【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part9 『太陽』のモビルスーツ

 

 

 何秒、いや何分経過したか分からない。

 ナオトは、自分の腹の上でかなり乱暴に跳躍する物体の感触で、目を覚ました。

 

「ハロハロ! 

 ケーコク、アラート! 

 マユ、オーマイゴッドン!!」

 

 それが通称、「ハロ」と呼ばれる球体のメカであることはすぐに気づいた。

 確か、プラントの歌姫ラクス・クラインが持っている映像を、何度か見た覚えがある。

 ただし今ナオトの目の前で跳んでいるハロは、桃色に塗られたラクスのそれとは違い、真っ黒だったが。

 

 

 ナオトは何とか現在の状況を確認した。

 さっきまでいた二層構造の道路が落ち、その勢いで地盤が崩れ、自分は地下道まで落とされたらしい。

 どこかで水漏れの音がして、悪臭が漂っている。

 身体中が砂と瓦礫と木材に埋まっていたが、彼はどうにか起き上がることに成功した。

 手が自然と、大量に噴出していた土に触れる。

 これは、えぐられた地面だろうか? 

 ――そう気づいた時、心臓を冷たい手で鷲掴みにされた気がした。

 

 

 ここはコロニーだ。

 もし、コロニーの地表を構成している土がえぐられ、構造物が剥き出しになったら──

 

 

 頬に手を当てると、涙と泥でぐちゃぐちゃになっている。

 全身がまだ震えている。

 嗚咽が喉から漏れる。

 

 

 ハロはそれに気づいているのかいないのか、目を二度ほど光らせるとくるりと90度回転して、ナオトのもとから跳び出していった。

 それに導かれるように、彼はよろよろとながら立ち上がる。

 

 

 どうやらそこは、地下倉庫らしき場所だった。

 今の衝撃で天井が崩れ、いくつもの機械の破片が散乱している。中には、明らかにモビルスーツの一部であろうという物体まである。今は電気は通っておらず、真っ暗で誰の気配もない。

 未だに爆発音が近くに聞こえ、亀裂の入った天井から小さな塵が落ちる。ハロはそれにも構わず跳んでいく。

 

「マユ、ケーコク、ケーコク!」

 

 ナオトの視線の先、瓦礫の山の向こうには

 ――真っ白のモビルスーツが1機、横たえられていた。

 

 

 確か見覚えがある。

 あの形は以前、取材中にオーブのモルゲンレーテ社で画像を見た機体、ブリッツガンダムではなかっただろうか? 大戦中に連合によりモルゲンレーテ社で製造され、ザフトに強奪された機体だ。

 好奇心のあまりナオトが発見してしまったデータで、勿論報道は禁じられていた。しかしカラーリングがまるで違う。

 

 

 ブリッツはステルスシステム「ミラージュコロイド」を使用していた機体で、特殊粒子を定着させる為に機体全体が黒く塗装されていたはずだ。

 だが今ナオトの目の前にあるモビルスーツは、ブリッツの黒い部分が全て白く塗りなおされたかのようだ。

 真新しい機体のようで、その白色自体が輝きを放っているようにすら見える。

 

 

 しかし今、白いモビルスーツはどうやら地上からジンの攻撃を受けたらしく、ほぼ仰向けに倒されている。少なくとも数分前まではジンの攻撃に耐え、しっかり立ち上がっていたようだ。

 天井には大穴が開き、そこから地上の光が射していた。太陽光と炎の光。

 倒されたモビルスーツの胸部が開いている。おそらくコックピットなのだろう、人の頭が動いている。

 ハロはまっすぐにモビルスーツの方向へ跳びはねていく。

 

「ハロハロ、マユ、アラート!」

 

 ナオトは思わずモビルスーツに近づいた。

 人間と同じ形状と顔を持つ、機動兵器

 ──オーブの理念を貫き、オーブを戦火から護る力が、今ここにある。

 

「ハロ! どしたの!?」

 

 コックピットから、この状況下にしてはずいぶんと明朗な声が響いた。

 ハロはコックピット目がけて跳び上がり、そのまま向こうへ姿を消す。

 そして、コックピット──

 つまり、モビルスーツの開いた胸部からゆっくりと立ち上がった者は。

 

 

「君は……」

 

 

 炎の中を、目を輝かせて走り抜けていたブレザー姿の少女。

 ジンを目の前にして、四肢を躍動させてスカートを翻して飛び跳ねていた少女。

 ナオトが、どうしても追いかけずにはいられなかった少女だった。

 

 ハロは彼女の胸に抱えられ、彼女は不思議そうに大きな瞳を見開いてナオトを見つめる。

 ナオトはしばらく、その愛くるしい丸顔に心を奪われていたが

 すぐに正気を取り戻し、状況を見極めた。

 

 異常だ。彼女は明らかに異常だ。

 何故なら

 

 ――その左腕がだらんと下へ垂れ下がり、肩から血が流れ落ちて腕全体を真っ赤に染めている。ベージュの上着の布地も半分がた、紅に染まっていた。

 炎の照り返しが彼女を照らし出す。放水音が高まる。

 そして、どこかでジンの駆動音まで聞こえる。

 

 なのに彼女は──こちらを見ながら、にっこりと笑ったのだ。

 

 

「ナオト!? 

