【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 やっつけなきゃ こわいものは ぜんぶ

 

 

 ベルリンより東へ約200キロ、ノテチ川の流域をアマミキョは飛ぶ。

 ひどく重い黒雲のたちこめる中、マイティとアムルの声がブリッジ内を交錯する。

 

「状況、出ました。

 現在、アンノウンは9都市を壊滅させ、ベルリンへ向かっています」

「ポズナニの連合軍との通信、未だ回復しません! 

 んもう……どうしてこんなにジャマーが強いの?」

 

 アムルが苛々と唇を噛んだその時、サイとリンドーがブリッジに戻ってきた。

 その後ろから、当然のようにユウナも堂々と入ってくる。一同は仰天したが、ユウナは意気揚々と言い放った。

 

「心配することはないさ、皆の衆。

 これは、オーブと連合にとっては大チャンスなんだよ──ザフトに蹂躙されてカオス状態だったユーラシアを、一気に取り戻せるんだ。

 あの戦略兵器・デストロイで!」

 

 いかにも物騒な名のついたその兵器を、さも自分が開発したかの如く喋るユウナ。そんな彼を、全員が訝しげに眺めていた。

 戦略兵器などというのは彼なりの過剰形容だろう──そう判断したサイは、通信を続けようとする。

 だがそんなサイの左肩を、ユウナが抱きつくように押さえた。

 その象徴ともいえるもみ上げが、頬にかかる。さすがのサイも、これには鬱陶しさを感じずにはいられない。

 

「これで君たちの仕事も、ぐんと楽になるはずだ。

 もうヨーロッパで、ザフトに襲われることもなくなる!」

 

 さらにサイの右側にいつの間にかやってきたリンドー副隊長が、その耳にボソリと呟いた。

 

「ティーダはどうなっとる?」

 

 これが両方女の子だったら、どれほどマシだったか──

 サイはちらりと不謹慎なことを考えたが、すぐに答える。

 

「現在、アマクサ組と共に半径50キロ以内を調査中です。

 しかし、ニュートロンジャマーの影響が酷く、ティーダのシステムをもってしても通常の通信状態を保てない状況です。

 先行している山神隊との連絡は、既に途絶しています」

「だろうな」

 

 リンドーは呑気なのか苛ついているのか分からない口調と共に、鼻毛を抜く。

 

「知っとるだろうが、ここより北東僅か100キロの地点は、あのニュートロンジャマーが集中的に撃ち込まれた地域──

 だからこそ、ティーダの通信機能が不可欠になる」

 

 ブリッジを、少しばかり沈黙が支配した。

 ここが、かつて大災害を引き起こし、今なお戦乱の引き金となっている「ニュートロンジャマー」の在り処の一つ──人類史上、最も大きな傷を負わされた地。

 

 サイはモニターごしに、眼下の風景を見る。

 黒雲の下、丘のように低い山々が幾つも連なっている。その間をぬうようにして河が走り、河に寄生するカビのように村が点在していた。

 山麓あたりにわずかに見えたものは、破壊し尽くされ復興の兆しも見えない、古い都の跡。

 

「ニュートロンジャマーは簡単に言えば、大地を破壊しつつ地中へ潜るドリルだ。

 強力なヤツは今も潜り続け、その影響で予想外の地殻変動を絶えず引き起こしている。

 この地方にゃ元々、森しかなかったんだがな──おかげさんで、住民の趣味は森のハイキングから山登りになっちまったそうだ」

 

 リンドーに続いて、ユウナが得意げに説明する。

 

「この辺りは戦略上重要拠点だ。元々連合の勢力が強かった処に撃ち込まれた、忌々しいドリル――だが連合の抵抗もなかなかのものでね、さすがのザフトも手を引かざるを得なかった地域なんだよ。

 一番大きな理由は、これほどの大規模な地殻変動をザフトが予測出来ていなかったことにもあるけどね」

「地上を舐めた、若い奴らのやりがちなミスだよ。

 尤も、ザフトも諦めたわけじゃないがな。ナチュラルに対するテロは絶えないときく」

「それも散発的なものですよ、副隊長」

 

 ユウナは胸を張った。「デストロイで、そいつらも一掃出来るはずです」

 

