【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 ローエングリンを撃つのは君だ

 

 緊急時ゆえか、モビルスーツでも担げるほどの簡易型に改造されてはいたが。

 テレビカメラにも似た特徴的な砲口の形状はまさしく、あの脅威の戦略兵器・ローエングリンだった。

「何故です!」忌まわしい黒の砲台を背後にして、サイは叫ばずにいられない。

 

「アマミキョは救助船だ。あんなものを載せて一体何を!?」

「連合軍の好意は素直に受け取っておきたまえ。

 モビルスーツ用に開発されていたものだが、結構無理を言って持ってきてもらったんだよ。

 ザフトの位置を特定でき、なおかつ最良のポジションにいるのは、この船以外になくてね」

 

 得意げに胸を張るユウナに、サイはますますいきり立つ。

 

「ですからっ、そもそも何故、あれを撃つ必要があるんです! 

 この船の皆に、人殺しの手伝いをしろとでも!?」

「君も愚かだねぇ」

 

 陽気さを装っていたユウナの目が、サイを見た瞬間どす黒い冷徹の色で染まった。

 

「あの忌まわしきニュートロンジャマー。

 ザフトごと一掃するには今しか、この方法しかないと、どうして思わん?」

 

 愚かはどっちだ──

 セイランはニュートロンジャマー散布地域に一気にローエングリンをぶち込む気だ。

 あまりの暴挙に、サイは無礼と知りつつも進言せずにはいられない。

 

「セイラン代表補佐。恐れながら、陽電子砲の地上使用において、環境への影響を無視することは出来ません。

 自分たちも2年前、地上においてローエングリンの使用は出来うる限り回避してきました。それが生命に関わる状況であってもです。

 それを今、住民や避難民が至近距離にいると分かっている中での使用は危険すぎる!」

「分かっている」

 

 ユウナは不意にサイに近寄り、ぐいとその顎を掴んだ。

 

「その環境を、取り戻す為に言っている。

 あのジャマーが何万となく地上に撃ち込まれ、その電磁波の影響によって人間は、大地は、絶えず破壊し尽されてきた。乱れた地磁気の影響は、今もこの大地を狂わせ続けている。

 その災厄に、この土地だけでも終止符を打ってやるんだよ」

 

 サイの首を絞めようとでもするように、その顎を持ち上げるユウナ。

 ひどい屈辱がサイの胸に広がったが、代表補佐は構わず勝手な演説を続ける。

 

「今の今まで、この地にはたやすくザフトも連合も近寄ることが出来なかった。ジャマーを撃ちこまれて以降、絶え間なく続く地殻変動の為に。

 喜びたまえ。たまたま不時着したアマミキョこそが、この光栄なる任務を果たすことが出来るのだ! 

 これはオーブが世界の信用を得るチャンスなんだよ、アーガイル君。

 なんたる好運、なんたる僥倖!」

 

 3基あれば地上の全てをその支配下に置くことが出来るといわれる、ニュートロンジャマー。それを数万単位でザフトは全地球上へばらまいた──

 そのおかげで起きた災厄と失われた命は今なお数知れず、連合が何年も血眼になってジャマー発生器を掘り出そうとしてもとても全ては掘り出せず、今なお世界各地で狂気のジャマーは地下深くを掘り進んでいると言われている。

 その悪魔の兵器を、そんなに簡単に一掃出来るというのだろうか、この男は? 

 

「代表補佐、お願いします。もう一度考え直して……」

「嫌だね」

 

 抵抗するサイを、ユウナは一息にその言葉ごと壁まで押し付けた。

 

「イイ顔、するねぇ。

 僕は君みたいな真っ直ぐできれいな眼が大好きだ、カガリを思い出すよ」

 

 明らかにサイに対して、悪意を込めた笑顔。

 俺はひょっとして、この男のサド心を刺激したのだろうか。そうサイは錯覚した。

 ユウナはさらに、信じられぬ言葉を吐く──

 

「アーガイル君、君に英雄になる権利をあげよう。

 ローエングリンを撃つのは君だ!」

 

 ユウナの指で首元や頬をいいようにもて遊ばれながら、サイは目を剥いた。

 そのままユウナはカズイを振り向く。茫然としながら何も言えないカズイを。

 

「バスカーク君も、友人を手伝ってやりたまえよ」

「え?

