【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 マユ、初めての嫉妬

 

 

 真っ白い雪の上に、灰が静かに積もりゆく。

 そんな野原をのそのそと動き、周囲の森を確認するティーダ。

 やがてナオトは、灰の向こうに集落のようなものを発見した。

 

「村? 

 人が住んでるのか、ここに」

 

 ティーダのカメラでよく見ると、前時代的なレンガ造りの小さな家々が並び、各家には煙突が見える。

 雪と灰の降りしきる中、煙突から細く白い煙がのぼっている家もある。

 人を焼く炎ではない。人を育む炎がある証だ。

 

「良かった……

 アマミキョが、村に落ちなくて」

 

 ナオトは煙を見て、ほっと一息つく。

 と、マユがその言葉に疑問を提示した。

 

「どういう意味?」

「どういうって……

 アマミキョが村に落ちたら、村の人たちが死んじゃうじゃないか」

「関係ないじゃん、アマミキョには。

 それって悪いこと?」

 

 ナオトのむかつきが、再び心を吹き荒れ始める。

 

「君は、ステラって娘は大事な癖に、他の大勢の人たちはどうなってもいいのかよ」

 

 マユはますます分からない、という顔でナオトを振り向く。

 本気で意味が分からないらしく、何処か不安げに縋りつくようにも見える表情

 ──ナオトはその顔を、可愛くない、と感じた。

 

「ナオト、違うよ。

 だって、ステラを殺しちゃ駄目って最初に言ったのはナオトでしょ、覚えてないの? 

『女の子は守るべき存在』って、カイキ兄ちゃんに言ったんでしょ?」

「ウーチバラ出た時のことかよ」

 

 あの時確かに自分は、ウィンダムに乗っていた少女を助けようと飛び出した。

 それがマユの言う、ステラという少女だったらしい──

 しかもそのしばらく後、彼女らはアマミキョと合流して行動を共にし、ステラはマユと少しだけ仲良くなったという。偶然とは恐ろしい。

 でも、だから何だ? あの時とは状況が違うのに。

 

「なのに今、ナオトはステラを殺そうとした。何故?」

「彼女が大勢の人を殺したからだよ。自分より弱い人たちをね」

「分からないよ」

「僕は君が分からないね!」

 

 ナオトは容赦なく、マユに罵声を浴びせる。

 彼女は大きな黒い瞳でじっとナオトを見つめていた。無数のクエスチョンマークで形成されているかのような瞳の黒さ──

 もしや自分は、マユを傷つけてしまったのか。

 少しばかり自省したナオトは、彼女に言い聞かせる。

 

「ステラは、悪いことをしたんだ。とても悪いことを。だから──」

「だから殺すの? 分からない」

 

 ナオトは返答につまる。人間として当然の常識をこの娘に教えるには、一体どうしたらいいのだ? 

 その時──左のモニターが、動く生き物の姿を捉えた。

 クローズアップしてみると、紅いマフラーを着け、コートを着込んだ小さな少女をカメラが映し出す。

 雪と灰で沈んだ世界の中、その紅は一段と眩しく見えた。

 恐れもせず、不思議そうにティーダを見上げている、栗色のツインテールの少女──

 年は10歳ぐらいだろうか。マユよりも幼い。

 

「まずい……踏む処だった」

 

 ナオトは慌ててハッチを開き、氷点下の外へ身を乗り出す。

 

「君! 

 ここにいちゃ危ないよ、離れて!」

 

 途端に、少女の顔が花のようにぱっと咲いた。

 

「やっぱりそうだ! 

 貴方、ナオト・シライシだよね!?」

 

 

 

 

 

 

 アマミキョ内部は、大津波直後のように荒れ果てていた。

 食堂では皿という皿が飛び散り(殆どの食器はガラス製ではないので割れなかったのが幸いだったが)、運動施設は破壊され、トイレは半数近くが使用不能となり、居住ブロックの一部で火災が発生していた。

 不幸中の幸いか、カタパルトでの負傷者は少なかったものの、それでもアマミキョが受けた被害は甚大だった。

 

「君がいてくれて助かる。

 私だけでは身がもたなかった!」

 

 サイの突然の昇格にも、トニー隊長は嫉妬の欠片も見せずに諸手を挙げて歓迎していた。

 二人とも今や首から10数個の通信機をネックレスの如くにさげ、ひっきりなしに船内各所と連絡を取り合っている。

 サイとトニーの主な仕事は、負傷者の医療ブロックへの搬送と船内破損箇所の確認である──

 尤も、アマミキョが少なくとも1週間は動けない程度の損傷であることは確定していたが。

 トニーと一緒に走りながら、サイは精一杯の笑顔を返す。

 

「みんながてきぱき動いてくれるから、助かってます。

 思ったほどのパニックには陥っていないようですし」

 

 それと同時に、通信機との会話も忘れない。

 

「アムルさん、L20ブロックお願いします。外壁作業用の通信パネルが損傷してるらしい……

 ディック、体育倉庫は後回しだ、医療ブロックへの連絡通路の復旧作業に回ってくれ。

 それから医療班へのヘルプもあと5名追加! 食糧班は全員大至急食堂へ、ボンベ破損のアラートがそのままだ!」

 

 全速力で走ってくる隊員たちに何度もぶつかり文句を言われながらも、トニーは状況の判断に努める。

 

