【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 アマミキョ、墜落!?

 

 ナオトの眼前で、閃光と共に山が四散した。

 光の嵐の中、アフロディーテが、山神隊のウィンダムが、カラミティが、必死でこの災禍に抗おうとスラスターを噴き上げた。

 吹き飛ばされた樹木と土くれが、豪雨となって隊を襲う。

 トランスフェイズを使ってもなお、コクピットを貫く大地の悲鳴。

 ナオトとマユは激震の中、レバーを押さえてティーダの姿勢を保つことだけが精一杯だった。

 

「ステラ……

 駄目だってば、こんなことは!」

 

 マユはなおもステラの名を呼び続ける。

 その叫びと光と震動で、ナオトはようやく正気を取り戻した。

 

 だが、その瞬間に彼が目撃したものは──

 光と黒い雨の中、爆炎に包まれるアマミキョ。

 

 山肌を削り取るのみならず、頂付近を粉砕するほどのこの攻撃は、どうやらアマミキョ船体の右舷後部あたりを掠めたらしい。致命傷には至っていないものの、明らかにコントロール不能に陥っている。

 アークエンジェルに似せて、白をベースに群青と紅で彩られたその船体は今、どす黒い煙で覆われようとしていた。

 

「そんな……! 

 サイさん! カズイさん、ネネさんオサキさんヒスイさん、副隊長!!」

 

 あまりの事態に再び半狂乱になったナオトは、咄嗟にティーダをアマミキョに向かわせる。

 壊れる寸前まで通信ボタンを叩き続けても、サイたちの応答はない──ブリッジの機能が、停止している? 

 何故。何故、何故、何故、どうしてこんなことに!? 僕たちは、何もしていないのに! 

 

「嫌だ、そんな……

 答えてよサイさん! 副隊長!!」

 

 その叫びも虚しく、重力に引かれてアマミキョは、頭から白い山肌へ吸い込まれようとしていた。

 アマミキョが潰れる──サイさんたちと一緒に! 

 何で? どうして? 

 

 あまりに理不尽な状況に、すっかり固まってしまうティーダ。

 その横から、紅の疾風の如くアフロディーテが飛び出した。

 

《山神隊、ティーダ、動ける者は全員アマミキョへ! 

 船首を下から支える!!》

 

 ナオトを黙らせたのは、またしてもフレイの声だった。呆気にとられるナオトを無視して、フレイの指令は続く。

 

《トランスフェイズを使えば、墜落は防げる。カラミティは降下し、土砂を全力で排除。

 各機急げ!》

《了解!》

 

 フレイの指示と同時に風間と時澤のウィンダムが動き、カラミティは沈みゆくアマミキョから、重力に逆らわず飛び降りていった。カラミティの着地と同時に、地表の雪が舞い上がる。

 アフロディーテとウィンダムがアマミキョの船首部分にとりつき、その重みを支える。

 少し遅れて、ティーダが追いついて船底近くを押さえにかかった。

 すぐ隣のアフロディーテに、ナオトは叫ぶ。

 

「どうしてこんなことに? あの光は何なんです!?」

《簡単だ。

 ――貴様が呼んだ》

 

 いつも通り、冷たく切り捨てるフレイの返答。

 しかし当然その内容は、ナオトは理解出来ない。

 

「僕が? 呼んだ?」

《自覚はあるはずだ。

 貴様はあの少女に殺意を抱いた、それに少女は答えた。それだけのこと》

「あの少女……って」

 

 あの炎の中心にいた、女の子のことか。つまりあの、人殺しのことか。

 非現実的すぎる。突拍子もないフレイの言葉に、ナオトは目を剥く。

 すぐに否定しようとしたが、ティーダの見せた幻は、幻と断定するにはあまりにも真に迫っていた。現に、人々の死とステラの心を感じたマユは、今も気絶寸前だ。

 

 人の心を伝えるという恐るべき機能が、ティーダに備わっている――それぐらいは、ナオトにも薄々分かってきている。

 しかし──だとしたら。

 

 僕は、サイさんを守るどころか、殺してしまうのか? サイさんだけじゃなく、カズイさんやネネさんやオサキさんたちを──

 僕の怒りで? 怒りだけで? 怒りがティーダを通じて、あの娘に伝わって? 

 そんな、馬鹿なことが――

 

 あまりの衝撃にナオトは蒼白になり、脇の下や足裏が一気に冷たい汗をかく。

 そんな彼の様子を感じ取ったか、フレイの怒声が響いた。

 

《愚か者! 

 今はアマミキョを救うことに専念するんだ!》

 

 続いてフレイはアマミキョへの通信を送る。

 

《サイ、応答しろ、サイ! 

