【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
あくまでさらりと話す風間。
だがその過去は、初めて聞かされる者たちにとっては全くもって、受け入れがたい惨劇だった──
ニュートロンジャマーとは風間にとって、命を賭しても殲滅せねばならないものだったのである。
遂に耐え切れなくなったヒスイが、だっと部屋から出て行く。
その後姿を眺めながら、風間は呟いた。
「――理由としては、それで十分?」
瞬間、時澤が風間の前にひれ伏した。
額を床にこすりつけ、血を吐く勢いの時澤の声が轟く。
「風間曹長……
自分は貴女に対し、大変申し訳ないことをしました!
何も知らず、自分は貴女を責めるような真似を!」
「顔を上げてください、先輩」
風間はサイと一緒に、時澤の両肩を抱くようにしゃがむ。
大の男二人を、胸で抱え込む形になる風間。
「山神艦長に、よろしくお伝え願います。
私を拾ってくださり、ありがとうございましたと……
過去を詮索しない山神隊だから、私もここまで戦ってこられたんです」
時澤は頭を下げたまま、男泣きを必死でこらえる。
サイはそんな二人の姿を見ながら、自分が撃たねばならない命の重さに潰されそうになっていた。
唇が急速に冷たくなる。
俺は撃てるのか、風間さんを。
かつてラミアス艦長が、バジルール艦長を撃ったように──
馬鹿な、出来るわけがない!
そんなサイの髪を撫でながら、風間は呟く。
「亡くなった後輩がサイ君、貴方にそっくりでね。
貴方、何だか他人のような気がしなかった。
ちゃんと撃つのよ、私のこと」
これが「ちゃんと護ってよ、私のこと」だったらどんなに楽だろう。
こんなにも簡単に、他者に命を投げ出されるとは──
だがそこへ、アムルの声が割り込む。
「風間曹長、申し訳ありません。
確かに現状の回避には、その作戦をおいて他にはないと思いますが……」
申し訳ないと一応前置きをしてはいるが、その場の空気をまるで突き放すようなアムルの声。
しかし今の状況下では、彼女のような冷たさが必要なのかも知れないとサイは思った。
――そしてアムルが告げたのは、さらに過酷な現実。
「作戦が成功したとしても、ハーフムーンの壊滅は回避できません。
最小限に地殻変動を抑えこんだとしても、長期間にわたりジャマーの影響を被った地盤の脆弱さから考えて、衝突予想地点から半径10キロの範囲の陥没は避けられません。
そうでなくとも、サイ君──
このローエングリンは、環境への影響を考慮していない旧式。だから汚染により、10年は人が住めなくなるわ」
ティーダコクピット内で、ナオトはサイの映るモニターを割れよとばかりに殴りつけた。
「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ、ハーフムーンがなくなるなんて……
そんなの、絶対に嫌だっ!」
《現実だ、ナオト》
ひどく冷たく聞こえるサイの声。
モニターごしにナオトは彼を睨みつける。その視線を真正面から受け止めながらも、サイはあくまで淡々と告げた。
《俺を恨むなら、やることやってからにしろ。
お前の役目は村人たちを必ず全員、アマミキョに避難させることだ。一人たりとも死なせるな。
大地がなくなっても、人が残ればハーフムーンは生きのびる!
それが――風間曹長の願いでもある》
「そんな奇麗事!」
だが、なおも反抗しようとするナオトを止めたのはマユだった。
「ナオト、行こう。
今は、メルーたちを助けなきゃ」
ナオトは後ろから自分の肩を捕まえるマユの顔を間近に見ながら、歯噛みを抑えられなかった。
――やっと、見つけたのに。
僕が胸を張って生きられる場所を。
僕がマユと一緒に生きられる場所を、やっと見つけたと思ったのに!
「畜生……
畜生、畜生、畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生!!!」
コクピットに響く、ナオトの怨嗟。
モニター内のサイは彼との会話を中断し、マユに話しかけていた。
《ティーダが撃墜されれば、その時点で作戦は全て失敗だ。
風間曹長の作戦がティーダの能力を要する以上、君たちには前線で動いてもらわざるを得ないが、出来るだけ交戦は避けろ。村人の救助が最優先だ。
君たちは生きのびるんだ、ハーフムーンと共に》
「了解」
マユが、今回ばかりは笑わずに答えた。
ナオトは激昂のあまり、サイへの返答すら出来なかったが。
カタパルト内にサイの声が、続いて響く。
《ニュートロンジャマー集合体甲・乙の合流まで、残り1時間22分。
風間機の掘削速度から計算すると、アンノウンへの到達予想時刻は最速でも1時間15分後。
ティーダの黙示録で到達及び接触を確認後、ローエングリンを発射。アンノウンを殲滅後直ちに、アマミキョは発進する。
風間機の到達からアマミキョ離陸までの猶予は最長で7分しかない、敏速な行動を!》
整備士たちにも、このアナウンスは届いていた。
次々に出動していくM1アストレイに、走り回る整備士たち。
――そんな中でハマーは、じっと手のひらの小瓶を見つめていた。
小瓶の中身は酒ではなく、ヒマワリの種。
それは、ハマーの娘の形見でもあった。
「やっと見つけたと思ったんだがな。
すまねぇ、ここも違ったらしい……ロゼ」
その小瓶を無造作に胸ポケットに押し込むと、ハマーはすぐに振り返り部下を怒鳴りつける。
「おいそこのスカイグラスパー、右翼が歪んでるぞ!
