【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 私と子をなせ

 

 

 アマクサ組作業艇・ハラジョウ──

 その内部に、サイは再び入室を許された。天井が意外に高い、フレイの自室へ。

 

 周囲の壁は臙脂に彩られているが、特に飾り気のない白いベッドが右隅にある。

 中央に固定された木製の丸テーブルの上には、空のワイングラスが一つ置かれていた。

 左の壁には、丁寧に飾られたオレンジのハイビスカスの花束。明かりはベッドサイドの電球一つだけで、若干抑え目になっている。

 

 テーブルのそばの丸椅子にフレイは腰掛け、タブレットをいじっていた。

 しかし、その姿たるや――

 

「……なっ!?」

 

 薄手の白いブラウスを無造作に羽織ったまま、下半身には下着以外、何も着けていない。

 髪はほどかれ、肩と背中に優雅に流れている。

 少し開いた胸の間から僅かに見える、包帯。

 そんなあられもない姿を見た瞬間、サイは思わず声を上げて指で両目を隠してしまった。

 

「バ、バカ! 

 何つー恰好で……」

 

 フレイはそんなサイに構わず立ち上がり、ずかずかと目前まで来た途端――

 その右手首を掴んだ。

 薄明かりの中で揺れる、灰色の瞳。

 

「フレイ、一体何を……」

「黙れ」

 

 彼女はサイの手を掴んだまま、強引にベッドの方へ引っ張っていく。

 ――決して抗えない、恐ろしい力。

 

「もう時間がない。

 アマクサ組が離れるまで、残り3週間だ」

「だから、何の時間が

 ……っ!」

 

 振り落とされるようにして、サイはベッドの上に尻もちをついてしまう。

 間髪入れず、その両肩を掴むフレイ。

 抵抗しようとしたが、彼女の腕力にサイは殆ど歯が立たなかった。両腕が全く動かない。

 

「忘れたか。

 私はコーディネイターだ」

 

 その言葉で──

 サイは彼女が何をしようとしているか、はっきりと悟った。

 

「馬鹿野郎! 

 そんなことしなくても……っ!?」

 

 続く言葉を強引に断ち切るように、フレイは一気にサイの唇を奪う。

 まるで、生肉でも喰らうが如く。

 

 違う。

 違う、違う──

 

 叫ぼうともがくが、フレイの唇で言葉の全てを押さえられ、殆どうめき声しか出ない。

 両腕は組み伏せられたまま、全く動かない。

 畜生、コーディネイターとの力の差は嫌というほど思い知らされたはずなのに。まさかこんな形で、自分のプライドにとどめを刺されるとは思わなかった。

 足で蹴って抵抗を試みたが、フレイの両膝でこれまた押さえつけられてしまった。

 容赦なく、サイの口腔に押し入ってくる舌。

 

 

 違う。

 嫌だ。駄目だ。

 こんな形で、君と一つになるのは──! 

 

 

 俺が強気な女であれば相手の舌を噛み砕くぐらいはやるだろうが、相手はフレイだ。

 フレイの姿をして、必死でフレイを知り、フレイを演じ――

 命がけで、俺を追いかけてきた少女だ。

 

 

 無駄なもがきを続ける中、フレイの唇がようやくサイから離れたが、彼女はまだ止まらない。

 これからが本番だった──

 サイの唇を舐め、頬から顎、首筋までを這い回る、女の冷えた舌。

 そして一瞬だけ片手を離すと、今度はその手がサイの胸元――

 ネクタイの結び目を掴んだ。

 

「やめろって! 

 そんなことをしたら、君が後悔するだけだっ!」

 

 サイの叫びにも、フレイはまるで耳を貸さない。

 それどころか、叫びを楽しむかのようにネクタイを片手の指で器用にほどき、フレイの手は襟ぐりをわし掴む。

 自由になった左腕をどうにか動かそうとするサイだが、元々動かすのが多少辛かった上に妙な具合に捻られ、殆ど手は動かない。

 動いたとしても、フレイの反応速度にはとても追いつけなかったろうが。

 

「ぐ……う、うぅ……っ!」

 

 ユウナの時のような、抵抗手段になりうるような物はサイの周囲には全くない。そういった物は、あらかた片づけておいたと言わんばかりに。

 勢いもそのままに、フレイはサイのワイシャツの胸元を強引に引きちぎっていく。

 ボタンが音をたてて弾け、いくつか頬に当たった。

 女の吐息が、顔を背けた彼の右耳たぶを撫ぜる。

 無性な気持ちよさに、サイは自分の頬と身体が一気に沸騰するのを感じた。

 

 ──自分の意志とは、逆に。

 

