【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

184 / 436
part3 狂いゆく少年

 

 

 スラスターで雪を吹飛ばしながら、ティーダは村長宅のすぐ前に降下する。

 そこでは村長と老人たちがまだ避難出来ず、わずかばかりの荷物を運び出そうとしていた。

 

「何をしてるんです!?

 早くアマミキョへ!」

 

 のろのろ動く彼らに苛立ちを隠せず、怒鳴ってしまうナオト。

 

「皆、動くのだ。

 ナオト君もああ言っておる!」

 

 村長は必死で老人たちを説得していた。だが──

 

「わしは……

 もう、いい。村長だけは生きのびて下され」

「ここはようやく見つけた安住の場。

 ほんの数年という間だったが――

 私らは皆、ここの……雪解けで芽吹く木々が、大好きじゃった」

 

 そんな老人たちに、村長は声を荒げる。

 

「駄目だ皆。何故、死に急ぐ? 

 生きなければ誰が、子供たちを守る!?」

「村長。

 私らはもう、疲れた」

 

 足下の僅かな荷物を取ろうとしないまま、老女が呟いた。

 

「どれほど森が焼かれても山が砕かれても、私の足は動かん。動けん。

 動こうと思ってももう、ここから離れられん。

 それだけ私らは、追われ続けてしまった」

「ここの神はわしらの命──

 子供らと若い者だけが生き残れば、わしらはそれでいい」

「私らはここで、この地と共に果てよう。

 もう、たくさんだ……逃げ惑うのは」

 

 爆音が聞こえる。アラームがコクピット内に響く。

 ナオトは動けない老人たちに向かって、ティーダの左マニピュレーターを伸ばした。

 

「動けないなら力づくでも、乗せていきますよ! 

 その為に、僕たちがいるんだからっ!」

 

 そのティーダの掌におずおずとながら乗り行く者。一方、その手を拒絶する者。

 とろとろ手に乗ってくる老人たちを待ちながら、幼いナオトは彼らの心境がさっぱり分からず、苛立ちを抑え切れなかった。

 砲撃音はどんどん近づいてくる

 ──時間がない! 

 

 そんな時だった。突如、マユが叫びをあげたのは。

 

「ナオト! メルーたちがいない。

 あの子たちはどこにいるの?」

「何だって? 

 もう避難したんじゃないのかよ!?」

 

 ナオトは反射的に、全モニターのチェックにかかった。

 ぐるりとカメラアイを回し、無理矢理にでも老人たちを抱え込んで立ち上がるティーダ。

 だがその目線の先に、猛然とディンが2機、突っ込んできた。

 

 どうしてこうも、うまくいかないんだ──

 ナオトの胸で、積み重なった苛立ちが恐ろしい勢いで憎悪に変化する。

 

「こんっっ畜生オオオオオオオオッ!!!!!」

 

 そばの建造物にもお構いなしに、ティーダのスラスターが火を噴いた。

 空に飛び上がったティーダは、右掌の攻盾システム・トリケロスを振りかざす。

 左手に乗せられたまま、老人たちが互いにしっかりと抱きしめ合う。彼らは今、振り落とされるかティーダに握りつぶされるか撃墜されるか、その恐怖と必死で戦っていた。

 そんな老人たちにも構わず、ナオトはディンに吼えていた――

 

 

 よくも、僕たちの希望を。僕たちの場所を。

 ――やっと見つけた、僕の居場所を!! 

 

 

「殺す……

 ぶっ殺してやる、この野郎!」

「え? 

