【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 助けて、トール

 

 

 ガンダム・ティーダでようやく現場上空に到着したナオトたちが目にしたものは──

 煙を上げながら崩壊しゆく港湾ビルと、数十機ものバビ・ディン部隊だった。

 その中にはザフトの新型・グフの姿もある。

 

「さすがフリーダム対策というだけはあるな……

 あんな新型まで!」

 

 高速移動の性能をフルに生かし滑空するティーダの中で、サイは加速とノーマルスーツの暑さに耐えながら呟いた。

 その横では、ナオトが苛立って身を乗り出し、モニターを睨んでいる。

 

「爆煙でよく見えない……

 ミリィさんは何処!?」

 

 フレイからもミゲルからも応答はない。相変わらず呑気に状況を眺めているマユ。

 

「第13倉庫予定地、ポイントは合っているはずだよ。

 もうやられちゃったのかなー?」

「そんなわけないっ! 絶対に助けるんだっ」

 

 ティーダを追い、海上を滑るように接近してくるカラミティが眼下に見える。

 ディープフォビドゥンに支えられつつ、頼もしい砲撃でティーダを援護し、近づいてくるバビ部隊を殆ど海へ叩き伏せていくカラミティ。

 しかし敵もさすがザフトというべきか。縦横無尽にその閃光をかわし、ティーダに直接喰らいついてくるバビがいた。

 空中で何度もモビルアーマーとモビルスーツとの変形を繰り返し、こちらを嘲笑うようにひらりひらりと光をかわす――まさに三角帽子の魔術師。

 ティーダとバビの装甲が空中で激突し、火花が散る。

 装甲越しに、相手の声が直接コクピットに響いた。

 

《この攻撃……アークエンジェルの手の者か! 

 返答しろ!》

 

 揺れるコクピット。ナオトはそれにも負けず、怒りをもって叫んだ。

 

「あんたたちがどれほど頑張ったって、アークエンジェルは来ないよ! 

 この、卑怯者!」

 

 ナオトの叫びと共にティーダはバビをいとも簡単に振りもぎる。

 機体を素早く回転させ、魔術師の単眼に向かって、容赦なく右腕のランサーダートを叩き込んでいく――

 空に響く、少年の絶叫

 

「ミリィさんを返せよ、化物ども!」

 

 さらに右腕部武装・トリケロスからビームサーベルが発現。ティーダの刃は空気を焼き、バビの横腹を一閃する。

 あまりの機動に、サイは脳が沸騰するような感覚に襲われ、半分吐きそうになる――

 それでもサイは必死に座席にしがみつき、後席のマユに叫んだ。

 

「マユ、目的は戦闘じゃない! 

 ミリアリアを探すんだ!」

 

 だがマユは、あくまで涼しい顔で言い放った。

 

「私じゃないよ。

 今メイン操縦系は、63%もナオトに移譲してる」

「何だって?」

 

 右側頭部に血が圧縮されていく感覚を拭えぬまま、サイは前席のナオトを凝視する。

 そして思い出した──キラがティーダのOSに、念入りに手を入れていたことを。

 ティーダの機動は、見違えるほどに向上していた。数値で言えば150%以上といったところだろう。

 モニターの中で、黒煙を噴き上げてバビが海へ墜落していく。

 虫でも見るようにバビを眺めながら、ナオトはサイを振り向きもしない。あどけないその頬と大きな瞳は今、怒りに満ちていた。

 ザフトへの怒りとキラの才能が、ナオトとティーダの能力を引き出しているのは間違いない。それも、限界以上に。

 そしてたった今、この子供は、いとも簡単に人を──

 

「殺してませんよ。

 キラさんと同じに、僕は人殺しはしません」

 

 呟くナオト。

 確かに今海に落ちたバビは、爆発はしなかった──浮上もしていないが。

 

「僕は、あいつらとは違うんだ」

 

 傲慢を言うな。そう言いかけたサイだが──

 機体はそんな呟きすらも許さず、急旋回を繰り返す。

 マユがはしゃぐ。

 

「その意気っ! 

