【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-25 涙
part1


 

 

 その日の昼前──チュウザン首都・ヤエセ。

 河で分断されたこの街に、サイは再び降り立っていた。

 アマミキョ内部で待ち合わせをしては騒ぎになるということで、サイは駅前でフレイを待つことにしていた。

 ──フレイと再会した、あの日と同じ駅で。

 焼けつくような陽射しとむせかえるような湿った空気は、あの日と何も変わらない。文具団の勢力下の、工場街。

 

 ここで俺たちは、再び出会い、久々のデートをした。

 あの時は、これが最後と思い込んでいたのに。今日もう一度二人で連れ合えるというのは、どういう運命のめぐり合わせだろう? 

 天気もあの日と全く同じ、憎たらしいほどの快晴だ。

 

 あの日と違うのは──まず、街の風景。

 ブレイク・ザ・ワールドの惨劇、そしてさらに激化したテロは、この街を確実に壊していた。華美なネオンサインに彩られていたホテルは、真っ先にテロの標的となり破壊され、今では熱射の下、砂だらけの瓦礫と化している。

 所狭しと並んでいた細いビル群は見る影もなく、崩れた壁の中で弱弱しい鉄骨を露にしていた。泥水が溢れ出し、巨大なネズミが3匹ほど這い回っている。

 

 今こうしてサイが駅前に無防備で立っていられるのが不思議なくらい、チュウザン──

 ことに、コーディネイターとナチュラルを隔てる川沿いでは暴動が頻発していた。

 アマミキョ不在の間も、北チュウザン政府軍と山神隊の力でどうにか文具団工場周辺のテロは鎮圧に成功していたが、いつまた大規模なテロが起こるか分からない。

 ついさっき、満員電車から人の頭上に押し出されるようにしてサイが降ろされた駅も、半分がた修復工事中だった。

 

 ここは、川の「向こう側」の街。

 目を希望に輝かせ、人々が働いていた街。コーディネイターとナチュラルが共存し、利益を上げていた工場街──のはずだった。

 開戦前はかなり小奇麗だった街の姿も、今では至るところに青いシートが敷かれ、放置された焼け野原となり、汚濁にまみれた人々が路上で商売をしている。

 それを追い立てる、チュウザン兵と軍用犬。

 河の手前側の貧民街の人々の生活が、反対側まで溢れ出していた。それでも懸命に祭りの準備に動き回り、ぼろい屋台の準備などをしているさまは、さすが祭り好きの住民というべきか。

 

 サイは紅のワイシャツと黒のネクタイ、チェックのズボンという姿で、通信機を一個だけポケットにしのばせて柱時計の前に立ち、暫く思考を巡らせる。

 

 この状況で、どうやってこの街を守れるか。

 この街の人々を、どうやって助けられるか。

 ──ハーフムーンをこの手で潰した俺に、チュウザンの人々を助けられるのか。

 

 ザフトの侵攻は着々と進み、デュランダル議長によるロゴス・スキャンダルにより連合も内部崩壊寸前。オーブ本国は頼りにならないときた。

 サイは川の反対側の景色に、ふと目をやる。

 まだビルやショッピングモールが辛うじて残っているこちら側と違い、向こうの街──色とりどりのバラックがひしめいていた貧民街は、巨大なゴミ捨て場の平野と化し、大量の虫とネズミが湧いている。

 そのそばに、焼け出された人々がゴミのような家を建て、ゴミの山で蟻のように動き、熱射の中で生きようとしているのが見えた。

 

 サイが思考に耽溺しかけた、その時──

 

「おっまたせー、サイ!」

 

 屈託のない朗らかな声が、場違いなほどに響く。

 振り向くと、いつの間に近づいたのやら、サイのすぐ背後でフレイがにこにこ笑っていた。

 勢いよく振り向きすぎたサイの頬に、彼女の人差し指が見事に埋まっていた。

 

「へっへー、引っかかった!」

 

 

 

 

 

 PHASE-25 涙

 

 

 

 

 

 同じ頃──

 アマミキョカタパルトでは、ちょっとした騒動が発生していた。

 鬼の形相でカタパルトに飛び込んできたカイキ。ティーダの前で暴れようとする彼を何とか宥めすかしたのは、ラスティだった。

 二発も殴られつつ、整備士たちの助けも借りてどうにかカイキを押さえ込んだ後、ラスティはとんでもない事態を知った。

 

「え? マユがいない!?」

「あのガキだ。奴まで消えてやがる!」

 

 整備士たち5人ほどに床に押し付けられながら、カイキは唾を飛ばして叫ぶ。

 

「あのガキとティーダが、マユを変えちまった!」

 

 動揺しながらも、ラスティは懸命にカイキを宥める。ここでカラミティパイロットたる彼にまで何かあってはたまらない。

 

「祭りだからだろ……マユはお祭り好きの子だ。

 庇護を離れて、出歩きたくもなるだろ」

「てめぇ、何を呑気な! 畜生っ」カイキは涙まで流し、床を叩く。

「あのガキを探しに行ったんだ。

 マユにはもう、苦しい思いはさせないって決めたのに……!」

 

 そこへ、ティーダ脚部の調整をしていたミゲルが割って入った。

 

「通信機は持ってるはずだ、心配するな。

 何たって今や、唯一のティーダパイロット嬢だからな」

 

 軽口は叩いているが、その表情は決して笑顔ではない。

 

「ニコルが位置を特定した。

 街中だよ、いつでも呼び戻せる」

 

 カイキのもとに近づき、ミゲルは腰を降ろす。

 そしてその耳に、小声で囁いた。

 

