【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-30 祝福の鐘の中で
part1


 

 

「ロード・ジブリールを保護してるって? 

 オーブが?」

 

 そんな思わぬ情報に、サイが驚かされたのは――

 ナオト・シライシがフレイ・アルスターらとシネリキョにて激闘を開始する、10時間ほど前のことだった。

 

「あくまで噂にすぎませんが、ザフトは確たる証拠を掴んだようです。

 それを元に、オーブに攻め込むらしいと……」

 

 ヒスイからもたらされた情報に、サイは思案にくれる。

 

「ウナト宰相が、そんな愚かな真似を……

 オーブからの支援が止まったのも、そのせいか」

 

 アマミキョブリッジに沈黙が落ちる。

 今、ブリッジクルーは1日1回の定例ミーティング中だった。

 アマミキョの支援物資も無限ではない。2週間に1度の割合で定期的にオーブからの支給を受けなければ、いずれ食糧も医薬品も、ライフラインも尽きてしまう。

 現状の備蓄では、今アマミキョやキャンプに収容中の避難民が1ヶ月もつか否かといったところだ。

 そして避難民は減るどころか、1日ごと、いや1時間ごとに増えつつある。

 

「それに……」ヒスイを押しのけ、オサキが口を出す。

「ザフトがここにも攻めてくるって噂、キャンプで持ちきりだぜ」

 

 それを受けて、ヒスイも声を落とした。

 

「みんな不安がっています。クルーも含めて……

 今、ここには山神隊しかいないし」

 

 ──ザフトによるオーブ侵攻の余波を、チュウザンが被るというのか。

 サイは静かな怒りにかられたが、現実的に考えられない話ではない。アムルの件もある。

 

 今、南チュウザンは「神の復活宣言」により、ザフトから危険視されている。

 デュランダル議長がこれを見逃し、オーブのみを狙うとは考えにくい。

 しかも北チュウザンは、今も政情不安定だ。

 混乱に乗じ、南チュウザン制圧の足がかりとする為、ここ北チュウザンまでザフトが侵攻してくることは十分に考えられた。

 

「ビームサーベルつきのM1アストレイだったら、いつでも1個小隊行ける用意はあるぜ」

 

 扉付近に突っ立って、しぶしぶミーティングに参加していたハマーが口を出す。

 

「どんなナチュラルでも、大丈夫なようにしてあるからよ」

「それはありがたいですが」

 

 ハマーの毒舌と皮肉にはすっかり慣れたサイだった。

 これでも以前に比べれば、大分優しくなったと感じる──

 

「アマミキョのモビルスーツはあくまで作業用ですよ。

 それに今後を考えると、機動力の強化をした方が良いでしょう。スラスターの総点検をお願いします」

 

 返事の代わりに、ハマーは面倒そうに片手を上げる。

 その時、珍しく外回りではなくブリッジに引き上げていたトニー隊長が口を挟んだ。

 

「当面の問題は、避難経路の確保と食糧だな。

 外を周ってみると気づくが、現在の経路では雨が降った場合、ぬかるんで通りにくくなる可能性がある。

 女子供や老人に、あれは鬼門だぞ」

「では、まずは避難経路の整備。無理なようなら既存経路の変更ですね。

 ミストラルをもう3機ほど、山神隊から借りられるよう、かけあってみます」

 

 サイの言葉にトニーは反論した。「3機では足りん。5機だ」

「無理です。山神隊の戦力も考えると、3機が限界です」

「なら4機だ。それ以上は譲れん」

 

 現場をよく知るトニーだからこその注文だったが、サイもそのまま呑むわけにはいかない。

 こういった交渉事が、ここのところ連日だ。

 

「では4機で話をしますが、伊能大佐に殴られたら責任は取って下さいよ」

「殴られるのは最早君の専売特許だろう! 

 眼鏡代ぐらいは何とかしてやるよ、ワハハ」

 

 何がワハハだろうか。サイは心中嘆息しつつ、食糧備蓄リストに視線を落とす。

 

「それから、提携中の市内工場に、非常用食糧の増産を頼めますか?」

 

 クルーの中から上がるため息。

 

「もう、どこも一杯一杯だって……」

「万一ザフトが来たら、避難民は現在の比じゃなくなる。

 無理そうなら、自分が直接掛け合います」

十八番(オハコ)の土下座でもするか?」

 

 ハマーの嫌味にも、サイは真顔で答えた。

 

「場合によっては」

 

 南チュウザンもいつ、どう動くか分からない。

 最悪の場合、ザフトのオーブ侵攻に乗じて、弱りきった北チュウザンを奪いにかかる──などというシナリオも考えられる。

 ヤエセの街が。今、アマミキョのいる場所が――

 ザフトと南チュウザンと連合、三つ巴の激戦地となることだってありうる。

 

