【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-22 鮮血のサイ
part1


 

 寒空の下、ハーフムーンでは村人たちの避難が開始された。

 長年この地を襲ってきた地殻変動とは比較にならない災厄が来るという情報は、瞬く間に村を駆け巡ったのだ。

 大陸が割れ、引きちぎられる──

 

「集まれー! 

 みんな、すぐにアマミキョに集まるんだーっ!」

 

 スピーカーを通したトニーの大声が、村中に繰り返し響き渡る。唸りをあげるサイレン。

 平和な村は一瞬にして、崩壊の運命に晒されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 暖炉の火が消された村長宅では、祖母がメルーの紅いマフラーを直してやっていた。

 小さなメルーは、不安を隠せず老婆を見上げる。

 

「畑はどうするの、おばあちゃん?」

「……仕方あるまい」

 

 老婆はメルーのコートの襟元のリボンを、きっちり結んでやる。

 

「お前はすぐにアマミキョへ行くんじゃ」

「いや!」

 

 メルーはたまらず、祖母の膝にすがりつく。「おじいちゃんもおばあちゃんも、ここにいるつもりでしょ。

 私も残る!」

「全く、聞き分けのないことを! 

 皆と一緒に逃げるんじゃ、メルー」

「やだやだっ」メルーは祖母から離れようとしない。「畑がなくなったら、お日様がなくなったら、生きていけないよ! 

 助けてくれるよ、きっとナオトとアークエンジェルが助けてくれるから! 

 だからおばあちゃん、ここにいよう!」

 

 だが祖母は黙ったまま、愛する孫娘の丸っこい身体を引き離す。

 メルーの目線に腰を落とした彼女は、懐から包みを取り出した。

 それをメルーに渡そうとしたが――

 老婆は皺だらけの手を引っ込める。その手が震えているのは、寒さのせいだけではなかった。

 

「おばあちゃん、何ソレ?」

 

 いつもの麦飯とは明らかに違う重みを持つらしいその紙包みを、メルーはただ、見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 PHASE-22  鮮血のサイ

 

 

 

 

 メルーが渡された紙包みの中身──それと同じものを、医療ブロックのネネたちもまた受け取っていた。

 患者にも渡せる限り渡すようにと指示されたその中身に、ネネは戦慄を隠せない。

 それは、護身用の拳銃。

 

「何だそりゃ! 

 何があるってんだよ……」

 

 ネネの後ろから様子を見守っていたスティングが、思わず叫ぶ。

 震える手で、彼女は包みを閉じた。

 

「患者さんたちを守る為なら……やらなきゃ。

 安全装置の外し方、復習しないと」

 

 いつものように笑おうとして、ネネは口元を歪ませる。

 そんな彼女を見ていられず、スティングはイライラと床を蹴った。

 

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。

 撃てるもんか、そんな手で」

 

 そんな彼らを振り返りもせず、隊員やオーブ軍人たちが医師や看護師、さらには比較的動けそうな患者たちにまで銃を配っていく。

 撃ち方をレクチャーする者もされる者も、一様に不安げな表情を隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 刻々と状況が伝えられる予備ブリッジ。

 その奥のブリーフィングルームでは、サイたちブリッジクルーと山神隊が集まっている。

 一刻を争う事態ではあったが、どの顔も沈うつなままだ。

 その沈うつの原因は主に、山神隊・風間曹長の言葉だった。

 

「冗談じゃないですよ! 

 風間さん、貴女は何を言ってるんですか!?」

 

 サイは風間の決断に、思わず叫ぶ。

 時澤軍曹もまた、彼女の突飛な発言に猛然と反論していた。

 山神隊の仲間として、人間として、そうせずにはいられなかった。

 

「撤回して下さい、風間曹長! 