「計画の要――

 そうやすやすとロストするはず、ないだろ」

 

 返す言葉もなく、俯くカイキ。その両拳が床の上で握り締められた。

 お前の不注意でもある──ミゲルの目は、明確にそう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 あの日と全く変わらない、フレイの姿だった。

 薄水色の爽やかなワンピースに、白い帽子。熱風に煽られ、白い脚が垣間見えるフレアースカートも、一緒だ。

 瓦礫やネズミなど殆ど気にすることなく、あの日と同じに街を歩きながら――

 フレイは軽く4時間ほども、サイと一緒にはしゃぎ回った。

 

 しぶとく生き残っている喫茶店やレストランで思う存分食事をし、ゲーム場でひとしきり遊び。

 その後は祭りの屋台を眺めたり、救助隊らしく配給の手伝いなどもしたり。

 

 たった、それだけの──

 ただ、それだけのことだったが。

 

 一応の目的である潜入捜査など忘れてしまいそうなほどに、サイは幸せだった。

 ここまで俺だけ幸せでいいのかと、後悔するぐらいに。

 

 午後の遅くになっても、フレイは洋品店やケーキ屋のショーウインドウを眺めては、いちいちサイを呼びつけていた。全く、あの日と一緒に。

 フレイと決別するつもりで最後のデートをしたあの日を、俺はもう一度繰り返している──

 

「何だかんだあっても、ちゃーんといいものは残るのねぇ。

 ねぇ見て見てサイ、あのタキシード、絶対サイに似合いそう!」

「いつどこで俺が着るんだよ」

「あらぁ、貴方だってもう立派な副隊長よ? 

 ちゃんとしたもの着なきゃ駄目、何よそのヤンキーオヤジ崩れみたいな恰好は」

「ヤ、ヤン……何だって?」

「コオヤジが進化してヤンキーオヤジ」

「退化だろうが! 全く、これでも俺は結構頑張って……」

「ま、サイにしちゃ頑張った方かもねー。いつかのファイヤージャケット着てきたら殺してやろうと思ってたとこ」

「え? アレ、気に入らなかったんだ?」

「当ったり前でしょ! 

 サイだから許してたのよ、他の奴だったらその場でひっぱたいてサヨナラね」

 

 その時にはすっかりフレイのペースに乗せられていたサイだったが、その言葉でふと思い出した。

 

「アレ着てたのって、ヘリオポリスにいた頃だよな」

「そうよ。ほんの2年前」並んで歩きながら、フレイはふと目を逸らす。

「何もかもが――変わってしまった場所」

 

 

 

 

 

 

 そしてまた、数刻の後。

 いつの間にか二人は大通りから外れ、日の当たらないビルの裏道を歩いていた。

 

 ──もうそろそろ、本題に入らなければならない。

 フレイにキラのことを告げた、あの日と同じに。

 

「フレイ。

 2年前から、俺たちは大きく変わってしまった。

 それだけじゃない。この街でもう一度出会った時からも──

 俺たちは、変わってしまった」

「私は、変わったつもりはないけど?」

 

 フレイはふっとサイの前に出て、勝手に早足で歩み出す。

 人通りは殆どない、白く砂埃の舞う道。

 サイは慌てて追いかける。

 

「君はもう、無邪気な記憶喪失の女の子じゃない。

 そいつを俺は知ってしまったから……

 って、おい、待てよ!」

 

 サイは逃げるフレイを追うようにして、思わず彼女の手首をつかみかけた。

 だが、寸前で彼女の手は、するりと逃げていく。跳ね回る魚のように。

 

「フレイ! これだけは、はっきりしておきたい。

 記憶は、戻ったのか?」

 

 微笑みながら、踊るようにくるりと回るフレイ。

 痛いほど眩しい日光の下、ひるがえるスカートの裾。

 

「キラを、好きだった記憶? それとも、貴方を好きだった記憶? 

 貴方の欲しい答えは、どっちかな?」

「どっちだって構わない。

 それが君の真実の記憶なら、俺はどちらだって……」

 

 フレイはそのまま、ビル陰の白い道を駆けていく。

 日陰と日向が作りだす鮮やかなコントラストの中を、踊り子のように優雅に走っていく。

 

「記憶の定義って、何かしらね。

 どこまで思い出したら、私は貴方の望むフレイになれるのかしら」

 

 まるで、自分が何処に向かっているのか分かっている──

 そんな足取りで彼女は走っていく。サイは追いつくのが精一杯だ。

 埃と熱射の中、無我夢中でフレイを追い続けると、やがて真っ白いドーム状の建造物が見えてきた。

 灼熱の国・チュウザンにはあまり似つかわしくない。どちらかと言えば街並みから浮いている──

 そんな建物が、不意にサイの眼前に現れた。

 

 日光を反射し、銀色に輝く丸い屋根。

 日は次第に西へ傾き始め、かすかな赤みを帯びていく。

 サイとフレイの影が次第に長くなっていく。青空に、午後の埃っぽい空気が混じり始める。

 それらの風景全てを振り払うように、フレイは真っ直ぐにドームの入り口へ入っていった。

 

「おい! 

 どこだよここ、まさか軍用施設じゃ……」

 

 叫ぶサイには目もくれず。

 フレイは半分はしゃぎながら、奥の暗闇へ消えていく。

 

「冗談! 

 ただのプラネタリウムよ、今は閉鎖中だけどね」

 

 彼女に導かれるがままに、サイはドームに入った。

 やや埃のたまった、ガラス張りのエントランスを抜けると──

 

 

 不意に周囲の景色が、闇の底へと落ちた。

 

 

 

 

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