 ──いずれも、仮定の話だ。だが、確率は低くはない。

 その為にサイは、自分がやれるだけの対策はするつもりだった。

 

「なぁ。

 アークエンジェルに応援は頼めねーのかなぁ?」

 

 オサキが操舵士の椅子に凭れながら、面倒そうな口調で言う。

 それもサイは無下に否定した。

 

「無理だ。オーブの件で手一杯だろう……

 フリーダムだって、未だ修復もされていないようだし。

 第一、ここ1週間音信不通だ」

「しょーがねぇか。

 フリーダムがいなきゃ、アークエンジェルもただの的だしな」

 

 大きく溜息をつくオサキ。

 サイはふと、メインモニターに映るヤエセの空を眺めた。

 どんよりと雲が低く赤くたれこめて、今にも雷とスコールがいっぺんに来る寸前という気配だ。

 トニーが声を張り上げる。

 

「じゃあ、そろそろ皆持ち場へ戻れ。

 今ごろ外はてんやわんやだ、また台風が来るって話だぞ」

 

 そんな隊長指示により、クルーが三々五々散っていく。

 もういちいちトニーやサイの指示に反抗することもなく、クルーたちはてきぱきと動くようになっていた。

 

 

 

 

 サイも一旦、ヒスイとオサキに後を任せ、ブリッジを離れた。

 食糧もそうだが、薬の備蓄もそれ以上に逼迫している。もう一度医療ブロックでスズミ女医から状況を聞き出し、必要とあらば供給ルートを確保しなければ。

 オーブからの支援が期待出来なくなった以上、チュウザン国内の工場や農場からの供給に頼るしかないが、それも現状ではさっきのクルーの言葉通り、限界に近い。

 ロゴスの騒動以来、ムジカ社長との連絡も不通のままだ。

 

 サイは考える――

 どこぞの救世主でもあるまいし、1個のパンを100人で分けるなどという芸当は不可能だ。ならば、いかに無駄なく効率的に食糧・薬・水や電気などのライフラインを供給するかが、今後の鍵となる。

 どこがが余ってどこかが足りないということが発生してはならない。量産体制に入っているが運べない、などは言語道断だ。

 もう一度輸送ルートと供給ルートを見直し、稼動可能な工場の有無を調べてみる必要がありそうだ。

 テロの被害で焼け落ちたが、細々とでも稼動を再開している工場はいくつかあった。

 やってみる価値はある──

 

 

 そこまで考えて、サイは立ち止まる。

 いつの間にか彼は、カズイの部屋(本来はサイとカズイとナオトの部屋)の前まで来ていた。

 少し躊躇したが、思い切って扉の外から声をかけてみる。

 

「カズイ。ちゃんと食事とってるのか? 

 スズミ先生も心配してた。本気で調子悪いようなら、診てもらえよ。

 何度も言うようだけど、こもりっぱなしは身体に悪いぞ」

 

 相変わらず、カズイの返事はない。副隊長権限で引きこもりを許しているのも限界がある。

 それに加え、今はアマミキョの一大事だ。カズイがいてくれなければ困る局面だってある──

 もっとも、アマミキョはいつでも一大事を抱えている気はするが。

 帰ったら、もう一度声をかけよう――そう思いながら、サイは扉の前から去った。

 今は、他に優先すべきことが山ほどある。

 

 

 

 

「じゃあな。

 また来るから」

 

 そんなサイの声が去っていくのを確認し、カズイは薄暗い部屋の中でほっと溜息をついた。

 後ろめたさと安堵が混じった吐息が、辺りにこだまする。

 机上のライトとパソコンの画面だけが点灯している部屋。カズイは入り口から見て左側の、二段ベッドを眺める。

 上段はかつて、ナオトとカズイで交互に使っていた場所だ。

 今は誰もいない。カズイもたまにしか使わない。反対側にある普通のベッドの方が、彼にとっては心地良かったのだ。

 下段はサイの場所だったが、当然今は誰にも使われていない──はずだった。

 

 だが今、そこはタオルケットが不自然に盛り上がり、微かな呼吸が中から聞こえている。

 

「もう、大丈夫ですよ」

 

 おもむろに声をかけると、タオルケットの中から金色の頭がひょいと飛び出した。

 

「良かった……

 ありがとう、カズイ君」

 

 カズイはにこりともせず、ベッドを振り返る。

 

「何があっても開けませんから、大丈夫です。

 ベッドの下段は、監視システムの死角にもなるようだし。

 ずっと照明を落としていれば、何とかなりますよ」

 

 ベッドには、長く美しい金髪をぼさぼさにしたまま、けだるげに頭を上げる女性がいた

 ──彼の憧れ、アムル・ホウナが。

 

「感謝してもしきれないわ、カズイ君」

 

 彼女ははちきれそうな笑顔をカズイに向け、そんな優しい言葉を吐いた。

 

