【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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※今回、未成年者へのリンチ描写があります。苦手なかたはご注意ください。
(該当部分の描写はpixiv版から大分削っています)




part5 切り刻まれる魂

 

 

 光を発する白い巨神──ティーダは、炎と黒煙を噴き上げる街の上空を、吊り上げられるように浮かんでいた。

 誰を攻撃するわけでもなく、ただひたすらにティーダはカメラアイをせわしく明滅させている。何かを捜し求める人間のように。

 

 ティーダに気づいた地上からは、オンボロダガーLからの砲撃が何発かあった。

 しかし最小限の電力によるトランスフェイズ機能で輝き続けるティーダの前では、何の意味もない。

 不可解なまでに精密に動き続けるスラスターは、その機体を地上20数メートルの重力に勝利しうる程度に浮かび上がらせ、決して速度を上げたりもせず、無駄な動きを一切しなかった。

 

 ――それはまるで、地獄の釜の底に降り立った、白き救世主。

 実際、ティーダの光に導かれるように、逃げのびた人々が続々と集まりつつあった。

 

「お母さん、あれ何?」

「神さま、って言うのかねぇ……アレが」

「それとも、天使かな?」

 

 そして勝てないと見るや、ダガーLの軍団は素早くティーダの前から逃走していく。

 破壊出来ないものに、彼らは興味がなかった。

 アストレイの一団を率いて行動していたシュリ隊隊長トニーは、しばし部下たちと共に唖然としながら、この光景を見上げていた──

 が、すぐに自分の使命を思い出し、これを好機とばかりに素早く動く。

 

「今だ、何をぼうっとしているアストレイ隊! 

 動ける者は全員、避難民をアマミキョへ誘導するんだ! 

 ティーダの後を追えば、避難民がついてくるっ!!」

 

 

 

 

 

 

「何だ、ありゃあ……?」

 

 12機目のダガーLを爆散させたところで、カイキ・マナベはようやく上空のティーダに気づいた。

 得体の知れない気持ち悪い感覚に襲われた上、マユが一向に見つからない苛立ちも手伝い。

 逃げる人々を無視するかの如く暴れていた、カイキのソードカラミティ。

 今の彼の戦い方は、助ける為というよりもむしろ、破壊する為といった方が正しかった。街を徘徊する汚れたダガーLたちと同じに──

 何しろ怒りに任せて対艦刀まで持ち出し、ビルごとモビルスーツ3機を一気に薙ぎ払ったほどである。

 

 彼が空からの白い光に気づいたのは、そんな苛立ちが最高潮に達していた時だった。

 アーマーシュナイダーを二刀流で振るい続けていた機体は、瞬時に静止してしまう。

 そのコクピットで、カイキは息を飲んで上空を凝視していた。

 

「マユ?! 

 マユなのか、乗ってるなら返事しろ!!」

 

 当然そうだろうと思ったカイキだが、応答はない。

 

「まさか……

 無人、だと?」

 

 こんな一大事が、何故俺に知らされなかった──

 カイキは思わずコンソールパネルを睨んだが、通信は既に全て切られていた。それもそのはず、戦闘中に彼自身が切断していたのだ。あまりに鬱陶しいという理由で。

 マユの感覚がそこにないと言ったら嘘になる。確かに、マユをティーダの中に感じる。

 マユの心は確かに、あの白い巨体の中にある。だが、肉体は別の場所だ──

 

「マユ! 答えろ、俺だ! 

 今、どこにいる!?」

 

 その刹那──

 カイキは闇の中で、自分を振り向く少女を見た。

 濃い栗色の柔らかな髪に、大きな瞳。胸元の紅いリボンが揺れている。

 いつもと変わらないマユの姿。

 だがそこに、いつもの笑顔はない。

 ただこちらを見据えるものは、どこか淋しげな冷たい瞳。

 

「マユ! 

 こっちへ来い、何をやってるんだっ」

 

 ──嫌。

 

 カイキは一瞬、自分の目と耳を疑った。

 それは、実際には聞こえていないはずの声。だが、耳を塞いでも聞こえる声。

 絶対に、マユが俺に言うはずのない言葉。拒絶の言葉。

 

 ──嫌だよ。

 私は、ナオトのところに行く。

 

「どうして……」

 

 あまりのことに、操縦さえも一瞬忘れてしまうカイキ。

 燃えさかるダガーLの群れの中、棒立ちになるカラミティ。

 

 ──ナオトは私を見てくれる。ナオトは私を求めてる。

 だけど、お兄ちゃんは違う。

 私を見ているふりをして、()()()()を見ている。

 私を守っているふりをして、私の向こうの誰かを守っている。

 

