【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「どういうつもりであの船を泳がせておくんだい、えぇ!?
あの船はオーブからカガリをさらい、オーブの運命を決める戦いを壊したテロリストどもだ! 放置するなら君らも同罪なんだよ、分かっているのかい!?」
オーブ軍人数名を引き連れてアマミキョに強引に乗り込んできたユウナ・ロマ・セイランは、可哀相なほど激情していた。
サイがナオトを連れてブリーフィングルームに入った時には、既にフレイ、トニー隊長、リンドー副隊長、山神隊がユウナの小言の嵐を聞かされていた。
必死で彼を宥めすかそうとするトニー隊長以外は全員、冷ややかな目でユウナを眺めている。それほどまでに、代表補佐の取り乱しっぷりは凄まじかった。
入ってきたサイを見るなり、ユウナは思い切り彼に駆け寄り、両腕を掴んできた。
「アーガイル君! 君なら分かるだろう、僕の気持ちが!
僕はカガリをあの忌々しきフリーダムに奪われた上、今またフリーダムとアークエンジェルに邪魔をされたんだ。
オーブを守る為に自ら出陣したというのに、しかもカガリの偽者まで現れて……!!」
「な……」
サイとユウナは勿論初対面である。なのにこれほどまでに馴れ馴れしく対応されるとは、サイも全くの予想外だった。
まさか、同じように婚約者を奪われた者同士、同情を誘おうってのか。わざわざ自分を呼んだのもその為か。
しかし彼が答えるより早く勢いよく叫んだのは、ナオトだった。
「アスハ代表は、偽者なんかじゃありません!」
ユウナの命令だからとサイに何十分も説得され、半分無理矢理連れてこられたナオトだが、その表情は勿論ぶすくれている。
ティーダに自分を乗せたのがカガリではなく、この大げさ極まりない高慢な男であったという現実が、ナオトの苛々をさらに増幅させていた。
「僕はちゃんと代表にお会いして、話もしました。あそこにいたのは間違いなくアスハ代表なんですよ!
僕に言わせればね、貴方のほうこそ代表の人気を利用した、偽の……」
そこまでナオトが言わぬうちに、サイが慌ててナオトの口を塞ぐ。
ナオトの言葉でさらにいきり立つかと思われたユウナだが、意外にも彼は若干表情を和らげ、舐めまわそうという勢いでナオトを上から下まで検分する。
「ほぅほぅ……そうか、君がナオト・シライシ君だったね。よく頑張っているの、知ってるよ。
ティーダのパイロット君がどうしているか知りたくて、来てもらったんだ。
やっぱり、テレビとはだいぶ印象が違うものだね」
ユウナに褒められても、ナオトはちっとも嬉しがらないばかりか、ますますふてくされて黙り込む。はっきりと子供扱いされたのが気に入らないのだ。
サイはその心情を察しながらも、ナオトを押さえながらユウナに謝罪する。
「申し訳ありません、彼は救助活動で気が立っておりまして。
長旅と戦闘でお疲れのところ、大変な無礼をお詫びします」
「言葉だけは受け取っておくよ」
サイの態度にユウナは一気に高慢さを取り戻し、壁でも吹き飛ばしかねない勢いでふんと鼻を鳴らす。
「そんなことより、君たちはアークエンジェルをどうするつもりなのかね、えぇ?
捕捉しておきながら何もしないでは、意味がないじゃないか! 今回だって、事前に情報が掴めていれば被害を未然に防ぐことも出来た!
アーガイル君、僕は君がキラ・ヤマトの友人だというから信頼したんだよ。君なら彼を止められると!」
見ようによってはパントマイムのようなコミカルに腕を振り回してユウナは叫び、しまいにはサイの胸に縋りつく。
その言動にも関わらず、ユウナが(不人気であるにしろ)代表補佐という役職についていられるのは、このどこか憎めない道化のような仕草による処も大きいのだろう──サイは感じた。
「お言葉ですが」沈黙を続けていたフレイが、ずいと一歩進み出る。
「アークエンジェルやキラ・ヤマトを止められるほどの戦力は、アマミキョには存在しません。
ご存知の通り、キラ・ヤマト操るフリーダムは、単機で戦局すら左右するほどのモビルスーツ。おまけにアークエンジェルは世界最強を謳われる戦艦で、現在は潜水機能まで備えております。
ザフトのエース級を次々に撃破したあのフリーダムの威容、貴公もご覧になったはず……
アークエンジェルを追跡可能となっただけでも、ありがたいと思って頂きたい」
「フレイ・アルスター!
