【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 自分の手で、人を殺した

 

 

 ローエングリンの存在を察知したディン部隊が、続々とアマミキョに迫る。

 カラミティが必死で応戦しているが、追いつかない。頭に完全に血が昇ったパイロット・カイキは、シュラークのみならずプラズマサボットバズーカ砲=トーデスブロックまで撃ちはなってディンを迎撃する。

 

 既にシュラークは片方が壊れ、機体も関節接合部の至るところから煙を吹いていた。

 アマミキョと電源ケーブルで繋げられているからこそ、カラミティもこれだけ無尽蔵に攻撃をしかけることが出来たのだが――

 限界が近づいていた。機体も、操縦者も。

 

()()()が蘇るまで……

 俺は、死ぬわけにゃいかねぇんだ!」

 

 周囲の被害など、既にカイキの頭にはない。

 おかげでディンの波状攻撃から、何とかアマミキョは今のところ守られているものの――

 墜落したディン、熱せられた空気、巻き起こる業火。

 それにより、すっかり村中の雪は溶けていた。酷いところでは泥水が川をつくっている。

 それでもバッタの大群の如く、ディン部隊は第3陣、第4陣と攻撃をかけてくる。

 汗だくのメットの中、カイキは叫ばずにいられない──

 

「追っつかねぇ! 

 アマミキョ、山神隊の合図はまだかっ!?」

 

 その瞬間、ディンの銃撃があろうことか、アマミキョとカラミティを繋いでいた電源ケーブルを切断した。

 アマミキョまでを揺るがす衝撃と共に、コクピットのエネルギーゲージがカウントダウンモードに突入する。

 シュラークとバズーカのエネルギー消費量はティーダと比べても実に膨大で、一瞬でゲージは85%まで減少した。

 

 ――それでもカイキは、攻撃を続行しないわけにはいかなかった。

 このカラミティのピンチを見透かしたかのように、ディンどもが一気に迫ってきたのである。

 

 

 

 

 

 

「やはり気づかれたか……

 こちらの意図に」

 

 カラミティの危機を間近に見ながら、サイは唇を噛む。

 それを皮肉るように吐き捨てるアムル。

 

「仕方ないでしょ。

 あれだけバカでかい砲さらしてりゃね」

 

 カラミティの光条は懸命にアマミキョを守っている。

 先ほど出撃したIWSPつきスカイグラスパーは早々にエネルギーを切らし、ハンガーへ逆戻りしていた。

 だがディンはまるでカラミティを恐れもせず、アマミキョへ──ローエングリンへ向かってくる。

 

「奴らも必死か。

 俺たちから大地を取り戻す為に」

 

 サイの言葉を受けて、カズイもぼそりと言い放った。「その結果も知らずにな」

 ユウナはといえば、サイの後ろに隠れるようにしながら、こわごわ戦況を見守っている。

 

「どうしたんだい、さっさとヘルダートを撃たないか!」

「避難民の収容が終わってからです」

 

 サイは冷たくユウナを切り捨てながらも、避難民の収容状況を見守っていた。

 あちこちに分散していたアストレイが、戦いの繰り広げられる中で次々に村人たちを運んでくる。その数は着々と増え、そろそろ村の8.5割を超えようとしていた。

 隊員含めて全員が戦いの光に怯えきり、中には飛んできた瓦礫や炎で負傷している村人もいる。だが――

 

 どうにか救出活動は、山を越えたようだ。

 モニターの隅に別画面で映し出されている村人たちの様子を睨みながら、サイは慎重に砲を選んでいた。

 絶対に、人々に害を成すような位置の砲を選んではならない。

 同時に、人々とアマミキョには死んでもディンを近づかせてはならない。そこに人間がいる限りは。

 この条件を満たすことの出来るヘルダートは16門中、わずかしかなかった。

 サイは血染めの胸元を握りしめる。

 

「カラミティを援護する。

 ヘルダート、2番5番、開けっ!」

 

 火器管制を割り振られていたアムルが、思わずサイを見る。

 戦うつもり? 人を殺すの? 

