 

 早く行きましょう、ミリィさんの処へ!》

 

 しかも今回、ナオトは積極的に前席に乗っていた。つまり──やる気なのだ。

 キラもカガリも、今はブリッジで待機せざるを得ない。

 そのキラは、今はじっとモニター内のアフロディーテを見つめている。血の色に染まったストライクを。

 

 ――そんなキラの心中を、サイは読み取ることが出来なかった。

『あの』フレイを見ても、キラは殆ど動揺もせず普通に会話を交わしていた。風呂場での事件がまるで無かったかのように。

 一体何を悟ったんだ、キラは? 

 それはまるで――

 

 そこまで考えが至ろうとした時、サイの思考は靄でもかかったように中断された。

 駄目だ。考えたくない。考えちゃいけない。それ以上、考えちゃ。

 

 そんな彼を現実に引き戻すかのように、マリューの声が響く。

 

「キラ君、今はフレイさんたちに任せるしかないわ。

 お願いね──サイ君」

 

 その言葉に背中を押され、サイは立ち上がった。

 ブリッジを見渡してみる──

 非常に短い間だったが、アークエンジェルのオペレーターに戻ることが出来た。そのことが、不思議とサイを満足させていた。

 

 この船はもう、俺を必要としない。

 そして俺ももう、この船を必要としない。

 

「アスハ代表、ラミアス艦長。やはりもう一度、ダーダネルスに向かうおつもりですか? 

 ここまでのことをされても」

 

 そんなサイの問いに、カガリは深く頷いた。

 

「私たちは相手に理解してもらうまで、私たちのやり方で尽力する。

 必ずや、オーブの民は分かってくれるものと信じる──

 2年前、父が貫いた意思を」

 

 他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入せず──

 カガリの父、ウズミ・ナラ・アスハが最期まで提唱していたオーブの理念だ。

 その理想が、図らずも自国民を争いに巻き込み、大地を焼き尽くす悲劇を招いたのは記憶に新しい。そして未だにオーブの理念と現実は乖離し、理念を貫かんとするカガリとアークエンジェルは、争いに介入しようとしている。

 カガリはその矛盾に気づいているだろうか。サイは指摘すべきか迷ったが、結局やめた。

 

 ――俺がいくら言ったところで、キラも代表も艦長も止まらない。

 その前に、果たして俺に彼女たちの矛盾を突く資格があるか。

 フレイに守られ、ナオトやマユという子供を戦わせている、情けない俺に。

 

「行ってきます。

 ありがとうございました」

 

 諦めと共に、サイはブリッジを後にした。

 振り向きもせずにコンソールパネルを睨むノイマンの背中が、妙にサイの目に焼きついた。

 

 

 

 

 

 

「サイ、待って。

 制服のままじゃ危険だよ」

 

 カタパルトに向かう通路で、サイはキラに呼び止められた。

 キラの腕には、白いノーマルスーツが抱えられている。

 

「アマミキョは、ノーマルスーツが不足してるって聞いたから……」

 

 見た目より意外に柔らかな感触のスーツを受け取ると、サイの顔に自然と笑みが浮かんだ。

 

「安心したよ。キラが早く立ち直ってくれて……

 フレイのことで、寝込まれたらどうしようかと思ってた」

 

 だが、キラは笑わない。哀れむような瞳でサイを見ているだけだ。

 

「サイはまだ、知らないんだね。

『あの』フレイが、誰なのか」

 

 ──どうしてこの男はこうも、人の神経を逆撫でするような言い方が得意なのだろう。

 本人は決して皮肉のつもりでも何でもないのだろうが、これでは人に誤解されてしまう。

 サイは笑みが強張っていくのを感じながら、それでも冷静さを取り繕った。

 

「お前なら、何か分かるっていうのか?」

「そうじゃないよ……少し考えれば誰だって、すぐ分かる。

 サイも多分、分かっているんでしょ。

 ただ、認めたくないだけだ」

 

 あまりにも回りくどい言い方に、サイは少しばかり苛つきを露にする。

 

「殴るぞ……」

 

 しかしキラは、相変わらず哀れむかのような視線をサイから離さない。

 解体場に送られていく豚を見るような目つき、などと解釈されてもおかしくない表情。

 

「殴られても仕方ないよね。サイをそうしてしまったのは多分、僕のせいでもあるし。

 だから僕は、分かっていても言わないよ。

 ()()()()()()、答えを見つけないといけない」

 

 何もかもお見通し、とでも言いたげな口調──

 お前は優しい。だがその優しさの表現が、あまりにも誤解を招きやすい。

 その究極の形が、フリーダムによる戦闘介入でもあるのだろう。

 キラ。人がみな、ラクス・クラインのようにお前を理解してくれるわけじゃないんだ──

 

 サイが本気で説教しようとしたその時、インカムから通信が入った。

 ナオトの元気な声が飛び込んでくる。

 

《サイさん、早くして下さいよぅ! このティーダ、ミリィさんに早く見せたい!》

《遅れたら、乗せてあげないよー♪》

 

 こっちはマユの声。

 そして他にも矢継ぎ早に、風間や時澤、ラスティたちがサイをせきたて、呼ぶ声がインカムから溢れる。

 

《ティーダはこの作戦の要なのよサイ君、分かってる?》

《くれぐれも、またあんな無茶はやめてくれよな》

《早く片づけて、アマミキョで桃食おうぜ!》

 

 サイはその全てに、一言で答える。「分かりました。すぐ行きます!」

 それを見ながら、キラは初めてうっすら笑った。

 

「……相変わらず人気者だね、サイは」

「馬鹿言うな、こき使われてるだけさ。

 アマミキョは年がら年中、大変なんだよ」

 

 そして最後に来たのは──「彼女」の声。

 

《さっさと来い、サイ・アーガイル。

 そんなにアークエンジェルにいたければ、置いていってもいいのだぞ!》

「了解! 15秒で到着する!」

 

 サイはキラへ黙って手を振りつつ、駆け出す。フレイ・アルスターの声に弾かれるように。

 その瞬間のキラの微笑みが、どこか淋しげに感じたのは、気のせいだったろうか──

 

 

 

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