【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ガンダム・ティーダでようやく現場上空に到着したナオトたちが目にしたものは──
煙を上げながら崩壊しゆく港湾ビルと、数十機ものバビ・ディン部隊だった。
その中にはザフトの新型・グフの姿もある。
「さすがフリーダム対策というだけはあるな……
あんな新型まで!」
高速移動の性能をフルに生かし滑空するティーダの中で、サイは加速とノーマルスーツの暑さに耐えながら呟いた。
その横では、ナオトが苛立って身を乗り出し、モニターを睨んでいる。
「爆煙でよく見えない……
ミリィさんは何処!?」
フレイからもミゲルからも応答はない。相変わらず呑気に状況を眺めているマユ。
「第13倉庫予定地、ポイントは合っているはずだよ。
もうやられちゃったのかなー?」
「そんなわけないっ! 絶対に助けるんだっ」
ティーダを追い、海上を滑るように接近してくるカラミティが眼下に見える。
ディープフォビドゥンに支えられつつ、頼もしい砲撃でティーダを援護し、近づいてくるバビ部隊を殆ど海へ叩き伏せていくカラミティ。
しかし敵もさすがザフトというべきか。縦横無尽にその閃光をかわし、ティーダに直接喰らいついてくるバビがいた。
空中で何度もモビルアーマーとモビルスーツとの変形を繰り返し、こちらを嘲笑うようにひらりひらりと光をかわす――まさに三角帽子の魔術師。
ティーダとバビの装甲が空中で激突し、火花が散る。
装甲越しに、相手の声が直接コクピットに響いた。
《この攻撃……アークエンジェルの手の者か!
返答しろ!》
揺れるコクピット。ナオトはそれにも負けず、怒りをもって叫んだ。
「あんたたちがどれほど頑張ったって、アークエンジェルは来ないよ!
この、卑怯者!」
ナオトの叫びと共にティーダはバビをいとも簡単に振りもぎる。
機体を素早く回転させ、魔術師の単眼に向かって、容赦なく右腕のランサーダートを叩き込んでいく――
空に響く、少年の絶叫
「ミリィさんを返せよ、化物ども!」
さらに右腕部武装・トリケロスからビームサーベルが発現。ティーダの刃は空気を焼き、バビの横腹を一閃する。
あまりの機動に、サイは脳が沸騰するような感覚に襲われ、半分吐きそうになる――
それでもサイは必死に座席にしがみつき、後席のマユに叫んだ。
「マユ、目的は戦闘じゃない!
ミリアリアを探すんだ!」
だがマユは、あくまで涼しい顔で言い放った。
「私じゃないよ。
今メイン操縦系は、63%もナオトに移譲してる」
「何だって?」
右側頭部に血が圧縮されていく感覚を拭えぬまま、サイは前席のナオトを凝視する。
そして思い出した──キラがティーダのOSに、念入りに手を入れていたことを。
ティーダの機動は、見違えるほどに向上していた。数値で言えば150%以上といったところだろう。
モニターの中で、黒煙を噴き上げてバビが海へ墜落していく。
虫でも見るようにバビを眺めながら、ナオトはサイを振り向きもしない。あどけないその頬と大きな瞳は今、怒りに満ちていた。
ザフトへの怒りとキラの才能が、ナオトとティーダの能力を引き出しているのは間違いない。それも、限界以上に。
そしてたった今、この子供は、いとも簡単に人を──
「殺してませんよ。
キラさんと同じに、僕は人殺しはしません」
呟くナオト。
確かに今海に落ちたバビは、爆発はしなかった──浮上もしていないが。
「僕は、あいつらとは違うんだ」
傲慢を言うな。そう言いかけたサイだが──
機体はそんな呟きすらも許さず、急旋回を繰り返す。
マユがはしゃぐ。
「その意気っ!