 ……駄目、ナオトっ!!」

 

 猛獣と化しかけた少年を止めたのは、後席のマユだった。

 

「サイが言ったでしょ。

 ティーダは村の人を助けなきゃ」

「でも!」

 

 彼の反論を聞かず、マユは操縦桿を強引に自分の方へ寄せる。

 

「戦闘は私に任せて。

 ナオトはメルーたちを探して!」

 

 ナオトはディンを前にして、半ばヤケを起こして叫ぶ。

 

「分かったよ!」

 

 ──ここは、マユに任せる方が得策だ。

 マユならきっと、切り抜けてくれるはずだから。

 

 彼女が巧みにコンソールをいじると、ティーダの右腕のランサーダートが矢のように撃ち放たれた。

 それは今までのような鉄塊ではなく、青い電撃を放ちながらディンへとすっ飛んでいく。

 ダートの本体が到達する前に、その電撃にうたれるディン。浮遊力を失ったディンは、直後に頭部にまともにダートを喰らい、哀れにも雪の山肌に叩きつけられていく。

 

「これ、ミゲルが強化してくれたんだよねぇ!」

 

 こんな状況でありながら、マユはやはり楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 ブリッジの緊張はさらに高まっていた。通信状況を見守っていたアムルが叫ぶ。

 

「交戦中のせい……? 

 サイ君、ティーダのレーダーの効果範囲が狭まってる!」

 

 アムルの横顔を見ながら、カズイも呟いた。

 

「ジャマーが強まってるせいかも知れない。

 それともやっぱり、アンノウンの影響か」

「ちっ……!!」

 

 サイは視線だけで画面を壊しそうな勢いで、モニターを睨みつけた。

 しかしその眼力などものともせず、ティーダの通信可能領域を示す楕円は小さくなっていく。

 その楕円は最初はハーフムーン全域を軽く覆いつくしていたはずなのに、今やその半分ほどまで急激に萎んでいた。楕円から、南の診療所のあるあたりが外れようとしていた。

 握り締められるサイの拳――

 その手元で、無情にも診療所の位置は安全地帯を示す緑ではなく、通信不能の灰色のヴェールで覆われようとしていた。

 

 ――あそこにはまだ、ネネとスティングがいるはずだ。

 

 サイは反射的に、カタパルトのハマーへ繋ぐ。

 

「南に回せるアストレイは!?」

《無理だ、こっちはカラッポ!》

 

 意外にも素早くハマーの怒声が返ってきたが、その内容は非情だった。

 

《グフでいいなら準備するが、ナチュラル用OSはとても間に合わんぞ。

 それとも、こいつで行ってまた土下座するかい、副隊長補佐どの?》

 

 皆まで聞かず、サイは無言で通信をぶった切る。

 脳裏に蘇るのは、ネネの暖かな手の感触と、スティングの悪戯っぽい笑み。

 副隊長補佐失格と言われようとも、あの二人と診療所の子供らを、絶対に見捨てるわけにはいかなかった。

 先ほど渡されたばかりの自分用のハンドガンを取りながら、サイは医療ブロックに通信を繋ぐ──

 

「スズミ先生、右舷B進入口にジープを回して下さい。

 俺が一緒に行きます。直接」

 

 ユウナとカズイが「えぇ!?」と同時に声を上げてサイを振り返る。

 ブリッジ全員の目が一気にサイに注がれるが、彼は気にもせず、ハンドガンの安全装置を確認した。

 銃の重みが、その手にズンとのしかかる──

 重みに反して、今の状況下では心もとない存在であることはサイも分かっている。

 だが、フレイのいない今、俺は少しでも守る力を持たねば。

 

「まだ猶予はある――慌てなくていい」

 

 弾倉を装填しながら、サイは全員に指令を下す。

 

「左舷進入口を全て閉鎖して、浮上シークエンスの開始に備えてくれ。

 ローエングリンのタイミングは揃えてある。風間曹長とナオトから合図が出たら、3秒で撃てる」

 

 それだけ言うとサイは席を離れ、背後のユウナを押しのけるようにして出口へ向かった。

 当然、ブリッジはざわざわと騒ぎ出す──

 

「ま、待ちたまえ、君!」

 

 ユウナが慌ててサイの肩を強引に掴み、振り向かせた。「持ち場を離れて何処へいく! 

