【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 神さまが助けてくれる

 

 

 屋敷の奥の会議室──というよりも、茶会でも開かれそうなくつろいだ雰囲気の広間と形容した方が正しい一室──に通された、サイとナオト。

 広間の中心には暖炉があり、その火は赤々と燃えさかり、集まった10人ほどの村議員たちの顔を照らしていた。部屋の隅の壁には小さな祭壇らしきものが備えつけられてあり、そこには赤ん坊を抱いた女神像が飾られている。

 メルーがその祭壇に、小さなおむすびを二つ置いていた。ちょこんと座り、静かに手を合わせる少女。

 丁寧に編まれた円形の筵に議員たちは座り、サイたちは下座でその老人たちの表情をうかがっている。

 アマミキョの状況をサイがひととおり説明した直後には、老人たちからどよめきが起こったが──

 やがて、村長がおもむろに口を開いた。

 

「診療所と学校の件は了解した。

 連合の手をわずらわせるほどのことはないよ」

 

 緊張が一瞬解け、サイとナオトはほっと顔を見合わせる。

 しかし村長はさらに続けた──

 

「だが、知っていると思うが、ここ一帯はザフトと連合が睨みあいを続ける土地。

 ワシらはどちらにも属さぬ中立という立場をとっていたが、それもあの山々に守られていたからこそ可能だったこと。

 ザフトの地下基地の存在が付近で確認されていながら、この村が未だに無事なのは、山と谷と森のおかげだったのだ。

 あの光によって山が崩れた今、この平穏がどうなるか──

 村の者たちは、一様に不安がっておる」

 

 臆することなくサイは答える。

 

「この土地のことは、リンドー副隊長から何度か聞きました。

 ニュートロンジャマーと地殻変動の影響で、時間の流れの止まった地。

 連合ではそういった土地の一部を、ハーフムーンと呼称しているそうですね」

 

 議員の一人である老婆が、重々しく口を開く。

 

「日に照らされながらも暗黒の地。暗黒でありながら陽光には幾分恵まれた地──それ故の名だよ。

 だが既に、ここは閉ざされた土地ではなくなった。ここも戦乱に巻き込まれるのかねぇ」

 

 比較的若い中年男性が、メルーの小さな背中を見つめて言葉を継いだ。

 

「ハーフコーディネイターの子供たちには、出来うる限り希望の土地・オーブの情報を教えているんだ。

 オーブの本や教科書は勿論、ニュースや映画、バラエティ番組に至るまで、可能な限りの媒体を集めているんだよ。

 それで子供たちはナオト君――君を知った。そして、君を信じている。

 君のように、いつか自分たちも胸を張って、外の世界で生きられる日が来るとね」

 

 決して、本当に胸を張っていたわけではないけれど──

 そう言おうとしたが、ナオトはこの場で言うことではないと気づいた。

 自分は子供たちにとって、太陽なのだ。情報という光がろくに通らない、この土地の子供たちにとって──

 ナオトの乗るあのモビルスーツの名、そのままに。

 

 やがておそなえを終えたメルーは、大人たちの空気を感じ取ったのか。

 ナオトに一旦可愛らしい目くばせをして、軽い足音と共に部屋を出て行った。

 それを見送った老人の一人が、また口を開く。

 

「こんなことは本来、君たちのような若者に聞くべきではないが、教えてほしい。

 子供らを守るには、どうすればいい?」

 

 ──ナオトはこの老人たちに、ひどい痛ましさを感じた。

 自分のようなただの小僧にこんな質問をすること自体、この村に防衛手段が殆どないことを示していた。

 外部の物理的な力からは勿論、子供たちを世間の激しい蔑視から守る手段も。

 

「メルーたちには、両親はいないのですか」

 

 ナオトは子供たちに会った時から疑問だったことを、老人たちにぶつけてみた。

 メルーも、村長のことを祖父として慕っているようだったが、両親の話は全く聞かない。

 彼女だけではなく、ナオトが最初子供たちの親だと思っていた大人たちは殆どが、子供たちと血のつながりはないらしい。つまり──

 

「ワシら全員が、あの子らの親のようなものなんだよ」

 

 ナオトが予想していた通りの答えが、村長から返ってきた。

 

「ドイツやポーランドなどの西ユーラシア方面で、不幸にもコーディネイターとナチュラルのハーフ、もしくはクォーターとして生まれた子供らだ。

 彼らの生まれた時期というのは、反コーディネイター感情が最悪に吹き荒れた頃でな……」

 

 やや機嫌を悪くした子供に言い聞かせる好々爺のような口調で、村長は続ける。

 

「不幸になると分かっていても愛し合い、子供を産み、しかし守りきれずに──

 ナチュラル側の親、もしくは知人や孤児院に預けたままプラントに上がり、そのまま帰れなくなった親たちは多い。

 だが預けられた方も、コーディネイターの血が混じっている子供をそう長くは守りきれなかった。

 迫害、脅迫、いわれのない暴虐が子供らを狙って吹き荒れ……最悪の場合、家族ごとテロの標的となった」

 

 老婆がそっと、村長の言葉をつぐ。「そんな子供らを集め、私らはこの地に集った。

 物資も情報もないが、人目にも晒されぬこの地に」

 

 ナオトは思わず身震いする。その震えは、すきま風によるものではなかった。

 だが村長はそれを見て、長い白髭をゆすって笑った。

 

「ナオト君には厳しい話をしてしまったな。しかし、これだけは分かってほしい──

 二分された世界の混乱をおさめることが出来るのは、両者の血を継ぐハーフコーディネイターだとワシらは思っているんだよ。

 この地の神を崇め、畑を守り、森を守り、時を待てば必ず──

 子供たちが、外へ出られる日が来る」

 

 じっと話を聞いていたサイが、静かに口を挟む。

 

「シーゲル・クラインが地上に造った集落に、ハーフコーディネイターたちの理想郷があると聞いたことがあります。

 ここも、その一つなのですか?」

「天上人の考えなさることはよく分からぬが、ワシらの考えとクラインの思想は偶然にも一致していたようだな」

 

 クラインの名を聞いた途端、ナオトはいきなり立ち上がった。

 

「そうだ、サイさん! 

