【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
アークエンジェルは再び、ダーダネルスの戦線のド真ん中への介入を敢行した。
結果としてオーブと連合は敗れ、戦線から一歩後退を余儀なくされた。
しかしザフトの被害も甚大となり、これ以上の進軍は難しく、結局──
両軍共に地中海で睨みあっている状態に、さほど変わりはなかった。
西ユーラシア方面の勢力分布図は元々非常に混沌としたもので、どこからどこまでがザフト領で、どこからが連合領かが実に分かりづらい。
山や河や街を挟んでザフトと連合が睨みあっている、などという一触即発な状態の地域も多く、いずこから火の手が上がっても全くおかしくない状態だった。
今回のアークエンジェルの二度目の介入が、その発火点とならなければ良いが──
ミゲルからの緊急連絡を受けた時、サイをはじめとして、アマミキョクルーの主だった者たちは皆それを心配した。
しかも、前線にいるのはオーブ軍。さらに言えば、オーブ軍の指揮をとるのはあの、ユウナ・ロマ・セイランだという。
「やっぱり、ユウナ・ロマは馬鹿だよ!
オーブの力を世界に示すだか何だか知らないけど、国の代表たる者が前に出るなんてさ!」
「でも、ナオト。それならカガリ姫も馬鹿ってことになるよ」
「違うよ! アスハ代表は純粋にオーブを想って戦ったんだ、でもユウナはオーブを連合に売り払う真似までして!!」
今、ナオトとマユはティーダに乗り込み、荒れ放題に荒れた海岸でオーブ・連合兵、その他巻き込まれた無数の民間人の救助にあたっていた。
海風の吹きすさぶ中、ティーダのカメラは容赦なく映し出していく――
無惨に壊れた海岸線を。
焼け焦げた砂浜を、花々を、畑を、砂丘を。
腕や脚を失って這いつくばる若者を、首を失った赤ん坊を抱き続ける母親を、親を探して泣き叫ぶ子供たちを。
連合軍が退却してきたエーゲ海沿岸で、アマミキョは救助活動に奔走していた。
損傷し、沈められていたウィンダムから、恐怖に打ち震えたままのパイロットを助け出すティーダ。
ティーダのマニピュレータでハッチをこじ開けながら、ナオトは得意げに叫んだ。
「その点やっぱり、キラさんは流石だよ!
連合兵までこうやって生かしてる。すごい……」
《待てよナオト。
本当にそうだろうか?》
すぐ近くから響く通信に、ナオトはうるさそうに軽く頬を膨らませた。
それは、ティーダと一緒にウィンダムを引っ張り上げていた、作業用アストレイからのものだ。
「サイさんは良く知ってるはずでしょ?
これがキラさんの力なんですよ」
《このパイロットは、溺死の恐怖に10時間以上晒されていた。
浮上も脱出も出来ず、深海の圧力で少しずつ潰されていくコクピットの中で、空気が徐々に汚染され、薄くなっていく──
上で繰り広げられているのは、流れる血すら蒸発させる戦いだ。誰も自分を救助する者はいない。
死を待つだけの時間がどれほどの苦痛を伴うか、俺には分からないが──
その恐怖を与えたのは、フリーダムなんだ》
唇を尖らせるナオトだが、サイの声はさらに響いた。
《おそらく彼は、当分恐怖から逃れられない。
少なくとも、二度とパイロットにはなれない。まだ若いのに》
「生きていれば、いいじゃないですか!」
助け出したずぶ濡れのパイロットを、掌でそっと支えるアストレイ。
諦念の混じったサイの声に、ナオトは歯ぎしりする──彼が何を言いたいのか、ナオトには理解出来ない。
キラ・ヤマトにカガリ・ユラ・アスハは、オーブの戦いを最小限に食い止めた英雄だというのに。
だがその時、ティーダの掌の中で、助け出されたパイロットは血混じりの泡を吹いて気絶していた。
フリーダムに酷似した、ティーダの顔面を見て。
こうなる前から、随分言われていたことだ──サイは思う。
キラのやり方では、その場で命を救いはしても、本当にその兵士を救ってはいない。
キラが殺さずとも、キラの後に続く者たちが、キラが救ったはずの命を奪う。
残るものは、キラ「だけは」やっていない、という事実だけだ。
それが戦争だからと片付けてしまうのは実にたやすい。戦争の中で、キラのような行動を取る者の方が異常なのだ。
あのラクスですら2年前は、自らを守る為にザフト兵たちを殺さざるを得なかった。
そんな中で、キラだけは殺しをやらないということに、一体何の意味があるのだろう?
