【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 殺人

 

 

 ベージュのブレザーに紅いスカート。あの制服はオーブで見覚えがある。

 胸元の赤いリボンが印象的なあれは、中学の制服だったろうか? 

 あまりにもすばしこい少女の走り。揺れや轟音などもものともせず、地面に転がっていた1m四方のコンクリートの瓦礫を、長い黒髪を跳ねさせながら飛びこえ、路地裏へと駆け去る。

 その敏捷さは、まるで黒猫だ。

 少女の周囲に次から次へと燃える瓦礫が落下していくが、驚異的な素早さで彼女は全てをかわして駆けていた。

 

 それをナオトは、自然と目で追っていた。

 自分と同い年くらいであろう娘が、一目散にジンの方へ? どういうことだ。

 

「駄目だ、逃げて逃げて逃げて! 

 そっちには、モビルスーツがっ!!」

 

 ナオトは叫ぶが、少女は振向きもしない。

 少女の横顔にジンへの恐怖は全くなく、ただ大きな瞳を嬉しさに爛々と輝かせているように見える。口元には笑みすら浮かんでいる。

 

 ――炎と共に、ジンの21.43mの巨体が近づく。

 ジープは少女と同じ方向へと、まっすぐに走りこもうとしていた。つまり、ジンの向かってくる先に。

 

「フーアさん、これ以上は危ないです。

 戻りましょう!」

 

 ナオトは少女を気にしながらも、身に迫る危険にさすがに耐えられなくなっていた。

 しかしアイムもフーアも既に、異常な興奮の中にあった。

 恐怖よりも目の前の被写体に夢中のアイム。

 無謀とも思える正義感を振りかざすフーア。

 

「バカ言え、こんないい画見逃せるか! あのトサカ野郎の下まで突っ込むっ」

「まだ誰か残っているかも知れないでしょ! もっと大声で呼んで、ナオト!」

 

 ジープはリュウタン広場の直前、巨大ロータリーにさしかかっていた。

 そこは二層構造の道路になっており、今ナオトたちが走っているのは上層部分である。

 

 また少女の姿が見えた――

 と思ったら、彼女は道路わきから、高さ3mはあるであろう下層へぴょんと飛び込んだ。何のためらいもなく。

 

 

 ナオトは思わず身を乗り出し、少女を呼ぶ

 ――その瞬間、彼女のいたはずの場所に閃光が走った。

 

 

 「うぅっ……!」

 

 

 一瞬後に来る爆風。衝撃でジープがガタンと音をたてて止まった。

 どうやら、瓦礫かなにかに乗り上げたらしい。

 

「イヤッ! 

 もう、こんな時に……!」

 

 フーアの苛立ちの声。

 と同時に、ナオトは思わず車から飛び出していた。

 

 とにかく、少女が気になった。

 子猫のように敏捷に、スカートを翻して髪をなびかせ、爆風の中へ走る幼い少女

 ――なんという、異常な画だろう。

 思いより先に、身体が動いていた。

 

「どうしたの!?」

 

 フーアが後ろで叫ぶ。

 どうもジープはタイヤをやられたらしく、アイムが車体を叩いて憤っていた。

 

「すいません、まだ避難してない娘がいるんです! 

 僕、呼んできます!!」

「待ちなさいナオ──」

 

 フーアが叫びかけたその時

 

 

 

 

 真っ黒い影が、空とナオトを隔てた。

 

 

 

 

 次の瞬間、ナオトの身体は重い衝撃に宙に吹っ飛ばされる。

 まともに道路に叩きつけられ、ナオトの頭の中に火花が散った。

 どうにか気は失わずにすんだものの、後から後から大小さまざまな瓦礫が、嵐のようにナオトの上に降りそそぐ。

 

 さらに、彼自身が倒れている道路自体が、ゆっくりと傾ぎ始めていた。

 ナオトはどうにか身体を支え、フーアたちのいた場所を振りかえった。

 そこにあったものは──

 

 

 

 炎の照り返しを受け、緑色に輝く鋼鉄の壁。

 それがジンの右脚部だということに気づくまでに、数秒かかった。

 

 

 

 ジンの向こう側に、恐らくフーアたちがいるのだろう。そう、ナオトは思った。

 思い込もうとしていた。

 だが、向こうにいるはずのフーアの声が聞こえない。アイムの声が聞こえない。

 

 

 

 吹き飛ばされて、怪我でもしたのだろうか? あぁ、だから危ないって言ったのに。

 

 

 

 オーブ軍のヘリコプターが近づき、一瞬煙が晴れて青空がのぞく。

 太陽光がジンと、その足もとの光景を照らし出す。

 口の中に砂が大量に入る。熱のこもる空気。喉の水分が奪われていく。息が熱い。

 

 

 名を呼ぼうとする。しかし、さっきまであれだけ出ていたはずの声が出ない。

 そして、ジンはミサイルポッドの装着された、ずっしりと重い右脚部を宙に上げた。

 駆動音が耳に轟く。

 重量78.5トン。その足の下にあった現実は

 

 

 

「――」

 

 

 

 葬式。死亡登録。局への死亡届。遺体確認。

 お墓って、どこへどうやって頼むんだっけ。家族への連絡。火葬? 土葬? 

