【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
スラスターで雪を吹飛ばしながら、ティーダは村長宅のすぐ前に降下する。
そこでは村長と老人たちがまだ避難出来ず、わずかばかりの荷物を運び出そうとしていた。
「何をしてるんです!?
早くアマミキョへ!」
のろのろ動く彼らに苛立ちを隠せず、怒鳴ってしまうナオト。
「皆、動くのだ。
ナオト君もああ言っておる!」
村長は必死で老人たちを説得していた。だが──
「わしは……
もう、いい。村長だけは生きのびて下され」
「ここはようやく見つけた安住の場。
ほんの数年という間だったが――
私らは皆、ここの……雪解けで芽吹く木々が、大好きじゃった」
そんな老人たちに、村長は声を荒げる。
「駄目だ皆。何故、死に急ぐ?
生きなければ誰が、子供たちを守る!?」
「村長。
私らはもう、疲れた」
足下の僅かな荷物を取ろうとしないまま、老女が呟いた。
「どれほど森が焼かれても山が砕かれても、私の足は動かん。動けん。
動こうと思ってももう、ここから離れられん。
それだけ私らは、追われ続けてしまった」
「ここの神はわしらの命──
子供らと若い者だけが生き残れば、わしらはそれでいい」
「私らはここで、この地と共に果てよう。
もう、たくさんだ……逃げ惑うのは」
爆音が聞こえる。アラームがコクピット内に響く。
ナオトは動けない老人たちに向かって、ティーダの左マニピュレーターを伸ばした。
「動けないなら力づくでも、乗せていきますよ!
その為に、僕たちがいるんだからっ!」
そのティーダの掌におずおずとながら乗り行く者。一方、その手を拒絶する者。
とろとろ手に乗ってくる老人たちを待ちながら、幼いナオトは彼らの心境がさっぱり分からず、苛立ちを抑え切れなかった。
砲撃音はどんどん近づいてくる
──時間がない!
そんな時だった。突如、マユが叫びをあげたのは。
「ナオト! メルーたちがいない。
あの子たちはどこにいるの?」
「何だって?
もう避難したんじゃないのかよ!?」
ナオトは反射的に、全モニターのチェックにかかった。
ぐるりとカメラアイを回し、無理矢理にでも老人たちを抱え込んで立ち上がるティーダ。
だがその目線の先に、猛然とディンが2機、突っ込んできた。
どうしてこうも、うまくいかないんだ──
ナオトの胸で、積み重なった苛立ちが恐ろしい勢いで憎悪に変化する。
「こんっっ畜生オオオオオオオオッ!!!!!」
そばの建造物にもお構いなしに、ティーダのスラスターが火を噴いた。
空に飛び上がったティーダは、右掌の攻盾システム・トリケロスを振りかざす。
左手に乗せられたまま、老人たちが互いにしっかりと抱きしめ合う。彼らは今、振り落とされるかティーダに握りつぶされるか撃墜されるか、その恐怖と必死で戦っていた。
そんな老人たちにも構わず、ナオトはディンに吼えていた――
よくも、僕たちの希望を。僕たちの場所を。
――やっと見つけた、僕の居場所を!!
「殺す……
ぶっ殺してやる、この野郎!」
「え?
……駄目、ナオトっ!!」
猛獣と化しかけた少年を止めたのは、後席のマユだった。
「サイが言ったでしょ。
ティーダは村の人を助けなきゃ」
「でも!」
彼の反論を聞かず、マユは操縦桿を強引に自分の方へ寄せる。
「戦闘は私に任せて。
ナオトはメルーたちを探して!」
ナオトはディンを前にして、半ばヤケを起こして叫ぶ。
「分かったよ!」
──ここは、マユに任せる方が得策だ。
マユならきっと、切り抜けてくれるはずだから。
彼女が巧みにコンソールをいじると、ティーダの右腕のランサーダートが矢のように撃ち放たれた。
それは今までのような鉄塊ではなく、青い電撃を放ちながらディンへとすっ飛んでいく。
ダートの本体が到達する前に、その電撃にうたれるディン。浮遊力を失ったディンは、直後に頭部にまともにダートを喰らい、哀れにも雪の山肌に叩きつけられていく。
「これ、ミゲルが強化してくれたんだよねぇ!」
こんな状況でありながら、マユはやはり楽しそうだった。
ブリッジの緊張はさらに高まっていた。通信状況を見守っていたアムルが叫ぶ。
「交戦中のせい……?
