【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 モビルスーツの森で

 

 

 広瀬はナオトを背負ったまま、低い扉をくぐり抜ける──

 そこはただ、ひたすらだだっ広いハンガーデッキ。その、中二階あたりのキャット・ウォークだった。

 ただしその広大さは、中に何もなければおそらく広いのだろうと感じる広さで、今は決してそれほど巨大な空間とは感じられない。何故なら──

 

「……こ、これは!?」

 

 そこには所狭しと、無数のモビルスーツが並べられていたのだ。

 ナオトは状況を一瞬忘れ、思わず感嘆の声を上げてしまう。

 

「すごい、何だここ……

 ストライクがあんなに沢山……IWSPつきのものまである。

 あっちはデュエルにバスター? 真っ赤なデュエルなんて新鮮だなぁ……」

 

 ナオトがさらに驚いたのは、連合製と思われるそれらのモビルスーツに並んで、ザフトの一つ目や三角帽子──ザクやバビまでが複数並べられていたことだ。

 そしてその隣にはまた連合製の、カラミティやフォビドゥンまでがある。

 その奥にはM1アストレイが、ちょっとした部隊を成していた。

 

「本当にすごい……まるでモビルスーツ博物館だ!」

 

 しかしそんな少年の感激に、広瀬は水を差す。

 

「その通り。

 だが、どれ一つとして本物はない」

「え?」

「ザフトに連合にオーブ、全ての機体がこんな平和な状況で一堂に会しているなんざ、通常は考えられんだろ。

 全て、横流しされたか盗んだかしたデータで製造された、紛い物だ。

 ただし、使われている技術は本物同様だがな。勿論、強さも」

 

 広瀬は一旦ナオトを降ろし、白衣を脱ぎ捨てた。

 白衣はナオトと同じく既にずぶ濡れで、血がべっとりと付着している。下に着ていた背広にまで血は染み込んでいたが、広瀬は全く気にせず白衣をビリビリ引きちぎり始めた。

 

「一つ気がかりなのは──

 何故、アマクサ組がティーダと一緒にアマミキョをここに持ち帰らなかったか、という点だ」

 

 広瀬は白衣を長めに、細かく裂いていく。その手中であっという間に、白衣は白い縄状の紐へと変化していく。

 

「アマミキョはティーダと違って、オーブと文具団主導で建造された船だからじゃないですか?」

「確かにそうだが、システムはチュウザン製のブラックボックスだ。

 おまけに船はティーダと完全に連動し、乗組員にまで影響を与えている。

 少なくともサイ・アーガイルは、ティーダの異変と同時にお前の危機をいち早く察知した。あれは間違いなく、アマミキョの影響だろう。

 アマミキョがなければ、ティーダはその真の性能を発揮出来ないはずだ。

 にも関わらず、フレイはアマミキョを捨てた──」

「つまり……どういうことですか」

 

 何本かに裂いた白衣の端と端を、広瀬はしっかり固く結んでいく。その時点で、白衣は完全に1本のロープになりつつあった。

 

「アマミキョの代わりになるものを見つけたか、作ったか、どちらかだろう。

 もしくは、この『シネリキョ』そのものがあの船の代わりか……ネーミングからも想像がつく」

 

 ナオトの背筋に、新たな悪寒が走った。

 アマミキョは不要と見做されたということか。おそらく「極秘」事項を多く隠し持っている船、それが不要とされたということは──

 

「このままでは早暁、アマミキョは始末される」

 

 断定に近い口調で、広瀬は言ってのけた。

 

「ただでさえ北チュウザンの内乱、ザフトの侵攻で孤立無援だってのに、アマクサ組の引き上げだ。

 タロミの意思により、アマミキョは……」

 

 長い長い一本のロープとなった白衣の端を、広瀬は近くの鉄柵にくくりつけた。

 それを眺めながら、ナオトは今一度確認した。

 自分を励ますように。折れそうになる心を踏ん張らせる為に。

 

 ――冗談じゃない。この上サイさんたちにまで、何かあったら!! 