 ワイシャツの下のインナーまでを縦に引き裂いていく、フレイの指。

 首筋から鎖骨、肋骨から臍までが、薄い光の中で露になる。

 恥辱と興奮に、不意に高まっていく鼓動。

 それでもサイは、言葉だけは冷静でいようと努め、息切れしながら尋ねた。

 

「……君は、こんな手段でしか、俺から何も奪えないと思っているのか?」

 

 半分自虐的な気持ちをぶつけるように、投げつけられた言葉。

 酷い台詞だと自分で思った。

 視界いっぱいに大きく揺れる紅い髪と、わずかに見える豊かな谷間。

 押し殺した声が響く。

 

「お前の証が欲しい。これは命令だ」

「俺の証って……」

「分からないなら、分かりやすく言ってやる。

 私と子をなせ」

 

 言うが早いか、フレイはサイの身体に舌を這わせ始める。

 正確には、臍のすぐ横から鎖骨のあたりに向かって──

 

「は!? ちょ、ちょっと待っ……

 う、うあぁあああああ!!」

 

 反論しようとしたサイだが、濡れた冷たい舌が肌を這い回るあまりの快感に、まともな言葉を失ってしまう。

 いいように扱われている屈辱と、それと相反するかの如く盛り上がってくる快楽。

 

 ――案の定、全身が、絶望的なまでに反応しやがっている。

 

 激しくざわめく心音はもう、フレイにまで伝わっているに違いない。

 女の舌は、露になったサイの左胸と、刻まれた傷を撫でていく。黒くただれた傷跡を癒すように。

 その一方で右手は既に、彼のベルトにかかっていた。

 

「やめろってば! 

 それぐらい、自分で……っ!」

 

 言いかけた瞬間、フレイはサイの左胸に吸い付いた。

 

「が……っ――!!」

 

 思わず船中に響くレベルの絶叫を上げそうになるサイ。

 何とか喉元で叫びを押し戻したものの、最早平静が保てる状況ではなかった。

 頭の上で剥き出しになる、フレイの白い右肩。

 服を中途半端に着けている分、素っ裸よりも余計に扇情的に見える。

 

 

 ──ほら、サイ。

 貴方が求めてやまなかった私が、すぐ目の前にいるわよ。

 

 

 快楽に溺れかかるサイの耳に、どこからか声が聞こえる。

 

 

 ……フレイ? 

 いや違う、フレイは目の前にいるはずだ。でも、今のフレイは? 

 今の、明らかに俺を軽蔑する声は何だ。

 

 

 ──二年間も、ずっと私を求めていたんでしょう? 

 だったら早く来なさいよ、何してるの? 

 私の方からこうして、ここまでしてやってるのよ! 

 

 

 サイの中で、フレイの声がさらに追い打ちをかける。

 

 

 違う、君はこのフレイじゃない。

 フレイは、本当のフレイは、もうどこにもいないんだ。

 

 

 ──そうよ、私はもういない。私を騙る偽者がそこにいるだけよ。

 良かったわねー、これでお望みのフレイが手に入るじゃない。

 貴方の望むフレイが、貴方だけを見ているフレイが、醜い姿晒して貴方に身を捧げてるのよ。さっさと応えてあげれば? 

 

 

 違う。俺が求めているのは、こんな君じゃない! 

 

 

 ──へぇ。これだけフレイが貴方を求めてるのに? 

 哀れね……あれだけ貴方とフレイを想っていたネネが浮かばれないわ。

 そういえばあの娘にも、貴方は応えてやれなかったわね。

 

 

 内から響くフレイの声が、心地よさと共にサイを苦しめていく。

 声は次第に大きくなり、侮蔑の色を濃くしていく。

 

 

 ──大丈夫よ? 私はここで見てるだけだから。

 貴方の痴態を見たって、私は何とも思わない。だって私は死んでるもの。

 キラだけを想って、私は死んだの。

 私が貴方を、心も身体も裏切ったように、貴方も私を裏切ればいい。

 私はキラだけを想って、いなくなったんだから。

 

 

 

 フレイから顔を背けたままのサイは、自らの内部へ次第に心を閉じ込めていく。

 女はそれを知ってか知らずか、作業用ズボンに手をかけた。

 下半身へ伸びていく、女の指。

 

 

 

 そうだよな。フレイを騙った女に惚れるなんて、俺はどうかしてたんだ。

 元々、君に見捨てられて当然の人間なんだよ、俺は。

 一途でも聖人でも何でもない、ただの矮小な人間だ。

 でも──

 もう、やめてくれ。お願いだ。

 

 

 額から汗が噴き出るのを感じながら、サイは願う。願い続ける。

 こんな形で、こんな無様な形で、君と一緒にはなりたくない! 

