【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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※未成年への暴行描写があります。苦手なかたはご注意ください。




part5 嘘だよね、母さん

 

 

 ナオトたちの行き先──ギガフロート・シネリキョ。

 そこはまるで、ナオトが昔よく漫画で見た未来都市そのものだった。

 直径が約15キロといったほぼ円形の人工島に、空港や長距離軌道ターミナル、工場や研究施設、ショッピングセンターや遊園地がところ狭しと立ち並んでいる。

 モノレールに乗り換えたナオトは、車窓から銀色に輝く道路を眺めては、いちいち歓声を上げていた。

 

「すごい! 本当の要塞都市だよ、ここは! 

 まるでプラントみたいだ」

 

 戦争の荒廃を全く感じさせず、太陽をさんさんと浴びて光り輝く街。

 街路樹も整然と植えられ、ビルの奥には植物園らしき森まで見える。

 埃と泥と騒音に満ちたヤハラからここへ来た少年にとってそこは、希望溢れる未来都市だった──

 人の姿が作業員以外、殆ど見られないことを除けば。

 

「ナオト、あのお城が遊園地だよ!」

 

 マユが指差した先を見ると、島の中心にロケットのような塔が見えた。

 太陽の光を浴び、銀色に輝く塔。

 

「あれが、この島の中心。

 塔を真ん中にして島が出来てるんだよ」

「貴方もあそこに行くのよ、ナオト」

 

 マスミがナオトの隣で、にっこり笑う。

 フレイやカイキ達は別室でミーティング中で、ナオトの周りには何人かの研究員らしき白衣の男女がいるだけだ。

 

「今から皆さんにご挨拶するのだから、ちゃんとしましょうね」

 

 マスミはナオトの紅いリボンタイを直す。それだけで、彼は嬉しかった。

 母からプレゼントされるなんて、一体何年ぶりだったろう。マユにもさっき褒められたばかりだった──

 マユは喜んでもいた。自分のリボンとナオトのそれが、ほぼ一緒だったから。

 

「お揃いだね、ナオト! すごく可愛い。

 えへへ……大好きだよっ!」

 

 可愛いという形容が若干男としては引っかかるものがあったが、マユのその言葉がナオトにはまた、壮絶に嬉しかった。

 

 ――大好き。

 単純に、その言葉が。その純真な笑顔が。

 

 怪我をした右手はまだ痛んだが、もう動かせるぐらいには回復している。マスミから貰った缶ジュースを飲める程度は。

 やがてモノレールは速度を上げ、島を半周した後、螺旋を描くように地下へと潜り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様、ナオト」

 

 ギガフロートの地下に拡がる研究所の一角で。

 ナオトはマユたちと一旦離れ、母と二人きりになった。

 

「本当にすごいや、この島。

 外からは分からなかったけど、地下にたくさん人がいたんだね。

 挨拶、さすがに疲れちゃったよ」

「ホントね。優秀な技術者たちが大勢集められたのよ、ティーダのために」

「ここでティーダを強化すれば、無敵だよね!」

「えぇ。そしてナオト……

 貴方もきっと、もっと強くなれる」

 

 マスミの個室でもあるこの部屋は、研究所というよりは洋風喫茶店とも言うべき内装だった。

 家具は落ち着いたチョコレート色に統一され、床も派手さのないベージュの絨毯で敷き詰められている。アンティーク調の丸テーブルが部屋の真ん中にあり、ナオトとマスミは少し古びた木製の椅子に座っていた。

 薔薇の模様が施されたテーブルクロスの上には、カップに入ったローズティーが二杯、湯気を立てている。

 そんな中、ナオトの右側の壁にかけられた大きなモニターが、奇妙に異彩を放っていた。

 

 マスミとナオトの他には、研究員が二人、ドア付近で立ち尽くしていた。

 白衣を着込み、一人はワークキャップを目深に被っている。

 ナオトはどうにもそれが気に喰わず、不審げな視線を投げかけずにはいられない。

 それに気づいたマスミは、優しく諭した。

 

「ナオト、貴方は大切なお客様なの。

 何かあったら大変でしょう?」

「僕って、そんなにすごい奴なのかな。まだ実感ないや」

「今でも十分にすごいわ」

 

 マスミは優雅に紅茶を口にしながら、嬉しそうにナオトを見やる。

 

