【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「マユが、女になりかけている?」
アマクサ組作業艇・ハラジョウには大した被害はなく、隊員はほぼ通常通りの作業をこなしていた。
フレイはニコルとモニターを観察しつつ、カイキの言葉を聞いている。
「あれは嫉妬だ、間違いない。
あんな感情まで覚えるとは……あの小僧め!」
カイキは乱暴に壁を踵で蹴る。嫌な金属音がこだました。
モニターを眺めたまま、フレイはカイキに一瞥もくれずに言う。
「カイキ──
いい加減、マユ・アスカに感情を割くのはやめろ。
お前が欲しているものは
中途半端な思いは、互いの破滅に直結するぞ」
「俺は割り切れないんだよ、あんたらみたいにはな」
彼がフレイに向けたぶっきらぼうな言葉は、僅かな狂気を帯びていた。
その気配に、ニコルがそっと振り向く。
「カイキ・マナベ。知っているでしょう──
フレイだって、そう割り切って行動出来ているわけじゃないですよ」
ラスティも彼を諌める。「俺らだってそうだぞ。自分だけが特別と思うな……
分かってるだろ、こういうイレギュラーまで念入りに計算に入れた上での計画ってのは」
「そりゃ、そうだがっ!!」
カイキは目を背け、たまらなくなってその場を出て行く。
フレイはそれにも構わず、データの解析結果に目を通していた。
「アークエンジェルの動向は確認出来たか?」
「は、はい」
ニコルはカイキの様子を気にしながらも、フレイに答える。
「アークエンジェルはデストロイの進撃を確認後、一路ベルリンに向かっています。
ザフトの緊急要請で、ミネルバも同時に向かいました。
そして予想通り、デストロイのパイロットはステラ・ルーシェ。
――運命の舞台装置は整った、といったところですね」
「俺らは遥か東でおあずけ喰らっているわけだがな」
ラスティの突っ込みを横目で睨みつつ、ニコルはフレイに向き直る。
車椅子がやや不協和音をたてた。
「だから、やっぱり『彼』を呼んでおけば良かったんですよ。
彼さえいれば、ミリアリア・ハウの件でもあれほど苦労はしなかったかも知れないのに……
というかその前に、キラ・ヤマトを完全に手中に出来る可能性だってあったんですよ」
だが、フレイは冷たくニコルを睨んだだけだ。
「私に会っても結局動かなかったキラが、奴にほだされて動くと思うか?」
その視線に、ニコルは黙るしかない。
「……思いません。すみません」
そんなやりとりに、ラスティは苦笑した。
「ニコル、切り札を今出す必要はないよ。尤も、フレイと奴の二段攻撃なら、キラ・ヤマトが落城した可能性も否定しないがね。
過ぎたことは仕方ないさ、今は俺たちが頑張らんとな」
ラスティが軽くニコルの右肩を揉むと、少年は困ったように溜息をついた。
「奴さんの出番はもう少し後、ってわけですか」「そーいうこと」
その時だった。フレイが画面隅のデータに気づいたのは――
「これは……
ニコル、このデータは?」
「あ。フレイ、気づいちゃいました? びっくりさせようと思ったんですが」
ニコルは表情を和らげ、悪戯っぽく肩を竦める。
「ステラ・ルーシェの行動記録と身体データです。
連合のデータベースから拝借しました」
フレイは一瞬ぽかんとしてニコルとデータを交互に眺め、苦笑した。
「お前にかかっては、私などとうに裸だろうな」
「し、してませんって。そんな神をも恐れぬ所業、するわけないでしょ」
フレイはニコルの肩ごしにステラの写真データを凝視する。彼は得意げに続けた。
「さすが、最初のデストロイパイロットに選出されただけのことはありますね。コアになりうる存在ですよ」
「これは……チグサをも超える数値だ」
フレイの瞳が、妖しげに光る。
ラスティがその後ろから覗き込んだ。
「しかも……
