【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「貴様、自分の仕事がどれだけ周囲に影響を及ぼしているか、考えたことがあるのか?
副隊長とて暇ではない。これ以上その手をわずらわせるな!」
フレイは怒気のこもった口調で、頭上から思い切りアムルに言葉を叩きつける。
先ほどのアムルの暴言を聞いていたのか──彼女までがいつもの冷静さを若干失っていることに、サイは気づいた。
いけない。
フレイ、ここで私情を挟んでは!
だがアムルも負けてはいない。フレイの出現で、さらに彼女の意地は強固になってしまっていた。
「だから、前から言ってるでしょ。私はブリッジより、モビルスーツに乗りたいの。
適性試験の結果はここにいるよりもずっと良好なのよ、何故早く配置換えをしてくれないの!?」
カズイがまたも、はっとしてサイを見つめる。
アムルが業務外でモビルスーツ搭乗の適性試験を受けていたことはサイも知っていたが、カズイは当然知るわけがない──
フレイとの件といい、何で教えてくれなかった。その目が明確にサイを責めていた。
「アマミキョは人を助ける船だ」フレイは断固としてアムルを斬り捨てる。
そして彼女は、はっきりと告げた──
サイとフレイとアマクサ組が、アムルの配置換えを行わなかった理由を。
「破壊する為だけにモビルスーツに乗るような者に、アストレイの運用は任せられん!」
「ふん……」
だがアムルはフレイの言葉を嘲るだけだ。「自分が破壊ばかりしておいてよく言うわ。
その論理でいくと、ブリッジも駄目ってことよねぇ?」
あぁ──もうアムルは、ブリッジに残る気はないのだろう。
でなければ、こんな言葉を吐けるわけがない。二人の応酬に入り込めぬまま、サイはうっすら気づいていた。
俺はただ、彼女にきちんと仕事をしてもらいたかっただけなのに。
俺のほんの少しの注意の結果、アムルはブリッジメンバーへの配慮すら忘れ、他人への憎悪を剥き出しにしている。
一体どうして、どこを間違ってこうなってしまった。これではもう、ブリッジメンバーが彼女を受け入れることは難しいだろう──カズイ以外は。
それでもフレイは容赦しない。
サイとの件を暴露された彼女も、わずかではあるが精神の均衡を崩しかけていた。
「貴様は――」
「フレイ、話なら後にしろ! 今はまだ業務中だっ!」
危うさを感じたサイは何とか割り込もうとしたが、構わずフレイはアムルに対して決定的な言葉を浴びせる。
「貴様は危険な女だ。
モビルスーツなどに乗せれば、いつかその銃口はブリッジに向く。
私が気づいていないとでも思ったのか? 貴様が我が未来の夫、サイ・アーガイルに罪をかぶせ、陵辱し、破滅させかけた事実を!」
「――!?」
ブリッジ中に、ローエングリンにでも狙われたかの如き戦慄が走った。
馬鹿。何故今、こんなところでそれを言う!?
サイの声も今や、絶叫に近い。
「フレイ!
何言ってんだ、今はそんな話をしている時じゃない!!」
フレイの下へ駆け出そうとしたが、そんなサイの右腕を痛いほど掴んでくる者がいた。
「ちょっと待てよ、副隊長!」操舵士オサキが、黙っていられるかという顔でサイを睨みつけている。
「今のって……
やっぱり、ティーダの大気圏突入の時のアレかよ?」
ヒスイまでも席を立ち、オサキの後ろからサイを見つめていた。「でしたら、私たちにも知る義務があります。
私たちは何も知らずに、副隊長を一方的に責めたのですから……!」
そして突然突きつけられた現実に、最早錯乱を隠せないアムル。
「な……何言ってるのよ。
何を言い出すのよ!」
白眼の面積がいつもよりさらに広くなり、恥辱と憎悪が剥き出しになる。
「私、何もミスはしてない。
過失があるとしたら、サイ君のミスを見逃したことだけよ!」
あの時と全く同じに、アムルは必死で自己正当化をしていた。
自分でそう思い込むことで、自分すら騙そうとして──
だが、そんな逃避すらもフレイは許さない。
「アマミキョ全船監視システムは嘘をつかない。
トランスフェイズシステム・プログラムの入力担当者分析など、アマクサ組の手にかかれば造作なきことだ。
ずっと逃げられるとでも、思っていたか?」
──そういえば、ずっとうやむやになってたもんなぁ。
──やっぱりあの女だったのよ、ミス率凄いもんね。
──ねぇ、あいつにちょっとは他を手伝ったらどうですかって言った時、なんて答えたと思う? 何で担当外の業務をやらなきゃならないんですか、よ。
──そりゃそうよ、担当でさえ手一杯みたいだったし。
――でも、ヒスイと業務量そんなに変わらないのに。
──ちょっと待って。だったらサイ君は、ずっと彼女を庇ってたってこと?
