【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 蛮勇

 

 

 思いがけず、住民救出に名乗りを上げたフーア。

 

 社長への対抗心か、純粋な正義感か、それとも蛮勇か──

 何だ、この人。サイはカズイと顔を見合わせる。

 

 しかし彼女につられるようにして、ナオトも立ち上がった。

 

「ぼ、僕も行きます! それ、僕の仕事ですから!!」 

 

 止められるわけもなかった。

 恐怖からの反動か、ナオトの目が一気に使命感で輝きだしている。

 カメラマンのアイムも調子に乗っていた。

 

「俺も行くぜ。

 こんないい画のチャンス、滅多にねぇ!!」

 

 これは止めるべきかも知れない――

 サイは一瞬そう思ったが、それより早く社長はしれっと言い放った。

 

「ご協力感謝します。

 ゲートは搬送用5番使って、倉庫前出たとこに作業用のが何台かありますから、好きなのかっぱらってください。

 あ、くれぐれも安全は自己責任で」

 

 気持ちを一気に冷めさせるような社長の言動に、ナオトがむっとした表情を隠さず社長を睨んだ。

 しかしすぐに踵を返し、床を蹴って飛び出していく──

 

「え……

 おい、ちょっと!」

 

 サイは呼び止めようとしたものの、それすら無視してテレビクルー3名は出て行った。

 

「と、止めないんですか?」

 

 カズイがサイの心境を代弁するように社長に叫んだ。

 しかし社長は答えず、じっとモニターを注視したまま。自分に突っかかるマスコミなどどうでもいいと言いたげに。

 カズイは不安げに、サイに呟いた。

 

「なぁ、サイ……嫌な予感がする。

 まるであの時の……」

「俺たちみたいだな」

 

 ──あの時とは言うまでもない。

 2年前、サイを始めとした学生たちが、アークエンジェルに乗る決断をした瞬間のことだ。

 

 

 

 

 

 

 ナオトはリフトグリップの速度を最高値にして、ゲートへの最短経路を進む。

 というよりも、滑空している。さっきまでよたよたとグリップにしがみついていたのが嘘のように。

 フーアがようやく追いついたが、声をかけるのが精一杯だった。

 

「どうしたのよ、貴方らしくもない」

「当たり前でしょ! 

 一体なんでこんな処でモビルスーツが暴れてるんです。絶対、許せません!」

 

 グリップが一旦つきる曲がり角で、ナオトは思い切り壁を蹴って曲がるべき方向へ正確にターンした。

 爆発音と震動が続く中、ナオトは蹴りの勢いで空中できれいに一回転し、次のグリップへ飛びつく。

 

「たきつけたの、確かに私だけど」

「やっぱ、さすが半分コーディ……

 すげー」

 

 フーアとアイムの小さな驚きの声も、ナオトには聞こえていない。

 船外の人々のざわめきに混じる轟音。

 

「何なんですかあの人たち、僕には分かりません。何で平気でいられるんだよ。

 あそこで震えていた女の人が一番普通です」

 

 ナオトの言葉に、少年らしい青臭い怒気がこもる。

 

「分からない方がいいわね」

「戦争慣れしてる、って奴か」

「だいたい、ムジカ社長は無責任すぎます! 

 目の前で自分のコロニーの人たちが死のうとしているのに、平然としていられるヴァカ社長、ありえませんよ? 

 ちょっと聞いてますか二人とも、僕はあのサイさんって人もですね……」

 

 船内を飛びながら、延々と続くナオトの罵倒。

 フーアが深々とため息をつき。

 アイムがカメラをいじりつつ、彼女に声をかけた。

 

「まぁ、その……14だからな」

 

 

 

 

 

 アマミキョ周辺は船の内外問わず、大混乱に陥っていた。

 揺れで打撲傷を負った者、安全な場所を探して遮二無二走り回りさらなる混乱を呼び起こす者、事態を放り出してそのまま動かない者──

 

 アムル・ホウナは騒動の中、母と婚約者により港湾区画のゲート外へ連れ出されていたが、そこに避難民が押し寄せ、結局母たちと共に後戻りするハメになった。

 狭いゲートに殺到し押し合いを続ける人々の中で、骨を砕き内臓を押しつぶそうとする圧迫感に耐えながら、アムルは冷静に呟く。

 

「満員電車への耐性が、こんなとこで役立つとはね」

 

 彼女の視線の向こうでは、必死でアムルの名を呼ぶ母が、群衆に押し流されていった。アムルの婚約者と共に。

 見えなくなっていく母親に、アムルは冷たく吐き捨てる。

 

「恥を知れ。世間を知らないバカが」

 

 

