【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 争いを止める力

 

 

「どのツラ下げて戻ってきやがった!」

 

 ナオト・シライシがマユを救出する決意を固める、数十時間ほど前──

 アマミキョでは、またまたオサキの怒声が響いていた。

 無理もない。二度と戻ることはないだろうと思われたアムル・ホウナが、あっさりとサイやオサキたちの前に姿を現したのだから。

 知らせを聞いてブリーフィングルームに駆けつけたサイたちの前で、アムルはゆっくりと頭を下げる。

 

「ごめんなさい。

 配属はどこでも構わないわ」

「んなもん了承出来るか! 

 てめぇはもう、アマミキョを捨てた人間なんだよっ」

「オサキさん、落ち着いて」

 

 いきりたつオサキを手で制し、サイはあくまで冷静に対応する。

 ブリーフィングルームのドアの陰から、数人の好奇の目が光っているのが分かった。その中には、カズイもいるだろうか? 

 

「アムルさん。今また、乗船する意志を示していただけたことは感謝します。

 しかし貴方の場合、失礼ながら下船の理由がやや利己的すぎた。再搭乗の理由をお聞かせ願います」

 

 これは丁寧すぎたかと反省しかけたサイに対し、アムルは頭を下げながら平静に言ってのける。

 

「ザフトのスパイがいたの。ヤエセの街に」

「スパイ? って……」

「ザフトの? 一体なんで」

 

 サイとオサキがほぼ同時に、戸惑いの声を出した。

 

「私……とても怖かった」アムルの肩が震えだす。

「アマミキョ内部の状況を詳しく教えるよう脅されたわ。多分、アマクサ組が離れた今を狙ってやってきたんだと思う」

 

 その頭は伏せられたままだ。

 これが演技なのかどうか、サイにはどうにも判別がつかない。アムルの言葉は続く。

 

「急いで戻らないと、船がやられてしまうと思ったの。

 そりゃこの船は嫌なこともあったけど、いくら何でも、民間の船を壊すだなんて……

 酷すぎるわ」

「ザフトがこの船を調べるチャンスを窺っているのは分かります。

 今までも散々狙われて、傭兵を使ったとはいえこちらから撃ったこともある……」

 

 サイは改めて、目の前の女を凝視した。

 スパイに脅されて逃げ帰ってきたというのが本当なら、彼女本人にも疑いをかけねばならない。それはアムルも分かっているはずだ。

 だが、彼女自身もスパイ活動に手を貸しているのであれば、敵がいたなどと堂々と言う理由がない。

 いや、敢えてそう言い放つことでサイたちを術中に嵌めようとしている可能性もある。アムルがそこまで頭が回るかどうかはともかく、街で出会ったというザフトの者から言わされているかも知れない――

 

 ややあって、サイは判断した。

 

「アムルさん。

 今、この船と北チュウザンは、孤立無援の状態となりつつある。

 そこへ、敢えて火種となる危険があるものを入れるという決断は、自分には出来ません」

「私が、火種だっていうの?」

 

 頭を下げたまま、アムルはサイを見上げる。

 その目には何の感情もなかった。

 

「無礼を承知で言わせてもらいます。可能性はある」

「私は相手の顔を知っている。船に近づいてきたら警告することも出来るのよ」

「ザフトを甘く見ない方がいい。

 彼らが貴方をみすみす、ここまで逃がすはずがない」

 

 サイの言葉に、アムルは怒りを隠せない。

 

「命からがら、必死で逃げてきたって言ってるじゃない! 

 私の行き場所はここだけなのっ」

 

 それでも、サイは態度を変えなかった。

 

「そうであれば……

 大変失礼ですが、身体検査をしてもらう必要があります。

 あらかじめお断りしておきますが、形式的なものではありません。スズミ先生や女性の看護師にお願いして、徹底してやっていただきます」

 

 フレイがいた時は、このようなケースでは当たり前にやっていたことだ。

 スズミの手が空かない時は他の看護師に頼み、それこそ身体中の隅から隅までを洗いざらい調べ上げていたものである。

 だが、アムルは納得出来ていない様子だ。

 

「私に、爆弾が仕掛けられてるとでも?」

 

 アムルお得意の、嘲笑。久しぶりに見た気がする。

 

「真面目な話、その可能性も考えています」

「随分と冷たくなったのね、サイ君」

 

 サイは上目遣いに自分を睨みつけてくるアムルを敢然と無視し、続けた。

 

「拒否するのであれば、再搭乗を認めるわけにはいきません」

 

 オサキがここぞとばかりに怒鳴る。

 

「ったりめーだ! 