「待てよ、マユ!」

 

 マユが自分から逃げていく。俺の、一番大切なものが逃げていく。

 その恐怖に、カイキは思わずコクピットの中で、両の手を伸ばしていた。

 

 ──私は、ナオトを助けに行く。お兄ちゃんのところには戻らない。

 ──だからお兄ちゃんも、本当に大事な人のところへ、行こうよ。

 

 その言葉を残して――

 マユは、カイキの目の前から消え失せた。

 それきり、彼がどれほど呼びかけても、マユの声が戻ることはなかった。

 激しく燃えあがる街の残骸。

 炎で燻るカラミティの中で、カイキはひたすら呻くしかない。

 

「違う……分かれよ、分かってくれよ、マユ。

 俺は、()()()()()大事なんだ。

 大事になっちまった!」

 

 炎を飛び越えて、またしてもストライクダガーの軍団が押し寄せてくる。

 完全に冷静さを失ったカイキは両肩部の長距離ビーム砲・シュラークを機動させ、言葉にならない絶叫を上げつつ、正面の敵に斉射した。

 ソードカラミティから生まれた巨大な光条はストライクダガーたちを押し潰し、飲み込んでいく──

 全ての現実を、否定するかのように。

 

 

 

 

 

 

「遮断された……?」

 

 サイが幻視していた少年が、背中を向けたまま不意にその姿を消した。

 明らかに意図的に、サイを拒絶して。

 

 ──僕は、貴方とは違いますよ。

 戦わない貴方とは、違うんだ。

 

「どうあっても、俺は嫌だってのかよ……ナオト」

 

 サイとフレイの周囲では、炎に追われ瓦礫から這い出てきた人々や子どもたちが逃げ惑う。

 サイの腕の中で、血を流したまま――

 フレイを名乗る少女は、痛いほどに彼の二の腕を掴んだ。

 

「彼らを……住民を、助ける。

 お前は大至急、ナオト・シライシの救出を要請しろ」

 

 そのままフレイは、瓦礫の上で自ら立ち上がろうとする──

 あまりの行動に、サイは思わず彼女を力いっぱい抱きとめざるを得なかった。

 

「気絶寸前の癖に、何言ってるんだ! アマミキョに任せろって」

「この地の民に、責任がある……私には!」

 

 止めるサイを振り切り、彼女はなおも脚を踏ん張り、少し高めに積もった瓦礫の山を登ろうとする。

 包帯の間から血が噴出し、ぼろぼろになったワンピースの残骸を濡らした。

 

「やめろってば! 

 何する気だよ、その身体で!」

 

 慌てて身体を支えたサイを無視して、フレイは声を張り上げた。

 

「皆の者、静まれ! 

 冷静に、L27地下通路からアマミキョへ避難しろっ!!」

 

 突然現れた血みどろの少女の行動に、人々は目を剥いたが――

 フレイの凛とした声は何故か、そんな彼らを納得させるだけの力があった。

 

「通路は右手の菓子屋のすぐ隣だ、急げ! 

 地下ならまだ安全だ、ただし決して無茶はするな! 

 危険だと思ったらしばらくとどまれ、必ずアマミキョが助ける!!」

 

 この非常事態にはどうも似つかわしくない、可憐なワンピース。

 日常の象徴たるそれが血に染まり、旗のように熱風で煽られる──

 そんな光景が、状況の異常性を余計に際立たせている。

 しかし人々は何故かこの光景により逆に冷静さを取り戻し、彼女の言葉に素直に従いつつあった。

 何故なのかは、サイには皆目分からなかったが──

 

 そんな彼女を、無理矢理にでもサイは支えた。後ろから抱きしめるように。

 二人は熱せられた瓦礫の真上で、揉み合うような体勢になってしまう。

 

「無茶ばかりしてるのは……

 君だって同じだろ!」

 

 その瞬間、サイは感じた──

 この少女の皮膚と肉と血を通じた、彼女の魂とも言うべき感覚を。

「フレイ」の体温の奥底に、鼓動する脈の向こうに、流れる血の匂いの中に

 ──彼女の心を。

 

 

 

 

 

 

 がんじがらめに縛られ、空中に吊り下げられた少年の身体。

 ぼろぼろに引き裂かれ、泥まみれにされた着衣以外に、その身を守るものは何もない。

 

 

 ──助けて、誰か……

 

 

 助けなど、どこからも来ない。

 微かな悲鳴を嗤い続け、一方的に少年を殴り、打ち、切り裂いていく男たち。、

 ひどい苦痛による、発狂寸前の絶叫。

 いつしか少年の右目から、もう絶対に人前で出すまいと思っていたものが、溢れ出す。

 血と一緒にその頬を流れるもの──それは、涙。

 

 ──助けて、フーアさん……アイムさん! 

