【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
ティーダのコックピット内で、ナオトは半ば無理やりにマユと操縦を交代していた。
「後ろにいて。
ベルトして、衝撃に備えて!」
「駄目だよナオト~
勝手に動かしたら、フレイに叱られる」
状況や台詞の内容とは裏腹に、マユの声はやたら呑気だ。
しかしナオトは操縦桿を握りしめ、答える。
「動かすだけなら、1回レポートでやったことあるっ!
それに」
マユは顔をぽかんとさせたまま、後部座席からナオトの様子を見守る。
そんな彼女の視線を意識しつつ、ナオトは操縦桿を力いっぱい引き寄せ、ペダルを踏んだ。
「怪我してる女の子に、モビルスーツ操縦させる男が、いるかあっ!!」
ナオトの叫びと共に、機体が一気に上体を起こす。
確認した限り、この機体のOSはナチュラル用だった。ならば、半分ナチュラルの自分でも操縦できる。
まず驚いたのは、ほぼ360度全天周が見渡せるモニターだ。ここまで広い視界が見渡せるモビルスーツは、ナオトの知る限りはまずない。
そのモニターごしに、崩れた倉庫の壁が下方に沈んでいくのが見えた。
勿論この映像はガラスごしに見えているのではなく、機体頭部他に取り付けられたカメラから送られている擬似映像であることは承知しているが──
それにしても、何という鮮明さだ。
激しい駆動音と共に、機体が徐々に起き上がっていく。マユが後ろから指示を送った。
「ちょっとの間だけど、これ飛べるよ。
一旦上に出て、お兄ちゃん呼ぼう」
「上……って、道路!?
あそこはまだジンが。それに、ブリッツって飛べないはずじゃ」
「ブリッツじゃない、ティーダ! 推力が全然違うの。
サイドのレバー引いて、両ペダル踏んで。あとはオートでやってくれるよ。
一緒に行こう、アマミキョへ!」
仕方がない。マユの指示に従うだけ従う。
とにかく彼女を安全な処へ運び、テレビ局と連絡をつける。それが、今のナオトの最優先事項だった。
しかし何故、こんな娘が操縦方法を知っているんだ?
そもそも、こんな娘がどうしてモビルスーツに乗っている?
14歳でレポーターの自分も、相当無茶な仕事をしていると自覚したこともある。しかし、このマユという娘はそれを遥かに超えている。
自分より明らかに年下で、明らかにこのモビルスーツに慣れた様子で、しかもナチュラル用のOSを起動させていたということは、恐らくナチュラルなのだろうが。
バーニアの噴射。
ほぼ同時にティーダは一息に崩れた天井を突き抜け、壊れかけの道路へと飛び出した。まだ炎と黒煙の渦巻く街へ。
ナオトの全身には勿論、凄まじき重力がかかる。
一瞬肩が砕け、頭の前半分が吹っ飛ばされたかと思ったが、ナオトはすぐに後ろのマユを振り返った。
彼女は実に涼しい顔で笑いながら衝撃を克服していたが、肩からの出血がひどくなったのが傍目にも明らかだった
――それでも、マユは冷静なものだ。
「その調子ぃ~少しずつペダルから足離して!
左レバーを中に入れて姿勢制御!
モニター左下に、対地運動をオートで調整するシステムがあるからそこ押しといて!
速度、機体傾斜、高度、方位、バランス、予測曲線全てオッケー! 空中のゼロ速度から落下に入るよ」
モーター音とノズルの噴射音が響きわたる。比較的脆くなさそうな道路を選び着地──
またしても、下からの衝撃がナオトの身体を襲う。
「マユ、衝撃が!」「アブソーバー最大! 大丈夫っ」
PHASE-02 轟く声と走る紅
目の前では、さきほどナオトたちごとティーダを撃とうとしたジンが、もう一機のモビルスーツの攻撃を受け倒れていた。
ジンの倒れている場所は確か、さっきまで喫茶店とコンビニと印刷会社と写真屋が並んでいたところだ――
にもかかわらず相手のモビルスーツは、起きようとするジンに攻撃を加える。
「お兄ちゃんだ!」
マユが眼を輝かせた。
そのモビルスーツは、ティーダと同じく人の顔を持つ、全身エメラルド色の機体だった。
ナオトは急いで脳内のデータベースを探る――
型式番号GAT-X133、ソードカラミティ。あれは元々、連合の砲撃戦特化タイプではなかったか?
しかし今ナオトの目の前にいる機体は近接戦闘用の装備のようで、現にジンを攻撃したものはパンツァーアイゼン──両腕に装着された有線ロケットアンカーで、先端のクローが開いて相手を攻撃するタイプだ。しかも今、その右腕のクローはジンを捕捉し、動きを奪っている。
ナオトが疑問を持つ暇もないまま、ソードカラミティから通信が入った。
《マユ、無事か!》
その間にもジンはソードカラミティを押し返そうとして、76mm重突撃銃を向ける。
ソードカラミティは素早く右脚部から短刀──ナオトにはそう見えた──アーマーシュナイダーを抜き放ち、そのままジンのコックピット部分を貫こうとする。
おかげでジンの銃口は空しく宙を撃った。しかしジンもさるもの、左手の重斬刀をソードカラミティの右肩に叩きつける。
が、ソードカラミティに物理攻撃は通用しなかった。TP(トランスフェイズ)装甲が、重斬刀の衝撃から機体を完全にカバーする。
「無事じゃありません!」
ソードカラミティからの通信に答えようとしたマユをさえぎり、ナオトが答えた。
《……誰だ、貴様っ!?》
突然割り込んできた見知らぬ子供の通信に、ソードカラミティのパイロットは驚愕を隠せない。
しかし彼は怯まず、左腕の未使用のパンツァーアイゼンを相手胸部に殆ど接触させるように突きつけ、ためらうことなく発射する。
ジンのコックピットが、一撃で簡単に破壊された。
──ナオトの目の前で、またも命が消し飛んだ。
今のパイロットだけじゃない、あの機体の下でいったいどれだけの人が命を落としたか
──生活が、どれだけ壊されたか。
その現実を認識しすぎないように努め、彼は必死で吼える。
「マユ……さんは、腕を怪我してます。警告が届いたから、貴方は来てくれたんでしょ!