 い、いやその……何で俺?」

「ローエングリンの使用経験があるのは、今いる連合・オーブ軍を含めても君たち二人だけなんだ。

 特にアーガイル君の火器管制に関する知識は不可欠だ。実戦であの兵器のオペレートを、通信の一部とはいえ経験したのは君だけだ、何を怖がる? 

 アマミキョは、真の救い主となるんだよ!」

 

 ユウナはとうとうと喋り続けながら、サイの逃げ道を完全に塞ぐようにもう片方の手でその肩を掴む。

 そのうすら笑いを間近で凝視しながら、サイは気づいた――先ほどのユウナの言葉の真の意味に。

 

 真っ直ぐできれいな眼が大好きだ。

 その純潔が恥辱にまみれ地に這い蹲り、大きく歪む瞬間がたまらないから──

 

 視界の隅で、カズイとヒスイがオロオロと顔を見合わせている。

 オサキが不在で良かった、彼女がいたらユウナを殴りかねない。

 アムルだけは軽蔑の表情でユウナの背を眺めていたが──ああ、あの人はナチュラル以上にオーブ政府を嫌っていたっけ。

 唇を噛み続けるしかないサイ。だがユウナはさらに調子に乗る。

 

「それからもう一つ。

 クルーには勿論、村人たちにも武装を!」

 

 ざわっとブリッジの空気が震え上がる。自分たちに武器を持てというのか? 

 カズイやヒスイがさらに怯えるのが、サイにも見えた。

 アマミキョクルーとて馬鹿ではない。緊急用のハンドガンぐらいは、アマクサ組の許可のもとで携行可能だ。殺傷能力は極度に低く、携行時の厳正なチェックも逃れられないが──

 

「銃を、老人や子供たちにも持たせろというんですか? 

 オーブ政府らしい、矛盾に満ちた言い草ね」

 

 会社づとめの頃からオーブ政府への不満を募らせていたアムルが、ここぞとばかりにユウナを皮肉る。

 しかし彼は何の動揺もせず、アムルを嘲笑するばかりだ。

 

「当然だよ。

 ザフトは必ず来る。ここにね」

 

 

 

 

 

 

 その5時間後。

 

「こんな時にトンズラなんて……

 卑怯だ、フレイさんは」

 

 アマミキョのハンガーでは、ナオトがハッチを開いたままティーダを起動させていた。

 その後ろで、マユと黒ハロもデータ収集に余念がない。

 通信ごしの時澤の声が響く。

 

《アマミキョの修復は8割完了した、あと20時間あれば予定進路に復帰出来る。今はオーブ軍と連携して相手の出方を探ってる──

 忘れるな、ティーダのシステムは絶対に落とさないでくれよ。

 今あのニュートロンジャマーが視認出来るのは、ティーダのおかげなんだから》

 

 だがナオトは、ハンガーにぽつんと残された紅のダガーL──

 アフロディーテが、妙に気になっていた。

 

 ソードカラミティもグフも健在で、IWSPは今スカイグラスパーに装着されている。

 ウィンダム2機にディープフォビドゥンにも整備士がとりつき、ハマーたちもいつものように怒鳴りあいながら作業している。しかし──

 

 アフロディーテが通常の状態でないというだけで、これほどまでにハンガーは力を失ってしまうものか。

 反発し続けてきたはずのフレイ・アルスターの求心力に、ナオトは改めて愕然とする。

 

「元はただの……ダガーLなのに」

「文句言わないで、ナオト」

 

 マユが笑って顔を上げる。「フレイは、ステラを助けに行くんだって。

 それがアマミキョの為になるんだって」

「ステラ……って、あのデストロイの娘かよ」

 