 

 

 

 

 混乱する正面ゲートを避けて裏側の搬送用ゲートから飛び出し、重力下へと戻ったナオトたちは、すぐさまオープンタイプのジープに飛び乗った。

 既にコロニー上空には、オーブ軍の戦闘ヘリコプターが出動している。

 

 じっとり汗が滲んだ手でハンドルを握り直しながら、フーアは呟いた。

 

「ヘリを貸してもらえばよかったかしら。

 それからウーチバラ支局への連絡もしなきゃね」

 

 アイムがカメラ片手に、車体から身を乗り出す。

 

「あそこだ。リュウタン広場25区画っ!」

 

 同時にナオトもハンドマイクを握りしめ、ほとんどハコ乗りの体勢となった。

 風をまともに受け、ネクタイが激しく煽られる。

 

 住民の中にはきっと、自分の顔を知っている視聴者もいるはずだ。

 行く先の青空が黒煙で燻られ、顔にあたる風には灰が舞う。

 重力の中へ戻り、ずっしりと体内の血液が下がるのを感じたが、ナオトは思い切り頭を上げた。

 

 避難を続ける人々が、ナオトたちのジープと逆方向へ移動していく。

 泣き喚く子供の手を、無理やり引っ張る母親。

 ぐったりとして動かず、ベンチに横になる女性。

 疲れきった様相で女を背負う男、親を見失いぎゃあぎゃあ叫ぶ少女、あろうことか喧嘩をおっぱじめている男女。

 路地裏からはさらに、ドスの効いた男たちの罵りあいが聞こえる。

 

「コーディネイターなんぞが住むから!」

 

 そんな怒声と共に、何かが殴り倒される鈍い音。鳴り響く女性の悲鳴。

 コロニー中に鳴り響くサイレンが、さらに人々の混乱を煽り立てる。

 そこへナオトの絶叫が、ジープに備えつけられた拡声器から轟いた。

 道路上の煙を吹き飛ばし、わめき声をかき消し、ヘリを撃ち落さんとする勢いの叫びが。

 

「ウーチバラの皆さん、こちらオーブSUNテレビからの緊急放送です!! 

 リュウタン広場付近で只今爆発が発生、テロの可能性もあり、現在軍が状況を調査中です! 

 ウーチバラ統括本部より、避難指示が発令されています。万が一の場合に備えて皆さん、落ち着いて避難行動を開始してください! 

 争わないで! 混乱しないで! 落ち着いて! 

 軍と統括本部の指示に従い、最寄のシェルターに避難してください!!」

 

 アイムはとっくに片手で耳栓をしている。

 14歳でありながらはっきりとした滑舌の良い大声、これこそナオトの半分のコーディネイターの血がなせる技だった。

 外の放送が聞こえていそうにない小さな路地を中心にジープは回り、ナオトたちは誘導を続ける。

 なるべく被害の大きそうな場所へ、負傷者もいるであろう場所へ。

 必然的にジープは、ジンの暴れる方向へと近づいていった――

 

 

 

 

 

 

 

 その付近の路地裏を走る、3つの人影があった。

 紅いパイロットスーツの少女に制服の少女、そしてロングコートの男。

 

 路地裏に積み重ねられたゴミや荷物を軽々と飛び越え、男たちが殴り合いを始めた一角を無視し、3人はシャッターの降りた地下通路へのゲートへたどり着く。人一人がやっと通過できるくらいの小さなものだ。

 パイロットスーツの少女が、慣れた手つきでグラブを外して真っ白な手を出し、ゲート入口の指紋照合に手を合わせた。

 シャッターが開き、彼女はさっと身体を向こう側へくぐらせる。

 そこへナオトの絶叫も聞こえてきたが、少女は振向きもしない。

 

「ティーダを頼むぞ」

 

 それだけ言って、彼女は向こう側からシャッターを閉め、そのまま姿を消した。

 

「アイアイサー!」制服姿の少女が、おどけて敬礼してみせる。

 

 男が彼女の腕を取り、猛然と走り出した。

 途端に少女の胸元から、黒い球体がこぼれおちる。

 

「あ! ハロ!」

「ハロハロ、オーマイゴッドン!」

 

 球体はぴょんぴょん道路を跳ねて叫び、走り出す少女のあとを自動的に追いかけていく。

 積み重ねられた古いダンボールと低いビルが立ち並んだ向こうに、炎がちろちろ蠢いているのが見え、さらに黒い巨像のような物体が動いているのが見えた

 

 ――それがジンの左脚部だということを、大部分の住民は知らない。

 住民にとってそれは、自分たちの家と生活空間を破壊するツノつき怪獣以外の何ものでもない。それがジンだろうがズンだろうがゾンだろうが、知ったことではなかった。

 