──無駄に優しいからなぁ、副隊長は。
ブリッジ中で一斉に交わされる、密やかな囁き。
サイは唇を噛んだ──
これじゃブリッジどころか、アマミキョのどこにもアムルの居場所はなくなってしまう。
俺がやられたことを思えば、それ以上の報復を彼女は受ける。
事実、ブリッジ全員の好奇と蔑視にアムルは全身を刺されていた。
どんな時でも曲がらない背筋と整えられた長い金髪が、ふるふると揺れている。
見ていられず、サイはフレイの言葉を取り消しにかかる。
「違う! あれは俺がやったんだ。
俺の無能が全ての原因だ!」
だがその時、オサキが思い切りサイの右手首を両手で力いっぱい握りしめ、その抵抗を中断させた。
「いい加減にしろ、副隊長!
アタシらが何も気づかないと思ってんのかよっ」
いつも強気なはずの彼女の目には、いつの間にか涙までたまっている。
「ホントのこと、言ってくれよ。
でないと、アタシらお前に何て謝っていいのか、分かんねぇよ!」
「私たち、ずっと副隊長にとんでもない誤解をしていた。
船内でも、未だにあの事件を引きずっている人たちがいるんです。お願いします」
オサキとヒスイの懇願。
二人の強い視線に、サイは思わず口を開きかけたが
――ぐっと思いとどまった。
アムルがここにいられる望みを、完全に絶ってはいけない。だが口を閉ざしていても、状況は悪くなるばかりだ。
彼女の名誉を出来る限り傷つけず、真実を伝えるには──
「すまない、みんな。
一旦、業務に戻ってくれ」
アムルとフレイの3人で、別室で話をしよう
――そう言いかけた、その時。
「やめろよ!」思わぬところから、腹の底から絞り出すような叫びが上がった。
「やめろよ……もうやめてくれ、サイ。
アムルさん、怖がってるだろ」
両の拳をぶるぶる震わせながら、普段からは信じられないほどの声量で叫んでいたのは、カズイ・バスカークだった。
「俺はずっとアムルさんを見てたんだ。
みんな誤解するかも知れないけど、とっても真面目で優しい人なんだよ!
俺の知らないアプリをたくさん知ってて、いつも親切に教えてくれた。
時々ミスもあったかも知れないけど、そんなの誰だってするだろ。これだけの仕事と数値を扱ってれば!」
畜生──サイの歯噛みは止まらない。
あの時の俺はこんな集団私刑まがいの事態を恐れたから、やってもいない罪を認めてしまったんだ。
今ならその判断が、明らかに間違いだったと分かる。しかしその結果が……
ここまで拗れてしまうなんて。
アムルもカズイもみんな傷ついた。こんなカズイを、俺は見たくなかったのに。
「カズイ、いい加減目ェ醒ませ!
この女はお前を……」
オサキが言いかけたが、カズイは彼にしては珍しく、他人の意見を中断させた。
「分かってるよ!
俺のことなんかどうでもいいんだ。頼むからもうこれ以上、アムルさんを傷つけるのはやめてくれ!」
この必死の言葉で、ブリッジがしんと静まる。
サイにしても、アムルの痛々しい姿はこれ以上見ていられなかった。
カズイの気持ちを理解し、少しでもブリッジに留まろうという意志が芽生えてくれれば。
サイは願わずにいられなかったが――
アムルの次の行動は、そんな願いとは全く逆のものだった。
何も言わずにいきなり金髪を翻し、素晴らしい瞬発力でサイやオサキの手を振り払い、アムルはブリッジから駆け出したのだ。
フレイのいる場所とは別の下方出入口から、猛然と走り去っていくアムルの背中。
誰も止めることなど出来ず、全員が呆気にとられた──
フレイも何もしなかった。
何も出来なかったのではなく、冷たくアムルの後姿を見送るだけだったのだ。
「アムルさんっ!」
サイはフレイを一瞥しながら、ワンテンポ遅れて駆け出した。
何故止めなかった──そう睨みつけるサイを、冷たく見下げるフレイ。
逃げたい者は逃がせとでも言いたげに。
今夜だけは、君のところには行かない。
サイはそう決断し、アムルを探しに走っていった。
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次回予告
遂に想いを交わし合った二人。
だがすぐそばに、別れの時は迫る。
僅かな凶兆を感じながらも、離れていく者たちを見送るサイ。
その先にあるのは、希望の道標か、悪夢の幕開けか──
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「グッバイ・フレンズ」
母の情愛、信じるべきか。アマミキョ!