 やりすぎです、それだけは!!」

 

 だが当の風間は、いつもの冷静さを全く崩すことなく答える。

 

「サイクロプスなど比較にならないほどの規模で、星がえぐられようとしている時なのよ。

 止める手段があるのなら、どんなことをしてでも止めるべきです、時澤軍曹。

 ちょうど氷も溶け始めていることだし、ディープフォビドゥンで河から入れば可能な作戦のはず」

「馬鹿な……」

 

 腕を組んだままいささかも揺るがない風間の態度に、時澤はがくりと肩を落とす。

 その比較的小さな身体は、堂々とした風間に比べて今やひどく萎れて見えた。

 時澤が決して言えない言葉を、サイは代弁する。

 

「特攻──

 しようと、いうんですか。あれに」

 

 風間はいつもの調子で、広い額にかかる髪を軽くかきあげながら、部屋中央のディスプレイを指し示した。

 平面に展開されたディスプレイ内では、CGで描かれた2つのニュートロンジャマーの集合体が地中の遥か奥深く、マントル表面に激突しかねない勢いで突進しつつある。

 その間をぬうようにして進んでいるのは、正体不明のモビルスーツ群だった。

 

「このアンノウンは、開戦時にザフトが月面で使用し、連合軍の核搭載部隊に多大な被害を与えた兵器。それを応用し、一時的に重力下でも使用可能にしたもの──

 それが、リンドー副隊長の推測。

 こいつらが、今までザフトでも遠隔操作の出来なかったニュートロンジャマーを暴走させ、磁石のように引き寄せている。

 こいつとニュートロンジャマーが地中で──2000mを超えた深度で接触すれば、生じる電磁波、衝撃波、震動、及び想定される地殻変動は……

 さっき何度も見た通りよ。

 間違いなく、ユニウスセブンがもう一つ、ここに落下する程度の災害は発生するでしょうね」

 

 とうとうと語る風間に、誰も口を挟むことが出来ない。

 

「ならば、方法はこれしかないでしょう。

 アマミキョの救難用ドリルを私の機体につければ、十分いける。

 あのディープフォビドゥンなら、トランスフェイズを調整すれば、水中だろうと地中だろうと……」

「自分が行きます」

 

 すかさず時澤が進み出た。「風間曹長、貴女はまだ若い!」

 しかし――

 

「時澤軍曹。

 貴官のディープフォビドゥンの操縦経験は、とても本作戦遂行に十分とは言えません」

 

 仲間の進言も、風間は頑固に切り捨てるだけだ。

 

「目標到達前に敵に撃墜されたら、そこで終わりなのよ」

 

 ずっと部屋の隅で消沈したままだったユウナが、ようやくおどおどと口を出す。

 

「そ、そんな……危険すぎる真似をしなくとも……

 ここから直接ローエングリンで狙えばいいじゃないか。最初の僕の作戦じゃ、何故駄目なんだい」

 

 あまりの状況変化を前に、ユウナの威勢は一気に消し飛んでいた。

 

「言ったはずですよ。

 ティーダのレーダーをもってしても、地中のジャマーの位置は推測の域を出ず、誤差は恐らく50m以上はある。

 この誤差の発生も、ジャマーを引きつけているアンノウンの影響でしょう」

 

 風間はユウナをひと睨みし、全く臆することなく続けた。

 

「ローエングリンといえども、その範囲をカバーすることは難しい。

 しかもあの急造ローエングリンの構造上、連続発射は不可能。一度失敗すれば、再充填にかかる時間は最速でも6分。

 その間に、アマミキョはザフトに叩き潰されるわ」

 

 一撃で仕留める必要があるからこそ、正確な位置情報が最も重要である。それはサイも十分分かっているつもりだった──

 しかし、だからといって、風間の作戦は到底受け入れられるものではない。

 

「アンノウンが、地中に衝撃波が及ぶ危険域に近づく前に……

 ディープフォビドゥンで地中から接近して、位置を突き止め、相手を制止させて……

 ――それから」

 

 サイはその先を続けられない。

 風間の提案した作戦は、彼女自身を囮にして自殺させるようなものじゃないか。

 カズイもアムルもヒスイも、その場にいたブリッジクルーたちは全員、押し黙ることしか出来なかった。

 だが、風間は自信たっぷりに微笑んでみせる。

 