あまりにも不躾ではないかね、その言い方は!?」
ユウナはさらに激昂し、今度はフレイに向かって指を突きつける。
「僕は君が最強の女性傭兵として、オーブの為に蘇ったと聞いたからアマミキョの護衛にしたんだよ。
なのに、何の役にも立っていないじゃないか! IWSPまで貸したというのに」
その言葉に、さすがに黙っていられなくなった風間曹長が口を挟んだ。
「セイラン殿。現在アマミキョ及びシュリ隊は、チュウザン本国においても、また派遣先においても、ほぼ予定通りの航行及び救助・支援活動を継続しております。
それは、アルスター嬢率いるアマクサ組の護衛による処が非常に大きく……」
「連合の方々は黙っていてもらえますかね」
ユウナは背を逸らし、並んでいた風間と時澤を見下げる。ちなみにユウナの背は、時澤軍曹を首1.5個分ほども超えていた。
ここに山神や伊能がいたのなら、ユウナの態度も変わっていただろうに──時澤が歯ぎしりするのが、サイにもはっきり分かった。
「これはオーブ国内の問題なんだよ、君たち!」
ユウナはさらにフレイに向き直る。「誰もアークエンジェルと戦えなどとは言っていない。
アークエンジェルの情報を掴めたのなら、通報する義務があるはずだ。君らはそれを隠蔽したんだ!」
「お伝えしたはずですが?」
フレイは全く動揺する様子もなく、しれっと言い放った。
ユウナの顔が真っ青になり、ついで真っ赤に変わる。
「な……っ!?
虚言を弄すようなら、今ここで僕が君を叩っ斬ることも可能なんだぞ!」
「こちらがアークエンジェルの情報を隠して、何の得があるというのです?
嘘と思われるのでしたら、直ちにアマミキョの全船監視システムを調べて頂ければよろしいかと。ログは残っているはずです」
自信に満ちたフレイの態度に、ユウナの方が今度は傲慢さを失う。
サイも感じた──フレイは嘘は言っていない。だとすれば、嘘を言っているのは。
思わず、ユウナの背後のオーブ軍人たちを見つめてしまうサイ。
ユウナの激しい視線もサイと同じく、彼らに注がれている。
非難と軽蔑の入り混じったユウナの目を見て、サイは痛々しさすら感じた。
軍人たちはただ状況が掴めず、お互いの顔を見合わせている。そこに嘘があるのかないのかまでは、サイには判断が出来なかった。
だが、ユウナは彼らを責めることはしなかった。というより、責めることが出来なかったのだ。
怒りに満ちたユウナの目が一瞬にして、縋りつく犬の目に変わる──
お前たちまで、僕を裏切るのか。お前たちまで、僕に嘘を言うのか。
そんな心情が手に取るように分かってしまい、サイはいたたまれずつい視線を逸らした。
しかしフレイはユウナの背に、容赦ない言葉をぶつける。
「おそらく内部で伝達が遅れたのでしょう──意図的なものである可能性も、否定しませんが。
どちらにせよ、軍という組織においては致命的だ。今一度、情報伝達の体制を確認されてはいかがかと思いますが」
「ち、違う。
きっと誰も信用しなかっただけだよ、戦闘への介入なんて……」
「では、我らが一命を賭してアークエンジェルを追跡したのは全く無意味だったということになりますね。
貴重な情報も、活用出来ねばただのゴミだ」
「違うよ、誰がそんなことを言ってる!」
ユウナは必死で取り繕ったが、既にオーブ軍内部で何が起こっているかは、サイだけでなくほぼ全員がおぼろげに理解していた。
部下と司令官との信頼関係という点において、現在のオーブ軍は壊滅的と言えた。哀れみにも似た空気が室内に充満する。
ユウナを眺めるオーブ軍人たちの目つきは、最初から冷ややかだった。
慣れない戦闘が続く中、おそらくユウナは彼なりに気を張っていただろう──味方であるはずのオーブ兵たちからもこのような、軽蔑の目で見られながら。
好きになれない男ではあるが、サイはその立場にいつしか同情していた。
よほどの鈍感でない限り、味方からのこのような蔑視には耐えられまい。味方に嫌われているその事実を理解しているからこそ、ユウナは荒れている。
「だいたい、ありえないだろ! 一国の代表が行方をくらまし、自軍の戦闘に介入するなど。あってはならないことだ!