 貴方、ナオト・シライシだよね!!」

 

 

 少女は目を輝かせ、顔いっぱいに嬉しさを表現する。

 しかしその頬はまるで死人のように青白い。恐らく、出血で血の気が失せているのだろう。

 

「私、貴方のこと知ってるよ。

 すごいすごーいっ! こんな処で有名人に会えるなんて!!」

 

 少女は身を乗り出した。

 しかしその瞬間

 ――天井の向こう側、つまり地上でジンが再び動き出す姿が、ナオトの視界の隅で確認できた。

 ジンの単眼が、明らかにこちらを狙って光る。

 

「駄目だ、伏せて!」

 

 ナオトは思わず機体に駆け寄り、無我夢中で少女の足元めがけてよじ登り、コックピットに飛びついていた。

 モビルスーツがたまたま横倒しで良かった、でなければこんな芸当は無理だ。

 

 だが──ジンの重突撃銃が火を噴こうとしたその瞬間。

 ジンは何故か、背後から攻撃を受けて吹っ飛んだ。

 

 重い鋼鉄の巨体が地上に激突したその衝撃で、またしてもナオトたちの上に瓦礫が降る。

 中には火を噴いている落下物まであったが、ナオトはそれを払いのけて少女のもとへ急ぎ、コックピットに飛び込んだ。

 

 どうやらこの機体は複座式で、前後に座席がついている。

 ナオトはためらうことなく前部座席に滑り込み、少女の腕を取る。

 その出血量に、ナオトの方が蒼白になった。

 

 それでも、少女は脳天気に目を輝かせるばかり。

 

「良かった、ちょっと困ってたの。

 腕が動かなくなっちゃって」

「おかしいよ……

 どうしてこんな血が出ていて笑っていられるんだ、君は!」

 

 ネクタイを素早くほどいて、少女の止血を行なう。ネクタイはバイキンの巣だと聞いた覚えもあるが、この際仕方がない。

 

「だいじょーぶ、お兄ちゃんが助けてくれるから。

 ぜーったい!」

 

 唇を紫色にしながら、苦痛を全く感じていないような顔で、少女はにっこり笑った。

 

「私、マユ・アスカ。

 これからアマミキョを護るの、よろしくね!」

 

 少女はどうやら、機体を起動させようとした最中に攻撃を受けたらしい。

 コンソール・パネル内のモニターでは、既に機体が動き出そうとしているのか、6つの文字列が紅く明滅していた。

 

 

 

 Generation

 Unilateral

 Neuro-link

 Dispersive

 Autonmic

 Maneuver

 

 

 

 そして、それらの文字列の少し後に、モニターの中央に重なるように赤く表示された文字は。

 

 

 

 TIIDA

 

 

 

「TIIDA……ティーダ。

 てだ……太陽?」

 

 

 どこかで聞いたことがある、オーブに伝わる遥か昔の言葉。

 それをナオトは、無意識に呟いていた。

 

 そんな彼の前に、飛び込んでくるハロ。

 その口にあたる部分がぱっくり開かれ、ハロの内部が丸見えになる。

 ナオトにはさっぱり用途の不明な機器が詰まっていたが、何よりも彼の目をひいたものは、

 

 

 ほんのり紅色に染まった、小さな貝殻──

 ではなく、きれいな珊瑚色に塗られた爪が、一片。

 

 

 その爪の先は、小さな白い三日月が描かれている。

 見間違えようもない、フーアの描いた爪。彼女の大好きな絵柄だった。

 

 

 三日月の表面には、黒く固まった血が少々飛び散っている。

 何とも皮肉なことに、血の赤黒さが、三日月をより美しく見せていた。

 そんな爪が、指の一部分と一緒に、ハロの中に入っていた。

 ちょっとばかり見えている白い骨は、第二関節のあたりだろうか。

 

 

 

 二度と、誰も殺させない。

 二度と、誰も殺させてはいけない。

 こんなこと、絶対に許してはいけない。

 こんな異常事態に、僕はもう耐えられない!! 

 

 

 

 ナオトはそっと、指に手を伸ばす。

 

 

 目の前で血を流しながら、なお嬉々として戦おうとする少女。

 目の前で無惨に命を絶たれた同僚。

 どうしてなのか分からないまま、破壊されていく生活。

 宇宙の片隅で崩れていく、小さいけれどそれぞれが大切にしていたはずの、人々の空間。

 

 コンソールに縦に浮かび上がった「GUNDAM」。

 そしてそれとクロスするかのように浮かぶ「TIIDA」の文字が、ナオトに問いかけていた。

 

 この状況に対して、今お前が出来ることは何だ。

 今、力を手にしたお前に、出来ることは何だ。

 フーアの指を胸ポケットに入れる。彼女の指を心臓に感じる。

 ナオトの中で、凄まじき怒りが、恐怖とパニックを超越した時──

 

 

 ガンダム・ティーダの双眼が、煌いた。

 

 

 

 

 ~~~~~~

 

 

 

 立ち上がる「太陽」のガンダム。

 だが、その飛翔は混沌の中で遮られる。

 平和だったコロニーが地獄の坩堝と化す中、舞い降りたものは紅の女神。

 そして、少年の決断は遂に、禁断のシステムを動かすに至った。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation 「轟く声と走る紅」

 

 紅蓮の戦場、駆け抜けろ、アフロディーテ! 

 

 

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