【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 私、アークエンジェルに行く

 

 

 アフロディーテにカラミティ、スカイグラスパーにディープフォビドゥンは手筈どおり、「黙示録」発動と同時にフィルタを作動させ、光を防いでいた。

 だが、ミゲルの乗るグフだけはティーダ対策はなされていなかった為に──

 彼は傷ついた機体と傷ついた肉体をかかえ、壊れかけたコクピット内で一人苦しむ羽目になった。

 神経と精神を犯されていく光に、ミゲルは彼らしくもなく呻き続ける。

 義手でどうにか機体を制御しようとしたが、その義手は既にショートして僅かに煙まで噴いていた。

 

「すまねぇニコル。

 試作品だったなコイツは……使いすぎちまった」

 

 そんなグフの目前に、アフロディーテが舞い降りる。まるで光からグフを守るように。

 

《お手柄だ、ミゲル。

 その新型、何としても頂戴するぞ》

 

 

 

 

 

 

 コーディネイター嫌いだったフレイが、ナチュラル嫌いだったミゲルを守っている――

 この不思議な光景に、ミリアリアはしばらく言葉を失っていた。

 途切れがちになりながらも、フレイとミゲルの通信がコクピットにも響いてきた。

 

《アマミキョで使えりゃいいがね。

 第一パーツはどうするよ、オギヤカに戻るしかねぇか?》

 

 ミゲルの、軽妙さを装いながらも痛みを必死で押さえている声が響く。

 さらにフレイの声。

 

《それはお前の頭次第だ。

 使えずとも、機体のデータぐらいは取れるだろう》

《相変わらず無茶言うなぁ》

 

 そんなやりとりをじっと聞いていたミリアリアは、不意にサイを振り返る。

 フィルタで抑えられた閃光が、その顔にひときわ濃い影を作っていた。

 

 ──「あの」フレイは、一体何? 

 これが、貴方たちの力なの? 

 

 その台詞がミリアリアの口をついて出たわけではない。そんな彼女の心が、わずかながらサイに見えてしまったのだ。

 ほんの微量の、軽蔑の混じった心が。

 

 神経、そして心に直接入り込むティーダの力を目撃し、ミリアリアははっきり嫌悪の感情を示している。

 それを使っているナオト、マユに対しても。

 さらに、そんな子供たちを傍観しているサイに対しても。

 その意志を感じ取ったのか、ナオトも怪訝そうに彼女を見た。

 

 ──この力で、全ての戦いを止めようとでもいうの、サイ? 

 ナオトを使って? 子供を使って? 

 貴方たち、一体何を考えているの? 

 

 その心の声を感じたサイは、思わずミリアリアを睨んだ。心の叫びと共に。

 

 ──違う! 

 俺はティーダを使うつもりなんかない、ナオトやマユを利用するつもりなんか! 

 

 サイもこの言葉を、直接口に出したわけではない。

 なのに、ミリアリアははっきりと驚愕の表情を浮かべた。

 恐らくサイ自身、彼女と同じ表情をしているはずだ。

 

 心が読める。読めてしまう。

 近くにいるミリアリアの心が、ごくごく表層的な部分だけであるにしろ、読めてしまう。

 

 そうさせているのは、間違いなくティーダの光だった。

 ミリアリアの眼前で無理矢理裸にされた感覚を、サイは味わった。恐らく彼女も同じ恥辱を感じているに違いない。

 サイは急いで、心を覆い隠す──

 だが彼が自らを恥じた時、厳しかったミリアリアの表情が、ふっと和らいだ。

 はっきり響く、彼女の肉声。

 

「何も知らないんだ、サイは。それなのに、優しい。

 相手には何も教えてもらえないのに、サイは優しい。

 2年前と変わらないのね、そういうところ」

 

 ミリアリアの意図がすぐには掴めず、サイは一瞬まじまじと彼女を眺めてしまう。

 その瞬間、マユの歓声が割り込んできた。

 

「だーい成功! みんな、逃げるよ!」

 

 

 

 

 

 

 フレイ率いるアマクサ組は、こうしてまんまとザフトから逃げおおせた。

 光がやんだ時──ザフトの眼前にあったものは、味方の残骸がだらしなく浮かび続ける、黒く汚れた海だけだった。

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、ディオキア周辺で補修を行なっていたミネルバでは、ロドニアで負傷したステラ・ルーシェが収容されていた。