 どんだけいらんトラブル起こしたと思ってんだ、テメェ!」

「オサキさん……ちょっと黙って」

 

 暴走しかけるオサキをサイは制したが、彼女は止まらない。

 

「いい加減お人好しはやめろよ、サイ。

 こんな女とっとと放り出して、ザフトに撃たれちまえばいいんだ」

「オサキ!」

 

 だが彼女はそれまでの鬱憤を叩きつけるように、アムルに怒声を浴びせた。

 

「サイの良心に取り入ろうったって、そうはいかねぇからな。てめぇのおかげで、サイがどんな目に遭ったと思ってんだ! 

 ザフトのスパイがいようがいまいが、アタシらは二度とテメェを受け入れる気はねぇよっ!!」

 

 オサキの怒責に応えるように、アムルの金髪が震えだす。

 

 犬猿の仲というのは、まさに彼女らのことであろう。ナチュラルとコーディネイターの壁もあり、さらに性格がお互い、相容れない。

 オサキとヒスイは正反対の性格同士の友人だが、決して相容れないわけではない。むしろ正反対故に魅かれあっている点が多い。

 だがオサキとアムルはそれとは真逆だ。第三者から見てもはっきり分かるほどに、お互いがお互いを嫌悪しあっている。

 絶対に分かり合えない者同士の衝突が、そこにはあった。

 

「……分かったわよ」

 

 アムルはオサキの声を振り払うように、顔を上げる。

 白い部分の多いその眼球には、ただひたすら軽蔑が溢れていた。

 

「貴方たちがそこまで言うなら、私も、もういいわ。

 今度こそ二度と、貴方たちの元へは戻らないから」

 

 アムルはそのまま踵を返すと、足早にブリーフィングルームを出て行った。

 後には憤怒のオサキと冷たく見守るサイ、そして数人のギャラリーだけが残された。

 

 

 この時のサイの選択は、後に起こる大事故から考えれば実に正しかった。選択自体は。

 ただこの時彼は、最後の最後で痛恨のミスを犯した──それは、アマミキョ全船監視システムに頼ったあまりの、サイの見落としだったかも知れない。

 彼女が再び船に近づいた時と去り際の行動チェックを、失念したのである。

 この直後にヤエセ郊外で起こった中規模爆発テロによる騒ぎ、それに伴う酷い多忙さによって。

 

 

 

 

 

 

 あらかじめ予測出来ていたことだ。アムルは平静を保つ為、唇を噛んだ。

 あれだけ派手にこの船を出たのだ、簡単に許されるはずがない。その程度のことは、アムル自身も予測していた。

 だからこそ、真実の半分を明らかにしてまで信用を勝ち得ようとした──ヨダカの指示通りに。それは先ほど、見事に失敗に終わった。

 しかし実は、アムルが物理的に船に乗った時点で、ほぼ目的は達していたようなものだったのである。後は、まだ有効だったパスを使い、どこかの端末を指示通りに操作すれば良いだけのことだった。

 

 パスの即日解除も出来ないとは、よっぽどお忙しいのね。ナチュラル様は──

 

 既にアムルはそんな愚痴を吐きながら、ヨダカの指示を完遂していたのだ。サイたちと一戦交える前に。

 それだけであれば、船にこっそり侵入して目的を果たしてさっさとヨダカの元へ戻る方が、余程効率的ではあった。むしろ、わざわざヨダカの存在を半分明示してまでクルーに復帰しようとする行為は非常に危険だ。

 

 だが、『アムル自身の』目的を達するには、そうする必要があった。

 あの、いつの間にかフレイばりの上から目線で自分を見下すようになった、生意気なナチュラル──

 サイ・アーガイルから全てを奪い、自らの手でとどめを刺し、その醜態を最期まで見届けること。

 それこそが今や、アムル・ホウナの存在意義ともいうべき目的だった。

 