 そもそもこれは、まともな葬式が出来るものなのか。飛行機が墜落した時って確か、

 ──

 

 

 

 ナオトの脳は現実を直視できず、そんな単語が後から後から意味をなさないまま飛び交っている。

 一瞬見えた碧い天空を、仰ぎ見るナオト。

 そこにそびえたっているものは、今しがたナオトの目の前の二つの命を踏み潰した、鋼鉄の怪獣。

 型式番号ZGMF-1017。

 拠点制圧用のM68パルデュス3連装短距離誘導発射筒を脚部に装着しさらに重量を増したであろう、モビルスーツ・ジン。

 

 

 背部に装着された白い翼が、太陽光を受けて灰の中で煌いた。

 大きく見開かれたまま、瞬きすら出来なくなったナオトの目から、涙があふれる。

 ジンの姿が、その視界で揺らめいた。

 

「警察

 ……誰か、警察、呼んで」

 

 すぐ頭上の建造物が崩れかかり、ガラスや燃える窓枠が落下してきたが、ナオトはそれをよけることすら出来なかった。

 放水車の音とサイレンが鳴り響く。警察? そんなものが何の役に立つ。

 それでもナオトは呟き続け、やがて喉から叫びがほとばしる。

 

 

 

「お願いだ、誰か、警察を……警察………早く。

 人殺しだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

 

 

 次の瞬間、ジンが再度跳躍し、脚部のあたりの道路が一気に沈下した。

 そのまま機体は翼を広げ、次の目標へと向かう。しかし二層構造の道路はその衝撃で砕け、ナオトを巻き込んで崩壊していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナオトの声が、音声回線から途絶えた。

 ジンを映し出していたはずのモニターは真っ黒な煙と電波干渉により著しく視界不良になり、殆ど何も分からない。

 さっきナオトたちのジープが、リュウタン広場付近まで近づいた処まではサイも確認していた。

 

 そこは最早、広場というより戦場だった。

 オーブ軍の爆撃が始まり、ジンも応戦している。

 

 今しがたジンが跳躍して移動し、ナオトたちのいたあたりに飛び込んで、二層構造となっていたはずの道路は崩落している。

 ジンは姿勢を制御しながら、なおもオーブ軍への銃撃を続けていた。

 

「あの、バカ野郎」

 

 やはり止めるべきだった。

 サイの胸が激しい後悔でかきむしられたが

 ――その時、彼が凝視している手元のモニターの隅に、新たな通信を示すメッセージウィンドウが点滅していた。

 社長が後ろから、サイに指示を送ってくる。

 

「サイ君、遅れてすまない。

 アマクサ組のデータ送っといたから、確認して」

 

 送られてきたものは、機体情報とパイロットデータだった。

 機体は3機。いずれも、今まで確認してきたアマミキョ搭載の作業用モビルスーツとは明らかに違う。

 

 

 そして、パイロットデータを見て──

 

 

 サイの手が止まった。

 心臓も止まるかと思った。

 

 

 サイの異常な様子に気づいたカズイが、隣からそれを覗き込み。

 当然のことながら、叫ぶ。

 

「ちょっと待ってくれよ! 

 悪い冗談やめてくださいよ、社長っ」

 

 カズイの台詞はそのまま、サイの心情だった。

 ただ、サイは叫ぶことすら出来なかっただけだ。

 

「あー、サイ君にはちょーっとだけ刺激が強すぎたかなぁ? 

 ごめんごめん」

 

 呑気に笑う社長の気が知れない。

 モニターに映し出された、幾つもの無機的な文字列データと、見間違えようもない写真データとを見比べるサイの拳が握られ、爪が掌に食い込んだ。

 写真だけでも信じられないのに、その上このデータは一体何だ? 

 こんな時に俺をハメて何の得があるってんだ、社長? 

 

 隣のヒスイは既にその場にいられず、ブリッジの端で吐き気をこらえていた。が、サイにはもう彼女を気遣う余裕はない。

 

「こういうことか。

『君』があの時、言った言葉!!」

 

 サイはもう一度確認する。そのデータを──

 

 

 

 17歳。女性。傭兵部隊・アマクサ組一番隊隊長。

 モビルスーツ・ストライクアフロディーテ専属パイロット。

 コーディネイター。出身・チュウザン。

 名は──フレイ・アルスター。

 

 

 

 

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