【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

185 / 436

※かなりの流血描写があります。苦手なかたはご注意ください。



part4 鮮血、雪に散る

 

 

 サイがジープで診療所に到着した時にはもう、その直上にまでディンが飛来していた。

 空中でムラサメが応戦しているが、診療所の中庭の林が既に爆撃を受けたらしく、激しく炎上していた。

 まだ辛うじて診療所の建物は残っているが、ムラサメが頼りにならない以上、いつやられてもおかしくはない。

 ジープが止まるや否や、サイとスズミは飛び降りて駆け出した。

 寒風と爆音の中、ストレッチャーで建物から患者を運び出してくるネネとスティング。

 

「サイさん、スズミ先生! 来てくれたんですか」

 

 ネネは泣きそうな顔だが、それでもサイの姿を見た途端、嬉しそうに叫ぶ。

 サイもスズミも急いで駆け寄り、彼女たちに手を貸してストレッチャーの運搬を手伝い始めた。

 

「早く、君たちも戻れ! 

 作戦はとっくに始まってる!」

 

 サイの怒声にも、ネネはその心情を汲み取ったようで素直にうなずく。

 彼がここまで、危険を冒して来てくれた──それだけで、彼女の胸は感激でいっぱいだったのだ。

 そんなネネを見て、ぶすっと膨れるスティング。

 

「とにかく逃げるに限るぜ。こんなトコからはよ!」

 

 近づいてくる砲撃音と地鳴り。

 凍てつく大気の中、サイの脇の下がじっとりと冷や汗で濡れる。長袖とはいえ、ブリッジの制服のままだ。ジャケットを持ってくるべきだった。

 止めてあったトラックの荷台に、彼らは四人がかりでストレッチャーから慎重に負傷者を運び込む。

 中は患者で溢れていた──何とか立てる者は満員電車のごとくに詰め込まれ立たされ、その足元に重傷患者が寝かされている。

 大人たちの間で泣き叫ぶ子供。トイレがどんな状況か、雑菌がどれだけはびこっているのか、サイは想像したくもなかった。

 案の定、運転手が叫ぶ。

 

「これ以上は無理だ、先に行きますぜ」

「えっ!? 

 そんな……まだ、中に子供が!」

 

 ネネが懇願したが、運転手は無情にもトラックを出発させた。

 

「このまま待ってたら、みんな死んじまう。

 俺だって、お客さんらを死なせたくないんでね!」

 

 捨て台詞を残し、雪を吹き飛ばしながら一気に遠ざかるトラック。

 幸いにも、ディンは爆走していくトラックには気づかなかった──スズミがネネの肩を軽く叩く。

 

「残った患者は、ジープに乗せましょう。

 スティング君、後席空けるの手伝っ――」

 

 その瞬間だった。

 突然向きを変えて戻ってきたディンが、いきなり診療所へ向けて──正確には、かなりの低空を飛行していたムラサメに向けて──発砲してきたのは。

 ディンの紅の一つ目がギロリと診療所を睨み、重突撃銃が光を放つ。

 着弾。地鳴り。

 稲妻が至近距離で炸裂した時のように、光と音がほぼ同時にサイを、ネネたちを打った。

 

「伏せろっ!」「いやぁあ!」

 

 交錯する、サイの怒号とネネの悲鳴。

 ディンの空襲が、地上を直撃した瞬間だった。こんな無力な場所によくも! 

 サイは怒りと共に、雪まじりの土を噛みながらゆっくり頭を上げる。

 ディンとムラサメは未だ、彼らの真上で交戦していた。

 戦いの火の粉がバラバラと、雪のように降ってくる。そして──

 

 診療所の裏手から、激しい火の手が上がっていた。

 サイの眼鏡ごしの視力でも、診療所の窓の向こうで燃えさかる炎がはっきり見える。

 アマミキョの皆が子供たちにと贈った千羽鶴が、燃えていた。

 

「ティア! ニッキー!!」

 

 引き裂くような絶叫と共に、サイより早く駆け出したのはネネだった。

 子供たちの名を叫びながら、彼女は狂ったように真っ直ぐ走っていく

 ――燃える診療所へ。

 

「馬鹿野郎! 無理だっ!!」

「戻りなさい、ネネ!」

 

 スティングとスズミも叫ぶ。

 サイも咄嗟に、ネネを追って走り出す。

 診療所の炎は早くも、その内部を破壊しつつあった――

 入り口から子供が飛び出してくれるようサイは祈ったが、誰の姿も見えない。泣き声が中からかすかに聞こえているが、それだけだ。

 

 その上空では、ムラサメがようやくディンに一矢報いていた。

 舞い上がったディン、空に拡がる6枚の漆黒の翼。そのうちの一枚の付け根を、ムラサメの垂直尾翼内に隠されていたビーム砲が貫いたのだ。

 本体から引きちぎられた翼は、破損箇所から電光と炎を噴き上げ、地表へと落下していく。

 

 ──診療所の、真上に。

 

 耳が潰れるかの如き爆音と共に、ネネを追っていたサイの身体は吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 同時にティーダコクピットでは、ナオトが自らの身体の異変を感じ取った。

 嫌なことは積みに積み重なっていたが、その瞬間少年を襲ったものは、それを超える不快な痛み。

 

「な……っ? 