 そう簡単にいくだろうか。ユウナの能天気さに一抹の不安を覚えつつも、サイはティーダとの通信を継続する。

 ナオトの不安定な精神状態が、サイには気がかりだった。自分が殴ったことで、ナオトは多少目を覚ましてくれるのか、それとも。

 標高300mにも満たない、低い山々。その陰に隠れるようにして低空を航行するアマミキョ──

 ティーダはその直上を飛んでいた。但し、電源ケーブルつきで。

 

 

 

 

「どうして、山の向こうに行っちゃいけないんですか!?」

 

 アマミキョとケーブルで繋がれたティーダの中で、ナオトは喚く。

 途切れ途切れの通信で、サイの冷静な答えが返ってきた。

 

《ジャマーの影響が強すぎるんだ。ティーダの通信機能でも、これだけ信号が乱れてる。

 山神隊とも連絡取れないだろう?》

 

 ティーダのすぐ横を飛んでいたアフロディーテが、ゆっくりとティーダの右腕部に機体を接触させる。フレイの通信が割り込んできた。

 

《今最重要なのは、ティーダの通信機能だ。

 山向こうで何が起こっているのか、ここで可能な限りの情報を精査した上で、データをアマミキョに持ち帰る──それがお前たちの役目だ。

 うかうか直接向こうに行って撃墜などされては、困る》

「だからって……」

 

 ティーダの背部から尻尾のように生えたケーブルが、ナオトには気分が悪かった。「こんなケーブル、つけたまんまじゃ……」

 

 アマミキョ側でティーダのケーブルを引っ張りつつ通信状態を維持しているのは、ソードカラミティだった。甲板の上に直接立ちながら、ケーブルを支えている。

 カイキの怒鳴り声が、ぶつ切れながらもコクピットに響く。

 

《この状況じゃ、ティーダの通信機能だけで1分でバッテリー上がっちまうんだよ! 

 説明聞いてなかったのかっ》

「分かってます! だけど、もっと他にやり方が」

 

 その時、前席でじっと黙りこくっていたマユが突然叫んだ。

 

「ナオト、黙って! 

 何か聞こえる!」

 

 言われて、ナオトは我に帰る。

 今、操縦系統の7割はマユに委ねられていた。

 バイザーごしに覗く彼女の横顔に、いつもの能天気さは無い。マユの膝の間の黒ハロは、両耳を立てたまま静止している。

 モニターで確認出来るものは、次第に荒ぶる空と、連なる黒い山々だけだ。

 

「何も見えないよ、マユ……静かなだけで」

「誰かが、叫んでるの。

 ……やっつけなきゃ……こわいものは……ぜんぶ」

 

 ナオトはマユが何を言い出したのか、理解出来なかった。

 元々彼女の言動は不思議なことだらけだったが、今のはいつもと少し様子が違う。

 

 

「やっつけ……なきゃ……

 こわい、ものは……」

 

 

 メットにそっと左手をあて、マユは呟く。

 誰かがマユを乗っ取りでもしたかのように、その目は焦点が合っていない。

 

「マユ、どうしたの? 

 マユ……!?」

 

 ナオトが異常に気づいて、マユの肩に手を置いたその瞬間──

 地形を表示していたディスプレイが一気に染まる。熱源を示す、鮮烈な紅で。

 心を揺さぶる雷光が、ティーダを切り裂かんとして轟く。

 それに負けじと、少年は叫んだ。

 

「目標、捕捉しました! 三時方向、距離は──」

 

 だがナオトが早口でまくしたてるよりも早く、天空を割るが如くの轟音が空域を襲った。

 コクピットに乱舞する警告音。

 同時に、マユが絶叫した。

 

「い、嫌あああああっっ……怖い、怖い、怖い! 

 ……コワイ?」

 

 ティーダそのものには何らの物理的被害はなかったのだが、それでもマユは身体中を掻きむしり、シート上で暴れ出す。もはや操縦どころではなかった。

 

《マユ! どうしたっ!?》

 

 ナオトが慌てて声をかけるより早く、カイキがマユの異常に気づいて通信に割り込んだ。

 ケーブルが引っ張られる──ナオトは後席から何とかマユの両肩を押さえ込んだが、それでもマユの狂乱は止まらない。

 

「怖い、こわい、コワイ……

 何で? どうして、こんな風に感じるの? 

