【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 閃光のステラ

 

 

 アマミキョブリッジでは、ユウナが唖然としてモニターを眺めていた。

 ティーダから送られてくる熱源情報、その意味を悟って。

 

「何だ……この破壊は」

 

 マップ上に何度も円を描いて広がる、紅の熱源。

 実際の光景が出ずとも、サイを始めとして全員がその状況の残忍さを理解していた。山の向こうで行なわれている破壊が、どんなものかを。

 サイたちのサポートの為に、ブリッジにやってきたカズイが呟く。

 

「こんなもの……戦争じゃない」

 

 アムルがそれに答えるように吐き捨てた。「世界を滅ぼす気なのよ、連合は」

「敵味方、お構いなしやな」

 リンドー副隊長がオーブ西方訛りを出しながら、ユウナに尋ねた。「これが連合の逆襲ですか? 若殿」

 

 飄々としながらも辛らつなリンドーに対し、ユウナは意味のある回答が出来なかった。

 

「違う……

 僕はこんな話、聞いてない」

「2年前のサイクロプス事件はご存知でしょうな? 

 ブルーコスモスはコーディネイター殲滅の為なら、何でもやる連中ですよ」

「リンドー副隊長、貴方が連合を嫌悪するのは分かります。

 オーブの国民の殆どが、連合に与することをよしとしない事実も、僕は把握している」

 

 ユウナは突きつけられた現実に錯乱しかけながらも、何とか平常心を保とうとしていた。

 

「だけどね。この連合に逆らえば、もっと酷い目に遭わされる。

 2年前に分かっているんですよ、僕らは……証人がいるでしょう、そこに」

 

 ユウナはちらりとサイに目をやった。

 そのサイはユウナと副隊長のやりとりに気づいてはいたが、それよりもナオトとの通信で手一杯だった。

 

「ナオト、何やってる! これだけ操縦系をいじったら……」

《マユが危ないんです! サイさんは何も感じなかったんですか!?》

 

 その叫びに答えるように、カタパルトで待機中のミゲルが通信に割り込みをかけた。

 

《すまない、フィードバックシステムの不具合だ。

 ジャマーの強さに比例して、ティーダの索敵能力は自動調整される。だが同時に、パイロットへのフィードバックも強くなっちまうんだ》

「手動でフィードバックを弱めることは出来ないんですか? 

 このままじゃ、ナオトもマユも発狂する!」

《今の状況じゃ無理だ、システム低下はそのままティーダの機能低下を意味する。

 俺たちはいつ吹っ飛ばされるか全く分からん暗闇ん中を飛ぶことになるぞ、いいのか?》

 

 ティーダコクピットからのマユの悲痛な叫びはようやくおさまりかけていたが、代わりにサイはミゲルの言葉の後ろから、彼女のかぼそい呟きを聞いた。

 途切れ途切れの上、殆ど意味をなしていない言葉だったが、サイはやっとのことで、これだけを聞き取った。

 

《だから……人を怖がっちゃダメって、言ったのに。

 ステラの……馬鹿》

 

 

 

 

 

 

 ナオトの脳裏に閃いた感覚は、次第に研ぎ澄まされていく。

 それはナオトが、地獄を感じることを意味していたが。

 

 少年が感じたものは、明日を信じていた人々の心。

 明日、新しいコーヒーポット買いに行こう。

 明日はあのライブチケット、買えるかな。

 明日、会社行きたくないな。

 明日、このお弁当、彼は喜んでくれるかな。

 明日は久々に、息子とドライブだ。

 明日、あの娘にきっと告るんだ。

 明日、店長シフト変えてくれないかな。

 明日はきっと、このプログラムを完成させてやる。

 明日、おじいちゃんに縫いぐるみ買ってもらえるかな。

 ──明日こそは、晴れるといいな。

 

 マユによく似た可愛らしい少女がナオトの中ではしゃぎ、サイによく似た優しげな青年が笑顔で空を見上げる。

 ネネやオサキたちにそっくりな女性たちが小鳥のように笑い、フーアやアイムを思わせる大人たちが、ナオトによく似た子供を諭す。リンドーに似た老人たちが、とぼけながらも孫を抱く。

 

 それらの人々の体温を、心を、ナオトはほぼ同時に全て実感していた。

 この不可思議な現象がティーダの「フィードバック」機能に起因することをナオトはおぼろげながら理解していたが、人の温度はそれを忘れさせるほど圧倒的質量をもって、ナオトの心に入り込んでくる。

