【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 サイなんか、大っ嫌いだ

 

「頼むよ。

 その力で、頼むからアムルさんを助けてくれよ!!」

 

 カズイがアムルにどのように振られたか、サイは今更のようにオサキから聞いていた。

 クッキー作りに必死だったカズイを思い出すと、アムルへの怒りで心臓が破れそうになり。

 同時に、彼への気遣いが出来なかったことが悔やまれた──

 にも関わらず、カズイはアムルへの恨み言など一つも言わず、ただただ彼女を心配している。

 

「助けられないのなら、何の為のその力なんだよ! 

 俺のことなんかどうだっていい、アムルさんを……! 

 あの人、一人じゃどうなっちゃうか分からなくて……不安なんだ」

「分かってる」

 

 俺と彼女のキスなどという光景を見せつけられてもなお、カズイは彼女を想えるのか。

 サイは既に、アムルを取り戻すなどということは諦めていた──いつの間にか、隊長宛に除隊申請書までが届けられていたのだから。

 

「お前……

 やっぱり、優しいよ」

 

 サイのこの言葉が、またもやカズイの感情を刺激する。

 何かが爆発したような声が轟いた。

 

「何でだよ。何でそういうことばかり言うんだよ! 

 俺には優しさなんて何もない。臆病で、不甲斐なくて、すぐ逃げ出して、何の力もない! 

 それでいて、サイが憎いんだ……アムルさんに気味悪がられて当たり前なんだよ、俺は! 

 あの人の心は、サイのものだってのに」

 

 思わずサイも声を荒げる。

 

「カズイ、それは違う。

 彼女は俺に気があって、あんなことをしたわけじゃない!」

 

 この誤解だけは、何としても解いておかねばならない──

 だが、次のカズイの言葉は少し予想外のものだった。

 

「分かってるって言ってるだろ! 

 ずっと見てきたんだ、アムルさんを。

 あの人だって、サイが憎いんだ。皆の前であんなことされて、憎まないわけないよ。

 彼女の心は、お前への憎しみで満ちてる。

 その意味で、お前はアムルさんを独占してるんだ」

 

 そうか──カズイはあんな、小手先の芝居に騙されたわけじゃなかったのか。

 それを知って、サイは少し安堵した。だがその慟哭はまだ止まらない。

 

「あの人をそんな風にしたのも、サイの力なんだよ。サイの偽善者っぷりだよ! 

 八方美人で誰にでもいい顔しようとして、一番酷い結果を招いてる。

 責任取れよ! アムルさんを取り戻すまで、俺に何もするな! 俺に声かけんな! 

 お前の声聞いてると、吐き気すんだよ! 

 金輪際、俺に近寄るな!!」

 

 

 もう、俺を惨めにさせるな──

 

 

 カズイがこの言葉を必死で抑えているのが、サイには分かった。

 あのカズイが、これほどの激情にかられて自分を責めている──

 そんな呪われた力が、俺にあったとはな。

 

「人には優しい顔ばかりして、自分は聖人ですみたいなツラして。

 どれだけ人が傷つくかも知らずに励ましの言葉吐いて、どれだけ人が悲しむかも知らずに自分を犠牲にして……

 そんな生き方、俺は大っ嫌いだ。

 お前なんか、お前なんか大っ嫌いだ! 二度と俺の目の前に現れるな!!」

 

 最悪の拒絶の言葉が、ざっくりとサイの心を刺していく。

 あぁ──ナオトやフレイやアークエンジェルやアマミキョ運用に気を取られるあまり、俺はとても大事なことをすっかり忘れていた。

 サイは目をつぶり、カズイの言葉を背中で全て受け止めていた。

 

 

 ごめんな、カズイ。

 俺、こんな生き方しか出来ないんだ。どれだけ拒絶されても、俺はこんな生き方以外は選べないみたいだ──

 

 

 暫くそのまま座りながら、サイは呼吸を整える。

 カズイはまだ、扉の向こうにいるだろうか──

 相手がやや落ち着いた頃を見計らい、再び声をかける。

 

「カズイ……俺さ」

「……何だよ。

 まだいたのかよ」

 

 壁の中に消え入るような声が、サイの背中を微かに震わせた。

 

「嫌かも知れないけど、聞いてくれ。

 俺がアマミキョに行く為に、空港行きの列車に乗った朝さ──覚えてるか?」

 

 応答は何もない。

 それでもサイは話し続けた。

 