 

 羞恥と痛みと恐怖でひくつく肋骨を、今度は幼児の腕ほどもある木の枝で殴りつけられた。

 絶叫と砲弾の音をバックに起こる、男たちのせせら嗤い。

 

 ──助けて、メルー……

 

 またしても、頭から浴びせられる水。

 

 ──助けて。

 真田さん、風間さん。

 

 

 急所を巧妙に外されていることに、ナオトは気づいていた。

 相手の攻撃は、本来の用をなさぬほどに錆び付いた刃やざらついた枝を、ひたすら叩きつけるだけ。皮膚だけを掠め取るような打撃が殆どで、中には血を流さず着衣だけを引きちぎるような攻撃すらあった。

 殺気も怒りも、相手からは感じられない。ただ、なぶりものにして弄ぼうという邪悪な欲求があるだけだ。

 それでも、絶えることのない刃は――

 少年の意地と力と命を、確実に削いでいく。

 

 

 ──助けて、ネネさん。

 

 

 この時にはもう、全身を走り続ける激痛で、ナオトの気力は完全に奪われてしまっていた。

 レポーターとしての技術も、作り笑顔も、ティーダの操縦技術も、少年らしい正義感も。

 持ち前の大声すら――

 荒ぶる暴力の前では、何の意味も持たなかった。

 自由になろうと手首をじたばたさせても、二の腕にまで絡みついたゴム製の紐は、暴れれば暴れるほど手首に食い込んでいく。

 

 

 ──僕は、無力だ……何も出来ない。

 

 

 血を噴き出しながら、ナオトはぼんやり自覚しはじめる。今更のように。

 吊り下げられた右腕に、叩きつけられる枝。

 次々に身体を触ってくる浅黒い指。破れた服の下へ、容赦なく入り込む手。

 

 

 ──助けてよ、アークエンジェル! 

 アスハ代表っ……

 僕にはこんなに、力がない。キラさん……

 お願いだ。お願いだよ、助けてよ! 

 撃墜されたなんて、そんなの嘘だって、僕には分かってるんだ。

 キラさん……! 

 

 

 意識が朦朧としかけると、すぐ上から、ぬめりのある汚水が降ってきた。

 流れる冷たい泥と暖かな血が、ナオトの身体の上でコントラストを描く。

 なされるがままの自分を自覚しながら、思い出すものは。

 

 

 ──あの時のサイさんと同じだ。僕は……

 

 

 雨の中、血と泥にまみれて腕を割られ、のたうち回っていたサイの姿。

 マユが血祭りだと喜ぶ中、仲間たちの暴虐に晒されていたサイ──

 ナオトは今でも鮮烈に思い出せた。

 

「畜生」

 

 それでもナオトは、歯を食いしばる。

 

 

 違う、僕はあんなに無力じゃない。無力になってたまるか。

 僕は、サイさんじゃないんだ。これでも、半分コーディネイターなんだ。

 こいつらとは違うんだ。

 それに僕は、父さんに言われたじゃないか。世界を変える力を持つ子供だって……

 

 

 そんな意思さえ削り取るかのように。

 今度は左肩の付け根あたりを、刃先で縦に真っ直ぐ裂かれた。

 ちぎられる皮膚。

 

 

「あああぁあああああああああああああああああがああああ」

 

 

 ──負けない。僕は負けない。

 ティーダの中で、こんな痛みは何度もあったじゃないか。

 僕は、負けない……

 

 

 宙吊りにされたまま、身体をくるりと逆向きに回転させられる。

 暴徒どもに剥き出しにされる背中。

 思い切り刃で殴られる背筋。

 

「が……ああぁっ!?」

 

 斬られたようには感じなかったが、背中から脚へ、生暖かいものが腰を通過し流れていくのが分かる。

 一瞬遅れで来る激痛。吊られているおかげで、余計に傷口が広がった。

 もはや、悲鳴はまともな言葉をなさない。

 

「――――!! 

 …………ぐ……――あ、あぁ!!」

 

 あまりの激痛で、ナオトは一番大切なものが消えたことにも気づけなかった。

 胸元にあったお守りはとうに紐が切断され、河原に転がっていた。

 

 

 

 

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