【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 二人の夜

 

 

 ――ハラジョウ内・フレイの個室にて。

 

「あのヤキンの空域から、ボイスレコーダーの残骸まで回収するなんて……

 どんな情報収集力だよ。

 それじゃきっと、今の俺たちの会話も筒抜けだな」

「調べようと思えば、人一人の情報を割り出すなどたやすい。

 だが、その情報をもとに人物像を形成するのは至難の業だ」

 

 サイとフレイの会話は、まだ続いていた。

 二人で一緒にくるまった、シーツの中で。

 

「それも、君の役目だったのか。

 そこまでして、キラに会いたかったのかい」

「間違えるな……会わねばならなかった、だ。

 SEEDを持ち、最優秀の遺伝子を保有する戦士──

 あの能力は、国を三つほど潰してでも手に入れたいものだ」

 

 彼女の柔らかな髪に頬を触れながら、つい吹き出してしまうサイ。

 

「……ははっ」

「何がおかしい?」

「ごめん。笑っちゃいけないんだけど──

 こんなに真面目で自分に厳しい君が、フレイをどうやって演じるか、考えていたところを想像すると……

 い、痛てて! 頬つねるなよ」

「演じていた、ではない。降ろしたのだ」

「そうだね、さっきの君の言葉からするとそうなんだろう。

 ノイマンさんも、似たようなことを言っていたよ──

 だけど、二重人格でも何でもなくて、君があのフレイを……ねぇ」

「二重人格のようなものだ。

 フレイの魂を降ろしている間、私は私ではない。フレイ・アルスターだ」

「だったら、どうしてフレイのままでいなかったんだ?」

「当初は、その予定だった。

 お前と会って、予定は全て狂った。

 お前のもとでは……」

「普段の自分でいたかった?」

「…………」

 

 シーツの下、互いに絡まっていた指先。

 だがほんの少しだけ、サイの指がきつめに握りしめられる。

 

「あ……ごめん。

 今のはちょっと、俺も意地が悪かったな」

「……ほ、他にも理由はある。

 あの性格のままでは、アマミキョを統率出来ぬ」

「俺のせいで、君に色々考えさせてたんだな……

 随分長いこと理解出来なくて、本当にごめん」

「お前は、私が初めて見つけた『奇跡』だ。それを手に入れるのなら、安いもの……

 戦いの中で人を救うなどという奇跡を起こせるとしたら、お前しかいない。

 私はそう思っている」

「買いかぶりすぎだ。それが出来るのは、キラだよ。

 あいつは人を殺さずに、戦いを止めようとしてる」

「それが矮小な自己満足でしかないこと程度、お前も気づいているはずだが」

「だけど、それを言ったら俺なんかどうなるんだよ。

 俺は戦いの後始末を手伝うぐらいしか出来ない」

「戦争で最も大変なのは後始末だぞ」

「ありがとう……」

 

 思わずそう呟いたサイの耳たぶが、そっと舌で舐めとられる。

 そんな彼女の仕草は、慣れているように見えながら、何故か幼い子供のようにも思えた。

 まるで、今までは無理矢理それを強要されてきたかのような――

 そんな奇妙な不器用さを感じながらも、サイはゆっくり紅の髪を撫ぜる。

 

「そういえば、ずっと俺を試してたって言ったね。

 それは、奇跡を起こせる人間かどうかってことかい? 

 キラじゃなく、俺だって?」

「正直なところをいうと……

 お前であってほしい、というのが正解だ。

 だから、敢えてフレイの人格でお前を傷つけるような言動もした。すまなかったな」

「そう何度も謝らなくても、俺は大丈夫だから。

 でも、俺は平凡な人間で、ナチュラルだよ。君は何を期待してるんだ?」

「事実、私の心にお前は変革を起こした。

 私に、奇跡を起こせる可能性のある人間が現れた――

 それだけでも、大きな変革だった。私にとっては」

「そう言ってくれると、嬉しいよ。

 だから君は俺を守りながら、アマミキョで育ててくれたんだね……

 って、痛い痛い! 脇はやめてくれよ、脇は!」

「嫌味な言い方をするからだ。こちらが恥ずかしくなる」

「皮肉に聞こえたなら、謝るよ。

 本心だったんだけど」

 

 二人の唇は再び合わさり。

 互いの身体が、強く抱きしめられる。

 