 何だ、この感じ?」

 

 心臓かと思ったが、どうも違う。もっと下の、胃のあたりだ。勿論食あたりなどではない。

 胃の下あたりに、何か酷く重い鉄塊が食い込んだ感触。

 

「う……

 なんか、お腹……変……?」

 

 後席のマユも同じ痛みを感じたらしく、軽く呻いている。

 ティーダは目の前のアマミキョに、子供たちを移動させるところだったが──

 その子供たちも何かを感じたようで、不安げに掌からティーダを見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 気を失っていたのは幸いにも、ほんの一瞬だったらしい。

 サイは背中の痛みに耐えつつ、頭を起こす。

 

 最初に目に映ったものは――

 既に真っ赤な業火に包まれた、小さな木造の診療所。

 崩れ行くその屋根にはディンの翼が、炎を撒き散らしながら傲然と突き刺さっている。

 門のあたりには、何故かニンジンが転がっていた。

 

 サイは気づく──あれは、雪だるまだ。

 ネネやスティング、そして子供たちと一緒に作った雪だるま。その残骸だ。

 

 診療所の中で動けなかった子供たちの命は、既に絶望的だった。

 炎の中で無惨に溶け崩れた雪だるまは、その象徴だ。

 愕然と膝をつきかけるサイ。

 

 

 助けられなかった。

 俺は、子供たちを救えなかった──

 

 

 そのやや前方に、サイはネネを見つけた。

 うつぶせに倒れたまま、動かないナース服が見える。どうやら土砂と雪の下に埋もれたらしい。

 

「ネネ!」

 

 瞬間、サイは腰の痛みも忘れ、転がるように駆け出した。

 耳は一時的に聴覚を失い、激しい耳鳴りだけが脳を叩く。

 地上のはずなのに、炎に巻かれているはずなのに、水の中にいるような感覚。むせかえるような、焼ける木々と土の匂い。

 その中を、ひたすらネネに向かって走るサイ。

 うつぶせになっている彼女の身体は、腰から下が大量の雪と砂に埋もれていた。

 転がるようにネネのもとにたどりついたサイは、急いで彼女を土砂から引っ張り上げようとする。

 

 ――良かった。

 両腕も肩も、何処も怪我はしていない。顔は雪のように白くなっているが──

 

 サイは心の底からほっとして、彼女の白衣を力いっぱい抱きしめ、引きずり上げた。

 ──その身体は、異常に軽かった。

 想定していたネネの体重の、ほぼ半分ほどに。

 

 

「……えっ?」

 

 

 あまりに軽すぎる。

 自分でも間抜けだと思った声と共に、サイはネネを抱いたまま後ろにひっくり返ってしまった。

 おかしい。くだらんオーブ映画ではこんな時は決まって、土砂から身体が抜けずに生き埋めなどという展開なのに。いや、そんな不謹慎なことを考えている場合では──

 サイはもう一度、改めてネネの姿を確認して

 

 

 ――その理由を知った。

 彼女の下半身が、臍の下あたりの部分から、きれいに消失していたのである。

 

 

 

 

 

 

 ネネを助けるべく、サイとほぼ同時に駆け出していたスティング。

 だが彼はサイより早く、看護師の身に何が起こったかを知っていた。

 サイのいる数メートル手前で、スティングは立ち止まっていた。立ち止まってしまった。

 散々馬鹿にしていたネネの、ナース用の白いスパッツ。その──

 

『中身』が詰まったままの、右脚部を見つけて。

 

 スパッツの太ももに当たる部分は黒く焼け焦げ、ちぎられた太ももの断面が露出している。右の腰の一部までが「こちら」に吹き飛ばされており、ネネの腰を包んでいたであろう下着の切れ端までが、スティングには見えた。

 

「あんた……

 こんな風に見せてくれなんて、言った覚え、ねぇぞ……」

 

 スティングの両膝が落ち、その手がそっとネネの太もも──ちぎられた肉塊に触れる。

 背後で、スズミ女医の呻きが聞こえる。それはやがて、絹を裂く叫びに変わる。

 ジープの上から全てを目撃し、あの冷静なスズミまでが絶叫していた。

 大人が、壊れかかっていた。

 

 そうだ、サイは──スティングは前方を見据える。

 もし、あいつが壊れたら。

 

 サイとスティングの二方向へ、見事に切り飛ばされたネネの身体。

 その上半身を抱いたまま、サイは動いていなかった。

 ただひたすらに、その身体を抱きしめていた。

 泣かず、叫びもせず、暴れもせず、ただ彼はネネを抱きしめて、炎に巻かれる寒空を眺めていた。

 その制服が、彼女の身から流れる血と体液で、真っ赤に染まっていく。

 あまりに強く抱きしめている為か、ネネの身体からは血のみならず、砕けた肋骨や内臓の破片までが零れだし、サイの両腕にのしかかっていた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。