「船内は良いとしても、問題は外だな……

 あの光で、どれほどの被害が出ているものやら」

「見当もつきませんね。ティーダと山神隊が調査に出ていますが」

「いずれ避難民をアマミキョに収容せねばならん。医療ブロックはえらい騒ぎになるぞ」

「もう、なってますよ」

 

 先ほどから、医療ブロックからの通信機はネネとスズミがサイに助けを求める声で壊れそうだ。

 

「少ししたら、医療ブロックに行ってきます。

 パンク寸前ですよ」

 

 

 

 

 

 

「ごめんねカズイ君、ちょっと行ってくる」

 

 食堂の床に飛散したトマトスープの処理をようやく終えたアムルは立ち上がり、振り向きもせずにサイの指示に従い、出て行った。

 入れ代わりに食堂のボンベの状況確認にやってきたヒスイも、それなりに冷静に動いて文句一つこぼさずに作業にかかる――

 

 カズイはそんな彼女たちを、ぼんやりと横目で眺めていた。晴れない心のままで。

 ハマーあたりがサイに反抗してカタパルトで騒ぎを起こさないかとカズイは密かに懸念していたが、今のところそんな兆しはない。

 以前はあれほど、サイを目の仇にしていたはずのクルーたちが、今は結束して彼の指示に従い、積極的に動いている。

 それが非常事態ゆえの結束であることもカズイは薄々感じていたが、彼は同時に、サイの底力を感じた。そして、その力に嫉妬する自分も。

 

 何故だ。

 何故サイはこれほど簡単に、人を操ることが出来る? 

 アムルさんもまた、サイの指示に従って行ってしまった。

 ――それは、カズイがどれほど求めても手に入らない力だった。

 自分がここにいる理由も、あれほど嫌がっていた戦場に再び出てきてしまった理由も、サイに導かれたからに他ならない。

 その力に──今、俺は、妬いている。

 

 

 

 

 

 

 雪の積もった丘を小さなブーツで慣れたように下りながら、紅いマフラーの少女はお喋りを続けた。

 

「ずっと見てたんだよ、ナオトのこと。ティーダに乗ってからの活躍も! 

 ホント嬉しいよ、伝説のヒーローに会えて」

「へ? で、伝説?」

 

 雪に足をとられて、大分遅れながらもナオトは少女についていく。

 

「そんなに、僕って有名だったの? 

 オーブだけかと思ってた」

 

 背後に置いてきたティーダとマユを気にしながらも、ナオトは無邪気な少女の言葉に嬉しくなる。

 

「うん。ハーフコーディネイターなら、誰でも知ってるよ!」

 

 少女は元気よく答え、栗色のツインテールを子犬の耳のように揺らしながらナオトに抱きついた。

 

「地上のプリンセス・カガリ姫に選ばれた、伝説のハーフレポーター、ってね! 

 私たちの希望の星なんだよ、ナオトは」

 

 その言葉に、ナオトは少女をまじまじと見つめた。

 今まで誰にも感じなかった暖かなものを、少年はその少女の中に感じる。

 

「それじゃ、君は……?」

 

 少女は満面の笑みをナオトに見せ、元気よく自己紹介した。

 

「私、メルー。

 貴方と同じ、ハーフコーディネイターだよ!」

 

 

 

 

 

 

 ナオトとメルーが雪の中ではしゃぎ、遠ざかっていく。

 その様子を、ティーダコクピットから、マユがじっと眺めていた。

 

「なんで……?」

 

 メルーの紅のマフラーを見つめるその瞳に、感情はない。

 

「……なんだろ?」

 

 そこへ、カイキの乗るソードカラミティが現れた。

 ゆっくりティーダに近づき、右肩部に触れる。カイキの声が、マユに届く。

 

《マユ。独りか?》

「お兄ちゃん!」

 

 嬉しさに跳ねるマユの声。

 思わず彼女は、ティーダをソードカラミティに抱きつかせかかる。雪が脚部で舞い上がった

 ──だが、マユの表情はすぐ沈む。

 

「私……変だ」

《何があったんだ。話してみろよ》

 

 カイキは、マユに対してはどこまでも穏やかで、どこまでも優しい。

 マユはその優しさに、少しずつ心を吐露する。

 

「ナオトと、ケンカしたの。

 ナオトを見ると、胸がざわつくの。あの子と一緒にいるナオトを見ると、ざわつくの。

 ナオトが行っちゃうと、胸が痛いの。

 ……どうして?」

《お前には、俺がいる。

 大丈夫――何も心配いらないんだ》

「私がステラみたいになったら、ナオトは私を殺すのかな?」

《そうなったら、俺が奴を殺すさ》

 

 カイキのこの言葉に、マユは思わず反応した。

 

「それは駄目!」

 

 カラミティは雪の中で、暫く沈黙する。

 マユは一瞬、自分の言った言葉が理解出来ないというように目をぱちぱちと瞬かせた。

 ナオトの姿は、もう見えない。

 

 何故、行っちゃうの? 

 何故、マユの言うことが分からないの? 

 何故、あの子と、行くの? 

 

 カイキの重い声が、マユの耳に届く。

 

《俺はお前を殺さない。俺は死ぬまでお前を守る。

 例えお前がどうなろうと──

 誓ったんだ。()()が生まれた時に、俺は》

 

 だがその言葉は、マユの心にまでは届かない。

 

 

 

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