【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 ジンの急襲

 

 

 強烈な縦揺れ。

 その場でシートベルト未装着の者は全員、突然の衝撃によって身体を宙に浮かせた。

 ナオトも勿論例外ではなく、ブリッジの天井と床に見事に1回ずつ身体を打つハメになった。

 慌てて彼をサイとアイムが支えた瞬間、ブリッジ前方からオペレーター・ディックの叫びが響く。黒い肌に白目の面積が多めの眼球を持つ、童顔の19歳。

 

「居住区画、第14ブロックで爆発です! 

 被害状況不明、モニター転送します」

 

 ブリッジの緊張が、一気に高まった。

 爆発? 事故? テロ? ゲリラ?  

 まさか、コロニーで? 

 

 揺れる船は心の動揺を呼び、さまざまな感情が一瞬のうちにかけめぐる。

 船のほかの区画も同じだろう。サイはナオトを落ち着かせて、床を蹴ってブリッジ前方へ文字通り、飛んだ。

 アマミキョのブリッジは、やはりアークエンジェル同様に外へむき出しの形となっており、大きくスペースを取ったフロントガラス(にも似たメインモニター)から、180度外周が見渡せる。

 勿論今は格納庫の四重シャッターしか見えないが、メインモニターの一部が早速次々と切り替わり、ウーチバラの各区画を映し出した。

 

 

 そのうちの一つに今、巨大な火柱が映し出されている。

 

 ──不安が、現実になった。

 

 

 サイはモニターの中の、青空を汚す黒煙と紅蓮の炎を見ながら奥歯を噛みしめ、所定の位置に飛び込んだ。

 アマミキョでサイに与えられた役割はメインオペレータ。3名いるうちの一人である。

 黒煙の中心がズームアップされ、早速隊長トニーの焦り満々の怒号が飛んだ。

 

「漏電かガスじゃないのか。本当にテロなのか!? 

 被害状況は!」

 

 サイの隣席の女性オペレータ、ヒスイ・サダナミが悲鳴を上げる。

 

「分かりません……現在調査中です」

 

 いつもはおっとりとして目立たない、物静かな黒髪の女性であるが、さすがにキーボードを操る手が震えている。勿論、彼女に戦艦のオペレート経験はない。

 

 ドミニオンに乗ってたっていう「あいつ」のほうが、よほど役に立つだろう。

 サイはつい思い──自分を笑う。

 また、あいつだ。女を見るといつもこうだ。

 どこまでいってもあの娘しかないのか、俺は!  

 

「おいでなすったか」

「やはり、ですねぇ」

 

 副隊長と社長だけが、状況を冷静に眺めている。

 トニーの怒号はまだ響く。

 

「みんな何してる、とっとと持ち場につけ! 急げよ!!」

「急げって……どこにだよ」

 

 床に這いつくばりながらのカズイの呟きを、聞くものはいない。

 

 ナオトたちテレビクルーも、何とか手すりにつかまり体勢を整える。

 その間にもたて続けに震動が襲いかかり、映像の中の炎が二つ、三つと増え――

 ついに火柱を映し出していたモニターが受信不能となり、光の砂嵐となる。

 

「駐留中のオーブ軍より緊急連絡です! 

 地下32番格納庫付近より、モビルスーツ3機確認!」

 

 ディックがさらに上ずった声で叫ぶ。

 ヒスイほどではないが、ディックもオペレートにはそこまで慣れていないようだ。

 社長はいかにも軽い調子で言ってみせる。

 

「はいはい、わっかりましたよオーブさん」

 

 それが虚勢なのか余裕なのか、サイには判断が出来なかった。

 社長と副隊長はまたも二人だけの会話をする。

 

「思ったとおりだ。あそこの住民を半強制的にでも退避させといて正解でしたよ」

「さすがはアマクサ組の読みだ」

 