「お前は気づかぬうちに、人の心に変化を及ぼす力がある。

 それは、遺伝子操作では決して手に入らない強さだ──人望と言われるものでもある。

 一時、あれだけアマミキョ中の恨みを一身に受けたにも関わらず信頼を回復できたのは、その強さがあったからだろう。

 生まれもったものでも、与えられたものでもない。

 お前が傷つきながら、自分で身につけてきた力だ」

「やっぱり、君は買いかぶりすぎだよ。

 嬉しいけどね」

「警告もこめて言っている。

 その力を羨む者は、少なくないだろうからな」

 

 

 

 

 

 

 それから数日──

 サイはアマミキョの体制変更、アマクサ組からの引継ぎ事項のとりまとめ、各グループの再編成、ティーダのシステム変更に関する研究班との連携……などなど、膨大な作業に追われた。

 作業は早朝から深夜まで及び、ブリッジと避難所と医療ブロックとカタパルトと副隊長室を飛び回る日々が続いた。

 夜になってもハラジョウで、フレイと今後のアマミキョ運用についての議論を交わし。

 

 そしてそのまま、二人一緒のベッドで眠る──

 それが、今のサイの毎日だった。

 

 アマクサ組の敷いた統制はサイが副隊長となっても続いていたが、彼はもうこの仕組みを否定はしなかった。

 責任を取る側に立ってみると、アマクサ組の構築した管理システムが、アマミキョにとっては最も効率が良いことが判明したからというのも理由だ。

 さらに各員の能力も、過去に算出された作業効率の履歴により、詳しく知ることが出来た。

 これにより、トニーもサイも殊更議論することなく、メンバーを再配置することが出来たのである。

 

 ただサイは、グループの連帯責任制は撤廃させた──

 元々、大気圏外で備蓄の節約の為に緊急に作られたシステムであり、備蓄に若干余裕が出来てきた今では特に意味がないと判断した為だ。

 その代わりにサイは、作業の遅延・ミスに関しては鬼のように細かなリスク報告書を即時提出させることとした。原因を細かな部分まではっきりさせることで、次に起こりうるミスを防ぐためだ。それも、出来るだけ早く。

 

 人を責めるのではなく、原因を明らかにする。

 そうすれば、かつてアムル・ホウナと自分が起こしたような忌まわしい事件を未然に防げる

 ──その思いからでもある。

 あまりの報告書の細かさに文句を言う者もいたが、それでも連帯責任制よりはマシなようで、クルーの大半は素直にサイのルールを受け入れていた。

 

 だが、この報告書がきっかけで、今また一つの事件が発生しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「アムルさん。この前のBAAC関連のリスク報告書の提出がまだです」

 

 ある日の午後。

 ブリッジの自席でモニターを凝視していたアムルに、サイは声をかけた。

 

「もう三日ですよ。本来なら12時間以内に提出してもらうんですが」

 

 それに対し、アムルは呆れた、と言いたげな声色で笑う。

 

「サイ君ったら……

 あんな量の報告書をいちいち書いてたら、作業が全部止まっちゃうわよ。

 他の業務だって詰まってるのに、初期報告ですらあの量ってどういうことなの」

「同じミスを二度と起こさない為に、必要な報告です」

「分かってるわ。でも、どうしてそんなに早く報告しなきゃいけないの」

「出来る限り早くミスの内容を全員に知ってもらい、過ちを回避する為です。

 俺たちの仕事は、命が関わるものなんですよ──

 作業がさばききれないようなら、人員を回します」

 

 その言葉で、彼女の唇から笑みがさっと消えた。

 

「優等生な答えね。

 でも残念、私にヘルプは不要よ」

 

 それほどまでに無能と思われたくないのか、彼女は。

 サイは感情を押し隠しつつ、会話を続ける。

 

「一人で何でも抱え込むのは、良くないですよ。

 そもそもこのミスだって、どうして誰にもチェックを頼まなかったんです?」

 

 出来るだけ彼女を刺激しないよう、サイは言葉を選ぶのに必死だった。

 嫌な予感がする。一旦別室に彼女を呼び出すべきだったかと思ったが、今更遅い。

 

「あらゆる作業は、複数人の目を通す必要があります。

 コードチェックを頼まずにそのまま通信したから、エラーが出てパーツ搬入が10時間遅れた……

 一見簡単な作業でも、簡単だからこそチェックが必要ということもあります」

 

 だが、サイの気遣いも虚しく、アムルの目には怒りが溢れてくる。

 

「そんなもの不要だって言ってるでしょ。

 私、コーディネイターなんだから」

 

 さすがにこの発言は敵意を招くと知っているのか、やや小さめの声でアムルは言った。

 今、ブリッジクルーはほぼ全員が揃っている。ハーフムーン以来再び通信担当になっているカズイも含めて。

 

