【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 激突! フレイVSナオト

 

 まだ、生きていたい。

 

 それは幻でも何でもなく、はっきりとした、肉声だった。

 ナオトがそんなマユの叫びを聞いた瞬間──

 

 彼の目の前で、大樹が不意に輝きを強めた。

 眼が眩むかというほどの光だったが、それはほんの一瞬。

 ゆっくり目を開くと、大樹の幹にあたる部分が氷のようにうっすらと透けていた。

 

 

 どうして。

 何故『これ』が、ここにある? 

 いや、ここに在るべくして在ったのか。

 

 

 透明になった幹の中に眠っていたのは、実に見慣れた真っ白いモビルスーツ。

 大樹の光はこの機体が発しているかと思うほど、その光は眩かった。たとえ、慣れた機体であっても。

 

 

 ──ガンダム・ティーダ。

 

 

 自分をここまで追い込んだ運命のモビルスーツの名を、心で呟く。

 

 ――今、マユの意思ははっきり分かった。

 なら僕は、それに応えるまでだ。

 

 ナオトは逆さの状態から体勢を立て直し、ティーダを真っ直ぐに見つめる。

 憧れのストライク、フリーダムと同じ顔を持つ、宿命のモビルスーツ。

 もう息が限界まで来ていたが、それでも少年は一心に祈った。

 

 

 

 

 ティーダ――

 お前に意思があるのなら。僕とマユの命を吸う機体だというのなら。

 僕はどうなってもいい。手足ぐらい何本飛んだって構わない。

 どんなに血を流しても、魂ごと焼かれても構わない。

 ただ、マユを助けたい。助けたいんだ。

 だから……

 僕の呼びかけに──応えろ!! 

 

 

 

 

 ティーダのカメラアイに、再びエメラルドの光が灯った。

 激しい純白の輝きと共に。

 

 

 

 

 

 

「――来たか!」

 

 静けさを取り戻しつつあった水面が、突如爆発した。フレイがほんのり微笑むと同時に。

 水面が一息に盛り上がり、激しい飛沫と共に光の柱が空気を裂く。

 大樹の光と酷似したその光柱は、水の宮殿の中心で、十字に似た輪郭を形づくっていく。

 

 その正体は、空中に浮上したガンダム・ティーダ。

 両側のマニピュレータを曲げ、何かをおし抱くように胸部へ抱え込んでいる。

 背中のバーニアから噴出する光はあまりにも白く熱く燃えさかり、翼のようにさえ見えた。

 その姿勢とバーニアの光が、機体全体をも十字架のように見せている。

 

《あのガキ……生きてやがったか!》

 

 いきりたち攻撃を加えようとするカラミティを、アフロディーテが制する。

 神聖な儀式の邪魔は許されない、とでも言いたげに。

 

 

 

 ティーダの手のひらで、ナオトは激しく息と水を吐きながら、何とか身を起こしかけていた。

 眼下に見えるは、アフロディーテとカラミティ。

 すぐ背後に、コクピットハッチがあるのは分かっていた。自分が今、何をすべきなのかも。

 カラミティの指と違い、ティーダのマニピュレータは雛でも抱くように優しくナオトを支えていた。

 その指を頼りに、ナオトは傷をおして立ち上がる。バーニアから巻き起こる熱風で、髪も服も激しく煽られる。

 しかしその姿は傍目から見れば、敗走に敗走を続ける部隊の中から、血まみれの剣とボロボロの旗を抱え、雄雄しく立ち上がる勇者のようにも見えたかも知れない。

 

 聞こえるかどうか分からないが、言ってやる。叫んでやる。

 あんたたちには、言いたいことが山ほどあるんだ──

 

「フレイさん! そこにいるなら、聞いて下さい。カイキさんも……! 

 僕は今はっきりと、マユの意思を確認しました。

『生きていたい』──これが、マユの言葉です。

『まだ、生きていたい』!」

 

 一言一句明確に、ナオトは叫ぶ。

 今こそ発揮する時だ。この大声の力を。

 

「こうして動いたティーダが、何よりの証拠です。

 ティーダは、僕とマユの二人でなければ動かせないでしょ。

 僕だけじゃ、動かせない──マユの意思で今、ティーダは動いてます。

 マユは、生きたいんです。どんなに痛みを感じても、生きたいんですよ! 

 だから……

 お願いだから、マユを助けて下さい!」

 

 折れているであろう肋骨の痛みが、身体中を貫く。出血は未だに止まっていない。

 それでも彼は、血を吐く勢いで叫び続けた。

 

「それでもマユを消すというなら──僕は、貴方たちと戦います! 