 

「じゃあ、サイさんたちを助ける為にも! 

 ここを潰してマユを助けて、ティーダを取り戻す必要があるってことですね」

 

 振り向いたナオトに、広瀬はニヤリと笑った。

 

「正解だ。

 悩んでる暇なんかねぇぞ、王子様! まずはティーダを奪回する」

 

 そう言われた瞬間、ナオトは思わず倉庫中を見渡した。すかさず広瀬の突っ込みが飛んでくる。

 

「ドアホ、こんな処にティーダが放置されてるワケねぇだろ! 

 先立つもんが必要だ、俺につかまれっ!」

 

 言うが早いか、広瀬は背広の袖口でロープを掴んだ。慌ててナオトもその腰にしがみつく。

 考えるより先に、身体が動いていた。

 ――そう、一番最初にウーチバラでマユと出会い、彼女を助けた時と同じに。

 

 これ以上、誰も失いたくない。

 これ以上、大人の好き勝手にはさせない。

 僕もマユも生きているんだ。マユをフレイさんの好きになんて、絶対にさせない。

 ましてや、サイさんたちに手出しなんて、絶対にさせるもんか! 

 母さんのことは──とりあえず、考えるのは後だ。

 

 ナオトと広瀬の眼下10数メートル下には、連合軍量産機・ウィンダムを模したらしきモビルスーツが見えた。

 広瀬はそのまま、その機体めがけてナオト共々、宙に身を躍らせる。袖口が擦れるのも構わず、ロープと化した白衣を伝って二人は一気に滑り降りた。

 

「ぐ……っ!」「うわぁ……っ!!」

 

 ジェットコースターにも似た恐怖とわずかな快さを感じながら、広瀬とナオトはどうにか、ウィンダムもどきの右肩部への着地に成功した。

 着地の衝撃はほぼ全て広瀬が耐えてくれたが、さすがにナオトの傷にもこの衝撃はてきめんに響き、つい悲鳴をあげてしまう。

 そして着地から約2秒ほども、広瀬は動けなかった。いくら鍛えられた軍人とはいえ、モビルスーツとほぼ同じ高さを滑り落ちたのだ。しかも、二人分の重量を負って。

 痛みに耐えつつも広瀬は頭を回し、ウィンダムの胸部――つまりコクピット部分の構造を確認する。

 

「いい感じだ。

 コクピットハッチもモノホンと同じだな、あと問題はOSか……

 ここで待ってろ、今こいつを動かす」

 

 言いながら、広瀬はロープを強引に引きちぎる。

 その手際の良さをぼんやり眺めながら、ナオトは痛む足をさすっていた。

 

「どうして、ウィンダムなんですか? 

 他にも良い機体は……」

「一番手慣れてるからだよ。

 ムラサメに比べりゃ多少地味かも知れんが、パイロットによっちゃストライクよりよほど優秀だぜ」

 

 ロープはほんの3メートルほどが広瀬の手に残った。その端をウィンダムの整備用ステップにくくりつけ、広瀬はナオトを残して再度ロープを滑降し、コクピット部へ到達した

 

 ──その瞬間。

 

「――!?」

 

 耳をつんざいたのは、全てを破壊するかの如き轟音。

 と同時に、ナオトと広瀬が先ほどまでいたキャット・ウォーク付近の壁が、爆砕された。

 広瀬とナオトが振り向くより先に、無数の破片が雨あられと飛んでくる。

 

「う、うわぁあっ!? 

 ひ、広瀬さんっ!!」

 

 自分でも情けないと感じる悲鳴をあげながらも、ナオトはウィンダムの肩部装甲の陰に隠れ、どうにか破片の直撃を逃れた。

 その間に広瀬は猫のように敏捷に動き、手動でコクピットハッチを開く。そして頭を回し、たった今破られた壁の向こう側を確認する──

 同時に、叫んでいた。

 

「しまった! 