 実際貴女は、ミスをしたじゃないか。

 ナチュラルが10のミスをしても、コーディネイターは1ですむかもしれない。

 だが両者とも、ミスを犯した事実は変わらない──

 

 そう言いたいのをぐっとこらえ、サイは言い放つ。

 

「どんな人間でも、人である以上、ミスを犯す可能性はある。

 その為のチェック体制で、リスク報告書です」

「それ、ナチュラルの古い考えよね」

「リンドー元副隊長の講義にもありました。彼はザフト出身ですが?」

 

 カズイがいつの間にか、サイの後ろからこわごわ様子を見守っている。

 ブリッジクルーたちも口論に気づいたのか、数人が興味深げに彼らを見ていた。

 ――アムルにはすまないが、彼女が強固にルールを拒絶するなら、こちらも強く出るしかない。

 

「アムルさん──

 言いたくはないんですが、貴女の最近のミスは目立ってます」

 

 数は言わない。言うのが憚られるほどの量だからだ。

 

「二重チェック、ちゃんとしていますよね? カズイでも、ヒスイさんでもいいんです。

 チェック出来る人員はいつでも配置するようにしています」

 

 だが、サイが多少強気になったのが裏目に出たか──

 突然、アムルは髪を振り乱して立ち上がった。

 

「いい気にならないでよ!」

 

 プライドの高い彼女にとっては、これ以上他人の前で恥をかかされるのはたまらなかったのか。

 それとも、カズイやヒスイの名を出したのがまずかったのか。二人とも、今のアムルとの関係が良いとは言いがたい。その上、二人はナチュラルだ──

 

 だがアムルは、サイの予想とは全く外れた言葉を吐き捨てる。

 

「偉くなってフレイと元鞘に戻ったからって、大きな顔しないで! 

 毎晩毎晩、フレイのところにばっかり行って、ホント鬱陶しいのよ!」

 

 この発言に、クルー全員が今度こそぎょっとしてこちらを向く。

 カズイも驚愕のあまり、唖然としてサイを見上げている──

 あぁ、暫く部屋を空けると話はしていたつもりだったが、フレイのことまでは伝わっていなかったか。

 

 それにしても、何という恥知らずだろう。今は全く無関係の、仕事の話をしていたはずだ。

 どうしてそんな方向へ話が飛ぶのか、まるで理解出来ない。

 こんな話を持ち出せば、サイもそうだがアムル自身も傷つくと、何故分からないのか。

 

 ――だがサイは、そんな怒りを決して表に出さなかった。

 どうせなら、ここで堂々と宣言しておいた方がいい。

 

「フレイ・アルスターと自分の婚姻の約束は確かに一旦消滅していましたが、二人の間で現在、改めて話を進めています。

 自分は彼女の未来の夫として、当然のつとめをしているまでです」

 

 アムルがぽかんとすると同時に、オサキがひゅうと口笛を吹いた。

 ヒスイが顔を真っ赤にして口を押さえている。一気にざわめきで溢れるブリッジ──

 間を置かず、サイは言った。

 

「話を戻しましょう。

 ちゃんと二重チェックはしてくださいね、手が空いていれば俺がやりますから」

 

 だが、アムルはサイと視線すら合わせようとせず、言葉を投げる。

 眼前の現実を放り出すかのように。

 

「ディックでお願い。

 彼なら確実にチェックしてくれるし」

 

 サイはため息をつきそうになり、慌てて喉元で止めた。

 ディックはコーディネイターだから……そう言いたいのだろう。

 確かに、同じコーディネイターである彼に頼むのは一理あるかも知れない。

 しかしそれよりも、業務に精通しているナチュラルに頼む方がよほど理に叶っている。実際、ディックがアムルから頼まれたチェック業務で辟易しているのを、サイは知っていた。

 ――アマミキョ内のコーディネイターの人員は、業務量の割にはそこまで多くない。

 しかもコーディネイター故か、他からの頼まれごとも多い。アムルのように、自分の仕事だけで手一杯になっている者はごく少数だ。

 

 それをどうやって伝えるべきか──

 サイが思案しかけた、その時。

 

「いい加減にしないか、アムル・ホウナ!」

 

 ブリッジ2階部分のデッキの上から、フレイの声が砲弾のようにブリッジ中を貫いた。

 そろそろ業務に余裕が出てくる時間帯のこの思わぬ事態に、全員がまるで戦闘配備を告げられたかの如く緊張する。

 

「貴様、自分の仕事がどれだけ周囲に影響を及ぼしているか、考えたことがあるのか? 

 副隊長とて暇ではない。これ以上その手をわずらわせるな!」

 

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