「こんなに強くなってくれるなんて……夢みたい」

「母さん。

 僕は――マユを、守りたいんだ」

 

 ナオトは母の褒め言葉に舞い上がりながらも、自分の主張は忘れない。

 

「マユとサイさんたちを守りたい。だから、僕はもっと強くなりたいんだ。

 ティーダがあれば、出来るんでしょ。それに僕の力──

 SEEDがあれば!」

「勿論よ」崩れない母の笑顔。「その為に、私は貴方をここに連れてきたのよ?」

「母さん……!」

 

 赤くなってうつむくナオト。

 暖かな光の下、紅茶がゆらゆら揺れる。

 ──こんな幸せな気持ちは、生まれて初めてだった。

 

 

 僕は、母さんに捨てられたものだとばかり思っていた。

 だから強くなって、レポーターになって、母さんを取り戻そうと思っていた。

 だけど、母さんは優しかった。こんなに優しい人だった。

 絶望に負けそうになった僕のところへ、助けに来てくれたんだから。

 僕にはこんなに優しい母さんがいて、マユがいて、サイさんたちもいてくれる。

 きっと強くなって、みんなを守って、戦争が終わったらまたオーブで、レポーターの仕事を頑張るんだ。

 亡くなったみんなの分まで、僕は生きる。強くなる──

 メルーの、ネネさんの、真田さんや風間さん、フーアさんやアイムさんの──

 

 

 その時。

 幸せの感情でいっぱいになったナオトに、マスミはふと呟いた。

 

「本当に良かった。

 貴方を、試して」

 

 一瞬ではその意味がつかめず、まじまじと母を見つめてしまうナオト。

 

「え? 試した?」

「えぇ。

 私は貴方にSEEDがあると分かって、すぐにでも会いに行きたかった。

 会って、試してみたかったの──貴方の力を」

 

 紅茶を啜りながら微笑む母。その笑顔は夢見る少女のそれと全く変わらない。

 ナオトがずっと憧れていた、可愛い母の表情。

 でも

 ――今、耳にした言葉は、何だ? 

 

「母さん、僕を試したって……? 

 それって、今までわざといなくなってたってこと?」

「ナオト、違うわよ。ずっといなくなってたのは、本当にごめんなさい……

 何度も謝ったけど、謝りきれるものじゃないものね。

 だけど、試したっていうのは別のこと。貴方のSEEDよ」

「母さん?」

 

 ナオトには全く意味が分からない。手にしたカップがぶるぶる震えだす。

 母の無邪気な表情と、悪意のない言葉。

 その奥に潜められたものの恐ろしさに、少年は震えていた。

 

 

 やめろ、やめてくれ、母さん。お願いだからその先を言わないで。

 やっと僕は幸せになれたんだ、母さんと一緒に。

 やっと僕は、母さんに会うっていう夢を叶えたんだ! 

 

 

「貴方が強いなら、きっと耐えられると思ってた。

 残念ながらSEEDそのもののデータは取れなかったけれど、ティーダの覚醒を促すことは出来たわ」

 

 マスミは言いながら、手元のリモコンを慣れた手つきで操作し、モニターのスイッチを入れた。

 自動的に部屋の照明が落ち、モニターに光が溢れる。

 

「映像で何度も何度も確認したのだけど、まだSEEDの目覚めには至らなかったみたい

 ──ごめんね、ナオト。痛い思いをさせて」

 

 

 モニターに映し出されていたのは、ナオト自身の姿。

 同時に部屋に轟いたのは、彼自身の絶叫と、悲鳴。

 

 

 ──それは、ナオトが記憶から追い出そうとしても追い出しようのない、あの夜の暴行の映像だった。

 泥水を浴びせられ、おびただしい血を流し、苦痛の叫びを上げ続け、相手を憎しみの目で睨みつける自分──

 あの悪夢の光景が何故か今、本人の眼前で再生されていた。

 

 

 何だ、これ。

 どうして今、この映像が? 

 何で、母さんが、笑ってるの? 

 

 

 一体何処から撮影したのか、随分近くまでカメラが寄っている。

 びしょ濡れになって透けた肌までが、はっきりと見えた。

 丸裸にされたも同然のあの時の恐怖と恥辱を、ナオトは否応なく思い出してしまう。

 

「でも、よく頑張ったわね、ナオト。

 母さん嬉しい」

 

 悲鳴を上げるナオトの映像を前に、マスミはこれまでどおり、にっこり微笑んだ。

 

 

 僕は……一体今、何を見てるんだ? どういうこと? 