今ティーダを見て気絶した兵士を見ても一目瞭然のように、キラは命を奪いはしないが、助けてもいない。
では、戦いの中で人を救うには、一体どんな方法がある?
──解決不能としか思えない命題だが、サイたちアマミキョクルーはその使命を帯びて駆け回っている。駆け回らざるを得ない。
サイは考え続ける。助け出したオーブ兵たちはこう言っていた──
アスハ代表が、敢然と自分たちの前に立ちはだかり、戦いを止めようとしたと。
ルージュに乗って、戦闘のド真ん中に割り込んで。
だがその結果は、サイたちの眼前に拡がる血腥い光景だ。
サイの駆る作業用アストレイは、装甲の紅がもはや泥にまみれて見えなくなり、彼自身も作業服を泥と血と潮で汚している。
三日三晩延々と続いているこの救助作業は、いつ終わるとも知れなかった。
医療ブロックや食糧供給所では、優先順位を巡って兵士と民間人が何度も小競り合いを繰り返している。
アークエンジェルは暴れるだけ暴れてわめき散らし、被害を拡大させて勝手に退散した。
結局のところ、カガリもキラも何の役にもたっていない──それが、アマクサ組や山神隊によるアークエンジェル評となってしまっていた。
しかし、本当にそうだろうか?
サイは考え続ける。それでも彼らの行動には、何らかの意味があったと思いたい自分がいる。
志を違えたとはいえ、2年前は自分が乗っていた船なのだから。
炎上する艦から脱出を果たしたオーブ兵たちの一部は、アークエンジェルに移ったという。アークエンジェルに向かえという、上官命令によって。
その上官や将兵たちが何を思い行動したのか、サイには知るすべもない。
だが、必死で自らを貫こうとしたキラとカガリの想いは、おそらく彼らの心を動かしたに違いない。
ナオトの主張も、全てが的外れというわけではないのだ。
ふらふらとアストレイを動かしながら、サイは本日12隻目の救命ボートの収容にかかる。
アークエンジェルが正しいかどうかよりも、破壊された浜辺の混乱をどうにかすることが優先だった。
日が昇る前から作業をしているが、昼近くなった今も全く片付かないどころか、続々と溢れる負傷兵・避難民たちの為に一層混乱は倍増している。シュリ隊の中にすら、疲労で倒れる者がいた。
潮に汚れたサイの右手が、思わずコンソールパネルを叩く。
「どちらにせよ、奴らの尻ぬぐいさせられてるのは俺たちなんだ、畜生!