 頼む──誰か、誰でもいい。

 誰か、誰か、誰か!! 

 

 

 

「フレイを、助けて……」

 

 

 

 想いが、かすかな呟きとなってサイの喉から漏れる。

 情けなく、震える呟きが。

 それを聞いた時、フレイの手が一瞬、止まった。

 

 サイの、心の絶叫が届いたか──

 その瞬間を狙いすましたかのように、厳重にロックされていたはずのドアが、開いた。

 

「――失礼します」

 

 それはまだ幼い、少年の声。

 ケーブルまみれの車椅子を操る、下半身を失った少年──

 ニコル・アマルフィの姿が、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

 山神隊旗艦・タンバでも、一つの変化が起こっていた。

 具体的には、2名の人員の増加である。

 両者ともそこそこのモビルスーツ操縦技能を持ち、手薄になるアマミキョ防衛にはうってつけの人材、との触れ込みだった。実際、山神と伊能が見たところ、2名の実力は確かなものではあった。

 

 うち1名、竹中玄一等兵は軍に入ってわずか半年の新人。

 とはいえ、真田のようにどちらかといえばのほほんとした性格とは正反対で、一言で言えば直情径行を絵に描いたような青年だ。

 曲がったことが大嫌いなのはいいが、どんな戦闘でもすぐに前に出たがり、統率を乱す傾向がある。

 要するに、若さが過ぎるあまり上層部に疎んじられ、山神隊に飛ばされたのだろう──

 というのが、隊全員一致の見解だった。

 

 もう1名、キョウコ・ミナミ──この女性は、そもそも軍属ではない。

 東アジア共和国内の某民間軍需産業の広報課課長で、出向と称してチュウザンの山神隊にやってきたのだ。

 連合と深い繋がりを持つ彼女の会社は、公表はされていないものの当然のことながら、ロゴスとも無関係ではなかった。

 そういう理由から、彼女は――

 良く言えば、上層部からのお目付け役。悪く言えばスパイ。

 そんな見解を、これまた全員一致で山神隊は出していた。

 

 実際、彼女は山神たちの前で言ってのけたのだ。

 細いパンツスーツを着こなし、170センチ以上もの背丈を大きく伸ばしながら──

 

「東アジア共和国から、こともあろうにザフトへ寝返る裏切り者が後をたたない。

 おかげさまで、連合軍の士気は低下しています。ここ山神隊でも同様の傾向が見られます! 

 何故、ザフト主導と分かっている混乱を徹底的に封じ込めないのです!? 

 ここ1ヶ月の被害状況を、貴方がたは理解していらっしゃるの?」

 

 この時反論したのは時澤だった。

 

「チュウザンにおけるテロは、ザフト主導と決まったわけではありません。

 特にここ北チュウザンは、表向きは連合の管轄ですが、一般人として暮らすコーディネイターも多いことを忘れないでいただきたい。

 自分たちが戦っているのはザフトではなく、この地とアマミキョの安全を脅かす者だけです!」

 

 だが、背丈で大幅に勝るミナミは時澤を見下げ、こう言ったのである。

 

「場当たり的で中途半端な中立体制をとっているからこその、今の事態ではなくて? 

 コーディネイターは確かに敵ではありませんが、ザフトは明確に私たちと敵対するものです。

 忘れないでね、おチビさん」

 

 この最後の一言で時澤が大憤慨し、さらにひと悶着があったが──

 思い出せば出すほど、山神にとっては頭が痛くなるばかりの増員だった。

 

「仕方ありませんや、この隊では」

 

 そんな風に伊能は二人の件を一笑に付したが、山神も伊能もこの先を考えると、憂鬱を隠せなかった。傭兵たるフレイたちアマクサ組、そしてティーダが一度に抜けるのは、想像以上に痛い。

 さらに、山神たちにはもう一つの懸念があった──

 

「広瀬は、どうしても行くというんですか。例の人工島の調査に……」

「南チュウザンの動向を探らせるには、必要だろう。例のトミグスクの工場やティーダの件も気になる。

 周到に準備はさせてある、心配はいらんよ」

 

 だが伊能は納得出来ずに、一歩進み出る。

 元々広瀬とは性格の差からか口論が絶えないが、伊能は彼の、真面目故の不器用さに不安を感じずにいられなかった。

 

「あいつで大丈夫でしょうか。何なら自分が」

「いや」山神はゆっくり首を横に振る。「奴は奴なりに、何かを勘付いている。

 ティーダの裏にあるものをな」

 

 

 

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