せっかく虎の子のIWSPつけたってのに、傾いてどうするってんだっ」
そんなハマーの怒号を背に――
M1アストレイに続いてティーダも発進していく。ナオトの激昂を乗せたまま。
――そして。
《風間裕子、ディープフォビドゥン、出ます》
いつもと変わらぬ、風間の声も響く。
青い甲羅にも似た双翼の装甲アレイの先端に、不恰好なドリルを装着した風間機。
小さな巨人という印象の水中用機体は、ずりずりと這うように動き出してカタパルトを出ると、颯爽と雪景色の中を滑り始める。
氷の溶け出した河に向かって。
《時澤爽太、ウィンダム、出ます!》
風間を上空から援護すべく飛び立つウィンダム。その空はどんよりと曇り、太陽の気配はない。
見守る整備士たちが、山神隊の飛び立った後にそっと敬礼を行なった──
誰に命じられたわけでもない、自然な敬礼だった。
その直後、ブリッジにアムルの悲鳴が響いた。
「サイ君! ザフトが動いたわ。
村の西側から、ディンの部隊が向かってきます。総数15機!」
やはり空から──サイはすぐに切り返した。
「恐らく陽動だ、焦らないで。住民の避難は?」
「それが、まだ6割も……」「特に南の診療所が遅れてる」
呟くヒスイに、後ろからおずおずと答えるカズイ。
そんな彼らを、思わずサイは睨みつける。
鬼の形相になったと自覚しながらも、彼らに責任はないと分かっていながらもサイはカズイたちを睨まずにはいられなかった──
案の定、あまりの彼の気迫に、カズイもヒスイも震え上がる。
陽動と分かっているのに、少ない戦力を割かねばならないとは。
たまらずユウナを振り返るサイ。
「オーブ軍は何をしてるんです! ムラサメは?」
「それが」
その怒声に、ユウナは子供のように首を縮ませた。
「パイロット不足らしい。
やっとかき集めたのが、何とか飛ばせそうな者が2名だけで……」
もういい、あんたには頼らない。
怒鳴る気にもなれず、サイはユウナから視線をふりほどく。
本来ならオーブ軍に戻るべきユウナがここにいるのは、山神隊やサイに対して相応の責任を感じたからなのだろう──
そこまではサイも理解していたが、正直今の代表補佐は足手まといにしかならない。
そんな彼の手元で、今度は医療ブロックからの緊急通信が鳴った。スズミ女医からだ。
《サイ君! ネネとスティング君がまだ戻らないの。
南の診療所からの患者の移送が遅れて……今から私が直接向かおうと思って》
まさか――ネネたちが危ない?
すかさずサイは通信を繋ぐ。
「アストレイ隊、ティーダ、状況は!?」
アストレイ隊はどうやら避難活動の真っ最中。頼みのティーダから応答はない。
サイはどうしようもなく、歯噛みするしかなかった。
村の外れでは、既にディンによる空爆が開始されていた。
紫の蝙蝠の如く悠然と舞うディンが、雪の村に向かって光弾を降らせる。
飛び散る雪、炎に巻かれる家。
泣き叫ぶ子供を抱えながら、大人たちは必死でアマミキョへと走る。
アマミキョから飛び出した紅のM1アストレイが村中を走り回り、人々を手のひら一杯に抱え、空爆を避けつつ逃げていく。
その上空で、カラミティのシュラークの閃光が炸裂した。その光とディンがまともにぶつかりあい、盛大な炎の華が散る――民家の上に。
アマミキョの甲板から、高エネルギー長射程ビーム砲シュラークを次々と発射していくカラミティ。
乗っているカイキ・マナベもまた、不機嫌っぷりを増大させていた。サイの通信がコクピットに響く。
《村には被害を出すな、カイキ!
ディンの翼一枚落ちるだけで、家が壊れるんだぞ》
あからさまな舌打ちと共に、それに答えるカイキ。
「無茶なお願いもいい加減にしろ、補欠様よぉ!」
村の空全体にカラミティの光の華が咲いている状態であったが、これでも出来る限り出力は絞っているカイキだった。
その光条をぬって、ラスティの乗ったIWSP搭載のスカイグラスパーが舞い上がる。
さらにそれを追うように、オーブ部隊からムラサメが2機、戦闘機形態で飛び出した。
雪景色にまばゆく映える紅白のカラーリングの機体は、すぐに上空でディンと交戦状態に陥る──
だが、素人目から見てもムラサメ部隊の劣勢は明らかだった。
何せ変形機構もろくに使いこなせておらず、戦闘機形態のまま、ただディンの周りをトンボのように回るだけだ。
先行するラスティのIWSPつきスカイグラスパーが、レールガンの華を咲かせてムラサメと地上を守る。
それに比べ、オーブの誇る新型ムラサメはひどく惨めで、ディンの火力に翻弄され逃げ回るのが精一杯だった。