 ──その瞳が、問いかけていた。

 

 それはそのまま、サイの中で渦巻いていた躊躇でもあった。

 だが、アムルは静かに自らの仕事を続ける。

 

「――目標、捕捉」

 

 サイは己の中の迷いを蹴飛ばす勢いで、もう一度ディン部隊を睨みつける。

 

「照準!」

 

 アマミキョは、俺は、戦う──

 ラミアス艦長やバジルール副長、そして今も治療中のリンドーの、よく通る号令を思い出しながら。

 サイは声を轟かせた。

 

「ヘルダート、撃てぇっ!」

 

 遂に撃った──

 俺は遂に、自らの判断で撃った。

 サイにそんな感慨にふける暇は、勿論与えられない。

 その火線は淀みなくアマミキョから発射され、既にカラミティの砲撃を受けて墜ちかかっていたディン1機の脇腹を、正確に貫いた。

 

 盛大に火を噴き、山肌へと落ち行く機体。

 

 ──キラ、フレイ。

 俺はとうとう、自分の手で、人を殺した。

 

 命令され機械的に手を動かしたのではなく、自らの意志で、人を殺めた。

 人を助ける立場でありながら、民間人でありながら、人を殺した。

 しかも、仲間の手を使って。

 身体だけでなく、心まで血に染まった──

 

 爆発したディンを確認した途端、猛烈な吐き気がサイを襲う。

 喉元へせりあがるばかりでなく口腔まで充満しかけたものを、サイは強引に胃袋に戻した。

 

「やったぁ!」

 

 ユウナがサイの肩を押さえながら思わず身を乗り出し、歓声に近い叫びをあげる。

 だがサイも他のクルーも、いささかも笑顔を見せてはいなかった。ディンの攻撃は、それでも止まることがなかったから。

 仲間を撃墜されたディンはさらに攻撃性を強め、カラミティの砲をまともに受けながらもなお、アマミキョに向かって機体ごと突っ込んできたのだ。

 

 ブリッジに充満する悲鳴。

 

 アマミキョの上に、殆どミサイルのようになって勢いよく激突したディン。

 墜落に伴う爆発の衝撃は当然、船にも被害を及ぼす。

 

 身体が浮き上がるほどの震動と共に、鳴り響くアラート。

 左側のサブモニターが切り替わり、船体の破損状況が自動表示される。

 そこには、修復されたばかりのアマミキョが次々に傷つけられてゆくさまが、紅で示されていた。

 

「左舷ヘルダート、使用不能!」「Cブロックとの連絡不能! 船体下部Eの電源系統に異常発生」「カタパルトとの回線、遮断されました! 整備班との連絡不能ですっ!」

 

 間違いない。救助船であるにも関わらずローエングリンの砲台と化したアマミキョは、明確に奴らの敵となった。

 アムルの叫び。「見て、あれっ!」

 

 モニターには、胴体を撃たれ激しく火を噴き、空中を落下してくるディンが映し出されている。

 だがその状態にありながら、ディンは紅に光る単眼を、ぐるりとアマミキョへ向ける──

 その眼に睨まれ、ユウナは立ちすくんだ。

 

「まさか、特攻!?」

 

 サイたちクルーに呪いの眼を向けながら、火の玉となってサイたちのいるブリッジへ突っ込んでくるディン。

 外部に対して予備ブリッジがほぼ剥き出しである現実を、全員が恨んだ。

 ヒスイがコンソールに突っ伏したまま、悲鳴を上げる。

 

「嫌アァ! どうしてそんなに、私たちが憎いの?!」

「ヘルダート、5番用意! 

 撃てぇっ!」

 

 サイは容赦なく二度目の指令を出す。

 ヘルダートとカラミティの砲線がほぼ同時に、突っ込んでくるディンを貫いた──

 が、それでも機体の勢いは止まらない。

 既に死亡しているであろうパイロットの怨念を乗せて、ディンは体当たりを仕掛けてくる。サイたちを潰そうとして。

 

 コンソール下へ逃げ込むカズイとヒスイ。

 反射的に眼を背けるアムル。

 操舵輪を握ったまま固まるオサキ。

 

「た、助けてくれぇー!」

 

