【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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※直接ではありませんが、未成年への性的暴行を匂わせる描写があります。
苦手なかたはご注意ください。



part2 祭りの後、嵐の前

 

 

 祭りの日の惨劇に隠れていたが――

 アマミキョ内では同時に、もう一つの事件が発生していた。

 

 サイもナオトもいなくなった暗い部屋で、カズイはじっとベッドに座り込んでいた。

 数日前に作り上げ、丁寧にラッピングしたクッキーを目の前にして。

 

 カズイはなるべく一緒に作業している者たち全員にクッキーを配れるよう、自分のポイントを削りに削りながら材料を用意した。

 自由時間を割き、深夜の調理室で頑張った──たった独りで。

 全ては、アムル・ホウナに想いを伝える為。

 他のメンバーの分も用意したのは、アムルのみに渡すことで人間関係に角が立つことを恐れたからだ。

 ただアムルの分だけには、彼女に似合いそうなエメラルド色のリボンをかけ。

 何回も推敲を繰り返した、手書きの短いメッセージを添えた──

 

 そして祭りの日、あの暴動が起こる直前。

 遂にカズイは、アムルにクッキーを手渡しすることに成功したのである。

 出来るだけさりげなく。出来るだけ、彼女に重いと思われないように。

 

 

 ──俺、ちょっとだけ、本気ですから。

 ちょっとだけ、祭りの話、信じてますから。

 

 

 

 どうしても直接「好きです」とは言えず、酷く回りくどい言い回しになってしまったが。

 それでも彼女は、優しく笑ってた。

 少し驚いていたようだけど、少なくとも嫌がってはいなかったはずだ。

 だから――!! 

 

 

 なのに今カズイの目の前にあるものは、泥にまみれ、明らかに踏み砕かれた贈り物の残骸。

 泥に染まってはいたが、かかっているリボンは確かに、エメラルド色──

 間違いなく、アムルへ渡したものだ。

 

 カズイが書庫で作業をしていたら、何故かその前のダストシュートに放り込まれていたのだ。

 破り捨てられたメッセージカードと一緒に。

 

 アムル自身がこれをやったなどという考えを、カズイは必死で拒絶していた。

 

 そんなはずない、だって彼女は優しい人だ。

 いつも一緒にいて、優しく俺を教えてくれたじゃないか。

 きっと、誰かのイタズラだ。アムルさんが、誰かに取り上げられて……

 ──でも、だったら何故、プレゼントがこんな状態で俺の目の前にある? まるで、俺に見せつけるように? 

 

 アムルさんじゃないとしたら、誰がこれをやった? フレイか? 

 何を考えているか分からぬ彼女なら、やりかねない所業だ。最も考えうる選択肢ではある。

 オサキ、ヒスイ、スズミ、ハマー、隊長……

 次々と仲間の顔を思い浮かべては、可能性を吟味する。そして……

 

「サイ? 

 サイなのか?」

 

 まさかと思いながらも、カズイの頭は疑念でぐるぐる回り続ける。

 サイは俺がアムルさんの方を見るたび、何故かいつも浮かない顔をしていた気がする。

 彼女は危険だとか何とか、意味の分からないことを言っていたし。

 本当は、自分がアムルさんを手に入れたいから? 

 

 ──いや、馬鹿な。

 サイはずっとフレイを追っかけていた、祭りの日だって。

 それにサイは、ナオトが大怪我したあの日以来、作業時以外はずっとナオトにつきっきりだ。

 フレイも一緒に。

 

「……いつからあいつら、より戻したんだよ」

 

 カズイの中で、どす黒い感情がとぐろを巻いていく。

 

 そうだ──サイには責任がある。この船を背負わなきゃいけないんだ。

 俺なんかと違って。

 だから、俺を作業に集中させる為に、俺にアムルさんを諦めさせようとしてこんなことを? 自分は、フレイと一緒にいる癖に? 

