【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
さっきのドームの光景と同じく、これも幻であることを願わずにいられないサイだったが――
桜のように舞う火の粉は容赦なく服や腕、髪を少し焦がしていた。
アマミキョへの通信を試みたが、既に通じない。
そんなサイを庇うように、少女が炎の街と彼の間に立つ。
「お前はここにいろ。
私はアマミキョへ連絡する、今のところここが一番安全だ」
「えっ!?
おい、ちょ、待っ……!」
そういうが早いか、サイの答えも聞かずに少女は炎の中へと駆け出した。
またモビルスーツの強奪でもする気か──そう思う間もなく、彼女はビルの間の喧騒の中へと消えていく。
あっという間にその姿を見失ってしまったサイは、ただひたすら通信機をいじる他はない。
「くそ……俺に、どうしろって!」
あちこちで噴き出す火花と爆撃。
ビルと家の間をのしのしと歩くダガーLは、目視で確認できただけで3機。
ニュートロンジャマーの影響が強くなったのか、それとも混乱の為か。回線はほとんどつながらなかった。
50秒ほど通信機と格闘した後、サイは諦めて今出たばかりのドームを振り仰ぐ――
ドームの向こうの空は、赤黒く燃えていた。
彼女がああ言うのだ、ここが一番安全なのだろう。
理由は知らないが、彼女の断定が外れたことはない。初めて会った時もそうだった。
サイは根拠のない予測にすがり、ドームの陰に身を潜めようとする
──その刹那。
彼の全身を、真っ黒い影がぬう、と覆った。
思わず空を見上げる。
と、すぐ上空をすっぽりと、象のような巨体が視界を埋め尽くしていた。
それは――
よくサイが目にするティーダ、アフロディーテ、そしてフリーダムと同じ顔の巨神。
街を徘徊する汚れきったダガーLとは違い、全身が真っ黒に輝いている。
縁を紅に彩られた黒い翼をはばたかせ、そいつは上空から舞い降りてきた。
サイを吹飛ばしかねないほどの震動を伴い、『それ』はゆっくりと瓦礫だらけの道路へ着地する。
そして彼は見た──
黒の巨神が、直径2.5メートルほどもある鉄球を、天空に振りかざす光景を。
しかもその鉄球は、漫画で見るようなふざけたトゲもどきを何本も生やしている。
その鉄球は間違いなく――
サイ一人を、狙っていた。
あれは2年前、アークエンジェルやフリーダムを苦しめた連合のモビルスーツ・レイダー──
そう認識した瞬間、サイの身体は地面から1メートルほど浮き上がっていた。灰燼と共に。
同時に、たった今まで自分がいたはずのドームのエントランスが、粉みじんに砕けていく。
雪のように降りかかってくるガラスの粉。
「――!」
次の0.3秒で、サイは身体ごと砂だらけの地面に打ちつけられる。
そのままゴムまりのように2、3度跳ね、道路の反対側まで飛ばされて塀に背中を激突させてしまう。
血まじりの唾が、喉から飛び出した。
肺が潰れるかという衝撃で気を失いかけたサイだが、それでも砂だらけになりながら身を起こす。
歯を食いしばり、頭を振った。
──せっかく動き始めた時間、こんなところで止めてたまるか!
サイは外れた眼鏡を拾い上げ、目前に迫った黒い巨体を振り仰いだ。
街のあちこちで起こる火柱にも一寸たりともたじろぐことなく、ゆうゆうと巨神はそそりたつ。
と、スピーカから声が流れ出した。
状況に似つかわしくない、呑気な声が。
《はぁ~……
ここも暑いなぁ。大気圏突入したばっかりなのに、人使い荒いよ全く》
胸部の下に配置されているらしきコクピットブロックが、機動音と共に開いた。
まだ少年のような体格を黒いパイロットスーツに包んだその操縦者は、サイを見下ろす形でゆっくり立ち上がる。
炎の中で、再び響く声。
《……あれぇ?
意外としぶといねぇ》
サイはそのまま動けない。
それは、物理的な衝撃のせいだけではなかった。
この声──この口調──
俺は知ってる。間違いなく知ってる。
まさか……
2年前、俺たちが死なせてしまったようなあいつが──
サイの足が1、2歩、ふらふらと後退した。
嘘だ、やめてくれ。お願いだ、頼む。
まさかお前まで、俺たちを混乱させようってのか。フレイと同じように!
そんな心の叫びも知らず、レイダーはサイの方向へ一歩、踏み出した。
軋み、揺れる道路。
壊れたガラスで転びかけながらも、サイは必死でレイダーから逃げようとしてドームの陰に戻った。
鉄球をぶらぶらさせながら、レイダーはまだ彼へ接近しようとする。
開かれたコクピットでは、パイロットがメットを外しかけていた。
やめろ、お願いだ、やめろ
──サイの願いも虚しく、ゆっくりと脱がれていくメット。
《あ、そうだ。
ちょっと聞きたいんだけどさ。ミリィは元気?》
メットの下から、癖のあるちぢれた黒髪が出現する。白い肌には大量の汗が流れているようだが、その汗は決して焦りによるものではない。今しがたサウナに入ってようやくさっぱりした――という按配の、気持ち良さそうな汗だ。
サイは壁まで追いつめられる。
息は上がり、心臓が破裂寸前に波打っている。
もう間違いない。こいつは──!
コクピットの少年は、にっこり微笑んでサイを見下ろした。
スピーカを通さずとも、その肉声がはっきり聞こえる位置まで、サイと少年は近づいていた。
「お久しぶり、サイ・アーガイル。
俺だよ、トール・ケーニヒ。
2年ぶりだし、忘れちまったかなぁ? 今日はお前に、用事があってさ……」
再び振り上げられようと機動する、左腕の鉄球。
少年は笑顔を崩さず、ウィンクまでしながら明るく言った。小銭貸して、と言う時と全く同じ口調で。
「ごめんっ。
悪いけど、ちょっと死んでもらっていいか?」
~~~~~~
次回予告
明かされた真実。
慟哭と共に、動き出した時間。
その時間を止めようとする者は誰か。
無垢なる心を凌辱する者は誰か。
怒りに染まった太陽が、暴虐の大地を照らし出す。
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「血みどろの懺悔」
紅蓮の真実、見極めろ。ティーダ!