 そして、彼らの思い描く「明日」が全て、たった今、この数秒で塵となって粉砕された現実を、ナオトは同時に感じた。

 

 明日はない。

 この人たちにはもう、明日はない。

 

 この人たちはたった今、腕を飛ばされ、脚を潰され、首が落ち、お腹の子供と一緒に腹を割かれ、蹂躙され、焼かれていった。

 明日がなくなったという事実を認めることすら出来ず、または認めようとせず、認めたくなく、認める間もないまま、ただ次々と永遠に消えていく意識。

 それらの意識の最期の痛みが今、ティーダに一斉に襲いかかった。

 ──主に、強引に操縦系を切り替えたナオトのもとへ。

 

 ナオトに対して虚しさをぶちまけるように、消えていく人々はその痛みを少年へ焼きつけ、刻印していく。

 ナオトが目をつぶろうと耳を塞ごうと、痛みは光を伴ってその心を襲い、命を焼く炎の音は精神を揺さぶり続ける。

 マユの腹が光の刃で真っ二つに寸断され、つい数瞬前まで子供たちにスープを飲ませようとしていたサイが両腕を飛ばされ、血を吐き、光に飲み込まれていく。

 弟たちを励ましていたカガリの首がもげ、恋人と共にやっとシェルターまでたどり着いたミリアリアの両脚が、胴体から分断される。

 気が狂うかというほどの光の中で、ナオトに流れ込むおびただしい断末魔。

 

 ナオトはその向こうに、怯え続ける魂を見た。光の発生源を。

 炎の中心にいる魂──人に怯え、死の恐怖に竦み、ただ震えて泣き続け、助けを求める少女の魂を。

 その少女の存在を感知したことで、ナオトは正気と狂気の境目でどうにか踏みとどまることが出来た。

 猛然と沸きあがった彼女への感情が、ナオトを流されるままにしておかなかったのだ。

 

 ――ただしその感情は、彼女への同情などではない。助けたいという想いでもない。

 少年を一気に支配したものは、ただ、彼女への激昂。

 好き勝手に暴れ続け、刃を振り回す獣に対する怒りだった。

 

 

「……何だ、それ。

 絶対、許さない……!」

 

 

 ナオトは呟く。

 その不気味な呟きは、気絶しかけていたマユをも揺り起こした。

 

「ナオト、ダメ! 

 ……ステラは、怖がってるだけなんだよ」

 

 だが既に、マユの言葉すらナオトには効かない。

 

「怖がっている? 

 人を馬鹿にするな! 人が怖かったら、人を殺してもいいのかよ!?」

 

 全身の筋肉を引き攣らせるほどのナオトの叫びが、天空に轟く。

 

「怖いから、むかつくから、世界が嫌だから、生きていたくないから? 

 ふざけるな!! だから人を殺すのかよ!?」

 

 バイザーを割る勢いで、ナオトは唾と汗をメット内にいっぱいに飛ばして全身を怒りでたぎらせる。血管を破り、その血で光の根源を突き刺そうとするように。

 アマミキョから、カラミティから、サイとカイキの声が交錯したが、ナオトには何も聞こえていない。

 

「お前の恐怖なんか、知るか! 

 どんな理由があろうと、人をこんな風にゴミみたいに吹き飛ばして、許されるわけないだろう!」

 

 叫びと共に、ティーダが強引に前方への飛行を開始する。

 アマミキョとティーダを繋いでいたケーブルは、その無茶な機動でいとも簡単に引きちぎられた。

 

「許さない、許さない……

 絶対、許さない!」

 

 ナオトは炎の中心の少女に絶叫する。

 その心は怒れる魂となって、ひたすら少女に殺到した。

 怯えきった少女の心はティーダに確かに届いていたが、残念ながらナオトには、そのか細い叫びに耳を傾けるほどの精神的キャパシティはなかった。

 

 助けを求める孤独な少女の涙は、逆にナオトの怒りを誘発させる結果となり──

 羽より軽いナオトの理性は、業火によって灰も残さず飛ばされてしまったのだ。

 

「死ね、死ね、死ね、死ね! 

 自分のエゴだけで人を踏み潰す奴は、みんな死んでしまえ!!」

 

 涙と共に、ナオトは咆哮する。

 僕の感じた人たちは、恐怖を感じる暇すら与えられずに消えてしまったんだ。

 死に際の言葉も、感情も、痛みも、殆ど感じられないままに! ただただ、子供みたいに暴れ続けるお前の犠牲になって!! 