 

 そのままカズイは枕に顔を埋める──

 そんな考えに至ってしまった、自分の汚さに絶望して。

 

「何、馬鹿なこと考えてんだ……俺」

 

 

 

 

 

 

 翌々日の深夜も、作業の指示をひと通り終えたサイは、集中治療室の前にいた。

 ガラスの向こうでスズミ女医と看護師たちがせわしなく動き回り、ナオトの点滴やチューブを付け替えている。

 サイはパイプ椅子に座り込んだまま、じっと見ていることしか出来ない

 ──そんな時。

 

「何してんだ。

 もう峠は越えたんだろう」

 

 頬にふと当てられる、ソーダ水の瓶。

 思わぬ冷たい感触に反射的に顔を上げると、仏頂面の広瀬少尉が突っ立っていた。

 

「もう3日だ。ナオト・シライシも何とか回復しそうだな……

 現状、君に出来ることなど何もない。君がやるべきことは他にあるはずだ」

「そうみたいですね。

 でも、俺は出来るだけここにいます。ナオトが目覚めるまで……

 俺の責任ですから。全治2ヶ月なんてことになったのは」

 

 広瀬はやれやれ、と言いたげに壁に凭れる。

 

「まぁいいさ。ただ、どうも引っかかることがある。

 単刀直入に聞く。今回の件――

 ナオト・シライシは何故、襲われたと思う?」

 

 不意の質問に、サイは目を瞬かせた。

 広瀬の意図は掴みかねたものの、自分の考えを正直にそのまま話す。

 

「ハーフコーディネイターとして、目をつけられたから……だと、俺は思ってます。

 ただでさえナオトは、世間に顔が知れている。それなのに、何があるか分からない混乱の中で、たった一人でほっつき歩いていたんだ」

「一般的見解だな」

 

 ポケットに手を突っ込んだまま、サイから視線を外す広瀬。

 

「後から調べて分かったが……

 あの河原に、パレード用の電飾装置があったのを覚えてるか」

 

 そうだ──ナオトと暴徒たちが倒れていた場所から少し離れた草むらに、異様にきらびやかに輝き続ける巨大魚の電飾があった。

 広瀬は抑揚なく続ける。

 

「あの装置だが、一部のケーブルが断線していた。

 火災や着弾などではありえない、きれいな切り方だったよ。

 ご丁寧に、パレードスタッフの死体つきだった」

「……何が言いたいんですか」

「恐らく奴らは、ナオト・シライシをあの後も徹底的に痛めつけるつもりだったろう。

 そしてあの電飾の形状は、ある種の暴行にはうってつけの台座にもなる。

 あの魚に磔にして微弱電流を流し、いわゆる、その……」

 

 さすがに言いづらそうに言葉を濁しつつも、それでも彼の口調はあくまで冷静だった。

 

「夜のパレードでもやるつもりだったんだろうな。

 実際、衣服と口腔内を調べたら、複数人の精液の付着が確認さ……」

 

 広瀬はそこで一旦言葉を切った。サイが怒りのあまり立ち上がっていたから──

 あまりの勢いで倒れるパイプ椅子。

 ギリギリと奥歯を噛みしめる。吐き気と共に、猛然と湧きあがってくる激昂。

 何かを言葉にした瞬間、暴れて相手を殴ってしまいかねない。

 

「落ち着けよ。俺が言いたいのはそこじゃない」

 

 憤りを何とか抑えているサイの前で、広瀬は淡々と語り続ける。

 

「問題は、何故そこまで周到に、ナオト・シライシを傷つける必要があったか? だ」

 

 あくまで落ち着きはらった広瀬の態度に、サイは何とか自分をもう一度椅子に座らせることに成功した。

 さりげなく手渡されたソーダを一口飲み、胃からせりあがってきたものを無理矢理押し戻す。

 

「ハーフへの、またはオーブへの怒り……

 それに加え、祭りとテロが同時に来たことで興奮状態になった群衆が暴徒化したのではないでしょうか」

「ありえないとまでは言わんが、考えにくい。

 怒りとその場の興奮のみで襲いかかったのなら、とうにあの坊やは墓の中だ。

 ……いや、だからさ。怒るなよ」

 

 目を剥いたサイを、軽く宥める広瀬。

 ソーダをもう一口飲みながら、サイは何とか一息つく。

 再び広瀬は話し始めた──

 

「あの切り傷を見ただろう。

 酷い痛みを負わせてはいるが、いずれも急所は外れている。

 そして、準備されていた電飾……」

 

 ここまで言われれば誰でも分かる──

 恐ろしい予感が、サイの脳裏をよぎった。

 

「ナオトへの襲撃は、あらかじめ計画されていたと? 

 まさか……SEEDが?」

 

 思わず声に出た呟きを、聞き逃す広瀬ではない。

 

「SEED? 

