【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 貴方は、ちゃんとここにいる

 

 

 黙れ、と言おうとしたのだろうが、スティングの喉からは最早野獣の咆哮しか漏れない。

 カイキもまた、マユを守ろうと熱くなりすぎていた。スティングの腕をナイフで一閃する──

 さすがに切断まではいかなかったものの、その右腕からおびただしい血が噴出した。

 手から落ちる銃。

 

 その隙に、サイは床を這いずったままスティングの銃を拾い上げた。

 そんな彼のほぼ頭上で、カイキの拳が少年兵の顎に炸裂する。

 

「!!」

 

 続いて蹴り、蹴り、さらに殴打。

 周囲の状況を考えず、カイキも暴れまわる。

 負傷者の悲鳴も叫びも号泣も相手の痛みも、カイキにとって何の意味もない。マユに銃口を向けたという事実の前では。

 

「こ……この、野郎……!!」

 

 だがスティングも負けじと、そばにあった点滴台を振り回して対抗する。

 暴れまわる二人のエクステンデッドのおかげで、患者の意識を拾っていた命のモニターが何台も倒され、子供の寝ていたベッドがひっくり返され、薬瓶が何十本も薙ぎ倒され、医療器具や注射器の山が床に散乱する。

 

「やめてぇ、お願い!」「痛いよ、痛いよママ! 針が刺さったよぉ!!」

「山神隊はまだなの!?」「やめなさい、ブロック自体が壊れる!」

 

 喚く女、泣き叫ぶ子供たち、怯え続ける老人。

 さらに薬液と体液と血で汚れていく医療ブロック。

 

「俺は夢なんかじゃねぇ! 

 俺を否定するな、否定するな、否定するな!!」

 

 スティングは、医師用の重い回転椅子を軽々と振り上げる。その拍子に、医療ブロックの電灯の一つが、椅子の脚部に衝突して壊れた。

 破片がスティングの上に、患者たちの上に降りそそぐ──

 さらに彼は、血と点滴の薬液が混じり合う床に足を取られ、椅子を持ったまま転倒してしまった。

 勿論その隙を逃すカイキではない。うつぶせのまま動けないスティングにそのまま馬乗りになる。

 振り上げられるナイフ。

 

「可哀相だが……ここで!」

 

 カイキに押さえつけられたスティングの手は、それでも必死で空を掴もうとあがいていた。

 その血だらけの指の先にあったものは、腰を抜かしながらも事態を見守る看護師・ネネの姿。

 

 

 助けて、助けて、助けて──

 

 

 ここの患者たちと全く同じ叫びを、この少年兵はあげている。

 倒れたままのサイにも、それは十分理解出来た。スティングは、ひたすらに助けを求めていただけだ──

 その求め方が、いささか暴力的であったにせよ。

 同じことを、真正面のネネも感じ取ったらしい。

 

「待って!」

 

 カイキの手が、ネネの一声で止まる。

 ぐちゃぐちゃになった床の上で、ネネはゆっくりとスティングに近づき、その伸ばされた手を握りしめた。

 ──微笑みと共に。

 

 

「大丈夫です。

 貴方は、ちゃんとここにいる。

 夢なんかじゃない」

 

 

 同時に彼女を止めに入る、カイキとサイ。

 

「よせ、危険だ」「ネネさん!」

 

 しかしそれでもネネは、冷えきった少年兵の指を、自らの左胸に持っていった。

 やや小ぶりな胸に、震える手が触れる。

 

「聞こえますか? 心音。

 体温、感じますか?」

 

 ネネの両手が、スティングの血だらけの指を、丸ごと包み込む。

 思いもよらぬ彼女の行動に、スティングは幼子に戻ったかのようにこくりと頷く。

 そんな反応に、ネネは満面の笑顔になった。

 

「なら、大丈夫! 