 カッコイイよ、ナオト!!」

 

 背後からはディンとバビ、さらに海中からはゾノが迫っていた。

 だがカラミティを海中で支えている風間のディープフォビドゥンが、元気に魚雷でゾノを迎撃する。さらに時澤とラスティのスカイグラスパーも、カラミティの砲撃に付き従うが如く、バビとの交戦を開始していた。

 俊速でバビの砲をかわし、その腰部に回り込んでは離脱を繰り返す時澤のスカイグラスパー。素早い蜂の如く逃げ回るスカイグラスパーに気を取られている隙に、カラミティが猛然とバビを2、3機焼いていく。

 

 救出作戦が、あまりにも大規模な戦闘になってきている。サイは感じた──

 これはミリアリア一人の問題に留まらない。アークエンジェルを巡る、連合とザフトの激突だ。

 そこへ、何処ぞへと姿を消していたフレイのアフロディーテから突如、通信が入った。

 眼下の水煙を抜け、ティーダへ向かってくる血のストライクが見える。

 

《ティーダ、聞こえるか。

 状況が変わった、ミリアリア・ハウは未だザフトの手中だ!》

「何ですって!?」

 

 思わぬ事態に、動揺を隠せないナオト。

 耳鳴りと眩暈をこらえつつ、サイはフレイの言葉を何とか受け止めた。歯ぎしりと共に。

 

「フレイ! ミゲル・アイマンはどうした?」

《救出したが、負傷している》

「そんな……! 

 ミリィさんが何処か分からないっていうんですか、今更!?」

 

 その間にも、バビ・ディン部隊は空中からティーダとアフロディーテに迫る。何度叩き払っても、生ゴミの山から蘇ってくる蚊の大群のように。

 空を埋め尽くす勢いの敵を見て、ナオトは唇を噛みしめる。

 

「こうなったら……

 黙示録、使うしかない!」

 

 その決断にサイは思わず、ナオトの肩を押さえた。押さえずにいられなかった。

 

「駄目だ。

 ミリアリアの行方が分からない今、黙示録は危険すぎる」

「何言ってるんですか。

 サイさんだって何度も黙示録見たけど、大丈夫だったでしょう!?」

「俺が大丈夫だからって、彼女が大丈夫とは限らない!」

 

 サイが懸念したのは、黙示録を発動させた場合のミリアリアの身だった。

 確かに、今まで黙示録の発動をサイは何度か目撃していたが、殆どの場合遮光の施されたアマミキョ内にいたからこそ、自分はあの光に耐えられたのだ。コロニー・ミントンでは直接あの光を見たが、距離はそう近くはなかった──

 だがいずれの場合も、ティーダの光が自分の身に食い込んでくる感覚は、決して気持ちよくはなかった。

 

 サイは急いでティーダのモニターの解析を始める。

 崩壊した港湾ビルまでの距離は50mもない。万が一ミリアリアが未だあそこにいるとすると、黙示録を発動させれば彼女は至近距離でティーダの光を浴びることになる

 ――それだけは避けたかった。

 だが、ナオトはそんなサイに反駁する。

 

「サイさんだって知ってるでしょ。

 黙示録発動中なら、モニターの分析なんかしなくったって、ミリィさんの位置は分かるんだ!」

「ちょっと早いけど、しょうがないか!」

 

 マユも、自らの脚の間で黒ハロの頭部を開き、現れたキーボードの上で躊躇なく指を踊らせる。

 ――だがその時、ティーダのモニターに反応があった。

 通常のモビルスーツよりも高性能のカメラを指に足に頭に装備し、複数の相手の動きを随時キャッチしトレース出来るティーダ。

 その無数の目は、激戦の中から逃げ出そうとする一機のバビを捉えていた。

 そして、その鋼鉄の掌に囚われているものを。

 戦場では明らかに異質な栗色の、癖のある髪は──

 

 瞬間、サイは叫んでいた。

 

「ナオト、撃つな! 

 あそこだ、彼女は!!」

 

 

 

 

 

 

 気づいた時には、ミリアリアの身体は鋼鉄の筋肉に抱かれていた。

 あのビルの中で落下しゆく自分をまんまと手中におさめて、バビは今現場から逃げようとしている。

 鉄に押さえ込まれる不快感の中で、彼女はその事実だけを悟った。

 正確に言うと、ミリアリアの身はバビの掌の中に挟まれ、首から上だけが中途半端に外に飛び出していた。要するに、バビの手に捕まえられている。

 彼女はどうにか頭を回し状況把握に努めたが、爆風から頭を守るのが精一杯だった。

 噴き上がる水煙の中を滑り、逃げようとするバビ。

 

 だがそこへ──

 敢然と、立ちはだかるものがいた。

 

 それは先ほどまでミリアリアたちが乗っていた、損傷していたはずの青いグフ・イグナイテッド。

 

「……まさか!? 