カッコイイよ、ナオト!!」
背後からはディンとバビ、さらに海中からはゾノが迫っていた。
だがカラミティを海中で支えている風間のディープフォビドゥンが、元気に魚雷でゾノを迎撃する。さらに時澤とラスティのスカイグラスパーも、カラミティの砲撃に付き従うが如く、バビとの交戦を開始していた。
俊速でバビの砲をかわし、その腰部に回り込んでは離脱を繰り返す時澤のスカイグラスパー。素早い蜂の如く逃げ回るスカイグラスパーに気を取られている隙に、カラミティが猛然とバビを2、3機焼いていく。
救出作戦が、あまりにも大規模な戦闘になってきている。サイは感じた──
これはミリアリア一人の問題に留まらない。アークエンジェルを巡る、連合とザフトの激突だ。
そこへ、何処ぞへと姿を消していたフレイのアフロディーテから突如、通信が入った。
眼下の水煙を抜け、ティーダへ向かってくる血のストライクが見える。
《ティーダ、聞こえるか。
状況が変わった、ミリアリア・ハウは未だザフトの手中だ!》
「何ですって!?」
思わぬ事態に、動揺を隠せないナオト。
耳鳴りと眩暈をこらえつつ、サイはフレイの言葉を何とか受け止めた。歯ぎしりと共に。
「フレイ! ミゲル・アイマンはどうした?」
《救出したが、負傷している》
「そんな……!
ミリィさんが何処か分からないっていうんですか、今更!?」
その間にも、バビ・ディン部隊は空中からティーダとアフロディーテに迫る。何度叩き払っても、生ゴミの山から蘇ってくる蚊の大群のように。
空を埋め尽くす勢いの敵を見て、ナオトは唇を噛みしめる。
「こうなったら……
黙示録、使うしかない!」
その決断にサイは思わず、ナオトの肩を押さえた。押さえずにいられなかった。
「駄目だ。
ミリアリアの行方が分からない今、黙示録は危険すぎる」
「何言ってるんですか。
サイさんだって何度も黙示録見たけど、大丈夫だったでしょう!?」
「俺が大丈夫だからって、彼女が大丈夫とは限らない!」
サイが懸念したのは、黙示録を発動させた場合のミリアリアの身だった。
確かに、今まで黙示録の発動をサイは何度か目撃していたが、殆どの場合遮光の施されたアマミキョ内にいたからこそ、自分はあの光に耐えられたのだ。コロニー・ミントンでは直接あの光を見たが、距離はそう近くはなかった──
だがいずれの場合も、ティーダの光が自分の身に食い込んでくる感覚は、決して気持ちよくはなかった。
サイは急いでティーダのモニターの解析を始める。
崩壊した港湾ビルまでの距離は50mもない。万が一ミリアリアが未だあそこにいるとすると、黙示録を発動させれば彼女は至近距離でティーダの光を浴びることになる
――それだけは避けたかった。
だが、ナオトはそんなサイに反駁する。
「サイさんだって知ってるでしょ。
黙示録発動中なら、モニターの分析なんかしなくったって、ミリィさんの位置は分かるんだ!」
「ちょっと早いけど、しょうがないか!」
マユも、自らの脚の間で黒ハロの頭部を開き、現れたキーボードの上で躊躇なく指を踊らせる。
――だがその時、ティーダのモニターに反応があった。
通常のモビルスーツよりも高性能のカメラを指に足に頭に装備し、複数の相手の動きを随時キャッチしトレース出来るティーダ。
その無数の目は、激戦の中から逃げ出そうとする一機のバビを捉えていた。
そして、その鋼鉄の掌に囚われているものを。
戦場では明らかに異質な栗色の、癖のある髪は──
瞬間、サイは叫んでいた。
「ナオト、撃つな!
あそこだ、彼女は!!」
気づいた時には、ミリアリアの身体は鋼鉄の筋肉に抱かれていた。
あのビルの中で落下しゆく自分をまんまと手中におさめて、バビは今現場から逃げようとしている。
鉄に押さえ込まれる不快感の中で、彼女はその事実だけを悟った。
正確に言うと、ミリアリアの身はバビの掌の中に挟まれ、首から上だけが中途半端に外に飛び出していた。要するに、バビの手に捕まえられている。
彼女はどうにか頭を回し状況把握に努めたが、爆風から頭を守るのが精一杯だった。
噴き上がる水煙の中を滑り、逃げようとするバビ。
だがそこへ──
敢然と、立ちはだかるものがいた。
それは先ほどまでミリアリアたちが乗っていた、損傷していたはずの青いグフ・イグナイテッド。
「……まさか!?