 シライシ、伏せろ!」

 

 

 そこにいたのは、圧倒的火力の砲門を誇る、禍々しいエメラルドの巨神。

 ストライク、アフロディーテ、そしてティーダと同じ頭部意匠を持ち、同じ名を持つ「災厄」の機体──

 カラミティ・ガンダム。

 

 

「まさか……

 カイキさんっ!?」

 

 

 ナオトが叫ぶより早く、カラミティは幾多の無人の機体を、複列位相エネルギー砲「スキュラ」の一閃により蹴散らした。

 

「う、うわああぁあぁああっ!?」

 

 周囲が一瞬で爆風に包まれ、吹き飛ばされた機体の破片が嵐となって無数に飛んでくる。

 咄嗟にナオトは身をひるがえし、ウィンダムの肩部装甲の陰に隠れて難を逃れたが――

 炎熱を帯びた鋼鉄の破片が、ナオトのすぐそばの装甲に飛沫の如く跳ね、踊り狂った。

 

 その酷い音がほんの少しだけおさまったのを見計らい、恐る恐る頭だけを出してみると。

 

「……!!」

 

 吹き飛んだ機体の残骸を容赦なく踏み潰しながら、のしのしと歩いてくるエメラルドの巨神『災厄(カラミティ)』。

 一瞬のうちに辺りを業火の海に変えながら、カラミティはウィンダムに向けて右腕を伸ばす。

 正確には、ウィンダムの右肩にしがみついたままのナオトに向けて。

 カラミティのスピーカから、くぐもった声が聞こえた。

 

《時間がない。

 貴様に来てもらう》

 

 それは間違いなく、カイキ・マナベの不機嫌そうな声だ。

 ナオトは叫ぶ。

 

「カイキさん……カイキさんなんでしょ!? 

 お願いです、攻撃はやめてくださ……う、うああぁあっ!?」

 

 だがナオトの声にも直接答えず、そのままカラミティの鋼鉄の手は無造作にその身体を丸ごと掴んだ。

 

「やめるんだ、カイキ・マナベ! 彼を離せ!! 

 貴様だってもう、限界のはず……っ!?」

 

 広瀬の叫びも虚しく、そのままカラミティに捕らえられてしまうナオト。

 続けてカラミティは、ウィンダムの至近にあったダガーLを2機、両肩に装備された高エネルギー長射程ビーム砲・シュラークで撃ち抜いた。

 まだコクピットハッチを開けたまま、しかも外側へ身体を出したままだった広瀬は、咄嗟に身を翻してコクピット内部へ飛び込む。

 そういえば、本日の運勢って確認してなかったが

 

「凶かよ、こん畜生!」

 

 光の一閃。

 一瞬遅れて、ダガーLの爆発による凄まじい炎の嵐と轟音がウィンダムを襲った──

 が、この時には広瀬は間一髪、炎がコクピットを覆う直前に足で開閉スイッチを蹴飛ばし、強引にハッチを閉じていた。

 

 

 

 

 激しく息をつきながら、広瀬はコクピット内でウィンダムのOSを起動させた。

 メインモニターに光が入っていき、コンソールパネルのライトが明滅するのを確認しつつ、素早く思考を巡らせる。

 

 ――おそらく今のは、カイキ・マナベなりの情の一発だ。

 一時的とはいえ、共闘していた相手への──そして当然、二度目はない。

 

 ベルトを締めながら、広瀬は唇を噛む。血の味がした。

 幸いなことに、純連合製のウィンダムとさほど操作方法は変わらないようだ。これが万が一、コーディネイター用OSだったらと思うと寒気がしたが。

 モニターで映し出される、右やや側面にいるカラミティ。その手には既にナオト・シライシが捕らえられている。

 カラミティの手はがっちりと少年を掴んでおり、首と両肩、足の爪先だけが辛うじて外側から確認出来るという状態だ。

 鋼鉄の指が彼を締め上げる力はかなり強いらしく、この時点で既に彼は痛みの悲鳴を上げてしまっていた。

 