散々戦場荒らし回った挙句にトンズラしやがって、お前らは片付けられない子供かこの野郎!!」
サイの口汚い叫びは隣のナオトを若干驚かせただけで、あとは黒く汚濁した海へ虚しく吸い込まれていった。
PHASE-20 強襲! デストロイ
夜もすっかり更けた頃。
ようやく作業を終えたサイはアストレイを降り、ハンガーで生ぬるいコーヒーにありついていた。
アフロディーテやティーダは既に戻っている。
アマクサ組の作業艇・ハラジョウに何とはなしに目をやると、ラスティがフレイに、何やら息せききって話していた。
フレイの様子は、アークエンジェル接触前と何ら変わりのない威厳を保っている。
あくまで冷厳、高慢、威圧的──
一体、俺やキラに見せたあの狂乱ぶりは何だったのか。彼女の記憶は、キラとの接触により完全に戻ったのではなかったのか。
だが、依然として「姫」フレイは、フレイ・アルスターの身体を占領したまま、どっしりと構えている。そこに、元のフレイが介入する隙間などないとでも言いたげに。
アークエンジェルから帰還して以来、フレイはサイとまともに口をきいていなかった。
ティーダからサイを強引に降ろさせたことからも、そしてそれを直接サイ本人に告げもしなかったことからも、彼女の怒りがどれほどのものか知れようというものだった。
──それでも、彼女の中で、フレイは確かに生きている。
サイは思い出す。
アークエンジェルで、俺は確かにフレイの言葉を聞いたんだ。俺を責めるフレイの言葉を。
──そういう利他主義なところ、昔っから大嫌いだったのよ。
──私が一番つらかった時に、いきなり突き放した、抱きしめてもくれなかった。
──私が死んだ時だって、泣きじゃくってもくれなかったくせに。
──今更サイなんかに私を取り戻す権利、あるわけないのよ。
彼女の放った言葉の刃は、今もサイの心を蝕む。
だが一方で、サイはその言葉に安心している自分に気がついてもいた。何しろ2年ごしでやっと、フレイの本音を知ることが出来たのだから。
自分の情けなさと罪深さをフレイに正面から非難されたことで、サイの心は何処か軽くなっていた。勿論、深く傷つきはしたが。
サイは靴の泥を丁寧に落とした後、毅然としてフレイの方に歩いていく。微笑みを装って。
──俺は、確かめなきゃいけない。
「フレイ。君に礼を言うの、忘れてたよ──
ありがとう」
突然会話を中断され、僅かに怪訝そうな表情を見せて振り向くフレイ。
「……何の話だ」
その瞳には相変わらず愛も情も欠片も感じられなかったが、それでもサイは畳みかけた。
「ティーダが海に落ちた時、君はティーダの上空で戦うのを避けた。
あそこでバビを撃つぐらい、君にとっては造作もないことなのにね。
おかげで、ナオトもマユも、俺も助かったよ」
「本気で感謝しているのなら、私が暇な時にしろ。
今はミーティング中だぞ」
「君が暇な時なんてないだろ。ともかく、ティーダは助かった」
サイはさらに一歩を進め、フレイに正面から近づく。
フレイが思い切り頬を叩ける距離まで接近しながら、呟いた。
「ずっと気になっていたんだ……君の、あの時の行動。
でも、嬉しかった。君の中にまだフレイがいて、ちゃんと息をしていて、俺たちを守ってくれた──そんな気がして。
勿論、フレイが未だに俺に気があるなんて、露ほども思っちゃいないけどね」
訥々と語るサイの言葉で、ラスティが首を振りつつ、両手をあげる。
大仰ではあるが、否定とも肯定とも取れない、酷くあいまいな首の振り方。
「……せつねぇな」
その仕草と台詞が何を意味するものか、この時のサイには分からなかった。
フレイはラスティを軽く視線で制し、ついで冷たく答えを返す──
「ティーダの力はもう十二分に知っているだろう、アレはアークエンジェルとアマミキョをつなぐ鍵となった。
今後アマミキョを守る為にも、ティーダは不可欠だ。
とうに分かりきっていることを確認するな」
何処か気乗りのしない口調で、用意していた台詞をつまらなげに喋っている──
そんな感覚を、サイは彼女の声に感じた。
その声には、いつもの迫力が少しばかり欠けている。何かに失望しているが、その失意を何とか押し隠そうとしている声のようにサイには感じられた。
――フレイは、俺の何に失望したんだ?
俺がフレイの存在確認をしたことが、彼女にとってはそれほど不都合なことだったのか?
おかしい──いつもの俺なら、こういう人心の機微を読むのは比較的得意なはずなのに。
相手がフレイだというだけで、これほどまでに読めなくなってしまうものか。
フレイはそんなサイの心を知ってか知らずか、強引に話題を打ち切った。
「それより、船内の騒ぎを知らんのか。
喜べ、ユウナ・ロマ・セイランがアマミキョにご搭乗なされた。お前をお呼びだぞ」