もう、動けなかったはずなのに」
脚部を破損したまま、無理矢理グゥル(モビルスーツ支援空中機動飛翔体)に乗って空へ躍りだしたグフは、猪突猛進でバビに向かってくる。
開いたままのハッチから、パイロットの姿まではっきり見える。
乗っていたのは勿論、あの金髪隻腕の緑服──ミゲル・アイマンだった。
頭から血を垂れ流したまま、ミゲルは猛然とグフをバビへと組みつかせる。
飛び散る火花を直に浴びる寸前になりながら、彼はバビの向こうのティーダを確認した。
「いい子だ、ティーダ。
今黙示録撃ったら、嬢ちゃんの目が潰れちまうぜ」
ミリアリアを手中にしているバビと、新型とはいえ腕と脚を損傷しているグフ。力は拮抗していた。
そのバビを援護すべく、海中からゾノのクローが、空からはディンが襲いかかってくる。
彼女の眼前で、ミゲルのグフは再び攻撃にさらされようとしていた──その時。
《愚か者が!
逃げていろと言ったはずだ!》
波濤を切り裂いて現れたストライク・アフロディーテが、一瞬にしてゾノを粉砕し、ディンの腹を両断した。フレイの罵声と共に。
《死にたいのか。アスラン・ザラを手に入れる前に!》
危機を脱したミゲルは、その言葉に自分を笑う。
「悪かったよ。つい熱くなっちまった……
今度は、俺が殴られなきゃな」
外部スピーカを通じてかわされたその会話は、バビの手中のミリアリアにもはっきり聞こえていた。
間違いない、あれはフレイの声だ。
口調こそ違うものの、確かに、かつて、生死を共にした友人の声──
本当に生きていたんだ、フレイは。
チュウザンで出会った時のナオトの言葉は、間違いではなかった。
しかも彼女は今、ストライクを模した紅のダガーLを操り、自分の前に堂々と姿を現している。
一体、どうして? あの状況から――
そしてさらに謎だったのは、彼女が今放った言葉だ。
「フレイが、アスランを?
どういうこと?」
しかしその言葉の謎を解く前に、ミリアリアの身体はバビの手に締め上げられた。
眼球が飛び出すかというほどの圧迫。息が止まる──
指関節の装甲の間に挟まれ、服も煤だらけになりあちこち破けていた。
同時にバビはアフロディーテからの離脱を図り、一気に海面への下降を始めた。
気絶しかかりながらも、ミリアリアは眼下を見る。拡がるものは埋め立て中の、泥まじりの海──
叩きつけられれば、一巻の終わりだ。
──助けて、トール。
何度呟いたか知れないその言葉を、彼女は再び呪文のように口にした。
バビは自分を積極的に殺しはしない、そんなことは頭では分かっている。
しかしバビに乗るザフト兵は、ナチュラルの自分がこの機動によって、どれほどのダメージを受けるかなど知らないだろう。
だから、基地でもあのような真似が出来る。
だから、ナチュラルを傷つけられる。
だから、ナチュラルを理解出来ない──
そして私たちナチュラルも同じ。こんな真似をするコーディネイターを、理解することは出来ない。だから──
だから──
助けて、トール。
その瞬間、空を裂いて声が聞こえた。
まるで、彼女の願いに答えるかのように。
「今助ける、ミリアリア!」
天空に中座していたはずの太陽が、何故か自分に突進してきた──
彼女はその時の光景を、一瞬そう錯覚した。
人の形をした太陽が、自分に向かって驀進してくる。
2年前の地獄の中──いつも自分を隣で、背後で、支えていてくれた声と共に。
それは正確に表現すると、朝陽を浴びて白銀に輝くモビルスーツだった。
海面全てを照らし出す勢いでそのフォルムは輝き、まっしぐらにミリアリアに向かってくる。
痛みの中で、彼女は感じた。
──あれが、ティーダだ。
自分がチュウザンで出会った少年・ナオトが乗っているモビルスーツ。
フリーダムと同じ頭部を持ち、戦いを終わらせる力を持つ──
太陽のガンダム。
さらに彼女は、バビの指で強引に閉ざされかかる視界の向こうに見た。
輝くガンダムの掌に、ノーマルスーツの人間が乗っている光景を。
サーフィンでもするように波を蹴立ててティーダの左手に乗り、海上を滑り真っ直ぐにこちらに向かってくる光景を。
ミリアリアは悔しさに呻く。
カメラがあれば、この美しい光景を何十枚でも撮っていたのに! 貴方のカッコ良さ、何百枚でも撮っていたのに!
ミリアリアはティーダに向かい、声を限りに叫んだ。その力強い仲間の名を。
「――サイ!」