例えそのカガリが本物だろうと、偽者として成敗するべきなんだ!!」
室内の空気も読まず、頭を抱えるユウナ。その姿に、サイは酷く萎れたものを感じ取った。
明らかにユウナは疲労している──でなければ、一応オーブ政庁では切れ者で通っていたはずの彼が、カガリを殺せなどと公然と口に出来るはずがない。
「そんな無茶苦茶な!」間髪いれずナオトが叫ぶ。「あんた、自分が何言ったか分かってるんですか!?」
「何も知らない子供は黙っていてくれたまえっ」
今度こそユウナはナオトに媚びることなく、怒声を浴びせた。
「無茶苦茶なのは奴らの方だろう。オーブを僕らに押しつけて、自分たちは雲隠れしたあげく戦争ごっこだと? そんな馬鹿が通用するほど、政は甘くないんだよ」
「戦争ごっこをしてるのはセイラン家じゃないか!」
負けじと叫ぶ幼い少年。
「連合におべっか使って、オーブを戦争に巻き込んで!
代表はそれが嫌だったから、あんたが嫌でたまらなかったから、あんたから逃げたんだよ!!」
言い分は分かるが、これはあまりにも暴言だった。サイは必死でナオトを押さえる。
「やめろ、ナオト!」
「やめませんよ! いい機会なんです、ここで言わなきゃ誰が言うんですか!?」
ナオトとユウナのヒートアップは止まらない。子供の言葉に本気で怒るほどに、ユウナは我を失っていた。
「子供だからといって、何でも許されると思うな!
僕は君を激励する為にわざわざ来たのに何だね、その態度はっ」
「嘘つくな! 僕らをお前の好きに操ろうったって、そうは――」
その瞬間――
室内に、鈍い拳の音が響き渡った。
頬を思い切り殴られ、ナオトの言葉が中断される。
「……!?」
場にいた者たちは全員、呆気に取られて目の前の光景を見ていた。
オロオロしているばかりだったトニー隊長も、事態を傍観していたリンドーも、風間も時澤も――冷徹ぶりを貫いていたフレイまで。
殴られたナオトは勿論のこと、ユウナも半分腰を抜かした。
最も驚いていたのは、サイだ──
何故なら、ナオトを張り飛ばしたのは、他でもない。サイ自身だったから。
ナオトとユウナの間に仁王立ちになったサイは、自らの行動に動揺しながらも静かに呟く。
「立場をわきまえろ、ナオト。
今の発言は銃殺ものだ」
ナオトを殴ったばかりの拳は腫れ、震えていた。
サイに殴られた──その事実に、何も言えなくなったナオト。
そんな彼に背を向け、サイはユウナに向き直る。そして直ちに、足元に頭を伏せた。
「自分の監督不行き届きです。
二度までも大変な非礼をはたらいたこと、お詫びさせていただきます」
土下座の体勢を一片たりとも崩さず謝罪するサイに、ユウナも少しばかり冷静さを取り戻した。
「いや、すまない。
頭を上げてくれたまえ……僕も言いすぎた」
このような態度を取られるのは久しぶりだったのか、ユウナは姿勢を崩そうとしないサイに対して慌てふためいてすらいる。
「カガリを殺そうなんて、とんでもないよ……僕こそ銃殺ものだ。
戦いというのは、皆を狂わせるものなんだね……」
緊張が若干解けたこの瞬間を逃さず、フレイが声をかけた。
「セイラン殿──貴公は若干お疲れのようだ。
少しアマミキョで休まれてはいかがですか。今なら最上級のココアもご用意出来ます」
サイの心を見抜いたかのようなフレイの言葉。
少しばかり調子を取り戻したユウナは、またも仰々しく手を上げた。
「是非、そうしてもらいたいものだね」
――その時だった。
ルーム内に警報と、マイティの悲鳴が響き渡ったのは。
《ワルシャワより緊急入電!
正体不明の大型モビルアーマーが、ロシア方面より進撃中! ザフト駐留中の都市を中心に、被害が拡大しています!!》
全員が一斉に顔を上げる中、ユウナは一人、喜び勇んで拳を突き上げた。
「おぉ……やったぞ!
これぞ、連合の逆襲だ!!」