僕はオーブSUNテレビ局のナオト・シラ……」
その瞬間、モニターから警告音が響いた。
ハロがぴょこんと飛び跳ね、マユが叫ぶ。
「右! レバー前に!」
間に合わなかった。右後方からのもう一機のジンの砲撃をティーダはまともに受け、コックピットが激しく揺さぶられる。
《チッ……
あの、クズレポーターかよ》
ジンの攻撃に気づいたソードカラミティが機体を素早く起こした。
舌打ちとともに、怒りのこもった呟きがはっきりと通信される。
使用済みだった両腕のパンツァーアイゼンが、空を切り裂く金属音をたててソードカラミティの腕に戻っていく。
――聞かなかったことにして、ナオトは訴えた。
「彼女をすぐにアマミキョへ連れていきます。
緊急に治療が必要なんです」
途端、モニターに相手の画像が入ってきた。
ボサボサの髪を無造作に後ろで止め、ロングコートのまま機体に乗り込んでいる、見るからに不機嫌極まりない男。
だが、怒ってさえいなければ相当モテる兄さんなのだろう。ナオトは思った。
《マユ、怪我を見せろ!
出血は。骨は折っていないか!? まさか頭じゃないだろうなっ》
それにしても……この必死の形相、心配のしようはどうだろう。
兄か何だか知らないが、どんな事情があって幼い妹をモビルスーツに乗せているのだ。
それにも構わず、マユは朗らかだ。
「カイキ兄ちゃん、私大丈夫! いけるよ」
前方に身を乗り出し、通信に答えるマユ。
だが、モニターごしに彼女の怪我を見た相手は、その瞬間明らかに狼狽していた。
《……畜生。
話は後だ! すぐ連れてけ、ガキが》
確かにガキかも知れないが、随分と失礼な言い方をする人もいたもんだ。
ナオトは思わず口答えしそうになったが、状況と相手の気迫がそれを許さなかった。
その間にもソードカラミティは、ティーダに組みついてきたもう一体のジンにアーマーシュナイダーで応戦する。
ジンの注意が、ソードカラミティに向く。
「スキありっ!
右レバー引いて、機体の間から逃げられる!
地面見えたら両ペダル踏んで、低空でジャンプできるから」
ナオトはマユに言われるままに、機体を動かす。
力いっぱいペダルを踏む。バーニア噴射と同時に、ナオトとマユの身体にまたも気絶寸前の重圧がかかった。
これ以上、マユに負担をかけるわけにはいかない──
眼球全てが後頭部にめり込んでいく感覚を覚えながら、ナオトは思った。
それでも、とにかくティーダの機体はジンから逃れ、マユの言うとおりに低空ジャンプしていた。
「お願いします、あんまりウーチバラを荒らさないで下さいね!」
黒煙の中を流れていくソードカラミティを確認しながら、ナオトは叫んでいた。
そのまま100mほど飛んだところの草地に向けて、着地の体勢へ。
「もっと、安全に着地する方法ないの?!」
「大丈夫、こっちの補助操作で何とかなってるから。
今ショックアブソーバー最大だよ、なんで?」
「家を踏みたくない、人を踏みたくない!
それに、君の怪我が心配だ!」
地面から衝撃が来る。マユの言葉を信じてナオトは耐える。
汗とよだれが、握りしめたレバーの上に落ちた。
心臓が破れそうだ。ポケットの中の指の存在をナオトは想う。
──僕、何でこんなことになってるんだ。
フーアさん。アイムさん。
その時、右モニターのあたりから警告音が響いた。ほぼ同時にマユが叫ぶ。
「まずいよナオト、黒ジンだぁ!」
叫んだとはいえ、あくまでその声色は呑気で脳天気だ。それ故ナオトも、一気に迫ってきた危機にすぐに対応することが出来なかった。
今は誰もいないであろうオフィスビルの陰から、ジンタイプではあるが明らかにノーマルではない機体が姿を現す──
黒を基調にしたカラーリング。肩部と胸部の紫が恐怖を引き立てる。
その上、トサカと──巨大な翼。
機体の黒と対照的な、あの白さは何だろう。葬式用の機体か?
ナオトが機体をそちらに向けて体勢を整える前に、MMI-M636Kビームカービンの銃口がティーダを捕捉した。
「トリケロス使って!」
「何それ」
「説明はアト! 右レバーそのまま上に入れてっ!」
もう言われるままにやるしかない、細かいことは後部座席でやっているのだろう。ナオトは信じるしかなかった。
ティーダの右腕が動き、装備されていた攻盾システム「トリケロス」が火線からティーダを守った。
それは、ティーダの身長の半分以上ある巨大なシールド。
「ティーダはTP装甲だけど、ビームで来られるとヘタしたら一発だからね~
これがあれば大丈夫だよ! 攻撃も出来るし」
「攻撃はしたくない!」
そう口論している間に黒のジンはビルの裏側で動き、別の隙間に移動してさらにティーダを狙う。
「右斜め前、来る!」
銃口が光る。ナオトの息が止まるほどの衝撃が機体を襲う――
トリケロスとやらで防御はしているはずなのに。