「お前、大荷物かかえて、慌てて駆け込んできたよな。

 俺は一言声をかけただけなのに、正直、ついてきてくれるとは思ってなかった。

 カズイにはオーブで、他にやりたいことがあるだろうと思ってた。

 それでもお前は、自分で決めて、俺と一緒に来てくれた。随分ギリギリまで迷ってたってのが、顔で分かったよ。

 それだけで俺は、すごく嬉しかった。

 俺は正直、フレイのことしか考えてなかったのに、カズイはずっと俺のことを考えてくれた。

 多分、一晩中」

「そうやってまた、自分を卑下する……

 フレイのことしか考えてないわけないだろ。サイが」

「でも、本当に嬉しかったんだ。

 実際これまで、カズイがいてくれて良かった、って思うことも何度もあった。

 逃げたい時だって何度もあっただろうに、お前はずっとついてきてくれた。

 俺の力は、俺だけのものじゃない。カズイがいてくれたから、俺はここまで頑張れたんだと思う。

 お前と友達で、俺、本当に良かった」

 

 カズイはそれきり黙りこむ。

 気配が遠ざかっていくのが、扉のこちら側からも読み取れた。

 サイはドアから背中を離し、もう一度声をかける。

 

「ちゃんと食事取れよ。ロックは……好きにしろ。

 ナオトには、別室で寝るように言っとくから」

 

 

 

 

 

 

 サイが副隊長室に戻ると、入り口でナオトが座り込んでいた。

 ずっと待っていたらしく、うとうとしかけている──

 

「おい、ナオト」

 

 サイが声をかけると、少年は驚いて跳ね起きた。

 

「サイさん! 

 あ、アムルさんは……いてて」

 

 言いかけて、まだ傷が痛むのか頬を押さえる。

 サイは何も答えずにエア・ロックを開いた。

 

「あの、ブリッジで何かあったって聞いて……

 彼女がアマミキョを降りたって、本当ですか」

 

 敢えて直接事実は言わず、ナオトを副隊長室へ招き入れるサイ。

 

「カズイの調子が悪くてな、暫く部屋には入れない。

 悪いけど、今日はここで寝てくれ」

「……そうか。

 やっぱり、戻ってこないんですね。アムルさん」

 

 遠回しなサイの言葉だったが、ナオトはその裏の意味を感じ取って肩を落とす。

 もうアムルはいないという現実を。

 何だかんだ言っても、彼女はナオトにとってはそこそこ頼もしいオペレーターだったのだろう。

 しかしすぐに気を取り直し、少年はサイに胸を張ってみせた。

 

「でも、大丈夫です。

 僕が必ず、アマミキョに戻ってきますから!」

「え?」

 

 ナオト用に薬をまとめていたサイは、すぐにはその言葉の意図が掴めず、まじまじとその大きな眼を見つめてしまう。

 

「それは、嬉しいが……」

「だって、フレイさんもアマクサ組もいなくなっちゃうんでしょ。それにアムルさんまで……

 だから僕、もう一度ティーダに乗って、アマミキョに戻ります!」

 

 サイもようやくナオトの意志を読み取った。

 が、ここまで彼を見てきた者として、到底この言葉はそのまま受け流せるものではない。

 

「やめとけ」口をついて思わず出たのは、そんなそっけない台詞。

「ティーダに乗って、どんな目に遭ってきたと思ってるんだ。

 俺はもう、お前には二度とティーダに関わって欲しくない。出来れば研究所にだって行ってほしくはないんだ。

 マスミさんがいるから大丈夫だとは思うが、そうでなけりゃ……

 ちょっと腕出せ、薬塗るから」

「また! 

 サイさんはすぐそれだ」

 

 素直に腕を出しながらも、ナオトは案の定反抗してくる。

 

「母さんだって賛成してくれたんですよ。

 僕はまたティーダに乗れるって、太鼓判押してくれたんです! 

 サイさんが止めたって、無駄ですからね」

「何?」

 

 あまりに意外すぎる事態に、サイは思わず手を止めていた。

 明らかに作業用ではないモビルスーツに乗るということは即ち、戦争に参加すると同義だ。

 人殺しをしに行くのだし、何より自分が命の危機に晒される。

 それを知りながら、反対しない母親などいないだろう──サイは今の今まで、そう思っていた。

 

 実際、サイがアマミキョに乗ると決めた時ですら、母は泣いて反対したものだ。

 二年前の悪夢を思い出してパニックを起こしかけた母を、父が何とか落ち着かせて、サイは何とかアマミキョ行きを許されたのだ。

 ヤキン・ドゥーエ戦の後、トールの家に行った時も、彼の母親はずっと後悔し、寝込んでいた。

 どうして止めてやれなかったのかと、延々自分を責めていた。

 自分の息子が戦艦に乗ることを、どうして止められなかったのかと──

 

 俺を詰ってくれたほうが、よっぽど気が楽だったのに。

 俺はトールのそばにいながら、止められなかったのに。

 

 男親ならともかく、母親が子供をモビルスーツに乗せることを、そうそう簡単に承知出来るわけがない──

 母親たちを見てきたサイはそう思っていた。

 しかし今のナオトの言い方だと、まるでマスミが積極的に彼をティーダに乗せようとしているみたいじゃないか。

 

「お前の勘違いだ。マスミさんがそんなことを勧めるはずがないよ」

「嘘じゃないですよ! 