 サイ・アーガイルっ!!》

 

 その声にはナオトが聞いても分かる程度に、幾分かの焦りが含まれていた。

 そんな彼らの小さなやりとりにも構わず、数秒前まで山の一部を形成していた土砂が、全ての機体に真上から猛然と襲いかかる。カラミティのビームがそれらを懸命に薙ぎ払っているものの、その火力をもってしても全てを防ぎきることは到底不可能だった。

 ティーダの上にアマミキョの重みがのしかかり、さらにその上から土砂が降りそそぐ。

 軽く電流でも流されているかのような震動が身体中を襲っていたが、ナオトは必死に操縦桿を握り締める。

 

 僕があの娘に「死ね」なんて言わなければ、アマミキョは襲われなかった。

 だったら、僕が今出来ることは──

 

 ナオトは歯を食いしばる。その歯すらも震動でうまく噛みあわなかったが、それでも。

 

「トランスフェイズ、全開!」

 

 ナオトの叫び。その隣で紅のアフロディーテの装甲も、フェイズシフトで鈍く輝く。

 だが、フェイズシフトのない山神隊のウィンダム2機は、潰れる寸前だった。火花と共に、風間機の右腕が重量に耐え切れず潰れ、吹き飛んだ。

 

《風間曹長! 離脱して……》

 

 時澤の怒声が飛んだが、風間機は離れなかった。

 

《構いません! 

 これしきのことで、山神隊は折れない!》

 

 やがて、全てが衝撃と共に、土煙に覆われていく──

 

 

 

 

 その光景を、数キロ後方の雪の丘で、一人の幼い少女が目撃していた。

 紅のマフラーと厚手のコートに身を包んだ少女は、展開されつつある凄まじき光景に息を飲んでいた──

 だが、子供らしい好奇心には勝てなかったようで、暫くすると一目散に駆けていった。アマミキョの方へと。

 

 

 

 

 

 

「通信途絶!? 

 アマミキョが、ですか」

 

 ここは北チュウザン首都・ヤハラに配置された、連合軍駐屯地。

 山神隊・広瀬少尉が報告を受け、その性格に似合わぬ素っ頓狂な声をあげて机をぶっ叩いた処だった。

 

「アークエンジェルの捕捉に成功したというのに、友軍の攻撃に巻き込まれるとは……

 何という体たらくだ」

 

 しかしこの衝撃の報告にも、伊能大佐はいつも通り、冷静かつ呑気な態度を崩さない。

 

「そう言うな広瀬。

 そんな戦略兵器レベルのモビルアーマーが存在するなど、連合上層部のごく一部しか把握しとらんという話じゃないか。

 さすがのアマクサ組でも、手に負えんよ」

 

 戦略兵器、の部分に嫌悪感を込めつつ、伊能は堅焼きそばをぱくつく。

 

「風間と時澤もついている。大丈夫だよ」

 

 この伊能の態度にイラついた広瀬は、今度は艦長たる山神へと話を振った。

 

「しかし艦長、アマミキョが消息を絶った地点はあのニュートロンジャマーがべらぼうに撃ち込まれた、いわば暗黒地帯です──容易に外部からの救出活動は出来ない!」

 

 山神は分厚い報告書に目を通しながら、こちらも呑気そうに息をつく。

 

「広瀬、急いても仕方あるまい。

 フレイ嬢とアマミキョ、そして我ら山神隊の力を信じようじゃないか」

 

 聞いている者の気分を苛々させるほどゆっくりしてはいるが、それでも有無を言わさぬ口調で、山神は広瀬に告げる。

 

「アマミキョ不在の数週間、我々山神隊がどれだけこの地のテロを壊滅させていると思っている? 

 だから、風間も時澤も大丈夫。勿論アマミキョもだ」

「……説得力のあるお言葉、ありがとうございます」

 

 根拠は何もありませんが、などとつけ加えたくなるのを必死でこらえている様子の広瀬。

 自分の荒ぶる神経を鎮めようとするように、縁なし眼鏡を注意深く直す。

 そんな彼を眺めつつ、山神は話題を変えた。

 

「広瀬、君には別の任務があっただろう。

 南チュウザンに向かったという、例の貨物船の情報は?」

 

 広瀬はその言葉に、すぐさま姿勢を正す。

 

「は──

 件の船は旧台北方面に向かった後、南チュウザン管轄下と推定される人工島に到着。その後の消息は不明です」

 

 伊能が脇から言葉を継ぐ。

 

「タロミ・チャチャが大量に流しまくってるっていう噂の島のひとつか」

「臨検の結果、ガス・爆発物・ウィルスなどの危険物は発見されず。しかし積荷の組成検査によると、蛋白質らしき有機物が30%以上との結果が出ています」

 

 この報告に、伊能も目を光らせた。

 

「穏やかじゃないな。密入国者か、それとも逆か──」

「ただ、それ以上の調査は国際法に抵触するとのことで、手出しが出来ず……」

「畜生め。タロミ・チャチャのお膝元で無けりゃ、ひっぺがしてやったんだが」

 

 拳をバキリと鳴らす伊能を横目で睨んでから、広瀬は再び山神の机を両手で叩いて迫った。

 鼻先が今にも山神と激突しそうな勢いで。

 

「艦長、自分にこの件の調査を続けさせて下さい。

 撮影された人工島遠景写真には、実験施設らしきものが確認出来ます。

 先日のヤハラの工場といい、この国には何かがあります」

「……分かった。

 但し、条件がある」

 

 広瀬の勢いにも、山神は動じない。

 静かに立ち上がり、血気盛んな彼の両肩を叩く──

 

「くれぐれも、深入りはするな」

 

 

 

 

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