 アークエンジェルを呼びましょうよ」

 

 いつものことだが突飛すぎる発言。

 議員たちから驚きとも歓声ともつかぬ声が上がり、サイはまたも眉間を揉むハメになる。

 

「何言い出すんだ、いきなり……」

「ラクス・クラインとキラさんなら、きっとここも助けてくれるはずですよ。

 だって、この村こそが本当の、中立の地じゃないですか!」

「デストロイとの接触以後、アークエンジェルは北海に潜伏中だ。距離的に無理だろう」

 

 あっさりとナオトの提案を却下するサイ。「本当ならお前の言う通り、こういう時にこそアークエンジェルを頼りにすべきなんだがな」

「だったら来てくれますよ、絶対!」

 

 ナオトは拳を握りしめてサイに反論する。

 

「距離なんて、無敵のフリーダムには関係ないでしょ? 

 僕たちがマラッカ海峡でザフトに襲われた時だって、ラクス・クラインが助けてくれたじゃないですか」

「お前が見たっていう彼女がラクスさんとは限らないだろうが!」

「あれはラクスさんですってば! ラクスさんが僕たちを助けてくれたんです、だったら今度だってきっと……」

 

 そこまで言って、ナオトは気づく。

 一度はアークエンジェルに刃を向けたアマミキョを、彼らは果たして救い出してくれるだろうか。今だって、アマミキョによってアークエンジェルはいつ連合の手に渡るか分からぬ状況にあるのだ──

 いや大丈夫、約束したじゃないか。いざという時は必ずアマミキョに協力するって──いや、あれって努力義務ってフレイさんが言ってたな──

 

 ナオトの頭がぐるぐる回り始めた時、不意に明るい声が響いた。

 

「祈ればいいんだよ、ナオト」

 

 見ると、いつの間にやら戻ってきたメルーが戸口に立って笑っていた。

 

「私ね、いつもおばあちゃんと、お祈りしてるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 村長宅から少し離れた丘に、村長所有の麦畑があった。

 今は勿論雪が積もっており、芽を育む土は殆ど見えないが、丘全体がそのまま畑になっているらしい。メルーの祖母が懸命に古いパワードスーツを使って雪をかきわけ、春に向けての準備をしている。

 

「あんな旧式のパワードスーツ、初めて見たよ。

 錆ついてるじゃないか」

 

 メルーに連れられてきたナオトとサイは、その光景に唖然とする。

 パワードスーツはモビルスーツの原型ともいえるもので、今でもアマミキョではしょっちゅう作業に使用されている。しかしメルーの祖母の使用しているそれは、今のものより3世代以上は古い。金属がこすれあう不協和音をがなりたてており、きちんと冷却機能が働いているのかすら怪しかった。この寒冷地でなければ、爆発してもおかしくないんじゃないか? 

 

 だがメルーは気にもせず、畑の隅に建てられている小さな祭壇へナオトを連れて行く。

 そこも丁寧に雪が払われ、やはり女神像が祀られていた。

 

「ここはね、神様のいる場所なんだよ」

 

 よく見ると、その女神像は柔らかそうな衣服の部分が若干ひび割れている。

 それでもメルーは当然のように女神に手を合わせた。

 

「アークエンジェルが、助けてくれますように。

 ほら、ナオトも祈るの」

「神様……祈り?」

 

 手を合わせるメルーを見ながら、ナオトの脳裏に閃光のように蘇る光景があった。

 墜落しながら、死を目の前にしながら、あの真田さんがとっていたポーズと同じだ──

 

「神が消えたとされても、こういう形で残っていたんだな」

 

 ついてきたサイが、ふと呟いた。

 パワードスーツの軋む音と共に、メルーの祖母も孫たちのもとへやってくる。

 

「人間が勝手に作った教義が勝手に消えただけのこと。

 神そのものは、決して消えやしないさ」

 

 スーツの頭頂部から汗だくの顔を突き出し、老婆は笑った。

 

「もう少ししたら、みんなでここに種を蒔くんだ」

 

 メルーは雪の上で、両腕を広げてくるくる回ってはしゃいだ。

 

「この村は1年中あまり日が当たらないけど、ここの畑はお日様も照らしてくれるの」

 

 皺だらけの老婆の顔が、灰の空を見上げた。未だにこの灰の雲は晴れなかったが、老婆の表情は明るかった。

 

「短い夏の間に、ここの草木は精一杯芽吹いて育つ。ワシらはその恵みを受けて生きておる──

 地殻変動をも生き抜いた、昔ながらの土地なんだよ」

 

 その時、サイの首元でまたしても通信機が鳴った。医療ブロックからだ。

 

《サイ君、ヘルプが全然足りない! こっちの状況把握してるの? 

 壊滅寸前なのよっ》

 

 よく響きわたる、ヒステリックなスズミ女医の怒声。

「へぇ、通信が通じるんだ」驚くメルーに、ナオトが説明する。

「アマミキョには、ティーダがいるからね」

 

 

 

 

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