 母さんが、傷ついたあの時の僕を見て、笑ってる? 

 それだけでも信じられないのに、母さんは

 ……母は……この人は!! 

 

 

 それ以上の現実の認識を拒絶し、ナオトは椅子からふらりと立ち上がる。

 部屋に響く自分の呻きがモニターからのものなのか、今自分が出しているものなのか、判別出来なかった。

 そんな息子を見ながら、母は少し首を傾げる。

 

「どうしたの、ナオト? 

 私、何か変なこと言ったかしら?」

 

 モニターから聞こえてくる悲鳴が、途絶える。

 代わりに、二度と聞きたくはなかったものが響いてくる──

 暴漢たちの嘲笑と、それに伴う奇妙な喘ぎ声。

 

 もう声も上げられなくなり、倒された自分。その上に覆いかぶさってくる男たち。

 いくつもの指が、その傷ついた身体に触れ、汚していく。

 頬や唇にかけられた液体が何であるか分かるほど、その映像は残酷なまでに鮮明だった。

 

 ──これは、僕が意識を失っていた時の……? 

 嫌だ、嫌だ、嫌だ! 僕が気絶していた時、あいつら……!! 

 やめて、母さん! こんなもの、僕に見せないでよ!! 

 

 

 ナオトの中で、彼を支えていたもの全てが崩れかかる。

 

 

 母さんの言葉が本当なら──

 僕は一体、どうすればいいの。僕は母さんに会うために、今までずっと生きてきたのに! 

 

 SEEDのせいで父さんに傷つけられた時は、すごく悲しかった。

 だけど、きっと母さんに会えると思って、それからも頑張って生きてきたんだ。

 僕にはまだ、母さんがいるから。父さんがあんなことになっても、まだ母さんがいるから。

 でも、これじゃ……母さんは、父さんと同じじゃないのか? 

 母さんは、父さんと同じに、僕を、傷つけた? 

 

 

 ナオトの周囲の部屋が、ぐらぐらと揺れ出す。

 母の裏切りを認識することは、彼にとって世界の崩壊を意味していた。

 

「サイさん……

 サイさん、助け、て……」

 

 あの夜振り絞った叫びと同じ言葉を、ナオトは今また無意識のうちに呟いてしまっていた。

 ティーカップに注がれた紅茶が最早、ぬめる血液のようにしか見えない。

 

「嫌ね、ナオト。

 そんなに怖がらないで」

 

 目の前の母は両腕をのばし、ナオトの頬を包む。

 背後のモニターでは、少し時間は飛んで別の映像に切り替わっていた。

 彼女の息子が宙吊り状態から泥の沼に落下し、さらに肩を切り刻まれ肉を露出させ、水をぶちまけられていく映像が。

 か細くなっていく悲鳴、怒りの呪詛。

 

 

 母はこれを、何度も何度も見ていたのか。

 傷つき汚され呻き続ける僕を、何度も何度もこの暗闇の中で、冷静に見ていたのか。

 SEED覚醒の瞬間をとらえる、ただそれだけの為に。

 

 

 ナオトは思わず、母の手を払いのける。

 自分の行為が信じられなかった。さっきまで幸せの象徴だったはずの母の笑顔が、こんなにも恐ろしくなるなんて! 

 

「ナオト、どうしたの? 

 いい子だから言うこと聞いて、ね?」

 

 優しいはずの母が、ナオトを抱きしめる。それでも震えは止まるどころか、さらに増幅していく。

 

「嫌だ……

 嫌だ嫌だ嫌だっ、離して! 離してよ母さん! 

 どういうことか、説明してよ!」

 

 ナオトは自分でも信じられない力で、母の腕を振りほどく。

 その瞬間──

 

 

 銃声と共に、モニターと再生装置が破壊された。

 

 

 部屋を満たしていたナオトの叫びが、突如途切れ。

 あたりを照らす灯は非常灯の冷たい光、ただ一つだけとなる。

 青い闇の中、冷徹な声が響いた。

 

 

「まさか自分から告白してくれるたぁ、予想外だったよ。

 つまりこういうことか──あんたはSEEDの覚醒の為に、自分の息子を襲わせたってわけだ」

 

 

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