【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 忘れた頃に来る「ざまぁ」

 

 

「貴様、自分の仕事がどれだけ周囲に影響を及ぼしているか、考えたことがあるのか? 

 副隊長とて暇ではない。これ以上その手をわずらわせるな!」

 

 フレイは怒気のこもった口調で、頭上から思い切りアムルに言葉を叩きつける。

 先ほどのアムルの暴言を聞いていたのか──彼女までがいつもの冷静さを若干失っていることに、サイは気づいた。

 

 いけない。

 フレイ、ここで私情を挟んでは! 

 

 だがアムルも負けてはいない。フレイの出現で、さらに彼女の意地は強固になってしまっていた。

 

「だから、前から言ってるでしょ。私はブリッジより、モビルスーツに乗りたいの。

 適性試験の結果はここにいるよりもずっと良好なのよ、何故早く配置換えをしてくれないの!?」

 

 カズイがまたも、はっとしてサイを見つめる。

 アムルが業務外でモビルスーツ搭乗の適性試験を受けていたことはサイも知っていたが、カズイは当然知るわけがない──

 フレイとの件といい、何で教えてくれなかった。その目が明確にサイを責めていた。

 

「アマミキョは人を助ける船だ」フレイは断固としてアムルを斬り捨てる。

 そして彼女は、はっきりと告げた──

 サイとフレイとアマクサ組が、アムルの配置換えを行わなかった理由を。

 

「破壊する為だけにモビルスーツに乗るような者に、アストレイの運用は任せられん!」

「ふん……」

 

 だがアムルはフレイの言葉を嘲るだけだ。「自分が破壊ばかりしておいてよく言うわ。

 その論理でいくと、ブリッジも駄目ってことよねぇ?」

 

 あぁ──もうアムルは、ブリッジに残る気はないのだろう。

 でなければ、こんな言葉を吐けるわけがない。二人の応酬に入り込めぬまま、サイはうっすら気づいていた。

 

 俺はただ、彼女にきちんと仕事をしてもらいたかっただけなのに。

 俺のほんの少しの注意の結果、アムルはブリッジメンバーへの配慮すら忘れ、他人への憎悪を剥き出しにしている。

 一体どうして、どこを間違ってこうなってしまった。これではもう、ブリッジメンバーが彼女を受け入れることは難しいだろう──カズイ以外は。

 

 それでもフレイは容赦しない。

 サイとの件を暴露された彼女も、わずかではあるが精神の均衡を崩しかけていた。

 

「貴様は――」

「フレイ、話なら後にしろ! 今はまだ業務中だっ!」

 

 危うさを感じたサイは何とか割り込もうとしたが、構わずフレイはアムルに対して決定的な言葉を浴びせる。

 

「貴様は危険な女だ。

 モビルスーツなどに乗せれば、いつかその銃口はブリッジに向く。

 私が気づいていないとでも思ったのか? 貴様が我が未来の夫、サイ・アーガイルに罪をかぶせ、陵辱し、破滅させかけた事実を!」

「――!?」

 

 ブリッジ中に、ローエングリンにでも狙われたかの如き戦慄が走った。

 馬鹿。何故今、こんなところでそれを言う!? 

 サイの声も今や、絶叫に近い。

 

「フレイ! 

 何言ってんだ、今はそんな話をしている時じゃない!!」

 

 フレイの下へ駆け出そうとしたが、そんなサイの右腕を痛いほど掴んでくる者がいた。

 

「ちょっと待てよ、副隊長!」操舵士オサキが、黙っていられるかという顔でサイを睨みつけている。

「今のって……

 やっぱり、ティーダの大気圏突入の時のアレかよ?」

 

 ヒスイまでも席を立ち、オサキの後ろからサイを見つめていた。「でしたら、私たちにも知る義務があります。

 私たちは何も知らずに、副隊長を一方的に責めたのですから……!」

 

 そして突然突きつけられた現実に、最早錯乱を隠せないアムル。

 

「な……何言ってるのよ。

 何を言い出すのよ!」

 

 白眼の面積がいつもよりさらに広くなり、恥辱と憎悪が剥き出しになる。

 

「私、何もミスはしてない。

 過失があるとしたら、サイ君のミスを見逃したことだけよ!」

 

 あの時と全く同じに、アムルは必死で自己正当化をしていた。

 自分でそう思い込むことで、自分すら騙そうとして──

 だが、そんな逃避すらもフレイは許さない。

 

「アマミキョ全船監視システムは嘘をつかない。

 トランスフェイズシステム・プログラムの入力担当者分析など、アマクサ組の手にかかれば造作なきことだ。

 ずっと逃げられるとでも、思っていたか?」

 

 ──そういえば、ずっとうやむやになってたもんなぁ。

 ──やっぱりあの女だったのよ、ミス率凄いもんね。

 ──ねぇ、あいつにちょっとは他を手伝ったらどうですかって言った時、なんて答えたと思う? 何で担当外の業務をやらなきゃならないんですか、よ。

 ──そりゃそうよ、担当でさえ手一杯みたいだったし。

 ――でも、ヒスイと業務量そんなに変わらないのに。

 ──ちょっと待って。だったらサイ君は、ずっと彼女を庇ってたってこと? 