 アマクサ組。簡単に言えば、アマミキョ護衛のための傭兵部隊。

 サイは名前と存在だけは把握していたものの、未だその全貌を知らされていない。それにしても──

 人のいる場所が現在進行形で大量に破壊されているというのに、何が「さすが」なのか。

 

 その一方で、隊長たるトニーの反応は分かりやすかった。

 

「モビルスーツ……だってぇ!?」

 

 またも悲鳴を上げ、サイの席まで来て拳でシートを叩くトニー。

 

「ザフトか、連合かっ、何機だ!? 迎撃はどうなってる!!」

「先ほど申し上げました、3機確認です。

 侵入経路不明、オーブ駐留軍、チュウザン軍共に出動しています。

 回線14は駄目だ、17を。頼みます」

 

 サイは素早くキーボードを操り、ヘッドホンでウーチバラ管制室と直接連絡を取る。新たな映像がサイのモニターへ回される。

 映し出されていたもの

は、既に真っ黒になり塵と化した商店街と信号と車の残骸と、燃えさかる炎。

 そして──

 

 

「ライブラリ照合確認、モビルスーツ、ジン!! 

 宙港区画より1.3キロ地点っ、リュウタン広場付近です!」

 

 

 メインスクリーンに映し出されたものは、ジン――

 頭部から突き出した特徴的なトサカ、全身を覆う巨大な翼。

 ザフトが開発した、世界初の汎用量産型モビルスーツだ。

 今では大分型落ちになってしまったが、それでも人々の目には十分脅威に映る。

 

「管制より連絡! 

 ジン3機全機、32番格納庫に収納されていたものと同一ですっ」

「この間の、賊どものやつかよっ!」

「とっとと解体しときゃよかったんだ、軍の間抜け野郎どもが」

 

 鈍く光る単眼のカメラアイがモニターごしにブリッジクルーを睨んだ瞬間、激しく画面が歪み出した。

 

「電波干渉!?」トニーが叫ぶ。

「戦闘行為ってこと……? こんな処で?」

 

 フーアが茫然としながら、ノイズだらけになるメインスクリーンを見つめる。

 桃色にきれいにネイルアートされた爪が、手すりに食い込んだ。

 そんな彼女を、社長がそれみたことかとばかりに嗤った。

 

「言ったとおりでしょう? だからこそ僕は最初、取材をお断りしたわけですが。

 公平中立を謳うジャーナリストとして身をたてるおつもりであれば、自衛手段を考えてください」

 

 そのままフーアとの会話を打ち切り、ムジカ社長はブリッジ前方へと移動した。

 

「隊長、非常措置だ。全作業を一時中断しフェイズRに移行。ディックとヒスイは船内状況の確認。

 それからサイ、全区画に緊急連絡。船内警戒態勢をレベル5へ。

 ……ふむ、マニュアルってこれで良かったですかね、トニー隊長?」

 

 トニーは一瞬面食らった。

 ここで社長にてきぱきと全ての指揮権を握られていたのでは、隊長の面目は丸つぶれである。そこまで読んで、社長は隊長に敢えて声をかけたのだ。

 トニーの顔色がさらに真っ赤になる。一瞬でも静かになってくれるのはありがたいとサイは思った。

 社長はさらにサイとナオトのそばに寄り、囁いた。

 

「サイ君。君ならどう思う? この出方」

 

 軍務経験のある自分だからこその、この社長の問いかけだろうか。

 サイは船内全区画に通じる回線を開きながら答える。

 

「この宙域に必ず、ジンを補佐する母艦がいるはずです。

 管制からはザフト艦からの警告があったと聞きましたが」

「鎮圧の為に攻撃部隊をよこしたらしいよ、ご親切に」

 

 それを聞いて、カズイが真っ青になって叫んだ。

 

「まさか! 