 貴方はちゃんと生きて、ここにいるもの」

 

 人の肌の柔らかさに、スティングの感情はようやくおさまりを見せた。

 彼だけでなく、患者たちもすっかり静かになっている。

 そんな中ぽつりと漏らされた、スティングの呟き。

 

「痛えよ……

 俺を、助けろ……この野郎……」

 

 サイははっと我に帰り、スズミに指示を出した。

 

「スズミ先生、早く!」「分かってる!」

 

 女医は素早く飛び出してスティングを捕まえると、彼の腕に鎮静剤を打った。

 瞬く間にその目から、獰猛な光が失われていく。

 

 サイはつくづく、自分の無力さを嘲笑せずにはいられなかった──

 自分では、とてもネネのような真似は出来ない。やれたとしても、殴られるのがオチだろう。

 引きずられるように担架に乗せられるスティングを見ながら、サイはひたすら腹部の痛みをこらえていた。

 

 

 

 

 

 

「これを使え。

 あの男の治療には役に立つ」

 

 そう言いつつ、フレイはサイに小さな薬瓶を渡した。

 サイの後ろにくっついてきたネネが、礼を言う。

 

「ありがとうございます。

 あの子、本当なら重傷なのにあんなに暴れて、出血も酷くて心配だったんです。

 普通のお薬がなかなか効かないし」

 

 素直に感謝を口にするネネ。

 だが、サイの心は晴れない。フレイに問いたださずにはいられない。

 

「やはり同じということか……カイキやマユに使っている薬と。

 駄目もとで、君の処へ来てみて良かったよ」

 

 そして君も使っている──と言いたいのを、サイはこらえた。ネネの前だ。

 そんなサイの心を知ってか知らずか、フレイは耳元の髪をかきあげる。

 

「あの男のモビルスーツは撃墜され、仲間も道中で襲われ全員死亡。おそらく奴はMIA扱いになっている。

 うまく立ち回れば、こちらの新たな戦力になるやも知れんぞ。いや、なってもらわねば困る」

 

 何の冗談だ。一瞬サイはフレイを凝視したが、彼女は真顔だった。

 ネネが思わず口を出す。

 

「そんな。彼はまだ意識が混濁している状態で……」

「甘いことを言っていられる状況ではない」

 

 フレイはネネをぴしゃりと跳ねつけた。「山中にはまだザフトの残党がいる!」

「デストロイの攻撃で、山に残っていたザフトのゲリラは壊滅したんじゃないのか。

 今のところ、ティーダも何も捉えていない」

 

 サイは反論せずにいられない。こんな時に戦闘になられてたまるものか。

 だが、フレイはそんな彼の見解を頭から否定した。

 

「ザフトがあの程度で壊滅するなら、とっくにプラントは消滅しているぞ。

 ザフトの残党どもは3年近くもの間この地に根を張り、ここに集中的に撃ちこまれたニュートロンジャマーを守っている。ユニウス条約により、地上からザフト正規軍が撤退した後もだ──連合との争いも絶えぬ。

 ハーフムーンが守られていたのは、山の奇跡だった。低標高の山とはいえ、いくつもの山が連なり、それに谷や川、森が複雑に入り組んでいたからな」

 

 リンドーや村長から何度となく聞かされた言葉を、サイはまたも噛みしめることになる。

 奇跡「だった」──それは既に、虚しい過去形でしかない。

 山が一気に崩れて道が開けてしまった以上、どうあっても連合とザフトの激突は避けられない。

 ――そうなれば、ハーフムーンは、アマミキョはどうなる? 

 

 さらに強く響きわたる、フレイの声。

 

「お前の任務は、避難民を一人でも多くアマミキョへ収容し、オーブもしくはオーブ寄りの中立国家へ送り届けることだ。そこから先は行政府がどうにでもしてくれよう。

 その為にも、アマクサ組及び山神隊、オーブ軍と連携して一刻も早くアマミキョの修復だ」

「分かってる。君が協力的で、心強いよ」

 

 だがその時フレイは、信じがたい言葉を吐いた。

 

「サイ。今回は、私をあてにするな。

 私は明日、ミゲルと共にこの地を離れる」

「はぁ!?」

 

 サイとネネの驚愕の叫びが、見事に同期する。

 彼は思わずフレイの肩に掴みかかった──流れる紅の髪が頬にかかる。

 

「なんでまた、こんな時に!? 