 僕は何があっても、マユを助けます!」

 

 その叫びが終わるや否や、アフロディーテが両の腰からビームサーベルを抜き放った。

 勿論要塞内での戦闘を意識して、出力は最小限度である。

 

《いいだろう、ナオト・シライシ! 

 貴様がそこまで成長するとは思わなかったぞ……

 その強靭な意思こそが、私の糧となる!》

 

 フレイの言葉が終わると同時に、カラミティがティーダの至近距離へ砲火を放った。

 まるで、それが戦闘開始の合図とでも言うように。

 

《マユが生きたいと思うのは当たり前だ、貴様がそうさせちまったんだ! 

 貴様がマユを、『人間』にしちまったから!》

《早く乗れ、シライシ。

 たった一人で、その傷で、その意思で──

 どこまで私たちに抗えるか、見せてもらおう!》

 

 フレイはもとより、カイキにもマユを助ける意志はない──

 その現実に、絶望している余裕はなかった。

 

 ――最早、あの二人とは戦う以外に道はない。

 ナオトは身を翻し、コクピットハッチを手動で開く。

 

「ナオト、オカエリ。ナオト、オカエリ!」

 

 中では、随分懐かしい気がする黒ハロが飛び跳ねて、ナオトを出迎えた。

 二人乗りのコクピットだが、今はたった一人。後席が寂しく感じるが、そんなことは言っていられない。

 

「ただいま、ハロ」

 

 ナオトは懸命に笑顔を作り、ハロを撫でた。

 黒い球体の表面に、わずかに血が付着する。

 

「……頼むぞ」

「ガンバレ、ナオト。ガンバレ。

 システム、オールグリーン」

 

 ハロの音声と共に、コクピットハッチが閉ざされた。

 OSは既に起動しており、モニターもすぐに鮮明になる。ベルトを締めると、ナオトはすぐに眼前の2機を捉えた。

 ──しかし彼は、2機と戦うよりも先に、マユの救助を優先した。

 

「マユを探す!」

 

 反射的に、大樹の遥か上を睨みつける。

 

 ──間違いない。この光の柱の中に、マユはいる。

 閉じ込められている。

 

 水の中にティーダは隠されていたが、おそらく逆に、マユはかなりの上空にいる。

 直感でナオトは分かっていた。どのような形で捕らえられているのかは、想像したくもないが──

 

 ともかくバーニアを最大出力で噴かし、ティーダは大樹の枝、黒く突き出した支柱まで飛び上がる。

 すかさず追いかけてきたのは、カラミティのシュラークの火線。

 すんでのところでティーダは回避したが、それだけで予想以上の衝撃が少年を襲う。

 ベルトで締めつけられた右胸から、枝分かれした糸のように噴き出す血液。

 

 ――多分、そう長くは戦っていられない。

 

 真横に生えた支柱が盾になり、カラミティもそうそう派手な攻撃はしてこないと思っていたが――

 太さがゆうにモビルスーツ5機分ほどもある支柱は、砲撃の2発や3発ではびくともしなかった。ティーダの右を左を駆け抜け暴発する、カラミティの閃光。

 ナオトは咄嗟に左腕の有線ロケットアンカー・グレイプニールを射出すると、すぐ上の支柱に食い込ませた。食い込ませた三又巨大爪が元に戻るその力を利用して、機体を一気に上に引っ張り上げる。

 

 幸い、巨大爪が支柱の上で跳ね返るということはない――これで少しずつ上に行けそうだ。

 ナオトが一瞬安堵し、一段上の支柱に着地したその瞬間──

 ハロが飛び跳ねた。

 

「ナオト、キケン!」

「……うああぁっ!?」

 

 眼前のモニターいっぱいに現れたものは、アフロディーテ。まさしく血塗られたモビルスーツ。

 そのさまはまるで、紅の風の如く。

 

《やはり遅いな。

 マユ抜きではこんなものか!》

 

「フレイさんっ……

 僕は、貴方を信じたかったのに!」

 

 右腕の攻盾システム「トリケロス」の先端からビームサーベルを発振させ、ティーダは真正面から応戦する。

 呼応するように、アフロディーテもビームサーベルで対抗してくる。

 フレイにしては、あまりにも正直過ぎる攻め。馬鹿にしてるのか。

 

「貴方はどうあっても、マユを消すつもりですか!?」

 

 再び上空に向けてグレイプニールを射出し、飛び上がるティーダ。

 それを追いかけ、アフロディーテも飛ぶ。

 

《子供の我がままに付き合っている余裕はないのでな》

「何なんです……何なんです、貴方は! 

 サイさんを裏切って、マユを殺して、しまいにはアマミキョも潰すつもりですか!? 