サイ君、ティーダのレーダーの効果範囲が狭まってる!」
アムルの横顔を見ながら、カズイも呟いた。
「ジャマーが強まってるせいかも知れない。
それともやっぱり、アンノウンの影響か」
「ちっ……!!」
サイは視線だけで画面を壊しそうな勢いで、モニターを睨みつけた。
しかしその眼力などものともせず、ティーダの通信可能領域を示す楕円は小さくなっていく。
その楕円は最初はハーフムーン全域を軽く覆いつくしていたはずなのに、今やその半分ほどまで急激に萎んでいた。楕円から、南の診療所のあるあたりが外れようとしていた。
握り締められるサイの拳――
その手元で、無情にも診療所の位置は安全地帯を示す緑ではなく、通信不能の灰色のヴェールで覆われようとしていた。
――あそこにはまだ、ネネとスティングがいるはずだ。
サイは反射的に、カタパルトのハマーへ繋ぐ。
「南に回せるアストレイは!?」
《無理だ、こっちはカラッポ!》
意外にも素早くハマーの怒声が返ってきたが、その内容は非情だった。
《グフでいいなら準備するが、ナチュラル用OSはとても間に合わんぞ。
それとも、こいつで行ってまた土下座するかい、副隊長補佐どの?》
皆まで聞かず、サイは無言で通信をぶった切る。
脳裏に蘇るのは、ネネの暖かな手の感触と、スティングの悪戯っぽい笑み。
副隊長補佐失格と言われようとも、あの二人と診療所の子供らを、絶対に見捨てるわけにはいかなかった。
先ほど渡されたばかりの自分用のハンドガンを取りながら、サイは医療ブロックに通信を繋ぐ──
「スズミ先生、右舷B進入口にジープを回して下さい。
俺が一緒に行きます。直接」
ユウナとカズイが「えぇ!?」と同時に声を上げてサイを振り返る。
ブリッジ全員の目が一気にサイに注がれるが、彼は気にもせず、ハンドガンの安全装置を確認した。
銃の重みが、その手にズンとのしかかる──
重みに反して、今の状況下では心もとない存在であることはサイも分かっている。
だが、フレイのいない今、俺は少しでも守る力を持たねば。
「まだ猶予はある――慌てなくていい」
弾倉を装填しながら、サイは全員に指令を下す。
「左舷進入口を全て閉鎖して、浮上シークエンスの開始に備えてくれ。
ローエングリンのタイミングは揃えてある。風間曹長とナオトから合図が出たら、3秒で撃てる」
それだけ言うとサイは席を離れ、背後のユウナを押しのけるようにして出口へ向かった。
当然、ブリッジはざわざわと騒ぎ出す──
「ま、待ちたまえ、君!」
ユウナが慌ててサイの肩を強引に掴み、振り向かせた。「持ち場を離れて何処へいく!
君は自分の立場を……」
「診療所を見てきます」サイは即答した。「移送が遅れている患者がいます。
通信が繋がらない以上、彼らを助けるのは俺の役目です」
サイはユウナの手を身体から引き剥がし、畳みかけた。
「診療所には、医療ブロックの貴重な戦力もいる――
10分で必ず戻ります」
それだけ言うと、サイは全員の視線を振りほどいて一気に駆け出し、ブリッジを飛び出した。
「馬鹿を言いたまえ! 君は曲がりなりにもサブリーダーとして
……オイッ!」
ユウナの声がしつこく追いかけてきたが、最早気にするサイではなかった。
ティーダは老人たちをアマミキョへ運び終えた後、すぐに村の学校へと向かった。
木造の小さな建物のそばにはちょっとした林があり、その下にはまだ逃げ遅れていた子供たちが寄り添っていた。
おさげ髪のエイミーが上空のティーダを見つけ、嬉しそうに両手をかざす。
「ナオトだ!
みんな、ティーダだ、ティーダだよ、すっごーい!」
それを合図に、子供たちは恐怖を忘れて一斉にはしゃぎだした。
降下してきたティーダに恐れもせず近寄り、その掌に遠慮なく触れる。特に男の子たちは、憧れで目を輝かせている。
「うわーホントだ、ホントにフリーダムと同じ顔だ!」「まっしろのモビルスーツだ!」
さっきの老人たちとは真逆に、子供たちは喜び勇んでティーダの差し出した左手に乗りこんでいく。上空に砲火が飛び交っているにも関わらず、子供たちは元気だった。
人を一人でも多く助けられるよう、少し大きめに改造されたティーダの掌。そこに着膨れした子供らを10数人ほどみっちり詰め込みながら、ナオトはほっと息をついた。
これで少なくとも、子供たちは助かる──
「しっかりつかまってて!」
ナオトが言うと、子供たちはきゃあきゃあと子犬のようにはしゃいだ。立ち上がるティーダ。
だがその時、彼はある異変に気づいた。
「待って……
おい! メルーは?」
ナオトの心の衝撃は、そのまま震動となって子供らに伝わる。思わぬ揺れに、必死でティーダにしがみつく子供たち。
エイミーがしどろもどろになりながらも、答える。「それが……
メルー、来ないの」
「何で!?」
少年の一瞬の心の安寧は、吹き飛ぶのも一瞬だった。
「一緒に学校へ避難してきたんじゃなかったのか?」
彼に台形の公式を教えた太めの子が、泣きそうにおずおずと言う。
「ごめんね、ナオト。
一緒に行こうとしたんだけど、おばあちゃんが心配だって、畑の方へ……」
「嘘だろ……!?」
子供らの存在を忘れ、慌てて機体を方向転換させようとするナオト。それをまたしてもマユが抑えた。
「ナオト、みんなをアマミキョに逃がす方が先。
サイが言ってたでしょ」
全てがうまくいかない悔しさと、守ろうとしたマユにたしなめられている不甲斐なさ。
見つからないメルー。運命の決まってしまった村。
地獄のように積み重なっていくストレスに、ナオトは爆発寸前だった。
「ザフトの野郎……!」
みんなザフトが悪い。
僕たちが襲われるのも、フーアさんやアイムさんが殺されたのも。
父さんが狂ったのも、母さんが離れてしまったのも。
ハーフムーンが失われてしまうのも――
みんなみんな、ザフトが悪いんだ!
そんな少年の目から、かつての純朴な輝きはすっかり失われていた。
あるのはただ、紅蓮に燃える怨讐の光だけ。