【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「正面から威風堂々か……
隊長らしいよ」
ディアッカは警戒しながらも、微笑せずにはいられなかった。
お世辞にもいい戦法とは言いがたいが、そんなことはイザーク自身も了解しているはずだ。
ザクファントムの後方に控え、ザクウォーリアを駆るディアッカはダークダガーLの動きを肉眼で見守る。
敵機は背景の宇宙に溶け込むがごとくの漆黒……やりにくいことこの上ない。
しかし何故、相手の機体は連合なのだ。確か情報ではザフトのゲリラという話だったが
――その間にも、イザークの通信は続いていた。
《アマミキョは、ただちに発進シークエンスを中止しろ!
今この空域に出るのは危険すぎる。武装があるのは重々承知の上だが、その船は民間船!
自分たちの目の前で、戦闘をさせるわけにはいかんっ》
「困るんだよねぇ、どんだけ準備に時間かかったと思ってんの」
社長が、回線に届くようにわざと大きくため息をついた。
「ジュール隊長ならびに皆さん、救援感謝します。しかし少し落ち着いてくれ」
それを聞いて、回線ごしのイザークの声が一段階跳ね上がる。
《社長! 貴方が少しは慌てるべきだっ!!
腐っても緊急救助船を名乗るならば、まず宙域の安全を考えてくれ!》
「ご心配ありがとう、お若いのにその配慮には感服しますよ。
しかし下がるに下がれんのよこっちは、すぐ後ろにあんたん処の狼がいてね」
その言葉に、回線の向こうで一瞬イザークが沈黙した。
そして、幾分感情を押し殺した声が響く。
《申し訳ない。ザフトを名乗る愚か者が、迷惑をかける》
その言葉に、カズイがサイの横で囁いた。
「……申し訳ないですめば、戦争にゃならないよな」
「それすら言えないから、戦争になるとも言える」
「そうだけど」
彼は砲火から身を護るようにサイの座席の後ろに隠れているが、いざブリッジを狙われれば全く意味のない防御である。
そんな通信中に、ブリッジにオサキが飛び込んできた。相変わらず、白い腹を出したままの恰好で。
「メイン操舵士が二人とも攻撃で負傷した、今医療ブロックにいる!
どーなっちゃってんだよ、この状況!?」
トニー隊長の狼狽の声が響く。ブリッジがまた一気にざわめく
──操舵士が機能しない? 船はどうなる?
「お、俺、船内の状況確認してくる。
モニターだけじゃ分からないだろ」
オサキが飛び込んできたのを機とばかりに、カズイがブリッジから飛び出した。
逃げるチャンスをうかがっていたのがバレバレの行動だが、サイはそれを責めるつもりは毛頭ない。
何せ、目の前で大口径の砲火が飛び交っているのだ。通常の感覚を持つ人間なら逃げるか、ヒスイのようにパニックになるのが当たり前だ。
さらにイザークの声がブリッジに轟いた。
《あんた方の傭兵部隊は何をやってる!?》
「大丈夫、ちゃんと仕事してるよ~。
でなけりゃ今頃コロニー崩壊だ」
その間にまたしても、ダークダガーLが攻勢をかけてきた。
イザークのザクファントムは即座に、腰部に備えつけられていた伸縮式ビームアックスを取り出し、相手の機体に叩きつけるようにしてアマミキョから引き離す。
機体の全長を超えるほどの巨大なビームアックスは、スラッシュウィザード特有の装備だ──
しかしビームアックスの刃はダークダガーLに対する致命傷にはならず、右腕部を切断しビームサーベルを吹っ飛ばすにとどまった。
ザクファントムが大振りのアックスを使った隙を利用して、下方から2機目のダークダガーLがアマミキョ発進口に攻撃をかける。
しかもこちらの機体は、両肩に機体の全長ほどの砲身を持つ、大型の実弾砲塔2門をひっさげていた。
ドッペンホルン連装無反動砲──
サイがその名称を思い出した瞬間に、そのダークダガーLをザクウォーリアのビームが狙撃した。
相手がひるんだとほぼ同時に、ザクウォーリアからも通信が入る。
《隊長の言うとおりだ!