 次の瞬間に来た、カラミティの業炎──

 

 咄嗟に左に跳ね、どうにか広瀬のウィンダムは回避に成功した。

 パイロットスーツではないので衝撃はいつもの3倍増し。しかも慣れない背広だ。

 爆風に煽られ全身が煤けた上、細かな破片で至るところが切り刻まれている。あの伊能にでも見られたら大笑いされるに違いない、畜生。

 

 さらに悪いことに──

 右腹部からの出血が、急速に広がっていた。

 

 ナオトの血ではない。確かに彼の血で背広は大分汚れていたが、明らかに他人の血ではない自分の血で、紺のスーツはどす黒へ、薄水色のワイシャツは真っ赤に変色しつつあった。

 爆風で飛んできた破片か何かでやられたか。やっぱり俺は、詰めが――

 

 ぎりっと奥歯を噛みしめた広瀬のすぐ右側で、無人のダガーLが1機、2機と炎上していく。

 さらに迫るカラミティの火線。

 モビルスーツの森とでも言うべきハンガー内で、ウィンダムは他モビルスーツを盾にしつつ、炎をくぐり抜けていく──

 汗だくで操縦桿を握り締める広瀬。今度はその左腕に、激痛が走った。

 

「大凶……ってか」

 

 照明の薄暗さで気がつかなかったが、左の袖が下のシャツごと大きく切り裂かれ、腕全体が腹と同じ、血の色で染まりつつあった。

 迂闊だった。操縦に直接影響する腕をやられるとは、兵学校からやり直せなどと伊能に罵られても仕方がない。

 カラミティのシュラークがまたも火を放つ。今度こそ容赦なく、真っ直ぐにウィンダムを狙ってきた。

 響きわたるアラート。広瀬は全力でレバーを押し込む──

 

 よけろよ、偽者。偽者でも、ウィンダムだろ! 

 

 その執念が通じたか。

 カラミティの火線はウィンダムがいた床をえぐり、大穴を開けるにとどまった。

 林立するM1アストレイ部隊を盾にして低姿勢を維持するウィンダム。息をつめる広瀬。

 

 逃げてばかりでは芸がないのは分かっているが、今の時点ではどうしようもない。

 ジェットストライカーが既に装備されているのは確認したが、今そいつを使って飛び上がりでもしたら、次の瞬間に俺は機体ごと灰にされる。

 このモビルスーツの群れに隠れて次の対策を練るのが妥当だ。ナオト・シライシを取り戻す為にも──

 

 次の火線を待ちながら、広瀬はじっと息を潜めていた。

 2秒、3秒──あまりにも遅く、時間は刻まれていく。

 だが、覚悟していた砲火は来なかった。その代わり、炎渦巻く空間に響いたものは、バーニアの轟音。

 最初に開けた大穴から、ナオトを捕らえたままカラミティが背を向け、飛び去っていくのが見えた。

 ここで下手に戦って、いたずらに時間や戦力を浪費するのは愚策と判断したか。

 

 とりあえず、当面の危機は去った──

 敵地である以上油断はならないが、広瀬は大きく息をついてシートに背を押しつける。

 暑苦しく鬱陶しかったネクタイを引きちぎるようにして外すと、右手と歯を使って素早く左肩に巻きつけた。

 ぎりぎりとネクタイの端を噛みしめながら出血を押さえ、さらに腹の傷も確認する──

 そして、彼は気づいた。

 

 奴らの時間も残り少ないかも知れないが、多分、俺の時間はもっと少なくなった。

 

 広瀬は急いで思考を切り替える――

 ならば、自分に残された道はひとつ。

 知りえた真実全てをナオト・シライシに開示した今、彼を何としてもここから、生きて脱出させることだ。

 

 

 

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