 ただ――

 ナチュラルの住民であれば当然、コーディネイターのテロを疑い。

 コーディネイターの住民であれば、これはザフトのテロに見せかけたナチュラルの卑劣な罠だと、一方的に断定する。

 それはウーチバラに限らず、この時代においてはどこでも同じだった。

 

 

 

 

 

 

 ナオトの放送は区画監視カメラの音声回線を通じ、アマミキョブリッジにも入っていた。

 そのあまりの大声に、サイは思わず感心してしまう。

 

「さすがレポーターだな」

 

 まさかブリッジまで直接この声が届いているわけではないだろうが、一瞬そう錯覚させるほどのはっきりした声だ。

 しかしカズイが小さく突っ込む。

 

「でもさ……あいつが一番落ち着くべきだっての」

 

 その一方で、社長がトニーにお伺いをたてていた。

 

「医療ブロック、開けときますか隊長?」

 

 隊長としての彼の顔を立てるというふりをした、社長の嫌味。咄嗟にそうサイは感じた。

 今更気づいたかのように、慌てて顔を上げるトニー。

 

「社長、作業が中断している今では……」

 

 すかさず飛んでくる、副隊長の言葉。

 

「今の揺れと混乱で負傷者が確実に出とる。

 隊長、ワシがお前さんなら医療ブロックはそのまま救急体制に移行だ。

 勿論救急班も動かせ」

 

 隊長を見ながら、副隊長は嫌味を込めて笑う。

 もっとも、嫌味というニュアンスがトニー隊長に伝わったかどうかはおおいに疑わしかった。

 致し方なく隊長は指示を送る。

 

「分かりました。

 本日只今をもって、アマミキョ医療ブロック開放! 

 アーガイル君、通信頼む」

 

 サイは再度回線を開いた。

 

「医療ブロックに緊急連絡。

 医療班は作業を続行、負傷者の受け入れをお願いします。医療ブロックへ……」

 

 

 

 

 

 

「えぇ~っ? 

 サイさん、冗談やめて下さいよぅ!」

 

 医療ブロックでは、ネネが空中に散乱した大量の点滴袋を片付け中に、まだ固定の終わっていないベッドに頭をうちつけたところだった。

 他の場所では既にかなりの負傷者が運びこまれ、医師と看護師が飛び回っている。

 スズミ女医はサイの指示が終わるか終わらないかのうちに、壁に据えつけられた端末から直接ブリッジへ通信していた。

 

「受け入れはします、しかしせめてここだけでも重力制御をかけてください!」

 

 

 

 

 

 

 ナオトたちのジープは、コロニー内をさらに爆走する。

 ジンの通過した跡は既に道路が寸断され瓦礫の山となっているが、ジープはそれを軽々と飛び越えた。

 砂煙の向こうに、ゆっくりと移動中のジンが視認できる。

 ――全部で3機。

 うち1機は黒と紫で塗装され、通常のジンなら後ろへ飛び出している頭頂部のトサカが、前面に飛び出している。あれがリーダーだろうか? 

 そのうちの1機、ノーマルカラーで塗装されたジンがMMI-M8A3・76mm重突撃銃を上げる

 

 ――銃口が光り、またしても火柱が上がった。

 

 そこは、昨日ナオトたちが寄った喫茶店――

 フーアがアメリカンコーヒーの謎の濃さに仰天し

 何故か洗剤味だったチャーハンにアイムが文句をつけた店が

 0.5秒でコッパ屑と化し、宙に舞った。

 

 

 まだ新しかった街並みが一瞬にして炎に包まれ、塵の中へ崩れ去っていく。

 

 

 ナオトは混乱の中、洋品店を見つけた。昨日はまだ閉店大安売りをしていたはずの店だ。

 何故かそこにはまだ、幼い子供がこそこそと動いていた。しかもショーウインドーの中で。

 恐らくこのドサクサの中で盗みにでも入ったのだろう、小脇に新品の靴を抱えている。

 すぐその上を、オーブ軍の戦闘用ヘリコプターが通過していった

 

 ――巻き上がる塵の中、ナオトは子供に向かって手を振り上げ、叫ぶ。

 

「最寄のシェルターは手前のコンビニを右に曲がって10m! 

 走って!! 駄目ならアマミキョに!!」

 

 この声で、ジンなんか吹き飛ばせたら。

 ナオトはそう思わずにはいられなかったが

 

 

 ──その時、彼は見た。

 避難民たちとは逆方向、まっすぐにリュウタン広場へと走っていく、制服姿の少女を。

 

 

 

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