 ここで彼女はシン・アスカと劇的な再会を果たしていたのだが、勿論彼らはティーダとミリアリアの件など知る由もない。

 当然、この時のサイたちも、シンとステラの小さな事件を知るはずもなかった。

 だが、サイたちとは全く無関係なはずのシンとステラの運命は、やがてアマミキョさえ巻き込む大惨事を引き起こし、アマクサ組の計画にまでも大きな影響を及ぼすことになる。

 ――しかしこの時は、そんな未来は誰にも予測しえなかった。

 

 

 

 

 

 

「私――

 アークエンジェルに行く」

 

 海へ潜航したティーダの中で、ミリアリアははっきり宣言した。

 溶けかかっていたサイのノーマルスーツを強引に引き剥がし、左腕の火傷の応急処置を慣れた手つきで行ないながら。そして、彼の身体についた痛ましい傷の数々を凝視しながら。

 サイが疑問を呈するより早く、ミリアリアは続けた。

 

「よく分かったのよ。私には、力が必要だってことが。

 思う存分写真を撮って、真実を公表する──

 その為には、力がどうしたって必要なの」

「やめろ」

 

 サイは思わず、ミリアリアの肩を掴んだ。「今のアークエンジェルは、昔とは違う。

 ダーダネルスの戦闘は、君も見たはずだろう? 

 無茶な戦闘介入をして世間の怒りを買ってばかりなんだ。そんなことも君は分からないのか?」

「分かってないのはサイでしょう」

 

 ミリアリアはきっぱり顔を上げる。

 

「むしろ、貴方に聞きたい。何故、貴方は乗らなかったの? って。

 仕方ないけどね――貴方は男だもの」

「男……? いや、さっぱり分からない。何の関係が?」

 

 ミリアリアの笑顔は崩れなかったが、サイを眺める眼は何処か冷ややかだった。

 

「知らないでしょう? 私があそこで何をされたか。

 私みたいな娘が、あの場所で何をされるかなんて……」

 

 ミリアリアの口調には次第に、彼女に似つかわしくない怒気がこもる。

 さすがのナオトも口を挟めず、やりとりを見ているしかなかった。

 

「アークエンジェルのやり方が全て正しいわけじゃないぐらい、十分分かってる。

 でもね、一度無力を味わった女は力を求めるものなの。力を利用するものなのよ」

 

 一瞬、狂った猫のようにサイに牙を剥くミリアリア。

 

「例え、自分を裏切ってもね!」

「それは男だって同じだ。

 俺だって、どれほど力が欲しいと思ったか――」

 

 サイは反論したが、彼女は一歩も引かなかった。

 

「違う。男は――サイは、自分の力で強くなれる。

 だけど女は違う。私はそうじゃないと思ってたけど、でも、どうやったって埋められない差はあるの。

 サイ、貴方なら少しは分かるはずでしょう!」

 

 2年前のフレイを見ていれば──と言わなかったのは、彼女の良心だろうか。

 ミリアリアは、巻いたばかりのサイの左腕の包帯に触れ、呟く。

 

「サイは強い。

 こんなに傷ついたって、そのたびに強くなる。

 でも私は違う。違うのよ!」

「違わない」

 

 サイは昂ぶるミリアリアの両肩を押さえ、しっかり彼女を見つめた。

 

「ミリアリアだって十分強いじゃないか、俺なんかよりもずっと! 

 俺を励ましてくれた君が、何を前時代的なことを言ってる?」

 

 今度は、ミリアリアは答えなかった。諦めにも似た視線でサイを眺めるだけだ。

 エルスマンと同じ、この男は何も分かっていない──明らかに、その眼が語っていた。

 それを好機とばかりに、ナオトが会話に割り込んでくる。

 

「ねぇ、ミリアリアさん……

 アマミキョに来て下さいよ。そうすればフレイさんだって、もうちょっとマシになるかも知れないんです。

 アマクサ組の横暴を、オーブに暴いちゃってくださいよ!」

 

 子供らしいナオトの言葉に、思わずミリアリアは笑う。

 

「そうしたいけど、それは貴方のお仕事。

 私じゃきっと、何も出来ないわよ」

 

 何とか笑ってはいたが、彼女の横顔は疲弊しきっていた。

 それでも強引に気を取り直すかのように、彼女は唇を尖らせる。

 

「サイ。もうちょっと脱ぎなさいよ、きちんと治療出来ないでしょ!」

 

 そうサイを睨むが早いか、強引に腰までノーマルスーツを引きずり下ろしていく。

 

「ちょ、ちょっと待てミリィ、俺はそこまでケガしてない!」

「黙んなさい、不器用な癖にこんな無茶ばっかりして! 

