【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-23 ティーダの手のひらで
part1


 

 地表であるにも関わらず、70J式改ビームサーベルを抜き放つムラサメ。

 甲板の上、サイたちの眼前でアマミキョを守るべく、スティングは敢然と敵に立ち向かう。

 

「スティング、地上でビームは!」

 

 そんなサイの懸念を切り落とすように、スティングは威勢良く答えた。

 

《心配ねぇよ、最小出力だ!》

 

 空中から喰らいついてきたディンめがけ、飛び上がるムラサメ。

 

《このッ、死に体野郎ォ!》

 

 叫びと共に、ディンが一刀両断される。

 血飛沫のように電光を放ちながら、爆砕されるディン──

 

 宙でくるくる回りながらアマミキョに激突しようとする残骸を、カラミティの光が粉々に弾き飛ばした。

 直後、ムラサメは強引に甲板に降り立つ。背中合わせに並びたつ、カラミティとムラサメ。

 互いの通信がブリッジにも響いた。

 

《手負い野郎の援護など!》

《んな満身創痍で、減らず口叩いてんじゃねぇよ》

 

 スティングを拒否するカイキに、相手を気遣う余裕まで見せるスティング。

 一度は殺しあったエクステンデッドの子供らが、一瞬ではあるが共闘している──

 だがその2機めがけて、次々とディンは火の玉となって押し寄せてくる。パイロットの命ごと投げ捨てて。

 

《呆れるね。

 物量作戦は、連合の十八番だってのによぉ!》 

 

 スティングは嘲笑すら浮かべながら、サーベルを振り回す。

 カラミティはそんなムラサメの前に強引に飛び出し、突進してくる飛蝗の如きディンどもにバズーカを撃ち続ける。

 

《うかうかと、俺の射線に立つんじゃねぇ!》

 

 だが既に、活動限界いっぱいまで来ていたカラミティにザフトの総攻撃を防ぎきることは、到底不可能だった。

 カラミティだけでも仕留めようというのか、ここぞとばかりに集中砲火を浴びせるディン。

 

「カイキ、戻れ! 

 もうエネルギーがもたない!!」

 

 声を限りに叫ぶサイ。

 だがカイキの返答が来る前に、カラミティを劫火が襲う。切断される回線。

 粉砕しきれなかったディンの上半身が、カラミティの頭部にまともに激突したのだ──

 叫びすら発せず、炎を噴いて真っ二つに折られるシュラーク。

 

《ち……言わんこっちゃねぇ!》

 

 カイキの声の代わりに、スティングの舌打ちが飛び込んできた。

 背中から盛大に倒されるカラミティの巨体。その衝撃はアマミキョ全体にも及ぶ──

 激しい震動と恐怖に耐えるクルーを見ながら、サイはずっと血塗れの胸を握り続けていた。

 

「第一甲板からカラミティを強制収容! 

 非常用ルートBを確保、パイロットの救護を最優先にっ!!」

 

 その間にもヒスイの、悲鳴そのもののオペレートがブリッジを引き裂く。

 

「敵部隊、6時方向からも来ます! は、波状攻撃ですっ」

「ひぃいっ」

 

 ユウナはサイの腰に縋ったまま、震え続けるばかり。

 上半身を真っ黒に焦がしたカラミティは、甲板に開いた緊急収容口へ移動していく。

 カイキの強靭な意志にも関わらず、カラミティはもうぴくりとも動かない。燻り続ける機体はオートで動き出した甲板から、カタパルトへ引きずり込まれていく。

 

 あと頼りになる者は、スティングしかいない──

 

 だがそんなサイたちの目の前で、ムラサメは果敢に空中のディンへ飛びかかっていく。

 

《そんなに死にたきゃ……

 一人で、勝手に、死にやがれ!!》

 

 宙でディンの上半身を組み伏せ、そのまま強引に相手機を振り回し、迫ってきたもう1機のディンに激突させる。両機が重なった刹那を見逃すことなく、ムラサメは一瞬で2機共をビーム刃でみじん切りにしてのける。

 盛大な爆発がムラサメを中心に巻き起こったが――

 

 ブリッジのモニターで見る限り、さほど大きな破片は、村や人のいる方向には飛んでいない。

 少なくとも、人を吹飛ばすほどの破片は。

 その手際にサイが感心する間もなく、飛来するディンは次々にムラサメの手で、見事に細かな粒子となって破砕されていく。

 

 それはまるで、黒い雪のように見えた──

 猛火に巻かれ、崩壊する白い村の残骸そのものだった。

 

 炎の中、雄雄しく飛翔するムラサメ。

 スティングの通信が響く。

 

《サイ。命令をくれ》

 

 アマミキョ内部へ収容されていくカラミティを背後に。

 なおも向かってくるディンを前方に見据えつつ、スティングにはまだ余裕があった。

 

《俺には今、指揮系統がない。

 だが俺は、お前の命令なら何でも聞く。俺はどうすりゃいい?》

 

 既に腹を決めた、スティングの声。

 戦う以外に存在を認められない子供──

 そして、そんな彼に頼らなければ生きのびられない俺たち。

 