 ユウナはあろうことか、サイの腰に後ろからタックルをかます勢いで縋りついた。

 代表補佐として、あまりにあまりな醜態を晒すユウナ。そんな彼に縋られながらも、サイはディンから眼を離そうとはしなかった。

 

「……鬱陶しいっ!」

 

 思わずサイは吐き捨てる。

 それがディンに対してかユウナへの暴言か、自分でも分からなかった。

 ユウナは何も気づかず、彼に抱きついたまま震えている──

 

 だがそんな情けない青年を、サイは振り捨てることは出来なかった。

 自分より体重のあるユウナに持ち上げられそうになりながら、サイは彼をそのままにしておいた。びっしょり濡れたままの下半身に男の手が纏わりついている状況は正直、勘弁してもらいたかったが。

 

 アークエンジェルでも俺はかつて、こんな場面に出くわしたことがある。

 あの時俺は、状況から目を逸らしてしまった──

 だが今は、逸らせない。多くの命を握っている限り、逸らせない。

 ラミアス艦長だってあの時、逃げなかった。俺たちの命を背負っていたから。

 それに今の俺は、狂気に満ちている。恐怖を超える怒りに。

 

 サイは破れんばかりに、血に濡れた胸元をもう一度握りしめた。

 未だに残るネネの血が、手に滲む。

 その眼はブリッジでただ独り、真っ向からディンを睨む。

 ひび割れた眼鏡を通して見えたディンの眼光が、亀裂で酷く歪む──

 

 その左手は素早くコンソールに走り、ローエングリンの管制プログラムを呼び出していた。

 人の命を奪うことに対して、最早躊躇はない。

 殺さねば、仲間が死ぬ。撃たなければ、全員が殺される。

 

 ――風間さんには申し訳ないが、ここで撃たせてもらう。

 こいつらを撃滅してやる。集中している今がチャンスだ。

 俺の怒りよ、ネネの恨みよ、奴らを潰せ。叩き潰せ。

 神よ、もし存在するならば答えろ。

 俺の憤怒に! 

 

 

 

 

 ――その、静かなる激昂が通じたか。

 

《あんまり俺たちを、ナメんじゃねぇ!》

 

 

 

 

 ブリッジに突如飛び込んできた叫びと共に、目の前のディンの頭部が粉砕された。

 頭部どころか、機体全てが一瞬で千を超える細かな破片となり、炎と化して弾けていく。アマミキョを睨みすえ、サイが睨み返していた単眼の光も、爆炎に呑まれていく。

 

 3秒後にサイはやっと、ディンが横から薙ぎ払われた形で散ったことを認識した。

 同時に、虎の子のローエングリンをみすみす撃たずにすんだことも。

 

「その声……」

 

 目の前の甲板は今、炎で染まっていた。

 黒い雪のように降りそそぐ、ディンの小さな破片。その中に屹立する、巨大な人型の影──

 それは、紅と白に彩られたオーブの機体・ムラサメだった。

 真紅に輝くビームサーベルを手に、サイたちを守るように敢然とディンどもの前に立ちはだかる。

 そのコクピットからの通信は、実にクリアだった。

 

《間に合ったな、サイ!》

 

 あぁ──サイはため息と共に呟く。

 君もやはり、戻るのか。戦場へ。

 

「スティング……

 やっぱり、スティング・オークレーか!」

 

 ブリッジが一瞬安堵の空気で満ちていく中、サイも思わず喜びの声をあげる。

 

 だが手放しで喜ぶことなど、とても出来なかった──

 ネネの血は、サイを人殺しにするばかりでなく、スティングを凄惨な戦いへと戻してしまった。彼女はスティングを戦わせることを、ひどく躊躇していたのに。

 助けられたことに、単純に喜びながらも

 

 ――サイはネネに、謝罪せずにはいられなかった。

 既に答えなどどこからも返ってこないと、分かっている謝罪を。

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 崩壊の時は来た。

 多くの命と共に地上から消えゆく、小さな雪の村。

 その惨劇は、彼らから何を奪い、何を残すのか。

 その悲しみが目覚めさせるものとは──

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「ティーダの手のひらで」

 崩落の大地、耐え抜け! フォビドゥン!! 

 

 

 

 

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