 貴方は、サイさんが好きだったんじゃないのかよ!」

 

 大樹の枝の間で乱舞する、ビームサーベルの光。

 

《最終的には、私は皆の幸せを願っている。

 サイの幸福も!》

「セレブレイトウェイヴとやらがそうだっていうのかよ! 

 マユを消して、何でサイさんやみんなが幸せになるんだよ!? 

 そんなこと言う大人に、ろくな奴はいないんだ!!」

 

 ナオトの言葉こそ攻撃的ではあったが、ティーダは意外に巧くアフロディーテの攻撃をかわしていた。

 紅の刃から逃れながら器用にグレイプニールを操り、一段また一段と、少しずつ上空へと飛び跳ねていく。

 

《サイに恨まれることなど、元より承知の上だ。

 それでも責任は果たさねばならぬ! 我が負うべき責務を!!》

「何言ってるの、フレイさん!? 

 マユやサイさんを裏切っても優先しなきゃならない責務って、何だよ!?」

 

 フレイの答えはない。

 上段の支柱へ逃げるティーダを、執拗に追いかけるアフロディーテ。

 既に2機は水面から100mほど上空まで来ていたが、それでも塔の最上階は見えなかった。延々と高くそびえる青い壁。

 まさか、塔の一番上にマユが眠っているなんてオチじゃないだろうな。古いアクションゲームじゃあるまいし──

 あまりの高さに疲労を感じ、一瞬思考を止めてしまうナオト。

 

「……!?」

 

 その隙を見逃すフレイではなかった。

 ビームサーベルが、ティーダの左腕関節部を一閃する。

 

「しまっ……!」

 

 あまりにも呆気なく切られてしまった左腕。

 ティーダの左腕が切られたということは、支柱を登るのに利用していたグレイプニールごと切られた――

 つまり、巨大爪を使って上空へ行くことが不可能になったということだ。

 切断された巨大爪は力を失い、下段の支柱に幾度も轟音を立てて衝突しながら落下していく。

 ジャングルジムから落下していく玩具のように。

 

《もう少し、楽しませてくれると思ったがな……》

 

 ナオトの眼前に迫るアフロディーテ。

 すぐにビームで始末しないのは、やはり馬鹿にされているのか。それとも、すぐに殺してはデメリットがあるからか。

 最早ナオトにとって、フレイ・アルスターという存在は、カイキよりよほど理解不能な化物だった。

 

 フレイさんは、サイさんが好きじゃなかったのか。

 婚約を復活させたんじゃなかったのか。

 

「フレイさん、僕には分かりません……

 サイさんの恨みをかってまで、どうしてこんなこと!」

《くどいぞ。私は今なお、サイを愛している……

 奴は、私が初めて出会った奇跡。たとえ何があろうと、どれだけ本人に憎まれようと、失うわけにはいかぬ!》

 

 その言葉に嘘偽りがあるのかどうか、ナオトには到底判断がつかない。

 

「ひょっとして、セレブレイトウェイヴを発動させることが──

 サイさんの幸せになるって言いたいんですか」

《今は、そう取ってもらっても構わんな》

 

 他人事のように呟くフレイに、ナオトの感情が爆発した。

 

「そんな勝手な! 

 幸せの定義を、勝手に決めるな!」

《やはり答えを急ぐ子供には、何を言っても伝わらんか!》

 

 アフロディーテは右の拳を、がら空きとなったティーダの胸部へ叩きつけた。怒声と共に。

 元々重量バランスが悪く、左腕を失ったことでさらにバランス維持が難しくなっていたティーダはそれだけで体勢を崩し、機体はあっという間に支柱から落下を始める──

 コクピット内に響くアラートと、ナオトの悲鳴。

 さらに、彼がバーニアのスイッチに手をかけるより早く、下方からカラミティのシュラークがティーダを狙っていた。

 

 ──今度こそ、撃たれる! 

 落下の加速度に耐え続けるナオトが、思わず目を瞑った瞬間。

 

 

《子供じゃなけりゃ、質問に答えてくれるのかい? 

 お嬢さん!》

 

 

 どこかの外壁で爆発音がした0.5秒後、コクピットに飛び込んできた声。

 機体を軽く揺さぶる衝撃と共に、不意に落下速度が減少を始める。

 モニターを確認して、ナオトは思わず嬉しさを隠せず叫んだ。

 

「広瀬さんっ!」

 

 落下しつつあったティーダを支え、カラミティの射線上から引き剥がしたのは――

 強引に外壁をぶち破り、空中から飛来した広瀬のウィンダムだった。

 正確に言えば、ウィンダム「もどき」ではあったが。

 

 

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