「かばってくれるなんて、思わなかった。

 私、貴方に……とても酷いことしたのに」

 

 カズイは嬉しさを胸いっぱいに感じながらも、思わず真っ赤になりどもってしまう。

 

「だって、当たり前ですよ……

 ザフトに追われてるなんて話聞いたら、普通、こうします。

 貴方を追い出そうとした、サイの方がおかしいんだ」

 

 最後はアムルの顔をまともに見ていられない。

 彼女はこの船を出た時の服装のままだったが、ブラウスの胸元が若干はだけている。それがさらにカズイの心を刺激した。

 

「貴方が信じてくれて、良かった。

 生きた心地がしなかったの」

 

 アムルはそっと、タオルケットに顔を埋める。

 ちょっと悪戯っぽくカズイを見上げるその視線は、少女そのもの。

 あんなに酷い別れ方をしたのに、今ここにアムルがいるだけでも彼にとっては奇跡だった。

 なのに、こんなにたくさん「ありがとう」なんて、嬉しい言葉をかけてくれるなんて。

 

「本当に、ありがとう」

 ──私の願いを叶えるお手伝いをしてくれて。

 

 その「ありがとう」に隠された真の意味に、この時のカズイが気づくはずもなかった。

 

 

 

 

 

 PHASE-30 祝福の鐘の中で

 

 

 

 

 

《カイキさん、やめて下さい! ナオトを離して! 

 ナオトもおとなしく下がって頂戴、お願い!》

 

 ナオトの母・マスミの悲痛な声が、シネリキョ中央部の塔に響く。

 と同時に、水をかき分けるようにして真っ黒なダガーLが3機、わらわらと群れて壁の下から出現した。

 アフロディーテとの戦闘から一足先に離脱していた広瀬だが、舌打ちを禁じ得ない。

 

 ――畜生。

 何とか少しだけ、劣勢から持ち直したと思ったら。

 

 ティーダに馬乗りになったカラミティを、機体の勢いのみで猛然と突き飛ばし引き剥がすウィンダム。

 あまりの強引な機動で、カラミティが壁まで吹っ飛んでいく。同時に広瀬自身の出血量も倍増したが。

 

「シライシ! 

 その女に構うな、今やることを考えろっ!!」

 

 広瀬の怒声がティーダコクピットに轟く。

 だがナオトは母の一言だけで、雷に撃たれたように動けなくなっていた。

 

《母さん……どうして、そこにいるの? 

 何でそこにいるんだ、何で僕を止めるんだ!》

「馬鹿野郎、落ち着け! 

 その女はもう母親じゃない!」

 

 血を吐くような──いや、実際血を吐きながらの広瀬の叫び。

 だがナオトの混乱は止まるどころか、加速するばかりだ。

 

《違います! どうあっても、母さんは僕の母さんなんです! 

 誰が何と言おうと、母さんなんだ。僕を抱きしめてくれた母さんなんだ!》

「貴様、今更何言ってやがっ……!」

 

 言い終わらないうちに、ダガーLからの閃光がウィンダムを襲う。容赦なく撃ち放たれたビームカービンだ。

 その間に、フレイのアフロディーテは支柱の上に着地し、機体の足首の爪先を使って支柱の一部分をこじ開けていた──

 そのまま、左脚部を足首関節部まで支柱の中に沈みこませる。それはまるで、ヘアードライヤーのコンセントを差し込むように手慣れた動作だった。

 広瀬にはその動作が何であるか、すぐに分かった。

 

「あの女……あの機体で一向に電池切れしないから、おかしいと思ったぜ。

 この塔自体が、電力供給装置ってことかよ」

 

 ダガーLの銃撃をシールドで防ぎながら、ウィンダムも次第に防戦一方となっていく。

 

「シライシ! 

 マユを助けたいんじゃないのか、だからティーダも起動したんだろ? 

 お前の望みに、ティーダは答えたんだろ? 

 だったら、ちゃんと答え返してやれ!!」

《分かってます……でも。

 でも、母さんは……母さんは!》

 

 またしても、駄々をこねるだけの子供に戻ってしまったか。

 だが広瀬は、この時気づいた──

 

 ナオト・シライシは、単純にそこに母がいるから、巻き込んでしまうのが怖くて戦闘が出来ないのではない。

 母の言葉によって、ただその一言だけで、完全に動きを止められてしまったのだ。

 母の存在を渇望してやまないナオトのような子供にとって、母の言葉はそれがどんなものであれ、絶対的呪縛となる。

 母の愛情を求めながら、その愛情を正しい形で受け取ることが出来なかった子供。

 愛情を与えながら、その愛情表現が著しく間違っていた母。

 よくある母子のすれ違いだが、それがよりにもよってこんな所で露出するとは! 

 

 

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