 勿論、このことはヨダカには内緒である。

 彼には何度も止められたが、自分が最後まで船にいなければ、作戦が成功する確率は低いと適当に理由をつけておいた。

 しかしこの船にいられないと分かった今、自分はどうするべきか──

 ヨダカの言うとおり、ここはさっさと退くべきか。プラントに行くという夢を目の前にして、そこまでこの船に拘泥する理由はないはずだ。

 

 ──その時だった。

 アムルの視界に、とぼとぼと一人で通路を寂しげに歩く少年の背中が入ってきたのは。

 

 うまくいくかも知れない。

 プラントに行く夢、そして私の復讐、両方叶えることが出来るかも知れない。

 

 アムルは明るめの声色を装い、思い切ってその背中に呼びかけた。

 

「久しぶり! カズイ君」

 

 

 

 

 

 

「フレイ・アルスターの正体──そいつは未だにはっきりしない。

 タロミ・チャチャお抱えの秘書だとか愛人だとか、様々な説がある。

 確実なことは、彼女は随分前から、タロミの片腕に近い存在だということだ」

 

 ずぶ濡れのままのナオトを背負って走り続ける広瀬。その白衣も水気を吸って重くなり始めていた。

 二人はいつしか、地下深くの巨大な吹き抜けの空間に出ていた。

 底の見えない縦穴にも似たその場所──穴の直径は100mほどもあるだろうか。

 真っ黒な闇しかない地下から生暖かい風が吹き出している。壁を埋め尽くす、螺旋状の階段。

 遥か下に何があるのか見当もつかないが――

 

 ナオトはその闇の中心に、確かに感じた。マユの存在を。

 

「つまり、マユたちアマクサ組もみんな、タロミ・チャチャの……」

「手先ってことになるな。

 ついでに言うと、奴らはカイキ・マナベを除いて、全員死亡しているはずなんだ。

 ──2年前に。勿論、フレイ・アルスターも」

 

 この広瀬の独白に、ナオトは意外に冷静に応じた。

 

「フレイさんが元のフレイさんじゃないってことは、知ってます。

 サイさんから聞きました」

 

 広瀬は螺旋階段を降りつつ、話を続ける。

 足早ではあるが、出来る限り音は立てないように。

 

「アーガイルから? 何故?」

「フレイさんが、自分で明かしたそうです。

 ──サイさんからは、口止めされましたけどね。

 今のアマミキョクルーにとって、フレイが本物かどうかは関係ないからって」

「アーガイルに対しての罪悪感、というわけか……」

 

 広瀬は10数メートル降りきったところで、別の通路へ繋がる扉を見つけた。

 慣れた手つきで軽くロックを調べると、片手で解除してしまう。

 

「アマクサ組はガンダム・ティーダを使い、ある実験をしていた──

 ティーダのブック・オブ・レヴェレイションシステムから発振される、あの光だ。

 あの光を、アマクサ組やシネリキョ関係者は『セレブレイト・ウェイヴ』と呼称している。

 奴らの言うところの、『戦争を止める力』だ」

「戦争を止める……

 争いを、なくす?」

 

 ナオトは思わず声を上げる。

 

 光の中で、幾度も見た光景──

 黙示録発動のたびに敵味方双方が戦意を喪失し、不可思議な鐘の音と共に、モビルスーツごと堕ちていく光景が蘇った。

 

「最終的にタロミは、あの光で世界中を覆い尽す気なんだろう。

 おそらくその為に、フレイにSEED保持者を探させていた。保持者に近しい者が何故か蘇り、アマクサ組にいたのもその為だ。

 SEED保持者に近づき、その精神的動揺を誘い味方に引き入れる目的で。

 あいつらがいわゆるクローンなのかカーボンヒューマンなのか、そいつははっきりしないがな……

 SEEDの集結、死者の復活、セレブレイト・ウェイヴの拡大──

 これだけ揃えば、タロミ・チャチャは神となる。その宣言通りに」

 

 

 

 

 

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