命あってのナントカだろうが、コロニーに戻れ偽善船さん!!》
サイはその声に、反応せずにはいられなかった。
あれは確か、アークエンジェルを救ったバスターの……ミリアリアの……
しかしサイは、戦闘中に積極的に声をかける愚は避けた。叫びたいのをどうにかこらえる。
戦闘が無事終了したら、改めて礼を言おう。
エルスマン、心配するな。今ここにミリィはいない──
ダークダガー3機は体勢を立て直した。うち2機は、傷つきながらもフォーメーションを組み直し、ディアッカのザクウォーリアに襲いかかる。
一旦大きく距離を取ったダークダガーL3機はバーニアをふかし、一気にザクウォーリアの上、下、右下へ展開した。
手負いの兵士ほど怖いものはない──
3つの黒い機体から一斉に放たれたビームが、ディアッカの機体を襲う。
ディアッカはシールドで火線を防ぎ、再び右腕のオルトロスで応戦するが──
背後にそそりたつ港口の壁面へ当てないよう、細心の注意を払わねばならなかった。しかもそこまで相手は読んで、オルトロスが向けられない方角から挑んできた。
「連合の分際で、出来る……!」
イザークは2機のゲイツRにディアッカの支援を命じながら、舌打ちせずにはいられなかった。ドッペンホルンを持つダークダガーLがかなり敏速に正確に撃ってくる為、思うように近づくことが出来ない。
そうしているうち遂に、ザクウォーリアを護ろうと前に出すぎたゲイツRが、ダークダガーLの放ったスティレット投擲噴進対装甲貫入弾に右脚部を捕らえられた──
爆発による閃光が、全ての者の視界を遮る。
ゲイツRは爆発寸前に脚部を切り離し、ビームサーベルが内装された複合防盾を薙いでどうにかその場を逃れ得た。
しかしイザークは瞬間、気づいた。
「止まるな!
最初から目潰しが目的だ!」
──が、ザクファントムの機動は間に合わない。
閃光の中から、ドッペンホルン装備のダークダガーLは一瞬の隙をつき、アマミキョ発進口を十分狙える距離に飛び出る。
黒い衣を纏った死神の如きダガーL、そしてまっすぐ向けられた二つの大出力の砲口──
ブリッジクルーの真正面から向けられた、酷く黒い銃口。
混乱を極めたブリッジが、逆にこの途方もない恐怖に静まりかえる。
あの砲口の奥に光が見えたら、その時こそ俺たちは
──その瞬間、サイのモニターに反応があった。
しっかり目を見開いていたから、気づいた。
社長ですらも一瞬目を瞑りかけたその時
サイはモニター上の戦闘分析画面をひたすら睨みつけていた。
ヤキンの生き残りをなめるな──そして叫ぶ。
「宙港下部より、味方モビルスーツ接近!
距離40、レッド3312、マーク02チャーリー!」
思わずかざしていた手をよけた社長が、ほっと息をつく。
「ふぅ~、ドンピシャ!」
アマミキョに砲口を向けていたダークダガーLが、下方からの一撃のもとに両断されていた。
人間で言うところの股間から、無情にもほぼ縦に切断された胴体。それは一瞬の火花を散らした直後、閃光に変わる。
遮光フィルタのかかったモニターごしでも強烈な爆光が、クルーの視界を支配する。
一瞬後、その中から現れたものは。
「――ストライク・アフロディーテ。
野暮な演出をしおって」
ニタリと嗤うリンドー副隊長。
ブリッジ前方の180度広角モニターに映し出されていたのは、真っ赤な血の色のストライク。
サイは一瞬、ストライクルージュが降臨したかと思った──
だが、違う。すぐに分かった。
ストライクルージュは、赤は赤でも薄紅色を基調とした、どちらかと言えば華を思わせる機体だった。
しかし今、サイの目の前にある機体は血液──静脈を流れるどす黒い血の色をしている。肩部と胸部はさらに黒い。
その上この機体は、機体に対してあまりにも大きな、漆黒の翼を背負っている。
サイは手元のデータから、それがIWSP──統合兵装ストライカーパックであることを知っていたが、実戦で見せられるのは初めてだった。
ストライクのオプション装備として作られたストライカーパックの中でも、高機動性・火力・格闘能力の全てを極限まで追求したものだ。
しかし、複雑な火器管制システムと消費電力の膨大さのため、ルージュのパイロットであるアスハ代表には扱えなかったと聞く。
──それが、こんなところでお目にかかるとは。
サイの思惑をよそに、ストライク・アフロディーテなるその機体は悠然と、たった今ダークダガーLを撃破した9.1メートル対艦刀を左手に構える。そして右腕にはビームライフルを携えていた。
仲間を撃墜されたダークダガーLが2機、即刻応戦に出た。
イザークのザクファントムがビームアックスで支援に飛び出す──が、その必要がないほど紅い機体の動きは早かった。
大きな翼、つまりIWSPを狙ってダークダガーLはその紅を撃つが、全ての火線をギリギリ最小限の動きで、紅い機体はかわしていく。