【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ブリッジに飛び込んだ瞬間──
サイは、目の前で逆さに浮遊していたスーツ姿の少年とまともに頭を激突させた。
「いった……っ!?」
「すっ……すいません!
僕、まだ慣れてなくてっ」
衝撃でさらにぐるぐる回転しながら、少年はサイに必死で謝る。
数日前インタビューを受けた、オーブのSUNテレビのレポーターだった。
「大丈夫、落ち着いて。
最初は誰でもそうなんだよ」
サイも痛みを押さえつつ、少年の腕をそっと掴みながら自分も手すりにつかまった。
既にブリッジには数名のシュリ隊メンバーが待機し、計器の最終チェックを行なっている。
ブリッジの最後列には、この船の所有者であるトレンチ・ムジカノーヴォ社長が鎮座し、船内無線で連絡を受けていた。
その周りに、記者証をつけたマスコミ関係者が3名。少年もその一人だ。
「君、この前も頭どっかにぶつけて、大騒ぎしてなかった?」
サイは軽口をたたく。
運んできた機材を受け渡し、汗みどろになったカズイがブリッジ前方へ行くのを見ながら。
「ナオト・シライシ記者だったよね。
そのトシでよく頑張るよなぁ、俺が13の頃なんてまだ鼻たらしてたよ」
「申し訳ありません、この前14になりました!」
ナオトが朗らかに答える。
ブリッジ内部では、アマミキョ出航シュミレーションがちょうど5万回目を終了していた。
シュリ隊隊長のトニー・サウザンが、明らかに無意味な大声をあげつつ席の間を飛び回り、各作業の進捗状況をチェックしている。
年は40を超えているはずだが、いささか大人げない。
本来隊長たるものは自分から動かず、もうちょっとじっとしてくれたほうが都合がいいのだが……とサイは思う。
それと対照的なのが、副隊長のリンドー・エンジョウ。
社長の横でその巨体(ご老体と言ってもいい)をでんと座らせたまま、白髪混じりの頭をかきむしり鼻毛を手で直接いじっている。
しかし垂れ下がった瞼から覗く細い眼は、決して眠ってはいなかった。
社長が船内無線を切った。
公式の場でも、Tシャツにジャケットという自らのスタイルを崩すことのない、40歳の青年実業家。
無造作に見えてきっちり整えられた短い黒髪、少々肉付きの過剰な体格。
一見どこにでもいそうな、親父になりかけの青年といった容貌の彼だったがこれでも、水晶機器生産で世界第5位の業績を挙げ、PC・有線ネットワーク・ジャンクフード・果てはフェイズシフト装甲の自動車開発といった部門にまで手を広げている「文具団」社長である。
大戦終結後、混乱を極めた世界市場に乗じて一気に景気の波を自分の方向へ呼び寄せた、数少ない人物だ。
そんな社長の前へ、早くもフーアがナオトを押しのけつつ陣取り、インタビューの準備を進める。
これだから女は、と言いたげにアイムが肩をすくめた。
――だが、常日頃は飄々とした社長の横顔は今、ほんの一瞬だけ固くなった。
彼は横の副隊長に、小声で囁く。
「工業区画39で動きがあったようです。
来ますかね」
「陽動だけな。ティーダの移送はまだか」
「うまく本隊を叩いていれば、彼らの移動力なら十分間に合います」
「しかし脱走兵連中はどうにかなっても、今のザフトは何するか分からんて……」
周囲に聞こえないくらいのボソボソ声の会話が、社長と副隊長は共に得意だ。
「出航準備のために工場を一時停止、コロニーの電力を60%まで落とすということにしといてよかったですよ。
それでも本国に帰らず、ここに残る従業員も多いわけですが」
「呼んでもないのに、マスコミまで来おって」
そんな問答も知らず、サイは付近のモニターを借り、ナオトの取材に応じていた。
「これが、アマミキョの予定航路。
今俺たちがいるのがL3だから、月軌道に沿ってL4まで行って、被災したコロニーを中心に回るんだ。
太陽光を集めるミラーの開閉機構が破壊されてずっと昼のまんまっていうコロニーもあるし、居住区画の一部が破壊されて狭くなりすぎてスラム化したコロニーもある」
「緊急救援が必要なところが多いから、直接行くってことですね」
「その後がチュウザン本国。
チュウザンを拠点として、要請があればどこへでも救援に行くっていう寸法だよ」
横からカズイが口を出す。
「でも、マスコミがこんな処まで取材に来るとは思わなかったな。
今朝のニュースにまでなってたし」
そんな彼の呟きを聞き逃さず、ムジカ社長が手を挙げた。
「僕が許可した。
勘違いしちゃ駄目だよ、彼らマスコミは僕らにとっても、歓迎すべき客人だからね」
もう社長はいつもの、飄々とした口ぶりに戻っている。
そこでフーアが、早速切り出した。今こそ自分の出番とばかりに。
「社長、大分以前から話題になっている件なのですが……」
しかし社長は先回りする。
「分かっていますよ、中央カタパルトでしょう。
作業用モビルスーツが使用するには規模が大きすぎる、軍事目的か否か……」
「さすが、ご理解が早いですね」
「オーブの新聞じゃよく、そんな論調が見られる。
本土に被害を受けてそこまで時間はたっていないのに、未だオーブには分かってない人が多い。
チュウザンの実情もです。ご理解願っているのですがね」
「しかし、オーブ国内では救援活動の意義を疑問視する声も多いです。
その点はどうお考えで?」
社長はウインクと共に、サイに話を振った。
「君なら分かるよね、サイ君。
一度でも行けば、チュウザンで救援活動を行なうには自衛手段が必須だということぐらいは」
ナオトが顔中をクエスチョンマークにしてサイに向き直る。サイは黙ってうなずいた。
一度行っただけの旅行で、初めて行った島国で、生まれて初めて行った街であのような目に遭ったのだ。テロの確率がどれほどのものか、知れようというものである。
社長は自信たっぷりに身振りを交えて語る。
「そのための傭兵部隊と、対空機関砲16門です。
僕に言わせればこれでも足りないくらいだ」
「その通り!」
そこへ突然、大声と共にトニー隊長が割って入った。
「支援協力の成功には、地元への理解・地元の協力体制、何よりも地域住民の復興への意思を尊重することが不可欠!
その為にも、受け皿となるムジカ社長へのご理解・ご協力を願いたい!」
しかし、フーアはなおも食い下がる。
「ですが、武装があるがために攻撃を受けたという事例も実際にあります。
現に、L3宙域にあった中立コロニー・ヘリオポリスは──」
そこでアイムが、慌ててフーアに向かって目くばせした。
「やめろって。
元住民がそこにいるよ」
言うまでもなく、サイとカズイのことである。
カズイは思わず目を背けたが、きっぱりとサイは答えた。
「構いません。事実ですから」
そんなサイに微笑みながら、社長はいつものように、自信たっぷりに笑顔で啖呵をきった。
「忘れないでほしいが、今は戦時下ではない。
それに、大丈夫。アマクサ組は強い。
『彼女ら』は、チュウザンを救おうとする者ならば――絶対に護る」
『彼女ら』という言葉に、何となくサイが引っかかった、その瞬間──
アマミキョに、激震が走った。