【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
何秒、いや何分経過したか分からない。
ナオトは、自分の腹の上でかなり乱暴に跳躍する物体の感触で、目を覚ました。
「ハロハロ!
ケーコク、アラート!
マユ、オーマイゴッドン!!」
それが通称、「ハロ」と呼ばれる球体のメカであることはすぐに気づいた。
確か、プラントの歌姫ラクス・クラインが持っている映像を、何度か見た覚えがある。
ただし今ナオトの目の前で跳んでいるハロは、桃色に塗られたラクスのそれとは違い、真っ黒だったが。
ナオトは何とか現在の状況を確認した。
さっきまでいた二層構造の道路が落ち、その勢いで地盤が崩れ、自分は地下道まで落とされたらしい。
どこかで水漏れの音がして、悪臭が漂っている。
身体中が砂と瓦礫と木材に埋まっていたが、彼はどうにか起き上がることに成功した。
手が自然と、大量に噴出していた土に触れる。
これは、えぐられた地面だろうか?
――そう気づいた時、心臓を冷たい手で鷲掴みにされた気がした。
ここはコロニーだ。
もし、コロニーの地表を構成している土がえぐられ、構造物が剥き出しになったら──
頬に手を当てると、涙と泥でぐちゃぐちゃになっている。
全身がまだ震えている。
嗚咽が喉から漏れる。
ハロはそれに気づいているのかいないのか、目を二度ほど光らせるとくるりと90度回転して、ナオトのもとから跳び出していった。
それに導かれるように、彼はよろよろとながら立ち上がる。
どうやらそこは、地下倉庫らしき場所だった。
今の衝撃で天井が崩れ、いくつもの機械の破片が散乱している。中には、明らかにモビルスーツの一部であろうという物体まである。今は電気は通っておらず、真っ暗で誰の気配もない。
未だに爆発音が近くに聞こえ、亀裂の入った天井から小さな塵が落ちる。ハロはそれにも構わず跳んでいく。
「マユ、ケーコク、ケーコク!」
ナオトの視線の先、瓦礫の山の向こうには
――真っ白のモビルスーツが1機、横たえられていた。
確か見覚えがある。
あの形は以前、取材中にオーブのモルゲンレーテ社で画像を見た機体、ブリッツガンダムではなかっただろうか? 大戦中に連合によりモルゲンレーテ社で製造され、ザフトに強奪された機体だ。
好奇心のあまりナオトが発見してしまったデータで、勿論報道は禁じられていた。しかしカラーリングがまるで違う。
ブリッツはステルスシステム「ミラージュコロイド」を使用していた機体で、特殊粒子を定着させる為に機体全体が黒く塗装されていたはずだ。
だが今ナオトの目の前にあるモビルスーツは、ブリッツの黒い部分が全て白く塗りなおされたかのようだ。
真新しい機体のようで、その白色自体が輝きを放っているようにすら見える。
しかし今、白いモビルスーツはどうやら地上からジンの攻撃を受けたらしく、ほぼ仰向けに倒されている。少なくとも数分前まではジンの攻撃に耐え、しっかり立ち上がっていたようだ。
天井には大穴が開き、そこから地上の光が射していた。太陽光と炎の光。
倒されたモビルスーツの胸部が開いている。おそらくコックピットなのだろう、人の頭が動いている。
ハロはまっすぐにモビルスーツの方向へ跳びはねていく。
「ハロハロ、マユ、アラート!」
ナオトは思わずモビルスーツに近づいた。
人間と同じ形状と顔を持つ、機動兵器
──オーブの理念を貫き、オーブを戦火から護る力が、今ここにある。
「ハロ! どしたの!?」
コックピットから、この状況下にしてはずいぶんと明朗な声が響いた。
ハロはコックピット目がけて跳び上がり、そのまま向こうへ姿を消す。
そして、コックピット──
つまり、モビルスーツの開いた胸部からゆっくりと立ち上がった者は。
「君は……」
炎の中を、目を輝かせて走り抜けていたブレザー姿の少女。
ジンを目の前にして、四肢を躍動させてスカートを翻して飛び跳ねていた少女。
ナオトが、どうしても追いかけずにはいられなかった少女だった。
ハロは彼女の胸に抱えられ、彼女は不思議そうに大きな瞳を見開いてナオトを見つめる。
ナオトはしばらく、その愛くるしい丸顔に心を奪われていたが
すぐに正気を取り戻し、状況を見極めた。
異常だ。彼女は明らかに異常だ。
何故なら
――その左腕がだらんと下へ垂れ下がり、肩から血が流れ落ちて腕全体を真っ赤に染めている。ベージュの上着の布地も半分がた、紅に染まっていた。
炎の照り返しが彼女を照らし出す。放水音が高まる。
そして、どこかでジンの駆動音まで聞こえる。
なのに彼女は──こちらを見ながら、にっこりと笑ったのだ。
「ナオト!?