 ナオト、お兄ちゃん、サイ、助けて、助けて……

 こんなの嫌だよ、痛いよ。こんな嫌なもの、感じたくないよ!」

「マユ! お願いだ、落ち着いて!!」

 

 メット同士がぶつかる痛みを感じつつも、ナオトはマユを押さえ込む。

 柔らかな少女の肩の肉が、スーツごしに感じられた──

 だが同時に、ナオトの脳裏を閃光のように、何かが駆け抜けていく。

 見えないはずのものが、見えてくる。

 

 

 

 それは、光が織り成す破壊の光景だった。

 逃げ惑う人々を、容赦なく薙ぎ払う光。

 生きとし生けるもの全てを焼き尽くし、蹂躙する光。

 これは何だ? 僕の頭に展開されるものは何だ? 

 どうして僕が、見られないはずの光景を、こんなに近くで感じている? 

 

 

 ナオトの眼前で、なすすべもなくゴミのように爆散していくモビルスーツ。

 ナオトの眼前で、何も出来ずに吹飛ばされていく子供。

 

 

 幻にしては強烈すぎる感覚と光景が、ナオトの脳を刺激する。

 同時に襲ってくるものは、自分は何も出来ない、無力感。

 

 

 マユの叫びはなおも続いていた。

 彼女はおそらく、これと似たような光景を見ている──ナオトよりももっと強く。

 

「マユ、しっかり!」ナオトの叫びは虚しく響くだけだった。

 そして次の瞬間、突然別の感覚がナオトに襲いかかる。

 

 

 ──やっつけなきゃ……こわいものは

 ……ぜんぶ! 

 

 

 それは、光の中から突出した、憎しみと恐怖。

 消えていくものたちの命の残骸を突き破って、恐怖の感覚がティーダを刺す。

 

「駄目だ!」

 

 ナオトは殆ど本能から絶叫したが、届くはずもない。

 空が一瞬光に包まれ、ディスプレイには再び紅の円が表示される──

 ナオトの頭の中で、幼い少女が、赤ん坊を抱いた母親が、彼女たちを庇おうとしたザフト兵が、四肢をちぎられ、塵も残さず焼かれていく。

 

「ぎ……

 ぎゃ、あ、ああぁああぁああぁっ!?」

 

 同時に少年を襲ったものは、両腕と両脚を胴体から引きちぎられる痛み。

 全身を焼かれる熱さ。

 一瞬で血が沸騰し、血管が爆発する。内臓が粉砕される──

 心臓が逆流し、0.5秒後に元に戻り、何回かそれを繰り返した末、心臓としての機能を喪失し、やがて動きを止める。

 肺が潰され、脳に酸素が回らなくなり、視界が闇に覆われる──

 どういうわけか、たくさんの人々の声がする。

 

 

 あぁ、僕、死ぬんだ。

 私、今、死ぬんだ。

 俺、何でか知らないけど、死ぬんだ。

 熱い、痛い、潰される、苦しい、息が出来ない、助けて、どうして──

 

 

 死に至るであろう様々な激痛が、ナオトを襲う。

 いずれの痛みも一瞬で終わったが、少年は直感した──

 

 

 僕の身体に、今、たった今、死んだ人たちの痛みが流れ込んだ。

 幾つもの命がゴミのように扱われ、消えていく。その感覚を、ナオトはティーダを通じて強引に味わわされていた。

 

 

 

 ふと見ると、マユは既に目を剥いて、口から涎まで流している。

 気絶すら許されず、見えない縄に全身を縛り上げられたように引き攣るマユの身体。

 

「いや……あ、あぁ……

 嫌、嫌、助け……苦しい……」

 

 操縦系の殆どをマユに任せていたことに、ナオトは思い当たった。

 ――だとすれば、彼女を助けるには。

 咄嗟にナオトは前席へ強引に身を乗り出し、コンソールパネルに手をやった。見よう見まねで、コントロール・プログラムを開く。

 

「ティーダはこれより、メイン操縦系の90%をナオト・シライシへ移譲します!」

 

 途端、カイキの怒声が飛んできた。《何言ってんだっ、このドアホ!》

「こっちの台詞です! 

 今度あの光が来たら、マユは死にますよ!!」

 

 未だに慣れない手つきでパネルをいじるナオト。

 操縦系再構築にかかった時間は、15秒。マユの速度の3倍かかったが、それでも全てのプログラムの転送が終了した瞬間、マユは呪縛から解き放たれた。

 縄を突然解かれた奴隷のように、少女はがくりとうなだれ──

 そしてその痛みは、マユの上に馬乗りになった形で操縦するナオトに、そのまま移動することになった。

 

 

 

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