【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 アマミキョへの帰還

 

 

 フレイの答えを待ってモニターに添えられたミリアリアの手が、ぎゅっと拳を作る。

 そのままモニターを殴りつけてもおかしくないくらいの気合をこめ、彼女は言った。

 

「どうしてそんなに、強くなっちゃったの? 

 泣いて誰かに縋ってばかりだった貴方は、何処へ行ったのよ?」

 

 だが、フレイの返答は全くミリアリアを無視したものだった。

 というより返答ですらなく、ただの通信だった。

 

《浮上開始。スカイグラスパーとグフはこのままアマミキョへ帰還しろ。

 ミゲル、水漏れの具合はどうだ?》

《何とか無事だよ。宇宙用の凝固剤、結構海中でも役立つもんだな》

 

 フレイの無視とミゲルの割り込みに、ミリアリアの感情は一気に逆立つ。

 

「答えなさいよ! 

 昔も今も、サイやキラを傷つけて惑わすのだけは変わらないのね! 

 サイをここまで傷つけて、一体どうするつもりなの!? 

 ナオトをティーダに乗せ続けて、一体何をするつもり? 

 アマミキョを乗っ取って、アークエンジェルを監視して、貴方の本当の目的は何!?」

「ミリアリア!」

 

 サイは急いで彼女の肩を引き戻す。

 ナオトが大きく眼を見開いて、彼女を見ていた──大人の情緒不安定は、時に子供に対して予想以上の衝撃となるものだ。

 そのまま一方的に通信は遮断され、アフロディーテは離れていく。

 なおも通信を続けようとしたミリアリアだったが、サイが止めた。

 

「やめろ、ミリアリア」

「だってこのままじゃ、サイが! 

 貴方はそれでいいの? 貴方、また一人で全部背負うつもりなの? フレイのことを」

「そのつもりだ」

 

 感情に奮えるミリアリアを睨みつけ、サイは断言する。

 それは虚勢でも何でもなく、本音だった。

 

「本当に俺のことを思うなら、アークエンジェルじゃなくてアマミキョに来いよ。

 それが出来ないなら、何も言うな。

 中途半端な同情なら、一切いらない。

 力が欲しいのなら、俺なんか切り捨てろ」

 

 冷酷とも乱暴とも思えるその言葉に、ミリアリアは二の句がつげなくなる。

 そんな彼女を見て、サイは自分の決意が全く揺らいでいないことに自分で驚いた。

 このままミリアリアと一緒にアークエンジェルのオペレーターに戻るという道も、確かに残されてはいる――

 

 だが、サイはそれだけはしたくなかった。

 たとえフレイの存在があろうとなかろうと、サイはアマミキョを捨てて、今のあの船に乗る気はなかった。

 どんなに虐げられたとしても、どれほど無力だったとしても、アマミキョのブリッジにいたかった。

 

 サイはナオトに目配せした──少年は二人の気迫に押されつつも、座席の下から小さめのアタッシュケースを取り出した。

 

「ミリィさん、怒らないで下さい。

 これ、用意したんです。僕たち」

 

 おずおずとしたナオトの言葉に、少し冷静さを取り戻したミリアリアはケースを開いてみる。

 そこには、新しいカメラが一式と、服が入っていた。

 

「カメラ、きっと失くしてるだろうと思ったんだ。

 データまでは取り戻せないのが残念だけどね」

 

 サイの声が、じっとカメラを凝視するミリアリアの上に注がれる。

 先ほどの険しさはなく、いつもの落ち着いた彼の声だった。

 マユがそこへ割り込んでくる。

 

「言っとくけど、服はフレイが選んだんだよ。サイのセンスは壊滅的だからねー」

 

 それでもミリアリアは、じっとカメラと服を見て俯いていた。

 零れ落ちそうになる感情を必死でこらえ──そして、呟いた。

 

「ありがとう。

 ……本当に、ごめんね」

 

 震える声を抑えるように、ミリアリアは新しい赤いシャツに顔を埋める。

 そんな彼女に、サイはゆっくり声をかけた。

 

「どうしても行くというなら、俺は止めない。止める権利もない。

 ただ、これだけは約束してくれ。

 アークエンジェルでは、いつもの君でいるって。

 今みたいに、感情を剥き出しにしないって」

 

 ミリアリアは顔を上げる。

 

「どういう意味?」

「アークエンジェルは、とてつもなく危険な戦いに自ら突入しようとしている。

 2年前よりひどい地獄が待っているかも知れない。

 キラたちは、世界中を敵に回す可能性すらある。それは、分かるね?」

 

 サイの左腕の傷にそっと触れながら、ミリアリアはじっとその言葉を聞く。

 まるで、その傷に誓うかのように。

 

「……分かってる」

「だから、キラや代表や艦長に、弱い姿を見せるな。

 感情をなすがままに垂れ流すな。常に明るい笑顔でいろ。

 ディオキアであったことは忘れるんだ。きれいさっぱり!」

 

 沈黙している彼女の代わりに、ナオトが思わず叫ぶ。

 

「そんな……! 