 ネネ、すまない。

 結局俺は、彼を戦わせてしまう。

 

「スティング、悪いが頼む」

 

 酷い情けなさに苛まれながらも、サイは静かに言い放った。

 

「向かってくる機体は全て破壊だ。

 破壊して、殲滅して、撃滅して、消滅させるんだ!」

 

 

 

 

PHASE-23  ティーダの手のひらで

 

 

 

 

 映像回線は繋がらずとも、スティングがにやりと血塗れの唇を歪めるのがサイには見えた。

 

《最高だ。

 その言葉を待ってたぜ!》

 

 戦闘機型に変型するが早いか、一直線に天空のディン部隊へ突っ込んでいくムラサメ。

 

《一度乗ってみたかったんだよなぁ、オーブの機体!》

 

 乾きかけた血を噛み潰し、口笛を吹きながら、スティングは戦いを楽しんですらいた。

 腰部アーマーに装備されていた空対空ミサイル「ハヤテ」を左右1弾ずつ炸裂させ、まだ後方の空で待機していたディンすらも撃ち落す。

 

《命中率も悪くねぇ!》

 

 1秒後にはモビルスーツ形態に早変わりし

 ビームサーベルとビームライフルを二刀流の如く同時に閃かせ

 一息にディン3機を木っ端微塵にしてのける。

 

《おまけに、軽いっ!》

 

 重力に任せて落ちながらも、ムラサメは襲いかかるディンの横腹を削ぎ

 首を跳ね飛ばし

 胴体を撃ち抜き

 腕を斬り飛ばす。

 

 そしてその破片までも、地表やアマミキョに落ちる前にビームライフルで粉砕するムラサメ。

 一旦アマミキョに両脚を降ろしたかと思うと、次の瞬間にはまた跳躍。

 ディンの首根っこを捕まえ、誰もいない雪山へとディンを頭から叩きつける。

 爆発の如く巻き起こる、雪と炎の嵐。

 

 

 血の色に染まった空気の中を──

 カメラアイを光らせたまま、傲然と歩いてくるムラサメ。

 どれほどのディンが攻撃を加えたところで、もはやこのモビルスーツを倒すことは不可能とさえ思えた。

 

 

 

 

 

 

「これが、エクステンデッドの力……」

 

 モニターに展開されるその光景を凝視しながら、サイは呟く。

 既にムラサメはモビルスーツの定義を超え、飢えて血を求める猛獣と化していた。

 サイの言葉と、スティングの力で。

 

 だがそれでも、命を惜しまず大地を求めるディン部隊は、果敢にアマミキョを狙う。

 残されたディンたちの単眼が、一斉にブリッジの中央にいるサイを睨みつける。

 アマミキョが民間船だということは、最早ザフトの人間の脳裏からは消えているようだ。

 サイのすぐ後ろで、震えることしか出来ないでいるユウナ。サイはそんな彼をかばうように、立ちはだかる――

 

 スティングの戦いを見守る為にも。

 アマミキョを守り抜く為にも、ネネと子供たちの為にも、自分はここに立っていなければ。

 サイは紅の単眼を、血染めの顔で睨み返す

 ――こいつが、ネネたちを殺した!! 

 

 噴き出す怒りを懸命に抑えながら、ユウナに告げる。

 

「今すぐ、ここから避難して下さい。

 貴方は、オーブにとって大切な人です」

 

 代表補佐は多少決まりが悪そうにサイを見上げた。

 その顔に、もう傲慢さはない。

 

「わ、悪いけど、もうちょっと居させてもらうよ。

 僕にだって、責任があるんだ」

 

 

 

 

 

 

 前線から離脱を果たしたティーダは、そのレーダーでどうにか地中の風間機を捉えていた。

 ナオトは「その時」が近いことを実感する。

 

「もうすぐ、接触する……」

 

 風間のディープフォビドゥンはいささかも速度を緩めず、真っ直ぐに敵部隊の塊に突進している。

 その様子をレーダーごしに凝視していたナオトの耳に、マユの声が飛び込んできた。

 

「ナオト! 

 いたよっ、メルーだ!」

 

 同時にティーダは、いなくなったメルーを追っていた。

 ナオトの脳裏に、子犬のように愛らしい栗色のツインテールが踊る。

 

 ――僕と同じ、ハーフの女の子。

 全く躊躇せず、自分にぶつかってきてくれた女の子。

 迷うことなく、自分に好意を示してくれた女の子。

 

「メルー!」

 

 見覚えのある雪の丘に、ぽつんと二つの人影が見えた。

 一人はかがみこんだ老婆、そしてもう一人は、紅のマフラーの少女。

 間違いない、メルーとその祖母だ。

 彼女はこんなところまで、祖母を追いかけてきたのか──

 

 ナオトが叫ぶより先に、少女がマフラーを翻して振り向く。

 

「ティーダ! ナオトぉ!」

 

 笑顔で小さな両手を振っているが、涙を必死でこらえているような表情。

 可愛らしい少女の顔が、コクピットのナオトからもはっきり見えた。

 

「メルー! 早く乗って」

 

 雪を蹴散らしながらメルーたちのそばにティーダを降ろすが早いか、ナオトはハッチをこじ開けた。

 

「僕たちと一緒に行こう、メルー! 