 貴方、あと少し左にいたら直撃だったのよ!?」

 

 ミリアリアのおかげで、サイは無理矢理上半身をすっ裸に剥かれてしまった。

 使い物にならなくなったノーマルスーツだけが腰から下をどうにか守っていたが、サイは情けなくもほぼ全身を彼女の前にさらしてしまうことになった

 ──無数の傷と共に。

 

「サイ──

 今の貴方、少し変よ」

 

 これまでにサイが負った、傷跡の数々。

 一瞬彼女は茫然とそれを見つめていたが、やがてぽつりと呟いた。

 

「今のままじゃ、貴方はきっと誰も助けられない。

 自分を犠牲にして誰かを助けたって、本当に助けたことにはならないのよ。

 貴方は、生きなきゃいけない。

 命がけで誰かを助けたって、貴方が生きていなければ、その誰かにとって意味はないの」

 

 サイは神妙に、彼女の言葉を聞いているしかない。

 ミリアリアはさらに、ナオトにも言葉をかける。

 

「ナオト。

 貴方は、サイがこんなに傷ついて自分を助けてくれても、嬉しい?」

「それは……」

 

 しばらくの逡巡の後、ナオトはきっぱり答える。

 

「嬉しくないです。

 僕を助ける為にサイさんが傷つくなら、僕が傷ついた方がいい」

「そうよ――サイ。

 力がなければ、誰も助けられないの」

 

 サイには反論出来ない。

 力だけでも、想いだけでも、誰も助けられない──

 そんな言葉を、あのラクス・クラインはよく口にしていたような気がする。

 それなのに今の俺は、想いの方が空回りしているだけだ。

 

「だから私は──

 アークエンジェルに行って、みんなを、助ける」

 

 ミリアリアは、これ以上を望めないほどはっきり宣言した。

 彼女の意志を妨げることは、最早誰にも出来そうになかった。

 俺と彼女は今、ヘタをすれば唇が触れ合うほどに近い距離でありながら、永久に突破不能な壁で阻まれた──

 サイも観念し、彼女の言葉を受け入れる他はなかった。

 

 

 そこへ、ティーダを牽制するように、横からアフロディーテが近づいてくる。

 海中に潜航し、さらに濃い血の色に染まったストライク

 ──そのカメラアイが、瞬いた。

 それは浮上の合図だったのだが、サイには別の意図を含んでいるように思えてならなかった。

 そう感じたのはミリアリアも同じだったようで、思わず彼女は笑う。

 

「あんまりサイを独占しちゃ、悪いわね」

 

 ミリアリアは身体をナオトの方へ乗り出し、自らアフロディーテに手早く通信を繋いだ。

 かつての友人──死んだはずの友人、フレイ・アルスターに。

 

「久しぶり、フレイ。助けてくれた礼を言うわ」

《無事で何よりだ。今後の身の振り方は自身で決めるがいい──

 但し、今回のような騒動はごめんだぞ》

「やだ、フレイというよりナタルさんみたい」

 

 フレイの口調に対しても、ミリアリアは妙に明るく笑っていた。

 

「強くなったのね、フレイ。まるで別人」

 

 フレイからの応答はない。

 ミリアリアは僅かに唇を引き締めて続ける。

 

「ホント言うとね。私は──

 2年前の貴方が、嫌いだった。

 父親やサイに縋らなければ何も出来ないお嬢様で、その癖簡単にサイを裏切って、キラを利用した。

 そんな風に他人を利用する貴方は大嫌いだったし、見ていて辛かった。

 でもね――

 今は、今の貴方のほうが嫌いよ」

 

 

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