「その為の、ティーダの黙示録よ。

 私がアンノウンに最接近した瞬間に黙示録を使えば、敵の位置は丸見えじゃないの。

 機体の誘爆の威力も考えれば、これが最も安全確実」

 

 風間の表情は実にすっきり晴れ晴れしている。

 だがその言葉は、サイにとってひどく残酷だった。これはつまり──

 

「……貴女に向けて、ローエングリンを撃てっていうんですか」

 

 サイが呟いた瞬間、ヒスイがたまらずしゃがみこむ。

 黒いストレートヘアが乱れ、繊細すぎる彼女の嗚咽は部屋中に響いた。

 サイもまた、がくりと膝を折りそうになるのを支えるのが精一杯だった。

 だがそんな彼に、風間はウインクまでしてみせる。

 

「その通り。

 いいわねサイ君。ちゃんと狙うのよ、ここ」

 

 そう言って風間は、自らの豊満な胸元を親指で示した。

 

 ――風間は、自らを囮にしてアンノウンとジャマーを消滅させる気なのだ。

 ティーダの能力を利用して出来うる限りアンノウンに近づき、捕らえた瞬間に自分ごとアンノウン及びジャマーを、ローエングリンで撃たせて消滅させる。奴らが危険地帯に到達する前に。

 

 サイは彼女の眼を、もうまともに見ることが出来ない。

 さすがのユウナも、ここでは口ごもるより他なかった──サイの代わりに自分が撃つなどとは、今更言い出せない。

 カズイさえもこの状況に、口を挟まずにいられない。

 

「敵の位置を知るんだったら、ティーダの黙示録だけで十分じゃないですか。

 ティーダをアンノウンの上空に接近させて黙示録を使えば……

 何もわざわざ、貴女が地下へ潜る必要は!」

「アンノウンが有人兵器とは限らない。

 もし無人なら、ティーダの黙示録はほぼ無意味。感知出来たとしても、確実性は大きく落ちる」

 

 風間は、僅かに残る生への可能性を無惨に切り捨てる。

 あまりにもテキパキと、彼女は自分の希望を切り捨てていく。

 

「皆も知っている通り、ティーダの黙示録はヒトの、魂の場所を最も強く感じるものよ。

 この作戦は一回きり、絶対に失敗は許されない。

 より正確性を期す為には、強く感じられる魂が必要なの。

 つまり、ナオト君たちがよく知る人物が該当地点にいなければならない」

 

 沈黙を破るように時澤が叫んだ。

 

「どうしてそこまで! 

 死にたいんですか、貴女はっ!!」

「上官の命令が聞けないの、時澤軍曹?」

 

 熱い時澤に対して、風間はあくまでドライだった。

 だが、時澤も怯まない。仲間を自殺させるわけにはいかない。

 

「理由を伺う権利はあるはず。

 貴女より長く隊に属している、人生の先輩としてはね」

 

 風間の長い睫毛が、ふっと下を向く。

 まるで幼子に言い聞かせるように、風間はゆっくりと時澤を諭した。

 

「強引なところは変わらないですね……時澤先輩。

 出世しませんよ」

 

 そして風間はサイを始めとする、その場の全員を見渡した。全員が、彼女を幽霊でも見るような目つきで見ていた──

 そして彼女は実際、これから進んで幽霊になろうとする人間だった。

 膝だけでなく心まで折れそうになっているサイの肩を、風間はそっと引き寄せる。

 母性の匂いが、またもサイの鼻孔をついた。

 

「私は5年前、後方支援のオペレーターだった。

 でも、あのエイプリルフールクライシスでジャマーが投下された直後から、運命は変わってしまったの。

 ジャマーは私のいた部隊の至近距離にまでばらまかれ、その影響で無力化した私の隊は全滅。

 仲の良かった先輩も同僚も可愛い後輩も、みんな何も出来ずに死んでいった。

 必死で逃げる生身の私たちを、ザフトの奴らはモビルスーツで、容赦なく撃っては潰していった。

 たった一人残された私も、下腹部に傷を負ってね。

 子供を産めなくなった」

 

 

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