 アマミキョを守るのが、君の最優先事項じゃなかったのか!」

 

 この非常事態に、何故アマクサ組一番隊隊長の君がいなくなる? 

 混乱するサイに、フレイは無表情で答えるだけだ。

 

「これはアマミキョの為だ。長期的観点から言えばな」

 

 何という鉄面皮──思わずサイは激昂する。

 

「今アマミキョが潰されるかも知れないってのに、何が長期的だ! 

 統制だったら何とか我慢もするが、今そこに危険が迫っているってのに、何故君が勝手な行動を! 

 みんなを見殺しにする気かよ!?」

 

 フレイの両肩を掴んで無理矢理振り向かせ、サイは怒鳴っていた。

 ネネが慌てて止めたので何とかフレイを殴らずにすんだものの、憤怒はおさまらない。

 しかしそんな彼の剣幕に、彼女はほんの少しだけ表情を沈ませていた──

 

 今までどんなに怒鳴っても、眉一つ動かさずサイを拒絶するだけだったフレイが、どこかばつの悪そうな顔をしている。

 伏せがちになる長い睫毛。

 

「アマミキョを守ることは私の任務だ──

 それは変わらぬ。信じろ」

「……命令形で言うことじゃないだろ」

 

 フレイの答えに、サイは納得出来ないながらもそれ以上責め立てるのはやめた。

 だがこれだけは、聞いておかねば。

 

「理由は。

 タロミ・チャチャからの指令か?」

 

 その言葉に、フレイは再び態度を鉄のように凝固させてしまう。

 

「臨時の副隊長補佐にそこまで伝える義務はない。

 私の代わりとしても、スティング・オークレーの治療は少しでも早める必要がある。

 いつまでもアフロディーテに頼っていては、今を切り抜けても早晩、アマミキョは沈むぞ」

 

 言われて、サイは気づく。

 フレイたちはあくまで、契約期限のある傭兵の身分だ。いつまでもアマミキョにアマクサ組がいられるとは限らない──

 万一ムジカ社長が気まぐれを起こし、いきなりアマクサ組を解雇などということをしでかせば、その時点でアフロディーテにもカラミティにも、そしてティーダにも頼れなくなる。

 

 その仮定を思い浮かべて、サイは心の底から寒気がした。

 そもそも俺は何故、フレイが戦うこと前提に話をしている? フレイを戦わせ、その彼女を頼りにしているということ自体がおかしいじゃないか。

 俺はまた、キラと同じように、フレイを……

 

「大丈夫だ、サイ」

 

 サイの顔色に気づいたのか、フレイはやや声を和らげた。

 

「アフロディーテは置いていく。万一の時はスカイグラスパーにIWSPをつける準備もさせてある」

「君しか乗りこなせない機体を置いていかれても困るんだけどなぁ……」

「そう言うな。ユウナ・ロマを連れてきたオーブ軍を頼るといい、ムラサメが3機ある。

 むしろ、今までよりも楽になるはずだぞ」

「対処してみるよ」

 

 サイは腕組みしてフレイを見据える。

 ──と、フレイはいきなり耳元に唇を近づけ、彼の肩ごと自分の方へ引き寄せた。

 フレイの豊満な胸が、サイのネクタイと擦れ合う。

 

 馬鹿、ネネが見てる──

 サイは慌てて振り向いたが、看護師は何も知らぬ存ぜぬの素振りで、窓の外の雪景色を眺めていた。

 そんな彼の耳元に囁かれた言葉は、行為に反して色気のないものだった。

 

「リンドー副隊長からの伝言は聞いたか」

「……あ、あぁ、地熱に気をつけろ、ってやつか。

 今ヒスイさんに分析してもらってるけど、確かに地熱の上昇が見られる。

 地殻変動が重なったりしたらホント、運が悪いよ」

「ザフトの動きが妙に遅いのも気になる。分析を急がせろ──雪崩には警戒を怠るな」

 

 

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