【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 近づく別れ

 

 

 あの祭りの日から、10日が経過した。

 ナオトはようやく集中治療室から、通常の病室に移された。だがまだ喉の炎症が酷く、うまく喋ることが出来ない。

 それでもナオトは、サイと言葉を交わした。今までになく落ち着いて。

 サイがフレイのことを全て話した時、少年は本当におかしげに笑った。

 怒るでも悲しむでもなく、くすくすと。

 喉を傷めていなければ、爆笑していたかも知れない。

 

「だから、僕が言ったじゃないですか。あのフレイさんは偽者なんだって」

「そうだな……

 考えてみれば、当たり前の話だ」

 

 包帯の巻かれたナオトの額のあたりを撫でてやりながら、サイも笑う。

 

「死人がそう簡単に、現世に舞い戻っていいはずがないんだ。

 だけど、俺はずっとフレイの生存を望んでた。だから、当然のことにも気づけなかった」

「でも」

 

 ナオトは軽く咳き込みながらも、尋ねる。

 

「どうするんですか? 

 今のフレイ・アルスターを」

 

 サイは一瞬言葉に詰まったが、すぐに答えた。「どうしようもないよ。

 もうすぐアマクサ組は離れる。お前もティーダやアマミキョから離れられる。

 みんな、出発前の状態に戻るだけだ」

「じゃあ、サイさんはここに残るんですか? 

 フレイさんと離れて」

 

 サイは頷きながら、少しずれた毛布をナオトにかけ直してやった。

 

「ああ、俺は残るさ。お前はお母さんと一緒に行けばいい。

 ティーダの件で色々調べられることはあるかも知れないが、多分戦わされることはないよ。

 多分マユも一緒だろう──

 良かったな」

 

 ティーダから離されると聞いても、ナオトは以前のような異常な反応を示さなかった。

 母親を取り戻したことで父親から受けた傷が和らぎ、ティーダに乗り続ける理由も薄れたのだろうか──

 

 ただナオトは、何か言いたげに毛布を口元まで引っ張りあげる。

 

「母さんが来てくれたのは、嬉しいんです。とっても」

「色々聞いたよ。想像以上だった」

 

 サイはマスミから聞いた、ナオトの生い立ちの話を思い出す。

 決して幸福ではなかった、その生まれを。

 

 

 オーブにおいて、コーディネイター同士で結婚したシライシ夫婦の間には、ずっと子供が出来なかった。

 マスミ・シライシは子供が欲しいあまり、ナチュラルの男性と関わりを持った──

 その結果、家庭は崩壊。

 ナオトに愛情を持てなかった父親は激しい虐待の末、ナオトとマスミを追い出した。

 一方でナオトの実の父親はといえば、息子の存在を認識していたかどうかすら分からぬまま、大戦中に亡くなったという。

 そしてマスミは傷心のあまりナオトの育児を放棄し、親戚に彼を預けたまま研究に没頭し、そのまま子供の前から姿を消した。

 それから数年──

 ヤハラの工場での父親の所業を耳にしたマスミは、いてもたってもいられずナオトを迎えに来たのだという。

 

 

 そんな話をマスミは涙まじりで直接、サイに語ったのである。

 彼女の涙に嘘偽りはない──少なくともサイは、そう感じた。

 

 あの父親に任せるよりは、遥かに安全だろう。

 たとえ一度は育児を放棄したとはいえ、それでも息子の危機に母親として戻ってきたのだから。

 勿論、このまま俺たちの元で戦い続けるよりも――

 

「あのお母さんなら、大丈夫だ」

「でも、サイさんは?」ナオトはかすれた声でなおも反論する。

 

「サイさんは、オーブに帰らないんですか? ここにいたら危険ですよ」

「危険だから、俺たちがいるんだろ」

「分かってます……だけど、ティーダもアマクサ組もいなくなるんですよ。

 チュウザンだって、もっと状況が酷くなって」

 

 そこまでナオトが話した時、サイの後ろから野太い声がかかった。

 

「あんまり俺らをバカにすんな、ガキんちょ」

 

 ポケットに手を突っ込んだまま、ずかずかと病室に入ってきた作業着の男──

 ハマー・チュウセイがそこにいた。

 

「元々、てめぇはアマミキョの人間じゃねぇだろ。

 帰る処があるんだったら、とっとと帰んな。子供がこれ以上関わんな、てめぇなんぞに心配されるほど落ちぶれちゃいねぇよ」

「貴方が口出すことじゃ……ないでしょ」

 

 ハマーに対しては嫌悪の感情を隠しきれないナオトは、ついそっぽを向く。いつもであれば怒鳴り返していただろう。

 サイはため息をつきながら二人の間に入った。

 

「ナオト、そういうわけだから。嫌な思いばかりさせて、本当にごめんな。

 しまいにはこんな怪我までさせて、お前の母さんに顔向け出来ないようなことになってしまった。

 ここでマスミさんが来てくれたのは、僥倖だったよ」

「サイさんが謝ることなんて、何もないですよ。

 ティーダに乗って黙示録を起動したのは、僕の意志です。マユを助けようとして」

「そうだ、マユもやっと元気になったよ。

 早く会いたいって言ってた」

 

 それを聞いて、ナオトの表情がぱっと明るくなった。

 

「そうですか……良かった。

 でも、今度会う時、なんて言えばいいかな。何だか、恥ずかしくて」

「何だよ、お前らしくもない。

 マユは今度のことで、ホントの本気でお前に惚れたんだぞ」

 

 言われて、ナオトが真っ赤になってうつむく。

 胸元には、必死で守り通したお守りがぶら下がっていた。サイが作業の合間に修復しておいたものだ。

 