 君は自分の立場を……」

「診療所を見てきます」サイは即答した。「移送が遅れている患者がいます。

 通信が繋がらない以上、彼らを助けるのは俺の役目です」

 

 サイはユウナの手を身体から引き剥がし、畳みかけた。

 

「診療所には、医療ブロックの貴重な戦力もいる――

 10分で必ず戻ります」

 

 それだけ言うと、サイは全員の視線を振りほどいて一気に駆け出し、ブリッジを飛び出した。

 

「馬鹿を言いたまえ! 君は曲がりなりにもサブリーダーとして

 ……オイッ!」

 

 ユウナの声がしつこく追いかけてきたが、最早気にするサイではなかった。

 

 

 

 

 

 

 ティーダは老人たちをアマミキョへ運び終えた後、すぐに村の学校へと向かった。

 木造の小さな建物のそばにはちょっとした林があり、その下にはまだ逃げ遅れていた子供たちが寄り添っていた。

 おさげ髪のエイミーが上空のティーダを見つけ、嬉しそうに両手をかざす。

 

「ナオトだ! 

 みんな、ティーダだ、ティーダだよ、すっごーい!」

 

 それを合図に、子供たちは恐怖を忘れて一斉にはしゃぎだした。

 降下してきたティーダに恐れもせず近寄り、その掌に遠慮なく触れる。特に男の子たちは、憧れで目を輝かせている。

 

「うわーホントだ、ホントにフリーダムと同じ顔だ!」「まっしろのモビルスーツだ!」

 

 さっきの老人たちとは真逆に、子供たちは喜び勇んでティーダの差し出した左手に乗りこんでいく。上空に砲火が飛び交っているにも関わらず、子供たちは元気だった。

 人を一人でも多く助けられるよう、少し大きめに改造されたティーダの掌。そこに着膨れした子供らを10数人ほどみっちり詰め込みながら、ナオトはほっと息をついた。

 

 これで少なくとも、子供たちは助かる──

「しっかりつかまってて!」

 

 ナオトが言うと、子供たちはきゃあきゃあと子犬のようにはしゃいだ。立ち上がるティーダ。

 だがその時、彼はある異変に気づいた。

 

「待って……

 おい! メルーは?」

 

 ナオトの心の衝撃は、そのまま震動となって子供らに伝わる。思わぬ揺れに、必死でティーダにしがみつく子供たち。

 エイミーがしどろもどろになりながらも、答える。「それが……

 メルー、来ないの」

「何で!?」

 

 少年の一瞬の心の安寧は、吹き飛ぶのも一瞬だった。

 

「一緒に学校へ避難してきたんじゃなかったのか?」

 

 彼に台形の公式を教えた太めの子が、泣きそうにおずおずと言う。

 

「ごめんね、ナオト。

 一緒に行こうとしたんだけど、おばあちゃんが心配だって、畑の方へ……」

「嘘だろ……!?」

 

 子供らの存在を忘れ、慌てて機体を方向転換させようとするナオト。それをまたしてもマユが抑えた。

 

「ナオト、みんなをアマミキョに逃がす方が先。

 サイが言ってたでしょ」

 

 全てがうまくいかない悔しさと、守ろうとしたマユにたしなめられている不甲斐なさ。

 見つからないメルー。運命の決まってしまった村。

 地獄のように積み重なっていくストレスに、ナオトは爆発寸前だった。

 

「ザフトの野郎……!」

 

 みんなザフトが悪い。

 僕たちが襲われるのも、フーアさんやアイムさんが殺されたのも。

 父さんが狂ったのも、母さんが離れてしまったのも。

 ハーフムーンが失われてしまうのも――

 みんなみんな、ザフトが悪いんだ! 

 

 そんな少年の目から、かつての純朴な輝きはすっかり失われていた。

 あるのはただ、紅蓮に燃える怨讐の光だけ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。