非常に興味深い、運命の出会いをしているようでありますなぁ」
と、フレイは背筋を伸ばし、優雅に立ち上がった。
「シナリオは決まった──
ベルリンの状況を逐次報告しろ。状況によっては、私自ら出る!」
雪の丘を下りきった場所に、メルーの村はあった。
周囲を山と森で囲まれており、付近にはかなり川幅の広い河もある。
心配げに村道に出てきた老人たち。その一人に、メルーは思い切り抱きついた。
「おじいちゃん! ただいまっ」
「メルー! こんな時に外に出てはいけないと、あれほど言ったじゃないか」
だが、メルーは朗らかな笑顔のままだ。「すごいことがあったんだよ。
ナオト・シライシ。ナオトだよ、おじいちゃん!」
そのメルーの言葉に、様子を見ていた村の子供たちが続々と駆け寄ってくる。
メルーの後ろについてきた、ノーマルスーツ姿のナオトに向けられる視線。それは好奇の視線ではあったが、決して不快なものではなかった。
子供たちを追うようにして、親たちも出てくる。だが子供らは次々とメルーとナオトを取り囲み、遠慮なくナオトのノーマルスーツに触れる男の子までいた。
「ナオト・シライシだって?」「すげえじゃん、メルー!」「あの光の取材に来たの?」
「ひょっとして、ティーダも一緒なのかぁ?」「ウソウソ、見せて見せてー!」
「僕らも取材してくれるの!?」「すげー、本物のパイロットスーツだ」「いや、これってノーマルスーツじゃね?」「どっちでもいいよ、カッコイー!」
遠慮のない子供たちに一斉に歓迎され、ナオトは戸惑う。
オーブでも、これほど純粋な歓迎を受けたことはなかった──大抵どこへいっても、蔑視もしくは過剰な哀れみの視線があった気がする。
だが、この村は違う。
子供たちは勿論、親たちや老人たちまでが、ナオトを憧れと愛情のこもった目で見ている。
荒んでいたナオトの心に、その暖かさは雪を溶かす春の水のように流れ込んでいった。
「こら!
お前たち、ナオト君が困っているじゃないか」
メルーの祖父が、手を叩いて子供たちを制する。父親たちの一人が、それに呼応するように子供らを下がらせた。
「そうそう、まだ危険が去ったわけじゃない。
あの灰がこの村を汚さないとは限らないんだぞ」
子供らはぶーぶー言いつつも、素直にナオトから離れる。
メルーはナオトと当たり前のように手をつなぎ、自分の家に引っ張っていこうとしていたが。
「あの!」ナオトは思い切って、大人たちの背中に声をかけた。
「ここに、軍属の方はいないんですか。
僕たちが今まで立ち寄った地域では……」
メルーがはしゃぎながらナオトの腕を振り回す。「そーいうの、関係ないんだ。
ここはオーブと同じだよ、ナオトっ」
「いや、メルー。
オーブよりもさらなる中立というべきなんだよ、ここは」
メルーの祖父が、顔じゅうを覆い尽くす白い髭の奥で笑っていた。
ナオトは皺だらけの表情の奥に、全てを包み込む優しさを感じていた。荒んだ世界から、完全に隔絶された処にある優しさだ。
「ハーフムーンへようこそ、ナオト・シライシ君。わしらは君とアマミキョを歓迎するよ。
ここは、コーディネイターもナチュラルも無関係の地──
ハーフコーディネイターの子供たちの村だからな」
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次回予告
ある少年が得たものは、感じたことのなかった幸福。
またある少年が得たものは、消されたはずの暖かな感情。
小さな雪の村は、アマミキョに束の間の平和をもたらす。
だが、崩壊の日は、炎熱と共にすぐそこまで迫っていた。
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「ハーフムーン・トライアングル」
平穏の時、忘れるな。アマミキョ!