 ──無駄に優しいからなぁ、副隊長は。

 

 ブリッジ中で一斉に交わされる、密やかな囁き。

 サイは唇を噛んだ──

 

 これじゃブリッジどころか、アマミキョのどこにもアムルの居場所はなくなってしまう。

 俺がやられたことを思えば、それ以上の報復を彼女は受ける。

 

 事実、ブリッジ全員の好奇と蔑視にアムルは全身を刺されていた。

 どんな時でも曲がらない背筋と整えられた長い金髪が、ふるふると揺れている。

 見ていられず、サイはフレイの言葉を取り消しにかかる。

 

「違う! あれは俺がやったんだ。

 俺の無能が全ての原因だ!」

 

 だがその時、オサキが思い切りサイの右手首を両手で力いっぱい握りしめ、その抵抗を中断させた。

 

「いい加減にしろ、副隊長! 

 アタシらが何も気づかないと思ってんのかよっ」

 

 いつも強気なはずの彼女の目には、いつの間にか涙までたまっている。

 

「ホントのこと、言ってくれよ。

 でないと、アタシらお前に何て謝っていいのか、分かんねぇよ!」

「私たち、ずっと副隊長にとんでもない誤解をしていた。

 船内でも、未だにあの事件を引きずっている人たちがいるんです。お願いします」

 

 オサキとヒスイの懇願。

 二人の強い視線に、サイは思わず口を開きかけたが

 

 ――ぐっと思いとどまった。

 アムルがここにいられる望みを、完全に絶ってはいけない。だが口を閉ざしていても、状況は悪くなるばかりだ。

 彼女の名誉を出来る限り傷つけず、真実を伝えるには──

 

「すまない、みんな。

 一旦、業務に戻ってくれ」

 

 アムルとフレイの3人で、別室で話をしよう

 ――そう言いかけた、その時。

 

「やめろよ!」思わぬところから、腹の底から絞り出すような叫びが上がった。

「やめろよ……もうやめてくれ、サイ。

 アムルさん、怖がってるだろ」

 

 両の拳をぶるぶる震わせながら、普段からは信じられないほどの声量で叫んでいたのは、カズイ・バスカークだった。

 

「俺はずっとアムルさんを見てたんだ。

 みんな誤解するかも知れないけど、とっても真面目で優しい人なんだよ! 

 俺の知らないアプリをたくさん知ってて、いつも親切に教えてくれた。

 時々ミスもあったかも知れないけど、そんなの誰だってするだろ。これだけの仕事と数値を扱ってれば!」

 

 畜生──サイの歯噛みは止まらない。

 あの時の俺はこんな集団私刑まがいの事態を恐れたから、やってもいない罪を認めてしまったんだ。

 今ならその判断が、明らかに間違いだったと分かる。しかしその結果が……

 ここまで拗れてしまうなんて。 

 アムルもカズイもみんな傷ついた。こんなカズイを、俺は見たくなかったのに。

 

「カズイ、いい加減目ェ醒ませ! 

 この女はお前を……」

 

 オサキが言いかけたが、カズイは彼にしては珍しく、他人の意見を中断させた。

 

「分かってるよ! 

 俺のことなんかどうでもいいんだ。頼むからもうこれ以上、アムルさんを傷つけるのはやめてくれ!」

 

 この必死の言葉で、ブリッジがしんと静まる。

 サイにしても、アムルの痛々しい姿はこれ以上見ていられなかった。

 カズイの気持ちを理解し、少しでもブリッジに留まろうという意志が芽生えてくれれば。

 サイは願わずにいられなかったが――

 

 アムルの次の行動は、そんな願いとは全く逆のものだった。

 

 何も言わずにいきなり金髪を翻し、素晴らしい瞬発力でサイやオサキの手を振り払い、アムルはブリッジから駆け出したのだ。

 フレイのいる場所とは別の下方出入口から、猛然と走り去っていくアムルの背中。

 誰も止めることなど出来ず、全員が呆気にとられた──

 

 フレイも何もしなかった。

 何も出来なかったのではなく、冷たくアムルの後姿を見送るだけだったのだ。

 

「アムルさんっ!」

 

 サイはフレイを一瞥しながら、ワンテンポ遅れて駆け出した。

 何故止めなかった──そう睨みつけるサイを、冷たく見下げるフレイ。

 逃げたい者は逃がせとでも言いたげに。

 

 今夜だけは、君のところには行かない。

 サイはそう決断し、アムルを探しに走っていった。

 

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 遂に想いを交わし合った二人。

 だがすぐそばに、別れの時は迫る。

 僅かな凶兆を感じながらも、離れていく者たちを見送るサイ。

 その先にあるのは、希望の道標か、悪夢の幕開けか──

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「グッバイ・フレンズ」

 母の情愛、信じるべきか。アマミキョ! 

 

 

 

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