 ナオト・シライシが工場でレポートしたって噂のアレか」

 

 サイは口を噤む。連合軍である広瀬に迂闊に言えることではない。

 広瀬はそんなサイの肩をつかみ、いきなり壁に押しつけた。

 

「俺が調べた時には、レポートはアマクサ組に削除された後だった。

 SEEDとは、一体──」

 

 広瀬は薄い眼鏡のレンズの下から、冷酷な眼光を覗かせる──

 しかし、それも一瞬のことだった。

 

「フン……まぁいいさ。

 一時は、貴様とカズイ・バスカークを脅してでも真相を掴むってのも考えたんだが。

 今は、そのツラと沈黙だけで十分だな」

 

 意外にもそのまま広瀬は溜息をつきつつ、サイから手を離した。

 

「脅しは性に合わない。何か話したくなったら、言ってくれ」

「俺は、何も知りません。

 本当に何も知らないんです」

 

 知っているのは単語だけだ。そう言おうかどうかサイが逡巡した──その時。

 

 

「ナオト! 

 ナオトなのねっ?」

 

 

 廊下に響いた若い女性の叫び声に、二人は反射的に振り向いた。

 そこに現れたのは、一人の美しい金髪の女性。泣きそうになりながら、集中治療室前に立ち尽くしている。

 たった今、走ってここまで辿りついたらしい。両耳の横からくるくると巻かれた豊かな髪はやや乱れ、小洒落た喫茶店のメイド服にも似た服の襟元からは、大きな胸がのぞいている。

 15歳くらいの少女かと思うほど愛らしいその女性は、集中治療室のガラスにぺたりと張りつき、涙を浮かべていた。

 

「ナオト……ナオト! 

 良かった、無事で……本当に、本当に、強くなってくれた!」

 

 その女性の声が届いたのか。

 ガラスの向こう側の少年がゆっくりと薄目を開き、その唇が微かに動いた。

 微笑みの形になった唇は、呼吸器の中で確かにこう動いた──「かあさん」と。

 

 

 

 

 

 

「マスミ・シライシ。

 インドから来た、ティーダの研究員だってさー」

 

 オサキはそうするのが当然とでも言いたげに、堂々とアマミキョ・ブリッジの副長席にふんぞり返っていた。

 ヒスイはそんな彼女の態度を、諦めに近い表情で眺めている。

 

「凄く若々しい人みたいですね。

 いいなぁ……やっぱりコーディネイト技術なのかなぁ」

「若々しいなんてもんじゃねぇ、14か15ぐらいのロリにしか見えねぇってよ。

 子持ちバツイチの癖になー」

「隊長がマミさんマミさんって、うるさくて。男の人ってどうして、胸のある人がいいんでしょう?」

「胸もそうだけどよ、あーんなブリブリのロリ顔に騙される男も男だぜ。

 勝手に渾名なんかつけやがって、マミじゃなくてマスミだっつーの」

 

 今ブリッジにいるのはその二人と、カズイとアムルの4名。

 騒乱後の片付けもどうにか落ち着き、ナオトも回復を始め、ようやくメンバーにも余裕が出てきた──

 

 はずなのだが、何故かアムルとカズイの間は空気が凍りついている。

 カズイはちらちらとアムルの方を見てはため息をつき、アムルはそんなカズイを一顧だにしない。

 彼女は殆どカズイに声をかけようとせず、業務が終わればブリッジの空気を嫌うようにその場を去っていく。

 そんな毎日があの日以来、ずっと続いていた。

 

 要するにカズイは誰が見てもこっぴどく振られたわけなのだが、彼自身は未だ事実を認識していなかった。事実を拒絶していた。

 

「アムルさん……あの、アムルさん、聞こえてます? 

 すみません、カタパルトから……通信が」

 

 カズイのおずおずとした声がアムルにかかると、彼女は返事もせずに黙ってカタパルトに繋いで通信を開始した。「了解」の一言すら、カズイには返さない。

 それを、後方から見ていたヒスイがそっと呟いた。

 

「問題……ですよね。いくら何でも」

「業務上でも声かけないって、ありえねぇだろ。フレイに報告するか?」

「とはいえ、最近フレイさんも丸くなっちゃいましたし……

 もうすぐ、いなくなっちゃうし」

「サイはナオトにつきっきり。隊長は走り回るばっかで頼りねぇし」

 

 オサキはふと天井を見上げて、ため息をつく。

 

「これから……

 どうなっちまうんだろ。この船」

 

 

 

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