 ナオトは口にするのも汚らわしいというように吐き捨てる。

 

「デストロイはアークエンジェルとザフトがやっつけたって、サイさんが言ってたじゃないか。

 何でその娘を助けに?」

 

 マユは答えない。

 ただ、不思議そうに目の前のモニターを凝視している。

 

「それよりナオト……

 何か変だよ、ジャマーの動き」

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 ザフト地下基地からジオグーンが合計6機、基地から出発していった──深く凍てついた、地中の闇へと。

 地中巡航型グーンとも呼ばれるその機体は、かつてヤハラにいるアマミキョと連合の部隊を脅かしたこともある。それが一部隊となって今、ハーフムーンの地下へと直進していく。

 大地を破壊し、地獄へと突進していく。禍々しいドリルを武器に。

 轟音と共にひとしきり大地を揺るがし、部隊は基地を後にした。

 隊長であるピート・ベンターは、掘削音が完全に消えるまでの十数分、カタパルトから離れようとしなかった。

 恐らく、二度とあのジオグーン達がここへ戻ることはない──

 

「これで……

 平穏な地上を、取り戻すというのか」

 

 

 

 

 

 

 ほぼ同時に、ブリッジでもヒスイが異変に気づいた。

 

「どういうこと? 

 ニュートロンジャマーの掘削速度が急激に上がってます!」

 

 尋常でないヒスイの言葉に、サイもモニターに飛びついた。

 

「角度も変更されている……

 それに、ザフト基地から出撃したと思われるこのアンノウンは?」

 

 ただならぬ事態に、カズイもアムルも、予備ブリッジの操縦桿の反応を確かめていたオサキも顔を上げた。

 そこへ、さらに尋常ならざる異変が起こる。

 医療ブロックの集中治療室から、リンドー副隊長の怒声が響いたのだ。

 

《すぐにオーブ軍を呼べ、サイ! 一刻も早くザフトを止めろっ!!》

《副隊長、お願いですから動かないで! 傷が……》

 

 地の底から蘇りし魔獣の雄叫びに似たものを、サイはその絶叫の中に感じ取った。

 

「副隊長!? 何事です」

 

 どんな時でもボソボソ声で、自分が傷ついた時さえも平静を失わなかったあのリンドーが、憔悴している。慟哭に近い叫びを上げている。

 それだけで、今起きている事態がどれほどのものか、その場の全員が直感した。

 

《ニュートロンジャマーの予測進路と到達深度を算出せい、5分以内だ!》

「アムルさん、お願いします!」

 

 咄嗟にサイはアムルに指示を下す。

 現時点で最も計算速度が速いのは、数字に強いコーディネイターの彼女だ。過去の怨恨などに拘っている時ではなかった。

「はい!」サイの命令通り、アムルは即座にキーボードを凄まじい速さで操り出す。

 2分で答えは出た──

 そしてアムルは思わず息を飲んだ。自分の叩きだした結果に。

 

「このまま行くと、あと2時間32分で2つのニュートロンジャマーの集団が合流。

 その30秒後に、アンノウンが合流地点に突っ込む形になるわ!」

「その際に、放出が予測される地磁気は

 ……っ!?」

 

 計測結果を見たヒスイは、声も出ずふらりと倒れかかる。

 そんな彼女をオサキが慌てて抱きとめ、カズイが代わりにさらなる分析結果を口にする。

 

「それにこの深さで、この予測衝撃波──

 地下のマントル表面まで影響しかねない!!」

 

 リンドーの歯ぎしりが、通信ごしに響いた。

 

《ザフトの阿呆共、ユーラシア大陸を割る気か!》

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 束の間の平和は終わった。

 迫りくる崩壊、おびただしい死。

 大量の血は、サイとスティングの中で、何を目覚めさせるのか。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「鮮血のサイ」

 

 狂気の劫火、振り払え! ムラサメ!! 

 

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