 

 不幸なことに、その感情もまた──ティーダを通じて、少女まで達してしまった。

 デストロイに強引に閉じ込められ、ひたすら破壊を繰り返す力なき少女、ステラ・ルーシェにまで。

 ナオトの感情が伝わり、少女の恐怖が一気に剥きだしになる。

 ティーダとアマミキョに向かって。

 

 

 

 怖い、怖い、怖い、こわい、こわい、コワイ、コワイ、コワイコワイヤメテタスケテキエロコワレロコワイコワイヤメテイタイクルシイタスケテネオタスケテイタイイタイコワイキエロコワレロコワイコワイイタイキエテタスケテクルシイアツイイタイオボレルコワイコワイコワイコワイネオサビシイタスケテコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイココココココココココココココココココココココアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああぁ

 

 

 

「うるさいっ! 

 お前なんか、消えてしまえぇええええええええええええええええぇえええぇっ!!!」

 

 

 ナオトがステラの心を完全否定した、その瞬間──

 ディスプレイに表示されたマップに、再び紅の円が広がる。激しい警告と共に。

 

 

 

 

 

 

 暴走するティーダを止めたのは、フレイのアフロディーテだった。

 ティーダの右脚部を強引に抱きかかえるようにして、機体を止めた女神(アフロディーテ)

 ──そして回線を通じて、フレイは自分たちの危機を悟った。ティーダパイロットたちよりも早く。

 

「アマミキョ、回避だ! 

 三時方向に高エネルギー反応!」

 

 

 

 

 

 

 ブリッジでフレイの声を聞きつけたリンドーは、咄嗟に反応していた。

 

「取舵! 

 出力最大、対地角度を35度に修正、降下しつつ回避だ!」

「落っこっちまうよ!」

 

 回避という言葉に戸惑った操舵士・オサキに、サイは叫ぶ。

 

「構わない! 直撃よりマシだろ、全員衝撃に備えて!」

 

 サイは無意識のうちに船内オールで叫んだ。リンドーとユウナに、出すぎた真似をした──

 との謝罪をこめ、目配せしながら。

 

 この時、リンドー以外のクルー全員は、自らに迫った危機を実感していなかった。

 戦闘が行なわれているのは山の向こうだ、だから自分たちは大丈夫

 ──自分たちは救助部隊だ、戦闘には関係ない。山が自分たちを、惨劇から守ってくれるはず。

 そんな油断を、クルーの誰も彼もが何処かに宿していた。直撃の可能性を示唆したサイですらも。

 

 だが次の瞬間、クルーたちの眼前で、その山はいとも簡単に爆砕された。

 空の向こうで肥大しきった、光の波によって。

 

 黒くそびえたち、アマミキョの防壁となっていたはずの山々が、大量の土くれと木々とを天空に噴き上げて木っ端微塵になる。

 山までが、兵器で吹き飛ぶ──その信じられない光景に息を呑む暇もなく。

 サイたち全員を、光が包み込む。全員が、惨劇の舞台に引きずり出される。

 モニター中が熱源を示す紅で染まりきり、ブリッジを満たした壮絶な悲鳴は警告音でかき消される。

 さらに彼らを襲ったものは、命そのものを揺さぶる衝撃。

 

「いやああぁ! 

 嫌っ、死にたくない、助けて!」

 

 マイティがオペレーターの役目も忘れ、髪を振り乱し叫ぶ。

 カズイも悲鳴をあげながら、光から出来る限り自らを隠そうとして、反射的にアムルの後ろに隠れてしまう。

 こんな重い衝撃はアークエンジェルに乗っていた時は勿論、アマミキョに乗ってからも一度もなかった。自分の足下の床が、間もなく熱で盛り上がり、自分と共に炎となる悪夢が、サイには見えた。

 混乱の中、それでもサイは叫ぶ。

 

「左翼、第二エンジン損傷! 

 メインA、D、Gブロック、コントロール、電気系統に被害が拡大しています! 

 主電源自動停止まで、残り3秒……」

 

 サイが皆まで言い切ったその瞬間、ブリッジの電源が落ちた。

 彼らの生命を頑丈に守ってきたアマミキョのシステムが落ち、狂気に満ちた圧倒的な光がアマミキョを襲う。悲鳴も、衝撃も、痛みも、全てを飲み込んで。

 オサキが必死で舵を振り回し、アマミキョの船体と格闘するのがサイの視界にちらと入り──

 次の瞬間、暗闇の中でサイの身体は、見えない衝撃に吹き飛ばされた。他の多くのクルーたちと共に。

 

 

 

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