 またザフト絡みで戦争になるんですか。

 しかもここが戦場になるってんですか!? 勘弁してくださいよ」

「カズイ、落ち着け」

 

 サイはあくまで冷静さを保とうと、社長との会話を継続する。

 

「オーブとチュウザン軍だけで対処は出来なかったんですか。

 ザフトが介入してきたらややこしくなります」

「僕に言われても困るよ、決めるのは軍だ」

 

 サイは、さらに声を潜めて社長に言った。

 

「それから……

 考えられるのが、ミラージュコロイド艦による奇襲。

 モルゲンレーテで噂に上ってました。連合が開発したとか」

「さすがはヤキンの生き残り。君がここに来てくれて良かったよ」

「だとしたら、管制は大混乱ですよ。熱紋照合が出来なければ……」

「早急に決めつけることはない、問題は奴らの狙いだ」

 

 刻々と変化するモニターの表示を見ながら、社長はサイの肩を叩く。

 するとそこへ、ナオトが割り込んできた。耳ざとくサイの言葉を聞きつけて。

 

「ミラージュコロイド!? 

 そんな、あれって条約違反になったんじゃないですか!? 

 冗談じゃないですよ、それじゃ条約なんて無意味じゃないですか。

 やっと戦争が終わって条約が結ばれて、僕があの時必死でレポートしたのはなんだったんですか!!」

「君も声大きいよ、静かに」

 

 ナオトを諫めつつ、サイは回線へと通じるスイッチを入れた。

 

「船内の皆さんに緊急にお伝えします。

 先ほど、ウーチバラ居住区画第14ブロックで爆発が発生しました。現在オーブ駐留軍および管制室と協力体制をとり、状況を確認中です。

 なお、所属不明のモビルスーツが確認されたという情報もあり、警戒態勢をレベル5に移行しています。

 すみやかに全作業を中断し、落ち着いて付近の安全な場所に避難するようご協力をお願いします。これは訓練ではありません。繰り返します……」

 

「女子の方が良かったかな」

 

 小声で社長が呟くのが聞こえたが、サイは一切を無視してひと通りの放送を終えた。

 

 こういう緊急事態においては、女性のアナウンスの方が効果的かも知れない――

 そう社長は言いたいのだろう。

 しかし、隣のヒスイの手は未だにキーボードの上で震え、あまつさえ小声で意味の繋がらない単語を呟きだしている。冷静な放送が出来るわけがないのは、傍目にも明らかだ。

 副隊長が後列で座ったまま、ブリッジ全員にはっきり聞こえるように呟いた。

 

「住民の避難状況はどうなっとる?」

 

 ディックが即答する。

 

「30秒前にウーチバラ統括本部より、避難指示が発令されました。

 オーブ・チュウザン合同軍の誘導による避難が開始されています」

 

 それを聞いて、副隊長は鼻毛を思い切り堂々と引っ張った。

 

「フーン……

 アマミキョにゃ、収容可能か?」

 

 誰かがあっと声をあげる。

 そうだ。それこそ――人々の救出こそ、この船の任務じゃないか。

 サイは急いで隣席のヒスイのモニターをチェックし、収容可能人数を割り出した。

 

「作業進捗状況から計算しますと、420名が限界です」

 

 サイの言葉に、社長はためらうことなく決断した。

 

「よし、トニー隊長。

 付近住民のアマミキョへの誘導を開始してくれ!」

「そんな、社長!」

 

 トニーは意味なくまた叫ぶが、社長はたたみかけた。

 

「ここがコロニーである以上、今はこの船が一番安全だ。

 隊長。シュリ隊初仕事、頼むよ」

 

 トニーは一瞬躊躇したものの、やむなく指示に従う。

 

「分かりました……

 ウーチバラ統括本部、およびオーブ駐留軍に連絡!」

「とっくにやってるって」

 

 ディックの吐き捨てるような呟きをサイは聞き逃さなかったが、あえて無視した。

 と、その時――

 

 フーアが立ち上がった。

 短く切ったウェーブの髪が揺れる。

 

「私も協力します、車を貸してください! 

 住民の皆さんに避難を呼びかけてみます」

 

 

 

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