 もう、動けなかったはずなのに」

 

 脚部を破損したまま、無理矢理グゥル(モビルスーツ支援空中機動飛翔体)に乗って空へ躍りだしたグフは、猪突猛進でバビに向かってくる。

 開いたままのハッチから、パイロットの姿まではっきり見える。

 乗っていたのは勿論、あの金髪隻腕の緑服──ミゲル・アイマンだった。

 

 

 

 

 頭から血を垂れ流したまま、ミゲルは猛然とグフをバビへと組みつかせる。

 飛び散る火花を直に浴びる寸前になりながら、彼はバビの向こうのティーダを確認した。

 

「いい子だ、ティーダ。

 今黙示録撃ったら、嬢ちゃんの目が潰れちまうぜ」

 

 ミリアリアを手中にしているバビと、新型とはいえ腕と脚を損傷しているグフ。力は拮抗していた。

 そのバビを援護すべく、海中からゾノのクローが、空からはディンが襲いかかってくる。

 彼女の眼前で、ミゲルのグフは再び攻撃にさらされようとしていた──その時。

 

《愚か者が! 

 逃げていろと言ったはずだ!》

 

 波濤を切り裂いて現れたストライク・アフロディーテが、一瞬にしてゾノを粉砕し、ディンの腹を両断した。フレイの罵声と共に。

 

《死にたいのか。アスラン・ザラを手に入れる前に!》

 

 危機を脱したミゲルは、その言葉に自分を笑う。

 

「悪かったよ。つい熱くなっちまった……

 今度は、俺が殴られなきゃな」

 

 

 

 

 

 

 外部スピーカを通じてかわされたその会話は、バビの手中のミリアリアにもはっきり聞こえていた。

 間違いない、あれはフレイの声だ。

 口調こそ違うものの、確かに、かつて、生死を共にした友人の声──

 

 本当に生きていたんだ、フレイは。

 

 チュウザンで出会った時のナオトの言葉は、間違いではなかった。

 しかも彼女は今、ストライクを模した紅のダガーLを操り、自分の前に堂々と姿を現している。

 一体、どうして? あの状況から――

 

 そしてさらに謎だったのは、彼女が今放った言葉だ。

 

「フレイが、アスランを? 

 どういうこと?」

 

 しかしその言葉の謎を解く前に、ミリアリアの身体はバビの手に締め上げられた。

 眼球が飛び出すかというほどの圧迫。息が止まる──

 指関節の装甲の間に挟まれ、服も煤だらけになりあちこち破けていた。

 同時にバビはアフロディーテからの離脱を図り、一気に海面への下降を始めた。

 気絶しかかりながらも、ミリアリアは眼下を見る。拡がるものは埋め立て中の、泥まじりの海──

 叩きつけられれば、一巻の終わりだ。

 

 ──助けて、トール。

 

 何度呟いたか知れないその言葉を、彼女は再び呪文のように口にした。

 バビは自分を積極的に殺しはしない、そんなことは頭では分かっている。

 しかしバビに乗るザフト兵は、ナチュラルの自分がこの機動によって、どれほどのダメージを受けるかなど知らないだろう。

 

 だから、基地でもあのような真似が出来る。

 だから、ナチュラルを傷つけられる。

 だから、ナチュラルを理解出来ない──

 そして私たちナチュラルも同じ。こんな真似をするコーディネイターを、理解することは出来ない。だから──

 だから──

 

 

 

 助けて、トール。

 

 

 

 その瞬間、空を裂いて声が聞こえた。

 まるで、彼女の願いに答えるかのように。

 

「今助ける、ミリアリア!」

 

 天空に中座していたはずの太陽が、何故か自分に突進してきた──

 彼女はその時の光景を、一瞬そう錯覚した。

 人の形をした太陽が、自分に向かって驀進してくる。

 2年前の地獄の中──いつも自分を隣で、背後で、支えていてくれた声と共に。

 

 それは正確に表現すると、朝陽を浴びて白銀に輝くモビルスーツだった。

 海面全てを照らし出す勢いでそのフォルムは輝き、まっしぐらにミリアリアに向かってくる。

 痛みの中で、彼女は感じた。

 

 ──あれが、ティーダだ。

 自分がチュウザンで出会った少年・ナオトが乗っているモビルスーツ。

 フリーダムと同じ頭部を持ち、戦いを終わらせる力を持つ──

 太陽のガンダム。

 

 さらに彼女は、バビの指で強引に閉ざされかかる視界の向こうに見た。

 輝くガンダムの掌に、ノーマルスーツの人間が乗っている光景を。

 サーフィンでもするように波を蹴立ててティーダの左手に乗り、海上を滑り真っ直ぐにこちらに向かってくる光景を。

 ミリアリアは悔しさに呻く。

 カメラがあれば、この美しい光景を何十枚でも撮っていたのに! 貴方のカッコ良さ、何百枚でも撮っていたのに! 

 ミリアリアはティーダに向かい、声を限りに叫んだ。その力強い仲間の名を。

 

 

「――サイ!」

 

 

 

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