 サイさん、酷い! そんなの無茶です!!」

「今アークエンジェルに乗るには、そのぐらいの覚悟が必要なんだ! 

 力を利用したいなら、代償を覚悟しなきゃいけない。

 君が自己中心的な感傷を忘れられなければ、キラたちまで君のことを引きずる。

 それは危険なんだ。キラたちにとっても、君にとっても!」

「でも……!」

 

 ナオトは納得出来ずさらに割り込もうとするが、ミリアリアが制した。

 

「大丈夫よ、ナオト」

 

 その時にはもう、彼女はにっこり微笑んでいた。

 

「サイ、馬鹿にしないでよね。

 私がどれだけ修羅場くぐりぬけてきたと思ってるの? 貴方と一緒に」

 

 先ほどの感情のぶれは一片も見られない、素晴らしい笑顔だ。

 殴りたければ、殴ってもいいんだぞ──

 そう言おうとしたサイだったが、彼女の満面の笑顔はその言葉まで押しとどめてしまう。

 女というものは、なんと感情の切り替えが早いのだろう。そして、心の奥底にとぐろを巻く憤怒を覆い隠してしまうのも得意だ。

 

「私は、ザフト兵を寝返らせた女よ。この程度でへこむと思ってるの?」

 

 サイの胸に手を当て、ミリアリアはその唇と瞳をぐいと彼に近づける──

 それを見てナオトは真っ赤になり、ハロも飛び跳ねた。

 

「コクピット、オンド、ジョウショウチュウ。ジョウショウチュウ」 

 

 マユだけはきょとんとして、ハロとサイを交互に見やっている。

 だが――

 

 この唇も頬も髪も、俺が決して触れてはいけないものだ。

 そうだろ、トール。

 

 サイはミリアリアのエメラルドの瞳を前に、ゆっくり目を閉じて横を向く。

 ──俺は、彼女を受け入れることは出来ない。

 

 ミリアリアもその気持ちを察したのか、指でそっと静かに、サイの胸元を突き放した。

 私は大丈夫、きっとうまくやってみせる。

 ディアッカとのことだって、軽く笑い飛ばしてみせる――

 その微笑は、そう語っていた。

 

 そんな時だった――フレイからの通信が、再び響いたのは。

 

《話は終わったか? 

 上空にフリーダムが来ている》

 

 

 

 

 

 

 思いがけず唐突に迎えに現れたフリーダムに、ミリアリア・ハウはいとも簡単に乗り移っていった。

 はちきれんばかりの笑顔をサイとナオトたちに残し、彼女はフリーダムの中へ、あっという間に飛び込んでいった。

 ――そしてフリーダムとアマミキョ部隊は、しばらく海中に潜んでいたが。

 

 二時間後にフリーダムは、アークエンジェルの方角へ消えていった。冷たい海の向こうへ──

 その間、キラもサイもフレイも、型どおりの通信以外、殆ど口をきかなかった。

 ミリアリアが行ってしまい、人一人分の体温が消えたコクピットの中で、サイはナオトにモニターを調べさせていた。

 彼女に治してもらった火傷の痛みがぶり返す。何しろ至近距離を、ビームの粒子が通過したのだ。しばらくの高熱と痛みは覚悟しなければ──

 サイはそう思いながらも、モニターを凝視する。

 

 見事なまでに、アークエンジェルの位置情報がティーダに逐一入ってきている。ニュートロンジャマーで完全に汚染されて久しい地域だというのに。

 これも、ティーダの力だ。常識を覆す、禁忌のモビルスーツだ。

 サイは座席にどっと背を預け、ひとつ息をついた。痛みと疲れと眠気が、一気に襲いかかってくる。

 

 これで、自分の役目はひとまず終わった――

 サイはナオトのノーマルスーツの小さな背中を見ながら、安堵していた。

 キラたちが逮捕されるようなことにもならず、フレイとキラの殺し合いもどうにか阻止した。

 これが今、俺の出来る、精一杯だ──

 アークエンジェルの行動を止めることは出来なかったが。

 また、フレイの記憶も混乱したままだが。

 

 フレイ。君はいつになったら、完全に記憶が戻るんだ? 