 母さんは僕を分かってくれたんです、望むとおりにしていいって!」

 

 サイの気も知らず、無理にガッツポーズまでしてみせるナオト。

 

「マユも一緒に乗れるみたいだし、僕、頑張りますよ!」

 

 マユもまた乗るのか。

 あの娘はアマクサ組だからとサイは半ば諦めていたが、妹のような年頃の娘がモビルスーツに乗り込んでいくのを見るのは、やはり気分のいいものではなかった。

 

「ともかく、俺はこれ以上……」

 

 その時、エア・ロック作動音と共に、不意の女性の声がサイの言葉を中断した。

 

「乗ってほしくない、ですか?」

 

 驚いて振り向くと、いつの間にやらマスミ・シライシが入り口に立っていた。大きな紙包みを胸に抱えて。

 

「母さん!」

 

 素直に声を上げ、ナオトは足を引きずりながらも急いで母に駆け寄る。

 マスミは笑いながら、息子にゆっくり手を貸した。

 

「あと6日で出発よね。

 ナオトに新しい服、買ってきたの。可愛いだろうなと思って……

 お邪魔だったかしら」

「そんなことないよ!」

 

 ナオトはぶんぶん首を振る。

 ここは一応俺の部屋なんだがというサイの呟きなど、彼は聞いてはいなかった。

 

「母さん、ティーダとアマミキョの分離作業はもういいの?」

「ええ。予想外に時間がかかったけど、大丈夫。

 ティーダは無事、アマミキョを離れられそうよ」

 

 マスミはナオトの頭を撫でながら、サイに声をかける。

 

「アーガイルさん。せっかくですから、お茶にしませんか? 

 トラブル続きで大変と聞いていたので」

「申し訳ないですが、遠慮させていただきます」

 

 サイは反射的にそう答えてしまう。

 

「自分は、アマミキョとティーダ間の第三接合データのチェックがありますので……」

「私のこと、冷たい母親とお思いになります?」

 

 硬化したサイの態度を見透かすように、マスミは単刀直入に言った。

 

「確かに、子供がモビルスーツに乗ることは危険です。

 私のような母親が少数派であることも、承知しています」

 

 まだまだ俺は未熟だな。完璧なまでに心を読まれた──

 しかし、ということは、マスミは本当にナオトのティーダ搭乗を認めたというのか。

 サイは改めてマスミに向き直る。

 

「そんな……何故です?」

「ナオトがこれだけ望んでいることを、どうして拒絶できますか? 

 危険だとばかり言っているようでは、何も進化しませんよ」

「進化……ですって?」

 

 子供を戦いに巻き込むことが進化か。サイは言いそうになったが、寸前で止めた。

 マスミは彼の代わりに、ナオトの腕を診てやりながら続ける。

 

「ティーダは戦争の道具ではなく、戦いを止める為に生み出されたツールです。

 私は長年、ティーダを研究してきました。ティーダを正しく使う為に自分の息子が乗ってくれるのなら、それは母親としても研究者としても、とても喜ばしいことなんですよ。

 それに、ナオトにはその力もある。この子、強いから。

 世代を超えて、平和への願いを叶える。私の夢を、ナオトが叶えてくれる。

 それが、ヒトの進化につながっていくんです」

 

 ナオトはマスミの胸に抱かれ、気持ちよさげに頭を撫でられるままだ。

 

「ね、僕の言った通りでしょ、サイさん!」

 

 本当にいいのか──サイの中で、何かが引っかかる。

 マスミなら大丈夫だろうという確信が、何故か揺らぎ始めていた。

 そんなサイに、マスミはにっこり微笑み礼を述べる。

 

「心配することはありませんよ。

 ティーダは本来、研究開発用のモビルスーツです。戦う為にナオトがティーダに乗ることは、もうありません。

 今までナオトがお世話になり、本当にありがとうございました」

 

 だがサイはその言葉の裏に、強い拒絶の意志を感じた。

 私の息子に、これ以上干渉するな──母親しか持たぬ、強固な意志を。

 

 

 

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