 村の人たちもみんなアマミキョに乗ったよ、だから君も……」

 

 だが、ナオトがそう言い放った途端、メルーの笑顔は消失した。

 

「駄目。

 ……駄目なの」

 

 ナオトから眼を背け、ティーダに触れようともしないまま、メルーは首を振る。

 

「ここには、おばあちゃんと神様がいるから」

 

 何を言っているんだ、この娘は。

 先ほどの老人たちから告げられた拒絶の言葉を、こともあろうにメルーから突きつけられるとは──

 唖然とするナオトの前で、祖母がメルーを説得にかかる。

 

「すまんの、ナオト君。

 この娘はきかん坊で……ワシはいい、この娘だけでも助けてやってくれ」

 

 勿論、ナオトは最初からそのつもりでいた。

 メルーの意志がどうあろうと、彼女をこの村と死なせるわけにはいかない──

 ティーダのマニピュレーターが、メルーたちに伸ばされる。

 

「駄目だよ!」それでも少女はぶんぶん首を振り続ける。「私はおばあちゃんと、神様と一緒に生きるの!」

「メルー! これ以上ナオト君たちを困らせてはいかん。

 ワシも後から必ず行くから、わがままを言うでない」

「嘘だっ!」それでもメルーは祖母に、しっかり縋り続ける。

 大きな眼から迸る涙。

 

「おばあちゃんは、悪い嘘をついてる! 

 ナオトとは違う、悪い嘘!」

「――えっ?」

 

 ナオトは一瞬、状況を忘れてメルーを凝視してしまった。

 僕が嘘をつきながら生きていることが、いつこの娘にバレたのだろう? 

 いつかフレイに弄られた痛みが、僅かにぶり返す──

 

 だが、それも一瞬のことだった。

 メルーはふっくらした頬を涙で汚しながらも、ナオトを見つめる。

 その視線に、少年がずっと恐れていた軽蔑の色はない。

 

「ナオト。私、分かってた。

 ナオトは多分、わざとドジやってるって、多分わざと嘘ついてバカやってるって……

 何となく分かってた。

 ホントのドジだったら、ティーダに乗れるわけ、ないもの」

「メルー、君は……!」

 

 容易に言葉をつげなくなる少年。

 生まれて初めて、自分と分かり合えるかもしれない存在に出会えた──

 それだけでもナオトは嬉しかったのに、この娘は本当に自分を、自分という存在を。

 ナオト・シライシのこれまでの生き方を否定せず、理解し、肯定してくれた! 

 

「でも、ナオトが嘘ついた気持ち、分かったんだ。

 私にも、みんなにも分かったの。そうしないと、私たちも生きていけない時があったから。

 だから、一生懸命嘘をついて、私たちを励まして、笑わせてくれるナオトが、みんな大好きなんだよ。

 ナオトのは、生きる為の嘘だから!」

 

 ──あぁ。

 この村に来て、メルーに出会えて、本当に良かった。

 

 ハッチに手をかけて立ち尽くしたまま、少年の目から自然に涙が流れ出す。

 メルーの声はさらに続いた。

 

「だけど、おばあちゃんの嘘は違う! 

 死ぬ為に、嘘ついてるっ!」

「メルー!」

 

 祖母とナオトの声が、同時に雪原にこだまする。

 祖母のコートにしがみついたまま、メルーはナオトにも負けない大声で叫んだ。

 

「私、祈るよ! 

 アークエンジェルが来てくれるまで祈るんだ。アマミキョとアークエンジェルなら、きっと神様だっておばあちゃんだって、助けられるよ!」

 

 ──が、その願いを冷たく打ち砕く言葉が、突然響いた。

 

「メルー。

 ……アークエンジェルは、来ないよ。

 来られないの」

 

 コクピット後席に座ったままだったマユが、舌足らずながらも冷静に現実を告げたのだ。

 

「マユ……? 

 どうして君が、それを?」

 

 僕だって、ホントはアークエンジェルに助けてほしい。

 キラさんだったら、アスハ代表なら、こんな腐った状況も一瞬で何とかしてくれるはずなのに──

 

 ナオトの当然の疑問も無視し、マユはメルーを諭す。

 

「だからお願い、乗って。

 それがナオトの願いだから」

 

 メルーにはっきりと嫉妬の感情を示し、メルーを拒絶していたはずのマユが今――

 何故か、メルーを助けようとしている。

 その姿を不思議に思いながらも、これもマユの成長の証なのだろうかとナオトは感じた。

 その行動が、ただナオトの願いを叶えたいという純粋な想いから来るものだということまでは、彼自身も思い至らなかったが。

 

 ティーダの左手が、メルーと祖母を包み込むように動く。

 マユの言葉の意味をどこまで理解したのか分からないが、メルーはようやくティーダの左手に触れようとした

 

 ──その瞬間。

 突如、赤ん坊の悲鳴のような警報が、コクピットに鳴り響いた。

 

 

 

 

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