【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
サイをめぐるそんな喧騒を、遠巻きに眺めていた者が二人。カズイとアムルだ。
カズイも、サイの行動を映像で確認しており、その勇気に少しばかり感動してはいた。だが――
他の者たちのように手放しで喜ぶことは、出来なかった。
勿論、サイが信頼を取り戻したことは嬉しい。しかしカズイは映像を見ていて、彼に違和感を覚えずにはいられなかったのだ。
あのような無茶をすれば、ナオトやフレイやキラやミリアリアが事後どうなるのか。考えの及ばぬサイではなかったはずだ。
カズイはサイに対して、ひどく危険なものを感じずにはいられない。
自分一人が血を流せばそれでいいという考えは、他の者を命がけで想っているように見えて、実はそうではない。
あの、雨の中の惨劇の時もそうだった。アストレイで飛び出していった時も──
サイは、自分の命をそれほど無価値なものだと考えているのだろうか? だとしたら、その原因は何処にあるのか?
カズイとて馬鹿ではない。サイが袋叩きにされる原因となった、ティーダの大気圏降下時の熱量計算ミス──
あの時、サイはもしかしたら、責任が自分にないと分かっていながら全ての罪を被ったのかも知れない。
その可能性を、カズイはうすうす感じ取っていた。
カズイはそっと、横で佇むアムルに視線を移す。彼女はサイをじっと眺めていた──
美しい金髪が揺れ、その細い右手指は左の二の腕にがっちり喰らいついている。
まるで、溢れ出す感情を自分の中に必死で閉じ込めようとしているように。
アムルの表情はいつも通り穏やかだったが、固かった。
その左手は耳のあたりをガリガリと無意識に掻きむしり、若干赤くなっている。
エメラルドの眼球は、ひたすらサイを見据えている。
――悲しいことに、この時カズイはまたも彼女を誤解した。
彼女の心がサイだけを見ている──と、思い込んでしまったのだ。
確かにアムルの心はサイへの激しい感情で溢れていたのだが、それは決してカズイが思うようなロマンチックなものではありえない。
それは、嫉妬だった。有能なナチュラルを目撃した時にコーディネイターが抱く、殺意にも似たどす黒い嫉妬。
排出されない経血のように、その感情は彼女の中で渦を巻く。
サイを何度刺そうと何度殴ろうと、決して消えることはなく、嫉妬はアムルを苦しめる。
彼がその有能さに相応しく、信頼を取り戻していきつつある事実と共に。
そんな感情をコーディネイターが抱くことがあるなど、カズイは考えたこともなかった。
ナチュラルがコーディネイターに対して抱く嫉妬には慣れっこになっていたが、その逆は思いつきもしなかったのだ。ましてや、聖母のように美しいアムルがそのような想いをサイに対して抱くなど、カズイの想像の範疇を超えていた。
アムルはカズイの視線に気づいたのか、にっこり笑ってみせる──
その笑顔は、彼の誤解をさらに拡大させた。
「良かったわね。
アマミキョの英雄じゃないの、サイ君ってば」
サイの行動に不信を抱いた者は、カズイとアムルだけではなかった。
ティーダの損傷状況を見る為、サイがハンガーに入った瞬間に彼を出迎えたものは――
ハマー・チュウセイの鉄拳だった。
「命知らずの蛮勇野郎が!
てめぇが英雄なわきゃあるかい、チヤホヤされて調子こいてんじゃねぇぞっ」
久々に喰らったハマーの拳に、サイは壁まで吹っ飛ばされる。
ハマーを止めるべく、他の整備士たちが慌てて彼にとりついた──
その向こうに、サイは修復中のティーダを見た。
そして、眼鏡が飛ばされたことも忘れて目を見開いてしまう。
ティーダのコクピットでは、サイ用の座席が取り外されている最中だったのだ。
こちらの騒動を見て、申し訳なさげに整備士たちが座席を引っ張りだし、ケーブルを次々に抜き去っていく。
「ちょっと待って下さい!
あの席は、俺の……」
止めようと立ち上がったサイの肩を、ハマーが破壊せんばかりにわし掴む。
「これ以上てめぇを座らせられるか、フレイ嬢の命令でもある!」
「フレイの? まさか」
ハマーはサイの胸倉を掴みながら、唾を飛ばして怒鳴り続けた。黒ずんだ奥歯がはっきり見える。
「てめぇの命を軽視する愚か者が、他人を守れるはずがないとさ!
全くもって俺も同意見だ!!」
そのままハマーは、サイを乱暴に放り出した。
フレイが、俺をティーダから降ろすだと? 俺に何の断りもなしに。
だったら俺は、一体どうやってナオトたちを守ればいい?