貴方、ナオト・シライシだよね!!」
少女は目を輝かせ、顔いっぱいに嬉しさを表現する。
しかしその頬はまるで死人のように青白い。恐らく、出血で血の気が失せているのだろう。
「私、貴方のこと知ってるよ。
すごいすごーいっ! こんな処で有名人に会えるなんて!!」
少女は身を乗り出した。
しかしその瞬間
――天井の向こう側、つまり地上でジンが再び動き出す姿が、ナオトの視界の隅で確認できた。
ジンの単眼が、明らかにこちらを狙って光る。
「駄目だ、伏せて!」
ナオトは思わず機体に駆け寄り、無我夢中で少女の足元めがけてよじ登り、コックピットに飛びついていた。
モビルスーツがたまたま横倒しで良かった、でなければこんな芸当は無理だ。
だが──ジンの重突撃銃が火を噴こうとしたその瞬間。
ジンは何故か、背後から攻撃を受けて吹っ飛んだ。
重い鋼鉄の巨体が地上に激突したその衝撃で、またしてもナオトたちの上に瓦礫が降る。
中には火を噴いている落下物まであったが、ナオトはそれを払いのけて少女のもとへ急ぎ、コックピットに飛び込んだ。
どうやらこの機体は複座式で、前後に座席がついている。
ナオトはためらうことなく前部座席に滑り込み、少女の腕を取る。
その出血量に、ナオトの方が蒼白になった。
それでも、少女は脳天気に目を輝かせるばかり。
「良かった、ちょっと困ってたの。
腕が動かなくなっちゃって」
「おかしいよ……
どうしてこんな血が出ていて笑っていられるんだ、君は!」
ネクタイを素早くほどいて、少女の止血を行なう。ネクタイはバイキンの巣だと聞いた覚えもあるが、この際仕方がない。
「だいじょーぶ、お兄ちゃんが助けてくれるから。
ぜーったい!」
唇を紫色にしながら、苦痛を全く感じていないような顔で、少女はにっこり笑った。
「私、マユ・アスカ。
これからアマミキョを護るの、よろしくね!」
少女はどうやら、機体を起動させようとした最中に攻撃を受けたらしい。
コンソール・パネル内のモニターでは、既に機体が動き出そうとしているのか、6つの文字列が紅く明滅していた。
Generation
Unilateral
Neuro-link
Dispersive
Autonmic
Maneuver
そして、それらの文字列の少し後に、モニターの中央に重なるように赤く表示された文字は。
TIIDA
「TIIDA……ティーダ。
てだ……太陽?」
どこかで聞いたことがある、オーブに伝わる遥か昔の言葉。
それをナオトは、無意識に呟いていた。
そんな彼の前に、飛び込んでくるハロ。
その口にあたる部分がぱっくり開かれ、ハロの内部が丸見えになる。
ナオトにはさっぱり用途の不明な機器が詰まっていたが、何よりも彼の目をひいたものは、
ほんのり紅色に染まった、小さな貝殻──
ではなく、きれいな珊瑚色に塗られた爪が、一片。
その爪の先は、小さな白い三日月が描かれている。
見間違えようもない、フーアの描いた爪。彼女の大好きな絵柄だった。
三日月の表面には、黒く固まった血が少々飛び散っている。
何とも皮肉なことに、血の赤黒さが、三日月をより美しく見せていた。
そんな爪が、指の一部分と一緒に、ハロの中に入っていた。
ちょっとばかり見えている白い骨は、第二関節のあたりだろうか。
二度と、誰も殺させない。
二度と、誰も殺させてはいけない。
こんなこと、絶対に許してはいけない。
こんな異常事態に、僕はもう耐えられない!!
ナオトはそっと、指に手を伸ばす。
目の前で血を流しながら、なお嬉々として戦おうとする少女。
目の前で無惨に命を絶たれた同僚。
どうしてなのか分からないまま、破壊されていく生活。
宇宙の片隅で崩れていく、小さいけれどそれぞれが大切にしていたはずの、人々の空間。
コンソールに縦に浮かび上がった「GUNDAM」。
そしてそれとクロスするかのように浮かぶ「TIIDA」の文字が、ナオトに問いかけていた。
この状況に対して、今お前が出来ることは何だ。
今、力を手にしたお前に、出来ることは何だ。
フーアの指を胸ポケットに入れる。彼女の指を心臓に感じる。
ナオトの中で、凄まじき怒りが、恐怖とパニックを超越した時──
ガンダム・ティーダの双眼が、煌いた。
~~~~~~
立ち上がる「太陽」のガンダム。
だが、その飛翔は混沌の中で遮られる。
平和だったコロニーが地獄の坩堝と化す中、舞い降りたものは紅の女神。
そして、少年の決断は遂に、禁断のシステムを動かすに至った。
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation 「轟く声と走る紅」
紅蓮の戦場、駆け抜けろ、アフロディーテ!