「もういいだろ」と、ハマーがサイの肩を掴んだ。

「てめぇもクソ忙しい癖に、たまの自由時間はコイツの面倒ばっか、いい加減にしやがれ。

 てめぇみたいなアホでも、倒れられたら困るんだよ。

 俺が代わるから、もう作業に戻れ」

「えぇ!? い、嫌ですよぅ」

 

 サイが答えるより先にナオトが思いっきり膨れっ面で、ハマーを睨む。

 この人とナオトを二人きりにするのか──サイもさすがに不安になってハマーを見るが、彼はナオトのそばから動こうとしなかった。

 

「アホか、殴りゃしねぇよ」

 

 そう言ってハマーは、脇に置いてあったリンゴに手を伸ばすと、ポケットからナイフを取り出して皮を剥き出した。

 

「び、びっくりした。刺すつもりかと」

「てめぇ、俺を何だと思ってやがる……」

 

 ナオトの無礼な言葉にも、ぶすくれつつも器用にリンゴを剥きつづけるハマー。

 二人がぽかんとしている間に手早くリンゴを切った彼は、一切れナオトの口元にぐいと近づけた。

 

「ほれ、あーんしろ、あーん」

「い、嫌です嫌です! 何言ってるんですか」

「バッカおめぇ、ろくに手ェ使えねぇだろうと思って俺がわざわざ差し出してやってんじゃねぇか! ほれ、口開けろ」

「嫌ですってば、ちょっと待っ……サイさんってば!」

 

 ナオトは真っ赤になりながら助けを求めるが、サイは笑って返すだけだった。

 

「人の親切は素直にもらっておこうな、ナオト」

「こんなの親切じゃなくて、押し付けっていう……むぐ」

 

 有無を言わさず口の中にリンゴを突っ込まれたナオト。

 思わず吹き出してしまうサイ。それを見て、今度はハマーが真っ赤になった。

 

「お、おい。てめぇはいつまで突っ立ってんだよ? 

 さっさと作業に戻りやがれ!」

「はいはい、分かりました」

「はいは一回だろうが!」

「はーい」

「そんなに殴られたいのかてめぇは! さっさと行きやがれ」

 

 残りのリンゴをサイの口に投げつけかねない勢いでハマーは怒鳴る。

 そんな二人を残して病室を去りながら――

 

 ふと思った。

 久々に、心から笑った気がする──と。

 

 

 

 

 

 

 それから、さらに7日後。

 アマミキョはサイの指示の的確さもあり、てきぱきとテロ被害の後始末に励んでいた。

 マスミ・シライシらの研究班がティーダとマユを連れていく正式な日取りも決まり、同時にナオトもマスミたちに同行することとなった。

 

 サイは本とデータだらけの副隊長室で、一日を過ごすことが多くなっていた。ブリッジへの距離が近く、自室よりも利便性が高い為である。

 カズイとアムルの件は気にかかってはいたが、それよりもやるべきことの多さに忙殺されているサイだった。

 

 現在最も気になっているのは、オーブからの支援が滞りがちなことだ。

 担当区域全てには食糧や薬が行き渡らず、住民の不満は次第に増している。山神隊は2名の増員があったらしいが、それだけでは心もとないのが現状だった。

 

「何やってんだ……あのモミアゲ野郎」

 

 ユウナ・ロマ・セイランの帰還を伝えるオーブの新聞。それを横目に、サイは独り愚痴るしかなかった。

 ロゴス支援組織の一員として暴露されてしまったムジカノーヴォ社長とも、連絡が取れない。

 アマクサ組とティーダが離れたら、今後どうやって救助活動を続けていけるのか。

 どうやってテロに対抗していくのか。

 

 そんな時だった──意外な客が、副隊長室を訪ねたのは。

 

「よぅ、元気でやってるか……

 って、無理みたいだな」

 

 その男──ラスティ・マッケンジーは、いつもの如く陽気にサイに話しかけてきた。

 

「最近お前と、あんま話してないなと思ってさ」

 

 それもそのはずで。

 トールの件以来、サイはアマクサ組を警戒し、必要以上の会話をしていなかった。

 アマクサ組は確かに、「あの」トールの仲間──

 いや、仲間ではないにしても、あの時漏れ聞いたフレイとの会話から判断するに、知り合いであることは確実だ。

 

 ──今俺がやらなくとも、いつか必ず、サイを消しにくる奴は現れる。

 

 これ以上の不吉さを望めないほど不吉なトールの言葉が、脳裏でこだまする。

 

「その理由は、君たちなら分かってると思うけどな。

 友人の姿を借りて俺を殺しに来るような奴らを、簡単に信用出来るかよ」

 

 ラスティの表情から陽気さがかき消え、その瞳は真っ直ぐにサイを睨んだ。

 

「もしかして、俺がお前を殺しに来たとか思ってる?」

「その警戒をしないほうがおかしい状況なんだけどね」

 

 サイは横目で睨み返しながら、わざと音をたてて読みかけの本を閉じる。

 ラスティはため息をつきながら呟いた。

 

「そのことに関しちゃ、俺は何も話せる立場にない。弁解も出来ないさ。

 ただ、伝言ぐらいは信じてくれよ」

「何でしょうか」

 

 サイはわざと皮肉をこめ、馬鹿丁寧に答えた。

 ラスティはアマクサ組の中では比較的話をしやすい人物だったので、多少心苦しくもあったが。

 しかしラスティは動揺ひとつせず、淡々と応じた。

 

「……来いよ。

 フレイが呼んでる」

 

 

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