 君がそこにいるから。()()()()()()()()()分かっているから、俺はまだ頑張れる。

 だけど──

 キラに会っても、君はさらに混乱するだけだった。

 君は狂乱し、苦しみ、痛みを俺に訴えただけだった。

 だったら――

 

 どうすれば、君は、戻ってくれる? 

 

 サイは熱くなりゆく傷を押さえながら、ティーダの中でいつの間にか眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 アマミキョに帰還し、またもやスズミ女医らに怒鳴られつつ治療を受け。

 数日後にサイを待っていたものは──

 クルーたちの、何とも驚くべき歓迎・感激ムードだった。

 医療ブロックからようやく出てきたばかりの彼を最初に出迎えたのは、興奮冷めやらぬといった様子のトニー隊長だ。

 

「すまない、申し訳ない、サイ君! 

 我々は今の今まで、君を誤解していた!」

 

 サイが驚くより先に隊長は、タックルでもする勢いでサイに抱きつき、猛然と涙を流して感極まる。

 

「あのような勇猛果敢な行為をやってのけられるとは……

 英雄の名は、君にこそふさわしい! 

 まさかこの時代に、忘れられたヤマト魂を見るとはなぁ~」

 

 サイの度肝を抜いたのはそれだけではない。

 隊長の後に延々と続く、軽く30人を超す隊員たちの歓声もまた、トニー隊長の熱い抱擁と共にサイを圧倒した。

 隊員たちは次々に喜びと、謝罪の言葉を投げつけてくる。

 

「サイ……今まで、本当にごめん! 

 俺たち、お前にあんな度胸があるなんて信じられなかった」

「ごめんね、変な噂ばっかりして! 

 本当にカッコ良かったよサイ君、私惚れちゃったよぅ」

「僕は決めた、一生君についていく、サイ!」

「素晴らしかったよ、フリーダムを守った時の映像!」

「もっとすごいのはミリアリアさん救出でしょ! 彼女が羨ましいーっ、私もあんな風に助けられたーい!」

「ううん、やっぱり一番羨ましいのはフレイよ。

 あそこまで身体を張って止めてくれる男がいるなんて!」

 

 中には土下座までしてくる者、涙混じりで謝罪してくる者もいた。

 

「なぁサイ、許してくれ! 君のブーツ隠したの、俺なんだ」

「私も、フレイとのこと何も知らずに酷いことばっかり言っちゃって、ごめんなさい!」

 

 訳が分からなくなったサイが群衆の向こうを見ると、ナオトがにっこり笑ってピースサインを出していた。

 それでサイは、全てを理解した──

 

 ティーダに記録されていた映像を、ナオトがアマミキョ中に公開したのだろう。

 恐らく、サイがフリーダムとアフロディーテの間に立ちはだかった場面と、ミリアリア救出の場面を中心に編集して。

 勿論、ナオトの独断でそんな所業が可能なはずがない。多分、アマクサ組が絡んでいる。

 そこまでサイが考えた時、胸を揺らしてオサキが駆け込んできた。

 

「おいお前ら! 

 サイは怪我人だぞ、出てけ出てけ! 圧死させる気か!!」

 

 割り込んできて無理矢理サイの腕を掴んだ彼女に、隊員たちは一斉にブーイングする。

 

「ちょっと、サイ君取らないでよ!」「何よぉ、オサキが一番感動してた癖にぃ」

「君ともあろう者が涙していた光景を、私は生涯忘れんぞ!」

 

 オサキは顔を真っ赤にして拳を振り上げる。

 

「う、うるさいよ隊長! 

 アタシはただ……」

 

 そんなオサキに対して、女性陣は容赦なかった。

 

「んなこと言って、サイ君独占しようったってそうはいかないから」「そうそう、サイ君はもうオサキだけのものじゃないんだからね」「サイ君はみんなのもの! みんなで仲良く分け合わなきゃいけないのよ♪」

 

 俺を分割してどうする気だ。押し倒されそうになりながらサイは突っ込みかけたが、オサキの必死な怒声がそれを遮る。

 

「アタシはただ単に感激しただけだ、バカ! 

 お前らこそ今更調子こきすぎなんだよ、今まで寄ってたかってサイをどんな目に遭わせてきたと──」

 

 と、その時突然医療ブロックのドアが勢いよく開かれた。

 

「バカはそちらです! 病室前で、何大騒ぎしてるんですか!!」

 

 看護師・ネネが騒動にかけつけ、サイの首根っこを引きずるようにして隊員たちから引き離したおかげで、サイはようやくこの騒ぎから逃れられた。

 

 

 

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