そもそもフレイは、何で――
様々な疑問がサイの頭を駆け巡ったが、ハマーの言葉に対して──
ハマーを通じてなされたフレイの命令に対して、何も反論出来なかった。
ミリアリアにも指摘された通りだ。
俺がティーダに乗ったところで、ナオトたちを守れるわけじゃない。
俺が生身で飛び出したって、フレイを取り戻せるわけじゃない。
生き抜いて、みんなと一緒に笑えなければ、意味がない――
そんなことは、俺はとっくに分かっていたはずじゃないのか?
ハマーの冷たい言葉が、さらにサイへ浴びせられた。
「てめぇの命に、フレイ嬢がそれほど心を砕く価値があるとは思えねぇがな。少なくとも、ロゼはてめぇには任せられねぇ。
今のてめぇは、自分と一緒に種を焼いちまう」
「いいんですか? この処置。
高みの見物としては面白いですけど」
アマクサ組作業艇・ハラジョウ。その内部では、ニコルが船内モニターでサイの姿を眺めていた。
「予定通りだ」背後で紅茶を啜りつつ、フレイが言う。
「アマクサ組の不利になるような映像編集はしていない。
あまりに長期間、憎悪や嫉妬を一点に集中させれば、アマミキョ運用にも悪影響を及ぼす」
「それは分かりますけど……」
不満げに頬を膨らませるニコル。
彼の気分を察したフレイは、片手で軽くその緑髪に触れてやる。
「今回のアークエンジェル追跡の成功はニコル、お前の功績だ。
ミリアリア・ハウの位置情報を早急に掴みザフトに流してくれたおかげで、こちらもアークエンジェルを意のままに操ることが出来た。
よく汚れ役をかぶってくれたな」
「でも、キラ・ヤマトは!」
フレイの手をゆっくりとよけて、ニコルはきっとフレイを睨む。
「御方様が納得なさるでしょうか。キラ・ヤマトを目前にしながら取り逃したなど」
「取り逃したわけではない、時期尚早なだけだ」
「アスランとは違うでしょう!
彼のSEEDは十分開花しています、なのにフレイは!」
「今のキラを強引にこちら側のものにしても、反逆されるのがオチだ。
彼の怖さをお前は知らぬ」
そこへ、整備を終えたラスティがやれやれとばかりに割って入った。
「フレイの言う通りだよ、ニコル。今回はアークエンジェルをほぼ手中にしただけでももうけもんだ。
ラクス・クラインがいれば、もっと話はスムーズに運んだかも知れないがな」
ゆっくりとティーカップを揺らしながら、フレイが続ける。
「おまけに、ミゲルがグフまで持ってきた。オギヤカからパーツを持ってくれば、十分使える逸材だぞ」
「ごまかさないで下さい」
それでもニコルの表情は晴れず、ますます険しくなる。
「僕はフレイが心配なんです……貴女の本心はそうじゃない。
確かにその口実で、御方様は納得されるかも知れませんが」
モニターでは、サイがとぼとぼとハンガーから出て行く。
それを見やりながら、フレイはぽつりと言った。
「お前たちを置いて私情に走るほど阿呆ではない。
チグサ計画は問題なく進捗している──」
言いながら、フレイはキーボードを片手で素早く操作し、次々とモニターを切り替える。
医務室で治療を受けるマユと、静かに見守るカイキが一瞬映し出されたが、またすぐ別の画面に切り替わった。
隊員たちがせわしく動く様子が、逐一このモニターで監視されている。アマミキョの全船監視システムは順調だった。
「フレイ──
僕たちのやったことを知ったら、サイ・アーガイルは絶対に僕たちを許しませんよ」
ニコルが上目遣いでフレイを見やったが、彼女の表情は変わらなかった。
腕を組んで壁に凭れつつ、ラスティが続ける。
「俺たちがこれからやることも、だな」
「もとより承知の上だ」
フレイの唇に笑みが浮かぶ。自嘲的にも見える笑みが。
「アマミキョの
それでいいのか、という思いを露骨に表情に出してフレイを眺めるニコルに、つまらなげな猫のように明後日の方向を眺めるラスティ。
そこへ、医療ブロックで治療をすませたミゲルが入ってきた。
「お取り込み中すまないが、緊急事態だ。いや──予想通り、というべきかな。
アークエンジェルが、ダーダネルスで再度の武力介入を決行した。また忙しくなるぞ」
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次回予告
大陸を蹂躙する、恐るべき戦略兵器。
非情の業火に巻き込まれるアマミキョ。
それは皮肉にも、少年たちに思わぬ出会いをもたらす。
新たなる惨劇の幕開けとも知らず──
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「強襲! デストロイ」
閃光の涙、受け止めろ! ティーダ!!